第一夜:01
ペースは1ヶ月に一話位っすかねぇ。
「はあっ…はっ…クソッタレ……ッ!」
この物語の主人公の星智樹は星すら見えない深夜を全力で走っていた。
訂正。走っていたのではなく、逃げていた。
「グルゥルルル……」
後ろから追うのは、大きな犬のような形の、化け物。
「クソッ…クソッ……一体どこに向かえばいいんだ!?」
逃げてはいるが、向かうべき場所が分からない。
さらに、今走り回っている場所は自分の知らない街並みだった。
均一に並んだ街灯。灯りのついていない住宅街。
いくら走っても、同じ道を繰り返している。
だからといって止まるわけにはいかない。
「はあっ…はっ…うわっ!」
焦りすぎたのだろうか。あろうことか自らの足が絡まり、こけてしまった。
「グルゥァアァ……」
止まってしまった今、化け物との距離は更に縮まっていく。
「クソッ…来るな!来ないでくれ!」
まだ死にたくない。と震えた声で呟く。
その時、彼に不思議な力が宿った!
というようなご都合主義な展開はあるわけがなく、化け物の牙が智樹に近づく。現実は非常である。
死を覚悟し、脳裏に今までの思い出が流れる。
たいして面白くもない、凡人の思い出。
そんな思い出よりも優先して入ってくる情報は、目の前の出来事である。
智樹を牙が切り裂くまで、あと数センチ。
その時だった。
「[ダブルバースト]」
その掛け声と共に、化け物を鉛玉が貫く。
一体何が起きたのか全く分からない。
玉が飛んできた方向に、クラスメイトがいるとなると、尚更分からない。
化け物は消滅していた。
鉛玉以外の証拠を残さず、綺麗に消えていた。
どうやら生物ではないらしい。
きっとこれは夢だ。くだらない悪夢に過ぎない。自分に言い聞かせる。
が、しかし。
「これは夢じゃない。現実よ」
見事に否定された。
さらに続けて
「アンタ、なんで能力使わないの?バカなの?」
よく分からない事で罵倒されてしまった。
「いや、能力って何だよ…」
「話は後。ここにいると他の個体に狙われるから移動するわよ」
反論しようとしても無視されてしまった。
しかし、今は従った方が良さそうだ。
??? とある屋内
彼女に付いて行ったら事務所のような場所に着いた。
黒革のソファに黒光りする机。
奥には社長室のようなスペースがある。
「ここなら安全ね」
何を持って安全と言うのだろうか。
疑問に思ったが、口内でぐっと押し殺した。
「さて、聞くけど、アンタ、なんで能力使わなかったの?」
「いや、能力って言われても…」
何の能力だろうか?身体能力?
「……とぼけないで。アンタ能力持ってるでしょ?じゃなきゃココにいる筈がない」
「……はぁ?」
全くもって理解不能である。
ココ?ここは地球の日本じゃないのか?
「早く言って。アンタの能力は?」
「だから、能力とか知らないって。何?さっきの化け物と関係あんの?」
「……嘘。本当に何も知らないの?ただ迷い混んだだけってだけなの?」
だから、どこに迷い混んだっていうんだよ。
「ああ、もう。今回で二人目よ。一体何なの?私に対する罰?」
「とにかく説明してくれ。状況が理解出来ない」
こういう時こそ、冷静に状況を判断するべきである。
「言われなくてもするわよ。いい?あの化け物は、『夢魔』って言うヤツ。そしてココは、夢魔が作り出した結界の中よ」
「は?」
「結界の中には能力者しか入れない。一般人は入れても、魂を喰らわれるまで意識を保てないわ」
「はい?」
「そして夢魔は、生きる人間の魂を喰らう、死神みたいなモノ」
「いやちょっと待て」
「夢魔を殺すには、能力が必要。ちなみに私の能力は[バースト]。速度上昇系の能力よ」
「だから待てって。」
「何よさっきから!」
「全くもって理解不能なんだよ!」
夢魔?魂?寝言は寝て言えっての。
「しょうがないじゃない!事実なんだから!」
事実と言われても、電波過ぎるから信じたくない。
「いいから信じて。この状況が危険なのはアンタも私も同じなの。それは分かってる?」
……確かに。
俺は能力とやらを持っておらず、戦えず喰われるかもしれない。
コイツは俺を庇いながら戦う事になる。
「俺がお荷物って事か」
「理解が早くて助かるわ」
ということは、作戦を建てる必要がある。
……ん?
「俺がここに残って待ってちゃ駄目か?」
さっき安全って言ってたし。
「駄目よ」
即両断された。
「ここが安全なのは、私の能力が建物に影響を与えているから。私が離れたらここはすぐに危険になるわ」
「よく分からないしご都合主義だな。」
「そこはしょうがないわ。そういう事なんだもの」
まあ、そんな事より…
「じゃあどうするんだよ。囮になって死にたくないぞ俺は」
まだやりたい事が残ってる。
ごく普通の学生だし、青春を満喫出来てない。
しかし、そんな事は既に分かっているわ。とでも言いたげな表情をして、彼女はこう言った。
「安心しなさい。とっておきの策があるわ」
「ほう。とっておきか。聞かせろ」
「聞かせて下さい。でしょ?」
調子に乗るな。
と言いたかったが、そんな事言って機嫌を損ねたら困る。
「……聞かせて下さい」
「いいわ。策って言うのは……」
そう言い、彼女は手を招く。
近づいて耳を彼女の口に近づける。
「……成る程」
「どう?面白いでしょ。最高よね」
は。
ははは。
笑わせるじゃないか。
失敗したら死。
失敗したら終わり。
成功すれば、生存する。
割には合ってないような気がするが、こういう時の賭けのような事は好きだ。
コイツ、性格はクソだけど頭は廻るみたいだ。
「そういや名前聞いて無かったな。お前名前は?」
「鷺ノ宮 飛鳥よ。アンタは?」
「星智樹だ。忘れんなよ」
「安心しなさい。明日になったら忘れるわ」
「…おいおい」
軽口叩けるほどの策。
びっくりするくらい面白い策。
さて、吉と出るか、或いは死ぬか。
「さあ、行きましょう。星君」
「あいよ。鷺ノ宮」
「軽々しく私の名字呼ばないで。星君」
「じゃあ俺の事は名前で言え。星は嫌だ」