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第03話 鷲の目

「ん~、ふむふむ、うーん……」


 アイラと呼ばれた鳥人の女性は俺の周囲をぐるぐる回り舐めるように体を見つめてくる。


「やっぱり俺に何か問題が……?」


「いや、別に君自身に何か問題があるというよりもSランクってのがなぁ。見たことなかったから……」


 俺はステータスを展開した覚えがないが、彼女の目にはもう確実に映っているらしい。


「ワシはこう見えてこの町の兵たちをまとめる将軍でな。町の平和を守るのが仕事なんだ。今回は暴れるオルトロスが出たという報告を受けて駆け付けたのだが、君たちが仕留めてくれたようだな。ありがとっ! ありがとっ!」


 俺の手の手を握りぶんぶん上下に振るアイラ。

 すごい力だ……。しかし、これでも抑えている方だというのが彼女の顔から伝わってくる。


「人々を助けてくれたことは本当に感謝している。だが、Sランクという存在がこの町に来たことがないのでな。少し確認させてもらっただけだ。このワシの鷲の目で」


 自らの目を指差すアイラ。

 力強く圧のある視線……何か後ろめたい感情を持つ者がこの目で見られたら生きた心地がしないだろう。


「まっ、ロットポリスはランクが高いからと言って差別はしない。通常の審査をパスすれば中に入ることは可能だ」


 ここで彼女はチラッと門の方を見る。


「オルトロス襲撃前から並んでいた者で今はいっぱいだな。これは少し待ってもらわねば……そうだ! ワシが直々に審査してやろう! 別に順番抜かしするわけでもないし、このくらいの特別扱いはかまわんだろう。なんたって人々の命を救ったわけだからな」


「えっ!? ああ……はい」


 将軍自ら審査ってどうなんだ……?

 俺がSランクというだけで警戒されているのに、他にも魔王とか古代兵器もいるんだぞ。

 それにロットポリスを訪れた理由はフェナメトの修理だが、彼女の人格を知らない人からすればただの兵器。

 兵器を直しに来ましたと伝えるのは……。

 しかし、断れば何かやましいところがあると思われてしまう。

 ここは一か八か全部話してしまおう。


「まずはエンデくんからだ。ランクSの毒魔人、スキルは【超毒の身体】。うん、どれも今まで見たことが無い! でも毒を操る力って危険そうだなぁ。悪いことしないって誓える? 悪い事されるとワシが君の相手をすることになるからな」


 アイラは俺の方に手をポンと置く。体が毒になることを見抜いているのに。


「……誓えます」


「なら良し! じゃ、次はこっちのピンクの髪の子」


 アイラはサクラコを見つめる。

 しかし、しばらくするとその顔はどんどん不機嫌そうになっていく。


「へー、そうやってあたしのこと挑発するんだ……」


「俺の勝ちだな。鷲の目(イーグルアイ)ってところかなあんたのスキルは。私の偽装の方が練度が高かったな。あとキャラ付けの『ワシ』が無くなってるぜ。そういうのは感情が高ぶった時ほど忘れちゃ……ぐおっ!?」


 カチンときたアイラがサクラコに関節技を仕掛けた!


「痛い痛い痛いって! ギブギブっ!」


 しかもサクラコはスライムだというのになぜかダメージを受けている。

 彼女には関節なんてないのに……。


「生意気で素行が悪く擬態偽装に優れるが戦闘能力は低いな。いざという時すぐに仕留められる。よし、町に入れてやろう。ちなみにセクハラも犯罪だから容赦なくしょっ引くぞスケベスライムのサクラコ」


「くっ……痛みにびっくりしてステータス偽装が解けたか……」


「将軍を舐めるな。しかし、まあ私の鷲の目を欺くスキルの練度の高さは評価しよう。今までいなかったぞそんな奴」


「ふっ、そこらの輩とは熱意が違うからな」


 何故か戦友の様に握手をする二人。似たタイプの性格だなぁ。


「んで次はこっちの黒髪のメイドさんだな」


 アイラはメイリを見つめる。

 正確には彼女の大きな胸を見つめる。

 あっ、もしかしてそういうところもサクラコと一緒?

 

「流石淫魔の亜種だ。出るとこ出た身体だなぁ……。これはボディチェックの必要がある。こことか何か隠してるんじゃ?」


 ギュッとメイリの胸を鷲掴みにするアイラ。


「ワシだけに鷲掴み」


 自分で言ったぞ……。


「……この町の法は将軍様には適用されないようですね」


 メイリは冷たい声で言い放つ。

 その視線も冷たい。


「あっ……ごめんなさい……。これ仕事だから……本意じゃないから……」


「顔がにやけていましたが」


「そ、それは柔らかいから本物だなぁ……と思ってな! うん! 何も隠し持ってない! ロットポリスにようこそメイリ!」


 誤魔化そうとするアイラをメイリは黙って見ている。


「……ま、まあ確かにいきなりで悪かったなぁとは思っている。お詫びとして私の胸を鷲掴みにしてもらいたいところだが、あいにく掴めるほど胸がなくてなぁ……。戦いやすいし鎧も特別に作らなくて良いから戦士としては良いのだが、女としては……ほれ」


 アイラは鎧の胸当ての部分だけを取り外し、肌着に包まれたなだらかな胸部を晒す。

 彼女の鎧は各部が別々のパーツになっていて細かく分解できる構造のようだ。

 これなら一部が壊れてもその部分だけを取り換えればいいから手間も材料費も抑えられる。

 ただ、この構造で防御力を維持するには高度な技術がいる。

 やはりこの町には良い技術者がいるようだ。こんな流れで確認するとは思わなかったけど……。


「では」


 メイリはそのなだらかな胸部に手を当てる。


「あっ……」


「これでよいですね?」


「はい……」


 何故かちょっと嬉しそうなアイラ。


「次はパステル様の審査をお願いします。この方が私たちの代表ですので」


 メイリはスッと引き下がる。

 しばらく呆けていたアイラもハッと我に返ると鎧を再び身に着け普段の顔に戻った。

 ただ、少し頬が赤い。


「えーっと、パステル・ポーキュパイン……魔王……Fランク。おおっ! これはこれで珍しい! 魔王なのにFランクとはなぁ」


「久しぶりだな。そう言われれるのも」


「あっ、ワシったらまた失礼を……」


「いや、何とも思っておらん。それより魔王自体はこの町では珍しくないのか?」


「珍しい。でも、Sランクと違って前例はある。その違いだ。話を戻すけど君のスキルはかなり珍しいね。名前の入ったユニークスキルが『魅了』という事は君も淫魔の血を引いているとか?」


 この質問に対してパステルは答えに困る。


「私は……生まれた頃から魔王だった。だから元の種族というのはよくわからんのだ実は。親もわからぬまま生きてきたのでな」


「へー……ごめんな変なこと聞いちゃって」


「いや、疑問に思うのは当然だ。私もずっと気になっていた。いつか必ず自分のルーツを知る。目標の一つだ」


 パステルが自分の出生のことをそんなに気にしていたなんて知らなかった。

 俺も彼女のと同じく両親を知らない。

 昔は知りたいと思う気持ちもあったけど、Fランク冒険者を必死に続けているうちにどうでもよくなっていた。

 俺もパステルと一緒に自分のことぐらい知るべきなんだろうなぁ……。


「見つかるといいな、君のルーツ。人畜無害そうだし町に入って良し! 最後に荷物検査と……あっ、理由を聞くの忘れてた。なんでロットポリスに来たの? 観光とか簡単な答えでいいから聞かせて」


 俺たちは顔を見合わせる。

 致し方なし……だ。


「まあ、荷物を見ていただきましょうか」


 俺は置いておいて魔道バイクを引っ張ってくる。

 この時点でアイラは驚いた表情を見せた。


「うわ、なんだこれ!? 相当高度な技術が使われている事はわかるが、それしかわからん! これの持ち込みに関しては審査担当の技師を呼ぶからそっちの判断に従ってくれ。ワシにはさっぱり……」


「問題はこの荷台に積まれた子の方なんです」


 俺は荷台の扉を開け、アイラに中を見せる。

 そこには使い方のわからない古代の遺物、そして久しぶりに目を覚ましたフェナメトがいた。


「も、もう一人いたのか……?」


「彼女は生き物ではないんですよ」


「え……?」


 アイラにフェナメトの正体を明かす。

 人間と変わらぬ思考ができる古代の兵器だということ、今は劣化により満足に動かないこと、しかし修理すれば高い戦闘能力を取り戻すということ……。

 そして、俺たちはロットポリスに彼女を直しに来たということ。


「兵器の持ち込みは可能なのでしょうか? 不可というなら俺たちは大人しくここを去ります」


「あ……ああ……。まあ、兵器の持ち込みは構わんよ。みんな武器持って入ってるし、市民の中には新兵器の開発で飯を食ってる者もいる。もちろん町中で使えばどうなるかはわかっていると思うが……」


 アイラはちょっと混乱している。

 技術方面に苦手意識があるうえ『古代の』だの『超技術』だの言われて参っているようだ。


「う……むむむ……。そこのところも専門の技師に任せよう。きっと許可が出ると思うがな。私はちょっと情報過多でめまいが……。ここらへんで失礼させてもらう……」


 アイラは部下を呼び何やら指示を出す。

 その後、大げさに見えるほどふらつきながら翼を広げる。


「改めて今回の事はありがとう。助かった。そして、ようこそロットポリスへ。歓迎するよ」


 それだけピシッと決めると彼女は雲の上まで飛び去っていった。

 なんか唐突な気はするが、とにかく専門家の話を聞くとしようか。




 ● ● ●




「あー……すごい集団を入れちゃった」


 頭がいっぱいになると彼女……アイラは雲の上にまで飛んでいき、そこで一人になって頭の中を整理する癖があった。


「古代兵器か……。技術者の中にはその一部を所持する者がいた気がするが、あそこまで完全な物はこの町になかったはず。入れてよかったのかなー」


 空中で寝転ぶような姿勢をとる。

 彼女のスキルをもってすればこれくらいのことは可能だった。


「でも、悪い奴らじゃない。それには自信がある。パステル、サクラコ、メイリ……ぐふふっ」


 下品な笑みを浮かべるアイラ。部下の前ではこんな顔は見せない。


「最高だったなぁ……あの冷たい視線……。将軍になった今じゃセクハラしても喜ぶ部下ばっかで嫌がってくれないもんな……。あたしはちょっと偉くなりすぎた。町の淫魔のお店にもああいうタイプはいない。色気はあるがどこか凛としてて、まるで不純物のない透き通った氷のような……くうぅ! 胸に手の感触がまだ残ってる!」


 身もだえする将軍。

 皆から尊敬されるのには慣れている分、冷たく当たられると胸が高鳴って仕方ないのだ。


「ああ……ダメだ……。ちゃんと仕事はしないと……。最近町の周辺に高ランクモンスターが出ることが増えてるんだからいつだって気は抜けない……」


 深呼吸をし将軍としての顔を取り戻すアイラ。


「彼らに監視は付けた。まあ、個人としては信用していてもSランクを抱える集団だ。将として対策を講じないわけにはいかん。他のロットポリス四天王にも報告しないとなぁ……めんどくさい」


 彼女の気分が沈むと同時に体も徐々に高度を落としていく。

 地上に戻るのだ。


「それにしてもエンデ……」


 何とも普通の青年の顔を思い浮かべるアイラ。


「あれが伝説のSランクなのか……? 確かにスキルは強力だ。しかし、何か違和感がある。きっとそれは本人も理解してる。Sランクとはもっとこう……絶対の存在のはずだ。オルトロス如きならそれこそ一人で一瞬で……」


 本質を見抜く【鷲の目】をもってしても見抜けぬ謎。

 アイラのなだらかな胸の内では未知への不安と好奇心がせめぎ合っていた。

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