第04話 多種族都市ロットポリス
「うーむ……アイラ様も無茶振りしてくれますなぁ」
俺たちは今ロットポリスの門内部で町に入るための審査を受けていた。
といっても俺たち自身の審査は将軍アイラによって行われたため、今は持ち込もうとする物の方……つまり古代の遺物たちの審査の途中だ。
「ハッキリ言おう。わからん!」
審査を担当する若いドワーフの技師は叫んだ。
「相当長い年月放置された物だってことはわかるが、それにしては状態が良い方だ。一体どんな技術を使ったんだか……」
「この町にわかる人っていなさそうですかね……?」
俺は全く理解できないとばかり言われるので少し不安になって尋ねる。
このロットポリスで直せなければ行く当てがない。
「いや、そうとは限らないよ。俺も技師の端くれだが、自分の店を持てなかった三流だ。それでも技師を続けたかったからここでこの仕事をしてるってワケさ。一流は町の北にいる。ノースエリアは技術者の区画なんだ」
「そうですか……。で、僕たちはそこに行っていいんですかね?」
「うーむ……持ち込む時点で兵器としての能力は失われている。骨董品の類と一緒……と好意的に判断して通そうじゃないか。俺もこんなすごい技術が町の技師の手に触れる機会を奪いたくない。この出会いがまた技術を発展させるかもしれないしな。それにあんたらはバケモノを退治して俺たちを助けてくれたってのもある」
ドワーフの技師は書類を慣れた手つきで書いていく。
結構手順が多いな……マカルフやザンバラとは大違いだ。
「まっ……なんかあったらアイラ様のせいにすればいいしな……」
ボソッと聞こえてるんですけど……。
まあ、彼らのためにも町中でいざこざは起こせないな。
「よし! 改めてようこそあらゆる種族が交差する都市ロットポリスへ! 歓迎する!」
技師と俺は握手を交わす。
「個人的にいくつか忠告しておこう。見られてないからって悪いことはするな、喋らないからって小動物を虐めるな……くらいかな。まっ、俺はそんなことするとは思ってないがな」
「あ、ありがとうございます」
なんか不思議な忠告だな。
ただ、問題児が集まってるから気付かれないように監視されてる可能性は高い。
とにかく大人しく、目的の遂行だけを考えよう。
「さて、移動は思ったより楽だったが、入るまでには意外と時間がかかったな」
パステルがグッと背伸びをする。
「まあ、無事入れてよかったよロットポリスに」
町を歩くさまざまな姿の人々。売られている物もそれだけ多種多様。
風に乗って運ばれてくる臭いは吹いてくる方向が変われば違うものになる。
多種族都市ロットポリス……争いや差別の原因になりやすい種族の違いを乗り越えた町。
俺たちも平和にいきたいものだ。
「エンデ、町の全体マップがあるぜ。すげぇドデカイ掲示板で見やすいぞ!」
サクラコの指差す先には建物の壁を利用したタウンマップがあった。
なるほど、先ほどの技師が言っていたようにノースエリアには鍛冶屋や武器屋、防具屋、それに研究施設もいくつかあるようだった。
「これだけ賑やかな町だから観光したい気持ちになるけど、まずはフェナメトを修理できる人を探して彼女を預けてからにしよう。宿泊先も確保しなきゃね。なんだか人が多いみたいだし早めに」
俺の意見に反対意見は無し。
バイクを手押ししながら俺たちはノースエリアに向かった。
● ● ●
「うーん……ここもダメだったか……」
日は傾き今は夕暮れ。
赤い光がうなだれる俺の身体を照らす。
宿泊先はノースエリアにあるそこそこのホテルに決めた。
今回は四人部屋だけど広いので窮屈とは思わない。良いところを抑えられた。
しかし、本来の目的である技師探しは難航していた。
そもそも機械という物を扱える者が現代にいるのかというのが疑問だったが、それはいた。
農業都市マカルフや観光都市ザンバラではあまり見なかったが、この町では大型の機械を使ってあらゆる作業を楽にしようという動きがあり、研究も進んでいた。
それに魔法道具の開発も行われており、フェナメトを見て興味を示す技師は多かった。
昔ながらの鍛冶屋でもフェナメトに使われている金属に惹かれる様なそぶりは見せる。
でも、誰も修理までは請け負ってくれない。
技師は皆『自信が無いから断るのではない』と言うが、きっと古代の技術は安易に修理できると言いきれない領域の物なのだろう。
「さて、どうしようかのう。ロットポリスがいくら治安の良い町とはいえ、暗くなってから私を連れて大事そうな荷物を運んでいるとどんなトラブルに巻き込まれるかわからんぞ」
パステルは戦闘もあったからかかなり疲労の色が見える。
口には出さないけど今にも眠りに落ちそうな状態だ。
日が落ちる前に彼女をホテルに帰す事は確定。
無論、一人には出来ないのでメイリとサクラコも一緒だ。
つまりは……。
「俺が一人で探すよ。夜の間も作業を続けてる工房は多いしなんとか頼み込んでみる」
「おいおい、寂しいこといってくれるじゃねーか。一人で探すって言ってもよ、慣れない夜道を歩いて見つかるもんかね? 道に迷うのが関の山だろ」
「私もサクラコと同じ意見です。ここは焦らず明日朝から探せばいいかと」
サクラコとメイリに反対されてしまった。
確かに効率は良くないか……。夜道で襲われて俺が無事でもフェナメトに何かあれば意味がないしもんなぁ。
ここは焦らず引くことも大事ということか……。
「おっ! いたいた! おーい、あんたら!」
うつむく俺に声をかけてきたのは昼間に門で出会った審査担当のドワーフ男性だ。
「仕事帰りでな。俺も住んでるところはこっちなんだ。住処だけは一流と一緒ってな感じだ。それで調子はどうだい?」
「それが……興味を持ってくださる方はいるんですが、なかなか修理を請け負ってはくれなくて……」
「そうか……。興味と腕があっても他にたくさんの仕事があるもんなぁ、一流って奴は。わざわざそれを押しのけてやり遂げられるかどうかわからない仕事を受けたくはないのか……」
「こっちは技術的な話がわからないので無理にお願いもしにくいし苦戦してるところです」
「うーん……どうしたもんかねぇ……」
彼は立派なヒゲを撫でながら考え込む。
「あっ……アイツなら興味があるというだけで受けるかも……」
ボソッと彼がそう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
「受けてくれる人に心当たりがあるんですね!?」
もったいぶられても困るので食い気味に質問する。
「あ、ああ……。技師としての素行に少々問題ありで、このノースエリアの端っこに追いやられてる男がふと思い浮かんでな。そいつは興味ある仕事しかしないせいで全然稼げてない万年貧乏技師なんだ。今は弟子の一人が真面目に数少ない依頼をこなしてなんとか生計を立てている状態だ」
「へ、へえ……」
「でもまあ……腕は良いよ。かつてはロットポリス四天王に選ばれるんじゃないかってウワサも流れてたらしいから。ただ、俺はこう見えて若いんでこのウワサは後から先輩に聞いた話だ。尾ひれが付いてる可能性もある。信じるかどうかはあんたらに任せるぜ。興味が無かったら本当に無礼な態度で客を追い返すのは本当だから覚悟はしとくといい」
彼はメモにその工房までの地図を書き記し俺に渡してくれた。
「はい、情報ありがとうございます! すぐに行ってみます!」
「そうくると思ったよ。なんだってアレなら絶対に興味を持つはずだ。俺も陰ながら応援してるから頑張ってな。じゃあな!」
審査担当技師の男は後ろ手を振りながら去っていった。
本当にありがたい話を持ってきてくれた。
興味を持ったことしかやらないかつての天才技師……。
俺は老獪なドワーフの姿を思い浮かべる。
古代の遺物を現代に蘇らせる者としてのこれほどふさわしい存在はいない。
ロマンがロマンを呼ぶ!
「行こうみんな! 日が暮れる前に!」
俺たちはバイクに乗り込み安全運転でウワサの工房を目指した。




