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第09話 霊山と毒の竜

「精霊竜……」


 俺は記憶を探る。

 人間時代に聞いた覚えはないが、最近耳にした覚えがある単語だ。

 確か……ザンバラの夜、人さらいをしていたギェノンを取り逃がして帰ってきた後、パステルのSランクに関する話の中に出てきたはず。

 それはただでさえ強い竜族の中でも特別な存在、世界を創造したとされる精霊族から直接力を分け与えられた竜たちのこと……。


 俺は思いだした情報をライオットに伝える。


「やはりご存知でしたか。あなたと同じこの世の上位存在Sランクですから当然のことを聞いてしまいましたね」


「いやぁ、俺はその……そんな強くないですから」


「アイラもそんなことを言っていました。Sランクにしてはピンとこない強さだと」


 うぐ……やっぱりそう思われていたか……。


「しかし、スキルに関しては強力だとも言っていました。毒を操る力は本物、弱いはずがないと。霊山からも帰ってこれるのではないかと」


「俺への話っていうのはその霊山カバリの調査ってことでいいですか?」


「はい。でも強要はしません。私たちの都市の住民が霊山に勝手に入って困るという問題はその都市を治める私たちが解決すべき問題。客人であるあなたに押し付ける権利は持っていません。しかし……」


 ライオットは再び歩き始めた。

 俺も彼の横をついていく。


「出来るのならばお願いしたい。私たちでは霊山カバリの毒霧を、そしているのならば精霊竜を、どうすることも出来ません。そして、きっとどうにかできる存在などこの世には何人もいないでしょう。エンデさんはその中の一人です」


「もう少し……詳しいお話聞かせてもらえますか? 俺も自分にしか出来ないなんて言われたら心が動きます。正直、いまだに自分の力に自信が持てないんです。だからそんな強力な毒を撒き散らす精霊竜に会えばちょっとは強くなるコツがわかるかなぁ……なんて舐めた期待もありますし」


「その強さを求めて山に向かうというのは人々同じ理由ですね」


「やっぱりいけませんか?」


「いえ、エンデさんの場合は良いでしょう。あなたならば無事帰ってくるどころか精霊竜の継承者になれるかもしれない」


「継承者?」


「その名の通り竜に認められその力を受け継ぐ者です。あくまで伝説の中に出てくる存在ですが、人々はその継承者となるべく山に向かう」


「……さっきから思っていたんですけど、平和な町のなのに結構強さを求める人多いんですね。これからも平和な町を守るために強くなろうという人が多いのかな? ただ、山に向かうというのはちょっとリスクが高い選択肢に思えて。なんか生き急いでるというか」


「その通りなのです。人々は今まさに力を欲している。というのも、エンデさんも戦ったオルトロスのようなそうそう人里には顔を見せないような高ランクモンスターが最近よく出現するようになったのです。ロットポリスは守りが強固なので内部に被害はほとんどありませんが、問題は周辺の集落です」


 ここでライオットはロットポリスとその周辺の集落の関係を語った。

 要するにロットポリスは戦力に乏しい集落も守っていて、その見返りも貰っている。

 しっかりとした協力関係にあるというわけだ。


「最近この町に人が増えているのはモンスターに襲われるなどして故郷を追われた人々です。彼らは力を欲しています、故郷を取り戻す力を。ただ膝をついて嘆いているよりはマシですが、カバリに挑むのはあまりにも無謀。命を捨てているようなものです」


 失ったものを取り戻すために誰も帰らぬ霊山に挑む……か。


「事情はよくわかりました。俺のスキルには薬を生成する能力もあります。もしかしたら山に入った人たちを解毒して連れ戻せるかもしれません。俺にしか出来ない事、出来る限りしてみたいと思います」


「では……!」


「でも、少しだけ時間をください。パステルとしばらく離れることになりそうなので、ちゃんと話をしないといけません。もし、彼女が俺が山に向かうことを許さなかったら……申し訳ありませんがお話は断らせてください」


「決定権は魔王たる彼女にあるという事ですか……」


「はい。でも、彼女は自分の意思より俺の意思を優先すると思います。俺が行きたいと言えば『行ってこい』というし、行きたくないと言えば『ここにいろ』といってくれます。まあ、結局は俺次第ってことなんです」


「……なんだかめんどくさい関係のようですね」


 ライオットの言葉は否定できない……。

 でも、これが俺たちだから仕方ない。


「離れ離れになるのが不安になるくらいには深く繋がり過ぎた関係なので」


「そうですね。魔王の配下としてパステル様を残して冒険に出るのが不安な気持ちはわかります。私も今この町から離れて長旅をしろと言われれば不安になりますからね、町のことが。答えは急ぎません。その気になったらそこらへんの猫たちにでも言ってくれれば私に伝わります」


「了解です」


 俺の心は決まっている。

 霊山に行き人々を助けるというよりは毒の竜に会いたいという気持ちが強い。

 俺のSランクとして半端な力も竜に出会えば何か変わるかもしれない。


 でも、同じくらいパステルを心配する気持ちがある。

 彼女から離れて何かあれば俺は一生後悔するだろう。

 どうしたものか……。




 ● ● ●




「その気ならば行ってくればよいではないか」


「やっぱり?」


 ライオットが訪ねてきた事で昼間からパーティの様になったギルギス工房。

 俺たちは工房に来る前に軽食をとっていたけど、揉め事に巻き込まれたり買い物が長引いたりでお腹が空いていたのでたくさん食べた。

 ギルギスも思った以上に待たされたのでそれはもう食事を楽しんでいた。

 そして、フィルフィーがその姿を見てまた感動していた。本当に普段はやる気のない生活を送っているんだろうなぁ……。


 今はみんな食事を終え、メイリと彼女に手伝わされているサクラコが片付け中。

 ギルギスとフィルフィー、ライオットは昔話に花を咲かせているところだ。

 そして、俺とパステルは工房の外を出て敷地内に転がっている金属の物体をベンチ代わりにライオットからの依頼について話していた。


「大丈夫? 不安じゃない?」


「確かにエンデをそんなよくわからないところに送り込むのは不安だ。しかし、精霊竜が住むとなると私も少々興味が引かれるし、エンデにとっても良い影響があるかもしれない。魔王として許そうではないか、しばし冒険者に戻ることを」


 あ、パステルは自分から俺が離れることより、俺が霊山に行くことを不安に思っているんだ。

 精霊竜と言えば本物のSランク存在。

 いままではランク的に下の存在としか出会わなかったけど今回は違う。純粋に負けてもおかしくない。

 思っていたのと理由は違えど、彼女を不安にさせる冒険になることには変わりないか。


「本当は私もついて行きたいのだが今回ばかりは身を引こう。町に残る私の事は心配するな。四天王から依頼を受けるのだから、あちらもそれなりに私を守る戦力は寄越すだろう」


「それはそうだけど……」


「心惹かれるのだろう? 霊山と毒の竜にな。いつも私のそばにいてくれるのだ。たまには一人でのんびり冒険するのも良かろう。そして、帰ってきたらまた私のそばにいてくれ」


「……うん!」


 これで決まりだ。

 俺は霊山カバリに住む精霊竜を探しに行く!


「それでは失礼します。お料理美味しかったですよ。また来たいものですね」


 ライオットがギルギスとの話を終え、工房の外に出てくる。


「おや、エンデさん。……答えが出た様なお顔ですね」


「はい。ライオットさん、俺行こうと思います」


「それはありがたい! 山に向かう移動手段や装備はこちらで手配します。最短で明日の昼前には準備が整うと思います。それでよろしいですか?」


 俺はうなずく。

 こういうのは後回しにすると動くのが面倒になっていく。

 行くと決めたらすぐ行動だ。


 意思を確認するとライオットは素早く帰っていった。その足取りはどこか軽かった。

 彼もまた霊山に消えた人々を取り戻したくても出来ない状況に心を痛めていたのだろう。この町を治める四天王として。


「エンデが留守の間、他のみなにも自由な時間を与えよう。メイリは一人になったらどこに行こうとするのだろうか? 今までずっと私たち一緒だったからな。そういった意味でもいい刺激になるだろう。あ、私は一人では出歩かず必ず二人以上で行動するぞ。用がなければ防衛システムがあるという工房にいて、夜は皆でホテルに戻る。これを基本としよう」


「うん。パステルさえ安全なら俺は心置きなく冒険に出ることが出来る。そして、無事に帰ってきてまた君を守るよ」


「ふふっ、少しは成長していることを期待しておくぞ、魔王としてはな。私個人としてはただ帰ってきてくれればそれでいいがな」


 パステルが微笑む。

 この笑顔を守るため俺は絶対帰ってくるさ。あわよくば成長を遂げて!

いつの間にか30万文字突破しました。

登場人物が増えると会話だけで文字数がどんどん増えていきます(汗)

これからものんびりお付き合いいただけると幸いです。

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