第1夜:02
1ヶ月と言ったな。あれは嘘だ。
作戦決定から3分がたった。
さて、そろそろ飛鳥から合図が来る頃だ。
と思ったと同時に、体が軽くなったような感覚が走った。
いや、軽くなったというより、体の速度が倍になったのだろう。
これが合図だ。
一度、飛鳥の作戦を思い出してみよう。
『いい?これからアンタに[バースト]を掛けるわ。アンタに能力を掛ければ、夢魔がアンタを殺す事は出来なくなる。だから、アンタにはここ一帯を全力で走って貰って夢魔を大量に釣ってきて。大量に釣って来たら、私が一網打尽にするわ』
なんていう奴だ。俺に肉体労働をさせるとは。
まあ、一気に殺ってくれるんなら、それで構わないんだけどさ。
さてと、走りますか。
10分後……
「あのクソ野郎があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ちゃんと釣ってきた。
釣って来た。が、
「普通に攻撃してくるんじゃないかよぉ!ふざけんな物理攻撃で死ぬわぁ!!」
てっきり魂取られて死ぬのかと思ったわ!
しかし愚痴ばかり漏らしても今の状況は変わらない。
というか、どこで飛鳥は待機しているのだろうか。
終着点が見えないがゆえ、この時間が永遠だと感じてしまう。
とにかく走り続けなければならない。
「……げ」
進み続けていたら、いつの間にか袋小路に着いてしまった。
「グルォウ!!」
後ろには大量の夢魔。
「あ、詰んだかも」
言葉に出してはみるが、体は逆の行動に出ていた。
逆に夢魔の方向へ走る。
運が良ければ、夢魔の隙間を通り抜けて逃げられるかもしれない。
足が第一歩を踏み込んだその瞬間…
「[トリプルバースト]」
掛け声と共に鈍い銃声が響く。
右手にはショットガン。そして左手には、グレネードを束ねた、爆弾。
ショットガンで敵を抑制し、本命のグレネードのピンを外し、投げつけ……ってちょっと待った。
それを目で捉えたと同時に、夢魔の方向へ再び走り出す。
飛鳥の能力がまだ効いてるなら、一瞬で抜けられるハズ。
確か爆発までの時間は3~5秒。
全力で走り抜けなければ…ッ!
大股で走る。夢魔は弾丸に夢中で俺には気付いていない。
…2秒経過。
集団の後半に近付く。
駄目だ。このまでは逃げ切れない。
なら、もっと加速するまでだ。
更に一歩一歩の間隔を縮める。
足が悲鳴を上げる。構うもんか。今は生き残らなければ。
…3秒。
後方で爆発音が聞こえる。
そして、体は爆風で吹き飛ばされた。
「…ぐっ…」
駄目だ。制御仕切れない。
足に激痛が走る。
宙に浮いた体は切り揉みしながら落ちていく。
「……ぐぶぇ…」
重力に従い落下した。
肺から空気が抜ける。脳が揺れる。
駄目だ。何も考えられない。
体が動かない。
しかしそんな俺を置いて、
「これで粗方ブッ飛んだわ。さて、残りを消しに行くわよ」
などと平気な表情をしてのたまった。
「……は」
ふざけんな。
こちとら命がかかってたんだよ。
「……なにやってるの?早く次行くわよ」
「……クソ飛鳥」
「なんですって?もう一度言ってみなさい」
「……ハイハイ」
よくこんなに元気だな。
おぼつきながらも両足に力を入れる。
「…あれ」
右足首が動かない。
「…呆れた。アキレス腱が断裂したの?」
どうやらそうらしい。
爆風で吹っ飛ばされた時の激痛と関係があるのだろうか。
そんな事を考えながら、壁に寄っ掛かりながら何とか立ち上がった。
……ん?あれは…
「全く、無様ね。あんな爆風で怪我するなんて」
「…後ろ」
「仕方ないわね。アンタに私の能力をかけて補強して上げるわ」
「だから後ろ」
「ほら、早く患部を出しなさい。あと3秒で気が変わるわ」
「だから後ろだって!!」
後ろに、ヤツが…ッ!
「後ろ後ろって何よ。後ろに何が…」
振り向く。
刹那。
飛鳥は腹部を爪で貫通されていた。
滴る血。
抉られた肉。
漂う臭い。
そして、夢魔と目線が合う。
駄目だ。死んだ。
夢魔が飛鳥を払いのけ、爪を俺に向ける。
「あー、死ぬのか」
思わず口に出てしまった。
呆気なさ過ぎて。
唐突過ぎて。
何故か笑いが込み上げてきた。
ここまで笑っただろうかと言う程声を上げて笑う。
散々やったとしても、結局は死ぬのか。
コンビニに行く途中に巻き込まれた、それだけなのに。
爪が、近づいてくる。
向かう先は、俺の眉間。
1秒にも満たない筈の時間が、スローでアメイジングに感じられる。
眉間に当たるまで、あと1ミリ未満。
冗談じゃない。
何故死ななければならない。
コンビニ行ったら頭貫かれて死んでました~。なんて、恥にも程があるだろう。
まだ、『生きたい』
瞬間。夢魔を無数の剣が貫いた。
彼から出現した、剣によって。
「ギャオウ!?」
獣が叫び声を……違う。驚きの声を上げる。
まだ、『驚く』程度か。
「は、ははは。はははははっ!!!」
先程よりも大きい、嗤い声が木霊する。
なんだ、この剣は。
こんなもの、日本に在っていいのか?
その疑問に答えるように、剣は更に出現する。
貫く本数が増える。
「ギャルァ!!」
苦痛の叫びを上げた。
そうか、この剣は在っていいんだ。
これが、俺の『能力』なのだから。
果たして彼の能力は!?
次回!『第2夜:01』!
明日もサービフサービフゥ!