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第15話 竜のもとへ

「あの……もしよかったら俺も竜探しについて行っていいですかね?」


 悩んでもいい言葉は浮かばない。

 俺はヴェルとパルマに率直に要望を伝える。


「僕らの伝承の話を信じてくれるんですか!? 嬉しいです! ぜひ一緒に来てほしいです!」


「この村のに辿り着いたときはもっと味方が増えると思ってたんだけど、みんなヴェルより弱気な人ばっかりでこっちまで不安になってたところなんだよね。二人よりも三人の方がずっと冒険は安全になるし、よろしくねエンデさん」


「うん、こちらこそよろしく」


「じゃあ、早速出発しましょう! 長老に見つかるとまた萎えること言われるかもしれませんし」


 こそこそと村の柵を越え外へ。

 とりあえず仲間には入れてもらえた。素性を聞かれなかったこともグッドだ。

 なんせこっちは毒魔人だからなぁ……。


「光よ!」


 ヴェルが杖を掲げ、その先端からまばゆい光を放つ。

 すると、霧がその光に押しのけられるように晴れ視界がぐっと広がった。


「これが……さっきパルマさんが言ってたヴェルさんの光魔法?」


「あれ? 私そんなこと言ったかしら……?」


「あ……ヴェルさんを蹴り飛ばしている時に……」


「うっ! さ、さっきはお見苦しいところを……」


「あ、いやいやお二人が良いならいいんだけどね……」


 落ち着いているとパルマは心優しそうに見えるんだけど、実際はかなり熱くなりやすい子だ。言葉遣いに気をつけないと……。


「エンデさん、僕らのことは呼び捨てで構わないですよ。エンデさんの方が年上みたいですし、なんかベテラン冒険者って感じがします」


「あっ、私もそう思った! 切れてる私の前に立ちはだかれる人ってそうそういないもん! よく見ると筋肉も結構あってガッチリした身体してるし、経験豊富なんだろうなぁ~。ヴェルも少しは筋肉つけたらいいのになぁ~」


「僕は生まれつき虚弱体質なのを知ってるでしょうに……って、何の話でしたっけ? あっ、光魔法の話ですね」


 ヴェルが強引に話を元に戻す。


「やっぱりエンデさんほどのベテランでも光魔法は珍しいですか?」


「う……まあ、そうだね。そんなに見たことないかな……」


 万年Fランク冒険者だった俺は無論見たことがない。

 【光魔術】というレアスキルを持った人物を。


「本当ですか? なんか嬉しいです。と言っても僕が使えるのは初歩の初歩の魔法だけなんですけどね」


「でも便利だよ。この光が無かったら見える範囲が狭すぎる。普通の炎じゃ霧に覆い隠されて大して見えないからね」


「いやぁ、褒められるとちょっと照れちゃいますね。でも落ち着いて伝承に記された竜の居場所に続く道を探していくとしましょう」


 ヴェルはお手製の本を取り出しそれを読みつつ進んでいく。

 俺とパルマは周囲を警戒しつつそれについていく。


 伝承は少々抽象的な表現を用いて山の中に存在する道しるべを伝えているらしい。

 二人はそれに従って入山する場所から吟味し、一歩一歩登ってきたとのことだ。

 その途中で村とぶつかり一時的にとどまっていたところを俺と出会った。


「それにしても伝承を考えた人はよくこの霧の中でこんなに目印を見つけられたね。確かに近づいてみると他にないわかりやすい特徴がある地形だったり岩だったりがあるけど、霧の中じゃそもそも見つけられないよ」


 俺は率直な疑問を述べる。


「確かにそうですね。それにこの伝承には霧に関する記述がまったくないことも気になります。これだけ濃い霧なら絶対書き記しておかないといけないと思うんですけどねぇ……」


 ヴェルも本を読みつつ首をかしげる


「昔は霧なんてなかったんじゃないの」


 歩いてばかりで暇そうなパルマが意外と確信を突いていそうなことを言う。


「……それが正解かもしれないね。昔は霧なんてなくて周りの景色を楽しみながら歩ける平和な山だったのかも」


「だからこそ詩的な表現で道しるべを残す余裕もあったと……。なるほど、納得できる。パルマの素直な考えには昔から驚かされる」


「いや~ん、そんな褒めても何も出ないわよ~」


 そんなこんなでさらに進む。

 ヴェルは迷わない。相当伝承を自分なりに解釈し理解してきたとみえる。

 頭を働かせている人が隣にいるので俺は気を遣って自然と静かになる。

 それがいけなかったのか、パルマから恐ろしい一言を引き出してしまった。


「そういえばエンデさんってどこから来た人なの? さっきは勝手に冒険者ってことにしちゃったけど、本当は普段何してる人なの?」


 多少ぶっきらぼうな言い方だが初対面の人には自然と尋ねるべき言葉が俺に投げかけられた。


「え、あー、その……なんと言えばいいかな……?」


「えー、言えないようなことしてる感じ? 特殊部隊の出身とか? ここには竜の調査に来たの?」


「まー、特殊と言えば特殊部隊かな?」


 魔王軍だしね。


「……何か誤魔化してる。私そういうのわかるよ。ちょっと信用できなくなってきたかな」


「パルマダメだよ。本当に特殊部隊だったらそうですとは言えないんだから誤魔化すしかないでしょ」


「誤魔化すしかないならそれ用の自己紹介ぐらい考えてるはず。この人なにも考えてないもん」


 ぐっ、痛いところ突かれた!

 確かにそういうのも考えておくべきだな……。反省だ。

 パルマの勘は鋭い。不器用な俺ではもう誤魔化せない。

 ならば……。


「言いにくかったのには理由があるんだ。誤魔化そうとしてたんじゃなくて本当のこと言っても信じてもらえないかなって思ったから」


 機嫌悪そうだったパルマの目が『この人面白いこと言えるじゃん!』とでも言いたげな目に変わる。

 期待してくれ。間違いなく面白いぞ……。


「実は俺は魔王の配下にして最高幹部……Sランクモンスター毒魔人のエンデなんだ。とある用事で魔王と共にロットポリスに立ち寄って、そこで四天王から霊山の調査依頼を受けた。俺は毒の霧を無効化できる貴重な人材だからね」


 俺の話を聞いた二人はポカンとしている。

 すぐには受け入れられないか……。俺も二人の立場だったら無理だ。


「魔王様からも毒の精霊竜がいるとされる霊山ならば行って良いとのお許しがでたんだ。そこで竜の伝承者として更なる力を手に入れろってね……。ここまでわかったかな?」


 まずパルマは満面の笑みだ。『最高に面白い奴だ』と思っているのだろう。

 ヴェルは混乱している。俺のことをまともな人だと思っていたからこその反応だろう。

 まあ……要するに信じてもらえていない……もう一押しだ!


「さっき怪我をしたヴェルに回復薬を飲ませたよね? あれは俺がスキルで生成した物なんだ。毒と薬は表裏一体だから俺は薬も作れる」


 手のひらにキュアル回復薬を生成する。


「あ! そういえば手のひらから飲ませてもらいましたね……。まさか本当に……」


「ちょっと飲んで確認してみよ!」


 パルマが手のひらの回復薬をぺろぺろと舐める。


「あ! 本当に回復薬だ!」


「いやパルマは回復薬なんて飲んだことないからわからないでしょ! 僕が飲まないと……」


 パルマに代わりこんどはヴェルが回復薬を飲む。


「……本当にさっき飲んだ回復薬だ。本当にあなたは毒魔人なんですね」


「そうさ。嘘じゃないと実演で信じてもらえたところでステータスも見せておくよ。もちろん偽装したものではない」


 俺は空中にステータスの文字を出現させる。

 二人はそれをまじまじと見つめる。


 しかし、本当にこれで良かったのだろうか。

 人間ではないという事を明かせば、二人は俺を恐れて離れていってしまうかもしれない。

 でも、パルマを言いくるめられるとも思わないし……。


「うわぁ! 本当に本当なんですね!」

「これはラッキー!」


 俺の予想に反して二人はハイタッチまでして大喜びだ。


「二人とも俺のこと怖がったりしないんだね」


「まあ、確かにいきなり魔王の配下だなんて言い出した時はちょっとおかしな人かなと恐怖しました。でも、今までの行動でそんな悪い人だとは思えませんし、毒の力を操れる魔人が味方だなんてこんな嬉しいことはありませんよ」


「竜を見つけたところでもしかしたら力も貰えず殺されることだってあるかもしれないしね。Sランクなんて竜とでも戦えそうな人に出会えて本当にラッキー! 頼りにしてるよエンデさん!」


 なんというか……ちゃっかりしてるというか、肝が据わっているというか……。

 元同業者として尊敬できるな二人は。


「あ、もしかしてエンデさんってこの毒の霧の解毒薬を作れたりもします?」


「うん、本来はその解毒薬を使って山に囚われている人を救出するのが目的なんだ。でも霧の発生源と言われる竜を先にどうにかした方がいいかなと」


「じゃあ、生きてさえいれば私たちは山を下りられるワケね! これで安心して頑張れるわ!」


「では、魔王様の配下を竜のもとまでお連れしましょう……なんてね。人助けのために配下を送り込むなんて優しい魔王様なんですね。この余裕は相当な強さに裏打ちされているとみえます」


「いやぁ、魔王本人はそんなに強くないというか……。でも、優しいのは確かだし結構心は強い子なんだ」


「魔王様ってまだ子どもなの? まだまだ先は長そうだし、エンデさんと魔王様のこともっと聞かせて!」


 パルマはとにかく面白い話が聞きたいらしい。

 ここで出会ったのも何かの縁、俺は歩きながらこれまでの冒険を話した。

 非常に反応が良くて話しているこっちも楽しい気分になった。


 昔は人に話せるような面白い経験などあまりなかったけど、パステルに出会って俺の人生は大きく変わった。それもきっと良い方に。

 だから俺は彼女をもっと幸せに出来るように、何からだって守れるように強くならなくちゃいけないんだ。

 一時的に彼女から離れて他の人と触れ合うことによってそれを再確認できた。


 毒魔人の身体は霧の毒が濃くなっていくのを敏感に感じとる。

 ヴェルはいずれ有名な冒険者になるだろう。

 彼の力によって俺たちは確実に竜へと近づいていた。

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