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またね  作者: 虹架かるリバー
4/5

喫茶店

「少しゆっくりお話ししませんか?」彼女がそんなことを言い出した。彼女は僕の返事も聞かず、自動で本の貸し出しができる機械の方に駆け足で向かった。僕らは大学を出て、近くの彼女の行きつけらしい喫茶店に入った。入り口から少し離れた窓際の二人掛けのテーブルの椅子に腰を下ろした。

「ここのミルクティーがすごく美味しくてよく来るんですよ」メニューを広げながら彼女が言う。しかし、僕はあまり甘いのが好みじゃなく、コーヒーの欄を眺めている。

「甘いの苦手ですか?」コーヒーの欄が広げてある僕の方のメニューを覗きながら言う。

「いや、ぜひ飲んでみようかな」と思ってもないことを言ってしまった。彼女は僕に向けてニッコリと笑顔を見せた。かなり古風な店内にはコーヒーの豆を挽いている香ばしい香りが充満している。

「すみません」と彼女が店員を呼び二つのミルクティーを頼んだ。今度一人で来た時にでもコーヒーを飲もうと思った。注文を済ました彼女はすぐに図書室で借りた本をバッグから取り出した。

「この本ずっと貸し出し中だったから見つけた時すごく嬉しくて」彼女は心底嬉しかったのだろう。本を抱きしめながら言う。「あ、そういえばまだ名前言っていませんでしたね!私、小暮 華って言います」唐突な自己紹介にびっくりした。華。彼女の雰囲気にぴったりな名前だ。

「あなたは?」彼女が好奇心旺盛な目で僕の瞳を覗き込む。

「僕は能村 光太郎です。大学一年生の文学部です。」必要のない情報まで伝えてしまったかと思ったが。

「じゃあ同い年ですね!タメ語でいいですか?」と無邪気に笑う。どんどん距離を詰めてくる彼女。

「タメ語で大丈夫。」そうは言ったが、これ以上親密になることは避けたい。これっきりにしよう。

「なんで文学部の君があのコーナーにいたの?」彼女は僕の核心をついてくるような質問をする。まさか、今日出会った人に僕の病気のことを話しても相手を困らせてしまう。なんて言えばいいのか。

「友達がちょっとした病気で...その病気のことを知っておくのもいいかなって...」嘘をついた。しかし、これは自分のためでもあり、彼女のためでもある。

「そうなんだ...経過は良好なの?」これ以上病気の話をしているとボロが出そうになるので怖いが、突然話を切るのは不自然。大人しく嘘をついておこう。

「うん。順調に回復してるみたいだよ」全く希望の見えない定期通院をしている僕から出る言葉とは思えない。

「そうなんだ!あまり重い病気じゃなくてよかったね!」彼女は本気で他人の友達の幸福を喜べる優しい女性なのだろう。そこらじゅうにいる医者よりよっぽど医者に向いている。

「君はさ...なんで医者を目指すの?世界中の人の命を救うって言っても全員赤の他人だよね?」そんな意地悪な質問を投げかけてしまった。質問をしたあとの沈黙の間に頼んだミルクティーがテーブルに運ばれて来た。僕は早速、ミルクティーが注がれたカップを手に取り、口元へ運んだ。一口飲んでみると想像していた甘さよりも控えめで茶葉の香りが口じゅうに広がった。「あ、おいしい...」率直な感想が口から漏れた。さっきの質問の答えを言うのを躊躇いながら下を向いていた彼女が、僕の感想を聞くと僕の方を驚いたように見て、

「でしょ!普通の紅茶より紅茶本来の味が出てて、すごく美味しいの!」共感してもらえたのが嬉しかったのかさっきとは一転、満面の笑みで僕が紅茶を飲んでいるところを見ている。僕はそんな彼女を見ていると飲む手を止めるわけにいかずどんどんと紅茶を飲み進めていく。そして、口に溜め込んだ紅茶を飲み込み、またカップを口に運ぼうとした瞬間

「たしかに、世界中の なんて言っちゃうと赤の他人ばかりだけど」さっきの質問の答えが返ってきた。彼女は僕の方を見ながら悲しげな表情をして言う。

「私、幼い時にひどく重い病気にかかっちゃって。それをそこら中の病院回って見てもらって、どこも引き取ってくれなくて。」彼女もまた、患者の一人だったのか。

「それで、ある病院の先生がアメリカの病院でなら見てくれるところがあるかもしれないって言ってくださって。すぐにアメリカに向かった。」彼女の表情は相変わらず悲しげで儚い。

「それで、紹介していただいたアメリカのお医者さんに診ていただいて、そしたら治ることがわかって。」さっきまでの表情が一転、笑顔に変わった。

「そこで、完治して日本に帰ってきたんだけどど、さっきの言葉の世界中の人たちを救いたいっていうのはそういう過去があったからなの。」本気の彼女に僕の病気のことを打ち明ければ周りとは違う反応があるかもしれない。本気で心配して、僕の支えになってくれるかもしれない。いや、さっきまで赤の他人だった僕にそこまでしてくれるわけがない。やっぱり黙っておこう。「そんな過去があったんだね、きっと人のことを想える、すごい医者になれるよ。」あくまで他人事のように話す。彼女はお気に入りのミルクティーを飲んでいる。

「じゃあ、手伝って!」キラキラした笑顔でこちらを見る。彼女の目に吸い込まれそうだ。「え?」なんのことか分からず戸惑ってしまった。

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