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第26話 復活の古代兵器

 時間は少し遡りエンデがロットポリスに帰還する少し前ーー。


「親方! このパーツどこに使うんでしたっけ!?」


「ああっ!? もうパーツを付けるとこはないぞ! 後は各部の動作チェックだけだ!」


「そ、そうでしたっけ!?」


 結界が崩壊する前からギルギスの工房は慌ただしかった。

 正確に言うとジャウによる宣戦布告がなされた時から昼夜を問わずフル稼働していた。

 理由は古代兵器フェナメトおよび古代の遺物をできる限り修理し実戦投入するためだ。


 古代兵器の強さをギルギスはよく理解している。

 ゆえにフェナメトを素早く戦場に送り出せれば目に見えて戦況は変わるだろうと確信していた。


 しかし、まったく技術レベルの違う機械を数日で理解し修復、さらには強化まで行うにはかつて四天王候補とまで言われたギルギスでも無理があった。

 戦闘はすでに終盤に入り、ロットポリスは崩壊するかどうかの瀬戸際に追い込まれている。


「ギルギス! そっちはまだか!? 指揮官機が完成しねーとこっちは動けないぜ!?」


「わかっとる!」


 今この工房にはフェナメト以外にも『あるもの』を改修すべく他の工房からも技師が集まっていた。

 彼らはほとんど仕事を終え、フェナメトが動き出す時を待っている状態だ。


「あと少しだ……! っ! おい、そこでノロノロ動いてる奴は誰だ! 気が散るだろうが!!」


「親方それゾンビです!」


「なにぃ!?」


 比較的門に近い町の外側に位置するギルギスの工房にはゾンビが迫ってきていた。


「こ、ここは通せないんだから! えいっ!」


 作業用ロボ『マッシブ』に乗ったフィルフィーが大型のスパナを振るいゾンビを打ちすえる。

 攻撃を食らったゾンビはその場に倒れこんだ。


「やっ、やった……きゃあぁ!!」


 安心するのもつかの間、次々工房に流れ込んでくるゾンビに組み付かれてしまったフィルフィー。

 のろい動きの割に力は強く、作業用ロボのマッシブといえど複数に組み付かれては自由に動けない。

 そのうえ鉄の塊の中に餌となる生き物が入っていることに本能的に気づいているのか、そのコックピットハッチをこじ開けようとする。


「フィ、フィルフィー!!」


 たった一人の弟子を助けるため、ギルギスの作業が止まろうとした瞬間、工房内に銃声が響いた。

 フィルフィーに組みついていたゾンビは頭部を撃ち抜かれバタバタと倒れていく。


「各部チェック……」


 すでに立った状態で全身のチェックを行っていたフェナメト。

 右手に握られた新しい銃が煙を上げていた。


「損傷なし。コンディション……グリーン」


 黄金のピラミッドの時とは違い、その声には人間的な抑揚がある。


「各内蔵武器……一部使用可能。手持ち武器……メタルマシンガン、ライトシールドを確認。クエストパック……アルバトロス」


 目を隠すほど長い前髪は赤いピン留めで左右に分けられ、黒い瞳はただ前を見据える。


「フェネックアンテナ……使用可能。型式番号GKA-100『フェナメト』の現在のスペック……新造パーツが多くデータ不足のため測定不能」


 彼女は一度目をつむり、また開いた。


「こんな感じでチェックはいいのかな?」


(ああ、意識のある状態でも各部をチェックできる。覚えておくといいフェナメト)


「わかったよ、フェアメラ」


 戦闘補助人格のフェアメラと会話するフェナメト。

 事情を知らぬものが見れば奇妙な光景だが、ギルギスは全てを知っている。


「すまねぇな、修理が遅れちまって……」


「そんなことないよ! そもそも僕らを修理できるってだけですごいんだからね!」


「ギルギスの技術は本物だ。この短期間でここまで私を直してくれたことを感謝する」


 二つの人格は代わる代わるギルギスに感謝の言葉を述べる。


「そう言ってくれると俺も技師として鼻が高いぜ……。早速で悪いがその力をみんなのために使ってくれるか?」


「もちろん! じゃ、行ってくるよ!」


 工房の入り口にはまたゾンビが群がっていた。

 フェナメトは金属の弾丸を撃ち出す『メタルマシンガン』を撃ち鳴らし進路をクリアにすると自らの足で外へ飛び出す。


「工房の中でブースターを吹かせるわけにはいかないからね……って、なんだろうこの霧は」


 彼女は町に紫の霧が蔓延していると聞いていた。

 しかし、その目に映ったのは薄い緑の霧。


(毒性はなさそうだが視界が悪いな。一度空から全体の状況を確認すべきだ)


「うん、わかった!」


 鮮烈な赤の塗装が印象的な新たなクエストパック『アルバトロス』。

 その大きな特徴である背中のブースターが起動する。


 『アルバトロス』は砂漠で発見したクエストパック『ロブスター』の片腕を分解して得たパーツを使用してギルギスによって新造された装備である。

 『ロブスター』の指に使用されてた強力かつ状態の良い関節パーツをフェナメト自身の各関節に移植。

 その周囲にも装甲を追加し大きな弱点であった関節部の脆弱さを完全に克服した。

 その反面で装甲をつけている状態では女性な体のラインは失われることになり、重量も増している。


 そして、風を噴射し加速するブースター部分も分解されボディの各部に設置、背中には最も大型なものと新たに製造されたウィングを装備。

 これにより飛行を可能にしている。


「テイク、オフ!」


 周囲の霧を吹き飛ばしながらフェナメトは天高く飛び上がる。

 眼下には緑の霧に覆われた町。

 その霧の発生源は町の中央『ロットポリス・ビルディング』だ。

 フェナメトの目が原因を確認すべく中央をズームインする。


「……あっ! エンデさんだ! なんかちょっと雰囲気違うけどきっとそうだよ!」


(竜の翼……精霊竜の力を本当に継承したのか。やる時はやる男だと思っていたがこれほどとはな)


「エンデさんが出してる霧なら止める必要はないね。なら僕らは町に侵入したモンスターを倒してみんなを助けよう!」


(ああ、あっちはあっちでフレースヴェルグの相手をしなければならないようだしな。こっちは市民の安全の確保を最優先に動こう。それにしてもあんなモンスターはそうそう出てくるものではないはずだが……)


 フェアメラはモンスターと戦うために造られたため、モンスターのデータは多く記憶している。

 フレースヴェルグはふらっと町に現れるような存在ではない。

 ならば誰かの指示を受けて飛来したと考えるのが自然だが、これほどの高ランクモンスターに言うことを聞かせるのは難しいはずなのだ。


(まあ、現にいるのだから疑いようもないか)


「それでどこに行こうか? この町は広すぎるよ。勘で動くと効率が悪そうだ」


(そうだな……。んっ、西に紫の霧が広がっている箇所がある。おそらく話に聞いていた紫の霧を生み出しているモンスターだろう。そいつを仕留めよう)


「よしきた!」


 体の各部に設置されたブースターで姿勢を制御しつつ勢いで飛ぶ。

 スピードは一級品だが少々小回りが利かないのが難点だ。


「ぐぎぎぎ……っ!」


 着地がうまくいかず足で勢いを殺す。

 綺麗に舗装された道の石がめくれ上がるも装甲を追加し強度が増したフェナメトの足は壊れない。


「結果オーライ……と。それで敵は……」


 紫色の霧の中に突っ込んだため視界はすこぶる悪い。

 空中から攻撃を加えなかったのは霧の中に市民がいる可能性があったからだ。


「グ……グオ……」


 苦しむようなうめき声をあげながら、のそりと二人の前に現れたのはライオンの体、鳥の翼、そして人と獣を混ぜ合わせたような顔をもつモンスター……のゾンビだった。


(スフィンクス! 砂漠の多い地方に生息する希少なモンスターだ。こんなところに出るはずがない)


「長い間砂漠にいた僕ですら出会ってないもんね」


(しかし、今目の前にいる。やはり、人工的にモンスターを生み出し命令を出せる者が現代の人間界にいるのか……?)


「魔界にはモンスターを作り出せるところがあるってメイリさんから聞いたことあるけど、そういえば珍しいものまで作れるかは確認してないなぁ」


(今考えても仕方ないか……。倒すぞフェナメト)


「まっ、頭で考えるよりそれが僕らには似合ってるね! だってそのために僕らはここにいるんだから!」


 マシンガンから弾丸を連射。

 しかし、そもそもタフなうえゾンビと化したスフィンクスに対しては火力が足りず効果が薄い。


(流石は霧の発生源となるモンスター。戦略の要だけあって強い)


 スフィンクスは前足の爪でフェナメトに襲いかかる。

 それをフェナメトは腕に装備された『ライトシールド』で受ける。

 シールドは爪と衝突しミシミシと歪んでいく。


「軽くてそこそこ耐久もあるけど、このレベルのモンスター相手だとちょっと信用できないな」


 冷静に新装備の性能を把握する彼女に対してスフィンクスは雷魔術でさらなる攻撃を加える。

 爪から発生した電撃が機械の体を駆け巡る。


「……でも、やっぱりギルギスさんはすごいよ。ボディの修理は完璧に終わらせて、新しい装備まで作ってくれたんだから」


 電撃を食らってもその体が動きを止めることはない。

 フェナメトはシールドを捨てるとブースターを短く噴射しスフィンクスの背後を取った。


「ビームショーテール!」


 腕の装甲が開き、そこからすべり出た筒状の物体が彼女の手に収まった。


(稼働は5秒が限界だ。これに関しては強力な分技術面が追いつかず修理が完璧ではない)


「それだけあれば十分!」


 筒は持ち手だ。

 そこから弧を描くように湾曲した光の刃が発生する。


「一刀両断!!」


 本来なら金属であるはずの刃が光に変わっているとあってその一太刀は目にも留まらぬほど早かった。

 キラッとスフィンクスの首に光が走ったかと思うと、次の瞬間にはその首が地面に落ちていた。


「戦闘終了……。型式番号GKA-100『フェナメト』の現在のスペック……みんなが頑張って直してくれた体だから100点満点!」


 フェナメトは両手でピースサインをする。

 この動作が滑らかに行えるのも整備が隅々まで行き届いているおかげだ。


(まだ他の場所で戦闘は続いている。フェネックアンテナは正常に動いているようだな)


「うん、ちゃーんと他のマシンたちに命令は出せてるしお返事もあるよ」


(よし、受け取ったデータをもとに他の戦場に移動するぞ)


「了解!」


 ギルギス以外の技師たちが手がけていた『あるマシン』たちと通信をしつつ、フェナメトは再びロットポリスの空を舞う。

 戦いの終わりは確実に近づいていた。

本作『PASTEL POISON』が第3回ツギクル小説大賞で優秀賞を受賞しました!

これもここまで応援してくださった読者の皆様のおかげです!本当にありがとうございます!

書籍化に関しては『検討しています』とのことですので、何か動きがあれば後書きや活動報告でお知らせしたいと思います!

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