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第09話 ダンジョン植物園計画

「ダンジョン植物園計画ですか……。ええ、私も良いと思います」


 食材調達から帰ってきたメイリは食材の入ったカゴを机に置きながら言った。


「やはり野生で採れるものだけでは三人分の食事をまかなえません。そう毎日生えてくるものでもありませんし、新しい食材を求めて探索範囲を広げすぎるとすぐ霧の森に入ります。迷う危険もあるうえ、人に見つかる危険もあります。その点ダンジョン内部で野菜の栽培が出来れば安全安心産地直送ですね」


「ふふ、メイリも名案だと思うだろ?」


「はい、パステル様。食料の確保だけでなく同時に戦力も増やせるのも良いですね。第一階層のオバケスイカを見ましたが、私の採ってきたスイカのタネがあんな立派なモンスターになるとは驚きです」


「俺たちも驚いたよ。深く考えず適当にやった結果ああなったワケだからね。これからは上手くグロア毒を薄めないと普通の植物として育てたいものまでモンスター化させてしまいそうだ。実験の必要があるなぁ」


 なにはともあれ、これからやるべき事が決まったのは大きいぞ。

 第一階層は植物系モンスターのフロアに、第九階層は野菜や果物のフロアに。


「いろんな種類のモンスターがいた方が防衛力は高くなる。となると、いろんな植物の種や苗を探してきた方がいいか……」


「私の採ってきた植物は食べれる野草に相変わらずのスイカ、野イチゴ少々です。ここら辺は野生のスイカが多いようですね。味はあまりしませんが水分は多く含んでいて旅の者には嬉しいことでしょう。ただ、毎日食べると飽きが早そうです。食事を楽しむためにも種類は多い方が良いかと」


 となると探索範囲を広げるか、町に買いに行くか、侵入してきた者から奪うか……。

 どれもそれなりにリスクが伴うな。


「とりあえず、今度は俺が食料調達に出かけてみるよ。俺も一応元冒険者だからそれなりに知識はあるし、毒のスキルを使えば本来食べられないものを食べられるように変化させられるかもしれない。それに物を探すときはいろんな人の視点があった方がいいからね」


「そういう事でしたら次回の食料調達はエンデ様にお任せします」


「うむ、頼んだぞエンデ!」


「まあ任せといて」


 今回は当てがないワケでもないし自信ありげに返事をした。




 ● ● ●




 翌日――。


 この時期の朝の森は冷える。

 それはモンスターになっても同じことだった。

 パステルがDPを消費して取り寄せた安物だが分厚いローブを被り、しんと静まり返った森を歩く。

 風で草木が揺れる音は聞こえるけど、生き物の気配は無い。

 あまり人が足を踏み入れない森の雰囲気は独特で、鈍感な俺でも人がいれば気づけると思う。まあ、逆もしかりだ。油断せず行こう。


 目指すは始まりの地ならぬ始まりの池だ。

 思い出深い場所ではあるが、そこからダンジョンまで歩いたのは一度きり。何とか記憶を探り池を探す。

 途中、持ってきたオレンジ色の紐を木にくくり帰りの目印にしつつ進む。

 そんなこんなで数十分。迷いながらも遂にあの毒の池に辿り着いた。


「ふー、なんかもう懐かしさすら感じるなぁ」


 独り言を言い、池のほとりに座り込む。

 しばし休憩。もちろん本来の目的は過去を振り返る事ではない。


「ここらへんだったかな……んーと……」


 膝をついて地面を探る。

 俺の記憶が正しければ、ここらへんにある物が落ちているはずだ。


「……流石に時間が経ち過ぎたか? いや……これか」


 拾い上げたのはリンゴの食べカス。これはアーノルドが池に付いた際に食べていた物だ。

 アーノルドは芯ギリギリまで食べず果肉を残すので野生生物に持っていかれないか心配だったが、奇跡的に今回は捨てられた位置にそのまま残っていた。

 無論この食べカスを食べるわけではない。もう萎びてるしね。

 目当ては種だ。町で売られている改良された品種のリンゴの種を育てれば、野生のものより美味しいリンゴが食べられるはずだ。


 食べカスをしまいこみ、辺りをさらに探索する。

 人が来る可能性も無くはない。あまりだらだらはしていられない。霧の森では時間の感覚も狂う。

 武装は剣のみだが心細くはない。それよりもやはりパステルのことが気になってきた。

 メイリの事を信用していないとかそういう事じゃない。ただ、出会ってからずっと近くにいたからかな。彼女が近くに感じられないと妙な気持ちになる。

 ……やっぱり心細いのかも。まあ、パステルと一緒にいたら今度は守れるかどうか不安になるだろうけど。


「戻るかな」


 結局毒の池のほとりで見つかったのはリンゴの食べカスが二つ。

 ここに着いてから割と早いタイミングで俺を突き落として退散したのにめっちゃリンゴ食べてるなアイツ。

 そういえばアーノルドは野菜が嫌いで代わりに果物を食べている偏食家みたいな話を聞いたことがある。その果物もリンゴばかりと偏っているというオチもついていた。


 ……アイツのことを考えるのはよそう。パステルと出会うきっかけになったとはいえ、俺にしたことは許し難い行為だ。

 が、手に入れた力で町に攻め込んで復讐しようとも思わない。新たな居場所からわざわざ離れて嫌な奴の顔を見るのはゴメンだ。

 まあ、向こうから尋ねてきたらそれなりに歓迎しないとね。

 歓迎パーティの参加者は多い方が良い。その為にも仲間はたくさん増やさないとね。


 木に括り付けた目印の紐を回収しつつ、俺は来た道を引き返す。

 とりあえず、霧の濃いところを抜けてから周囲の探索を再開。

 地面に視線を送り、食べられそうな野草を探す。するとドギツイ色のキノコを発見した。


「キノコか……。これは明らかに毒キノコだけど俺なら食べられるかな」


 とはいえこの色は食欲が湧かない。そのうえ生だし。

 スキル的にいろんな毒を体に覚えさせるのが良いのはわかってるけど……これはとりあえず採取して保留だ。せめてメイリに最低限美味しく頂ける方法を聞いてからにしよう。


 魔物化させるのも気が乗らない。キノコも植物だけど植物系モンスターとは分けてキノコ系モンスターとして考えられることも多い。

 寄生やら胞子やらで扱いを間違えると危なそうだ。特に寄生はね……話を聞いただけでも恐ろしい……。俺は問題なくてもパステルには近づけたくない。

 すまないキノコよ。良い味方になってくれる可能性もあるけど、俺は苦手なんだ……。


 立ち尽くして葛藤すること数分。俺は我に返り探索を再開。

 ……うーん、他にはやはりメイリがよく採ってくる野草や野生のスイカしか見つからない。背負ってきたカゴに入る分は入れていくとしよう。


「うんうん、まあ上出来かな。目当てのリンゴは手に入ったし」


 独り言と共に探索は終了。

 体も冷えてきた。それにしても森という場所の雰囲気は独特だ。自分みたいな異物が居ていいのか不安になってくる。

 俺は一応周囲を警戒しつつ帰路を急いだ。




 ● ● ●




「ただいま!」


「おかえりエンデ。何事もなかったか?」

「おかえりなさいませ、エンデ様」


 無事ダンジョンまで帰って来た俺を二人が迎えてくれた。


「うん、何もなかったよ。あっ、成果はあったけどね。それにしてもパステルまで第一階層で待っててくれたんだ」


「一人で部屋にいるというのもなんとなく落ち着かんのでな。最近はずっと近くに誰かがいたし。別に寂しいというわけではないぞ!」


「うんうん。わかるよ、その気持ち」


「なんだ妙にニヤニヤしおって……。まあいい、それで目当ての物は見つかったのだな」


「そうそうこれなんだけど……」


 俺はパステルとメイリに今回の探索の成果を報告した。


「ほう……リンゴか。それも食用に改良された品種の。確かに良いものだな。まぁ、ろくでもない奴が残していった物でもあるが……」


「だからこそ逆に有効活用するのさ。種の数が少ないし替えもきかないからリンゴを育てるのは他の植物を育てて感覚を掴んだ後だけど、楽しみにしといて」


「うむ、私も手伝うぞ。何もせずにダラダラしていてはただでさえ弱い身体がさらになまってしまうからな」


 見た目は気が強そうなのに相変わらずの自虐トーク。

 自嘲気味な笑みもかわいいのでなかなかやめた方が良いと言えない。


「作業の前にお食事はいかがですか? 『腹が減っては戦は出来ぬ』と言います」


「そうだね。時間もちょうどいいし。採ってきた物と取り寄せた食材で何か作ってくれるかなメイリ」


「かしこまりました」


「私もここでエンデの帰りを待っていただけなのにお腹が空いたぞ。体とは難儀なものだ」


「そういうところは人間も魔王も同じなんだね」


「むしろ魔王の方がいろいろ能力が高い分消費するエネルギーも多いからすぐ腹が減るぞ。それに比べたら人間と変わらん私などかわいいものだ」


「うんうん、パステルはかわいいよ」


「そうだろ? ……ん?」


 小首をかしげるパステル。

 勢いで言ってしまった。俺は気付かれる前に駆け足で移動の魔法陣へと急いだ。


「エンデ、今のはどういう……って、あ! 待てっ!」

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