表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/139

第06話 ロットポリスの夜

 フィルフィーに案内されて入った店はロットポリスでは有名というか一般的なお店『フォウカァド』だった。

 広い都市の中にはこの『フォウカァド』という店が何店舗かあるらしい。どこでもほとんど同じメニュー、サービスを受けられる。

 値段もリーズナブルなので『私にとって外食と言えばここなんです』とフィルフィーは語った。


 店に入り席に案内されると、店員が妖精用の細長いイスを持ってきた。

 ちょうどフィルフィーが座って俺たちと同じテーブルで食事ができる高さになっている。

 いろんな種族がいるのでこういう細かい対応も必要なんだろう。

 冒険者時代に大雑把な仕事しかこなせなかった俺はここでは働けないな……なんてことを思いつつ食事を注文。

 この店にはチャレンジメニューなどはなかったので安心だ。


「注文を待ってる間にさっき言ってた自己紹介をしましょう! よくよく考えると不思議ですね。あんまり知らない人とご飯に来るなんて」


 フィルフィーは人見知りしないのかテンション高めだ。


「こほん、ではあらためて私はフィルフィーです。妖精族で今はギルギス親方に弟子入りして技師としての腕を磨いてるところです! なんでそうなったかというと、羽が無いことで生まれ故郷のみんなから仲間はずれにされて、ロットポリスに流れ着いたところを親方に拾ってもらったんです」


 明るい顔で重い話をする彼女に場の空気は一気に張りつめた。


「あっ! そんな気にしなくていいんですよ! その後はなんか親方が飛べない私を見て小型の飛行装置の案を思いついて、その実験に協力することになったんです。しばらくしてその装置は完成したんですが、その後に行く当てもないのでそのまま弟子入りを志願しました。そしたら快く受け入れてくれたんです! 何の知識もない私を! 親方曰く理由は『そんなに食べない割に良く働くから』らしいんですけど、本当は優しさなんだって思ってます」


 フィルフィーは満面の笑みを見せる。

 無愛想に見える……というか本当に無愛想な親方がこれだけ彼女に好かれるのにはやはり理由があった。

 素直じゃないけど良いとこがある人物だ。


「じゃあ、こちらはまず私だな。名はパステル・ポーキュパイン。種族は魔王だ。といってもFランクの最弱魔王だがな」


「はぇっ!? あ、あなた魔王なの!?」


「あまり大きい声で言う事ではないぞ……」


「す、すいません。じゃあ魔王様って呼んだ方が良いですか?」


「いや好きに呼んでくれて構わないぞ。呼び捨てでもなんでもな」


「ならパステルちゃんって呼ぶ! 話し方ももっと崩してもいい?」


「かまわん。私もこの喋り方でいかせてもらうからな」


「わーい! これでお友達だ! なかなか生活環境的に若い女の子の友達が出来ないんだよね~」


「私もそうだな。フィルフィーを含めても片手で数えられるくらいだ」


「その他のお友達ってメイリさんと……えっとサクラコさんって呼ばれてたかな? その二人なのね!」


「むぅ……二人は友達でもあるようで少し違う様な……。女の子かというところも微妙だしのう……」


「え、どういうこと?」


 フィルフィーの疑問に答えたのはサクラコだった。


「俺はスライムだからこの見た目は擬態した姿……つまり偽物なのさ。あと最近あやふやになりつつあるが俺は男だ。パステルとは友達であり配下であり仲間だ。そこんところはハッキリしないが、お互い命を預け合うくらい特別な関係ではあるぜ」


「はー、なんか奥が深い関係なんですね。私と親方みたいなものかな? 友達ではないけど特別な関係」


「まっ、そんなもんだ」


「ふむふむ……。それにしてもこんなに人間になりきれるスライム族の方は初めて見ました。町のスライムさん達はお話こそ普通に出来ますが擬態は長時間持たないって言ってましたから」


「熱意が足りねーなそりゃ。他と違ってスライムの姿でも生きていける町だから仕方ねーか。擬態が解けると殺されるくらいの状況にいると長時間擬態出来るようになるぜ」


「あはは……」


 フィルフィーは物騒なことを言うサクラコから視線を外し、次はメイリに向ける。


「あの……」


「改めまして私はメイリという者です。種族は母淫魔(マザーサキュバス)。パステル様お付のメイドとして身の回りのお世話をさせていただいております。フィルフィー様も御用があればなんなりと」


「ど、どうもご丁寧に……。お綺麗だとは思っていましたがサキュバスだったんですね。おっぱいも大きいわけです。でも、あまりいやらしさは感じませんね。こんなに露出のない服を着ているサキュバスの方は町でもあまり見ません」


「服装に関しては私の命令で基本露出のない服を着てもらっているのだ。ただ、命令の理由は単に私の好みなのでメイリが他の服を着たいと言えばそれを尊重するぞ」


「私はまだ好みというものがハッキリしていないので、服を決めていただけるのはありがたいことなのです」


「へー、オシャレに興味が無いところも珍しいですね。他者を魅了することが特徴の種族なのに」


「メイリはまだ若いからな。生まれてまだ三カ月も経っていない」


「へー……へぇっ!? それって、え? どういう事ですか!?」


 一風変わったメンバーしかいないせいでフィルフィーの一人リアクション芸大会になってしまっている。

 ここで魔界やダンジョンの仕組みを簡潔に説明した。

 といっても俺もよくわかってないんだよねぇ……。


「うーむ、モンスターを人工的に生み出す施設……進んだ技術力……とっても興味深いですね……」


 腕を組んで『うんうん』とうなずいていたフィルフィーの視線が俺に向く。


「そういえば、あなたのことをまだ聞いていませんでしたね。えっとお名前は……」


「俺はエンデ。人間界で一番初めにパステルと出会った人というか、まあ魔人かな? 俺もパステルとは特別な……」


「あーっ! それはわかりますよ! 友達とは違うそれ以上の存在! つまりお二人は恋人同士なのでしょう!? 妖精だって木の股から生まれるわけではないのでそれくらい見てればわかります! まあ、木から生まれてきそうなイメージはあるかもしれませんが……」


「ど、どうしてそう思ったのかな? 俺は別にパステルと付き合ってはいないよ」


「わ、私もまあ……まだハッキリ言われた事はないから、そういう関係ではないな……」


「えーっ!? 絶対そうだと思ったのに! そこらへん歩いているカップルよりずっとイチャイチャ感ありますよ!」


「それはその……普通のカップルよりかは強い繋がりがあるからかな?」


「むーっ、なんだか気になりますね……」


 フィルフィーの追及は注文したメニューが運ばれてきたことで終わった。

 パステルは照り焼きチキンピザ。サクラコは背の高いハンバーガーにポテトも付いたセット。俺はちょっと疲れたので体力を取り戻すために豪勢なビーフステーキだ。

 メイリは……いろいろたくさん。フィルフィーは妖精サイズの器でも綺麗に盛られたサラダとスープ、それにパンだった。


 食事中はフィルフィーがこの町の魅力をたくさん話してくれた。

 おかげで食べてみたい物、行ってみたいところがいくつかできた。

 気掛かりはやはり主目的であるフェナメトの修理のこと。彼女も自分の足でこの町を観光できるようになればいいのだが……。




 ● ● ●




「ふあぁ~……今日もおかしな事ばかりだったなぁ……」


 ロットポリス四天王アイラは雲の上で月明りを浴びながらあくびをした。

 仕事終わりも彼女はこうして上空へ来る。

 上空は風も強く、そもそもこの高度まで安定して飛行できる者は鳥人でもまれである。

 アイラがそんな環境でくつろげるのは強靭な翼と【嵐魔術】などのスキルのおかげであった。


「眠くなってきたし、寝ぼけてバランス崩して落っこちる前に帰るかな……」


 ふらふらと高度を落とすアイラ。

 眼下に広がるロットポリスは町中にキッチリ設置された街灯で夜も輝く。

 ここまで美しい夜景を見ることが出来る町はまれだろう。


「今日も私のロットポリスは綺麗だなぁ……」


 アイラはそんな美しい町の中央へと向かう。

 そこにあるのはデザインの方向性が一つ一つ違う建物群。

 多様な種族が住む町の象徴として建てられたこれらの建物を人々は『ロットポリス・ビルディング』と呼ぶ。

 四天王ほか町を管理する役職を持つ者は基本この建物群内で仕事をし、一部は住み込んでいる。アイラもその一人だ。


「今日も無事に帰ってこれましたとさ」


 地面に降り立ち、一人ピシッと気をつけの姿勢をとるアイラ。

 その後、魔法道具や機械によるセキュリティが施された建物に入り、階段を使って地下へと降りていく。


「やあやあ、頑張っとるな今日も。かわいいかわいいキュララちゃんは」


「あら……今日はお早いお帰りじゃない……」


「疲れたんで月光浴は早めに切り上げたんだ」


 アイラが話しかけているのは建物の地下深くに住む(タコ)の魚人『キュララ・ラキュラナ』。

 人間からすれば青く不健康に見える肌に髪の毛のように生えた吸盤付きの触手。そして足も触手である。

 多種多様な種族の住むロットポリスでは珍しくない見た目だが、彼女は個人的にコンプレックスがあり人前にはあまり出ようとしない。


「キュララも一緒にどうだい? 日光浴は干物になってしまうが、月光浴なら良いんじゃないか? その綺麗な青い肌に月光はよく似合う。それにこんな暗い所にずっといたら気が滅入るだろう? たまには外の景色を見なきゃな」


「そうね……ありがとう……。月光浴はまた今度……。外の景色は見えてるから気にしなくていいわ……」


 キュララの頭の触手の吸盤の一つが目玉に変わる。

 これが彼女のスキル【無限眼(むげんがん)】の効果だ。

 体のどこかに目を増やすことが出来るスキルで、彼女の場合は吸盤が目に置き換わる。

 無限の名の通り魔力と目が送ってくる情報を処理できる脳が持つ限りいくらでも増やせる。


 さらに彼女は遠くを見通すことのできるスキル【千里眼】も持っている。

 通常なら一つの物しか見通せないところ、【無限眼】で目を増やすことで複数の対象を同時に見通すことが出来るのだ。

 このコンボを用いて彼女は町中や周辺地域の監視をしている。

 強力で便利だがキュララを引きこもりにさせている原因でもあるスキルだ。


「で、今日は何か大きな事件はなかったか? 私はあった」


「オルトロスを退治した一行のことでしょ……? 私も見てた……。彼らはギルギスに頼ることにしたみたいよ……」


「まあ、仕事を受けてくれるのは奴ぐらいだろうなとは思っていたよ」


「今、フィルフィーとご飯食べてる……。このメイドさんはよく食べるわね……」


「えっ!? ホント!? 見せて見せて!」


「……仕方ないわね」


 キュララは持っている水晶の一つに今現在のメイリの姿を映す。

 【念写】スキルの効果だ。映像の投影はもちろん、写真の様に紙に見えているシーンを写すことも出来る。


「うわぁ~本当にすごい食べてるなぁ。情熱的なところもあるんだ~」


「ずいぶんお気に入りみたいじゃない……。でも、そんな下心ありきで映像を見られたら盗撮の共犯者になっちゃう……」


「仕事だから仕方ない。彼女らは四天王しても監視対象だからな」


「あなたの時間は終わったでしょう……? 今はライオットの順番……」


「細かいことはいいってことよ! 四天王に休みはない!」


「いつも休み欲しがってるくせに……。まあいいわ。私の方は特に変わったことはなかった……。相変わらずロットポリスの周辺に変に高ランクなモンスターが出るけどまだ対処できてる……」


 ロットポリスの周辺には町からは受け入れられても、様々な理由で馴染めなかった者たちが集まる集落や古くからこの土地に住む人々の集落がある。

 そのような者たちともロットポリスは交流をし、何かあれば力を貸す。

 そして借りた側の集落の人々もその借りは返す。

 この地域はロットポリスを中心として国のようなものが出来つつあった。


「早く原因を突き止めないとな。私たちも敵が現れてすぐそこへ向かえるというわけではないし、戦力を各所に置いておくにも限度がある。これから数を増やされてたらたまったもんじゃない」


「まったくね……。でも、原因を突き止めるにしても手掛かりがない……。普通に考えるとこの地域のどこかに新たな魔王が現れて……配下のモンスターをばらまいてるってところだけど……それだけでは私も見つけられない……。流石になんのヒントもなしに周辺地域を見渡してダンジョンを探すなんてしたら……身が持たない……」


 キュララは伏し目がちな目をさらに伏せる。


「私……頭の回転は早くないから……目からの情報が増えすぎると処理しきれない……。もっと私の頭が良ければ……」


「十分頑張ってるよキュララは。私なんて二つの目で見たことを処理するのが精いっぱいだ。キュララは良い子だ。だから落ち込まないでな」


 キュララの猫背気味の背中を抱くアイラ。

 本能的にキュララの触手がその腕に絡みつく。


「ねえ……アイラ……今夜はここで一緒にいましょう。寝ていても構わないわ……。一人はなんだか不安だから……」


「うん、いいよ。じゃあまず鎧は外すから触手も一旦どけてくれるとありがたい」


「はい……」


 アイラにとってキュララの寂しがりは慣れたものだ。

 最近はキュララが不安になるような出来事が多いので、ここで寝る機会も増えた。

 アイラの部下もその事は知っていて、いざという時はこっちにも来るように命令してある。

 着替えなどもこちらに分けておいてあるぐらいだ。


「そうそう……今日のオルトロスのステータスはちゃんと見た? 何かこの異常事態を解決するヒントになるかもしれないから紙に書き写しておいてくれる……?」


「お安い御用で」


 アイラは紙と下敷きとペンをとり、絨毯の敷かれた床にうつ伏せに寝転がる。


「ふぅ……ここの絨毯は肌触りが最高だぁ……。さてと、今日のオルトロスだったっけ……」


 少し考えた後、アイラはさらさらとペンを走らせていく。


「……よし。これで合ってると思う」


「もっと早めに書いておけば思い出す手間も省けるのに……」


「いやぁ、めんどくさいじゃん? ちゃんと覚えてたからいいってことでさ」


 ぽいっと紙をキュララの方に投げるアイラ。

 ひらひらと舞うそれをキュララは手で取る。


「相変わらずおかしな感じ……。わからないことだらけだけど、一つだけわかることがあるわ……」


 キュララはまじまじとオルトロスのステータスが書かれた紙を見つめる。


「最近現れる高ランクモンスターは……誰かが生み出している……」


「またあったもんなぁ……。あの悩んでるこっちをおちょくってくるようなスキルたち」


「何故こんなスキルがいくつものモンスターから見つかるのか……。原理も仕組みも意味もわからないけど……同じ方法で生み出されている証拠にはなる……」


 キュララは手に持った紙を机にそっと置いた。

 そこにはアイラの少々荒くも見やすい文字でこう書かれていた。


 ◆ステータス

 名前:

 種族:オルトロス

 ランク:A

 スキル:

 【煉獄炎魔術】

 【水耐性?】

 【風耐性?】

 【疾風魔術】

 【魔鋼毛】

 【火耐性<強>】

 【麻痺耐性?】

 【毒耐性<強>】

ちょっとここまでスローペースでしたがもうじきお話も動き始めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=33227609&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ