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第02話 双頭の黒獣

 黒い巨体のオルトロスは町の中に侵入することが目的なのか、それともただ人を見つけて襲い掛かっただけなのかハッキリしない。

 今は武器を構えた衛兵たちが必死に動きを止めているところだ。

 彼らの動きは悪くないが、魔術や武器でもあの黒い毛皮を貫くことは出来ていない。

 ふさふさで柔らかそうに見えるが、非常に頑丈で魔法耐性もあるのだろう。

 流石異常に成長したAランクモンスター……どこから湧いて出たんだろうか?


「エンデ! バイクで突っ込んではいかんぞ! 私たちが唯一満足に動かせる古代の遺物だからな!」


「そりゃそうだった!」


 パステルの忠告が無ければ完全に最高スピードでオルトロスの前まで行くつもりだった。

 人を変えるなぁ、このマシンとスピードは。

 俺はブレーキをかけバイクを止める。停止を確認すると荷台からみんなも降りてくる。


「相手はAランクだ。俺が前に出て注意を引くからみんなは無理しないでくれ」


 パステルはもちろんのこと、相手がAランクとなるとメイリとサクラコにとっても格上の相手だ。

 基本二段階もランクに差が有れば敵わない。油断すれば死ぬ。

 なんちゃってSランクでも俺が一番打たれ強いのは間違いない。誰よりも前に出て戦う。


「では私たちはサポートに徹するとしよう」


 パステルは修羅器を展開。他の二人も武器を構える。


 オルトロスは爪や牙の攻撃ではなかなか人の数を減らせないと思ったのか、その二つの口に炎を溜め始めた。辺り一面を焼きつくすつもりだ。


「水と風の旋風で……!」


 メイリは魔法を発動。水を含んだ風でオルトロスをぐるりと囲う。

 吐き出された炎は水と風の壁に阻まれて拡散しない。

 しかし、有利属性で守っているというのに炎の勢いで旋風が揺らぐ。


「くっ……ここまで差が有るとは……」


全強化付与(フルエンハンス)!」


 パステルの強化を受けてメイリの旋風は再び持ち直す。

 オルトロスは炎で押し切るのは不可能と即座に判断し口を閉じると、体を振り回して起こした風の圧で水の囲いを破壊した。

 風圧はそれだけではとどまらず魔法を使用していたメイリまで吹き飛ばす。


「掴め!」


 パステルはカラクリカエルに命令を下す。

 彼女は重量のあるカエルを風よけにして吹き飛ばされるのを防いでいた。

 カエルは舌を伸ばし空中を舞うメイリを巻き取ると、そのままゆっくりと地上に降ろす。


「すみませんパステル様……」


「構わぬ。しかし、ただ暴れるだけで風魔法に勝る風を起こすか……。これがAランクというものか」


 風の囲いを突破したオルトロスは二つの頭で周囲の状況を確認。

 そしてパステルを視界に捉えたかと思うと、口からよだれをたらし始めた。

 この中では彼女は一番おいしそうに見えたか。


「おいおい、こっちにも美味しそうな女の子はいるぜ!」


 サクラコが側面からオルトロスの横腹にムチを入れる。

 大したダメージではなさそうだが、一応片方の頭でそれを確認するオルトロス。

 そして、その目は完全にパステルの見た目に擬態したサクラコを捉えた。

 流石の高ランクモンスターもこれには驚き狙いをサクラコへと変える。


「よしよし、良い子犬ちゃんだ……ぎゃ!」


 回避動作の遅れたサクラコが爪でバラバラに引き裂かれる。

 しかし、スライムである彼女は切り裂かれても死なない。


「死にはしないけど、普段人間の姿でいるからちょっとドキッとするよな……。エンデ、さっさと決めてくれ!」


「了解!」


 俺はオルトロスの間近にまで迫ると跳躍しその背に飛び乗る。

 自分で注意を引くと言いながらみんなに隙を作ってもらう形になってしまった。

 知能の低い魔物でもやはりパステルは惹きつけてしまうようだ。


 オルトロスは敵に背中をとられたことに気付き暴れるが、二つの頭は流石に背中まで回らない。

 俺を攻撃することは出来ない!


「あっ」


 そんなことを考えていたらしっぽのヘビが俺の首筋に噛みついてきた。

 なるほど、そのヘビは飾りじゃないというワケか。

 首筋から毒が流れ込んでくる。即効性のある強力な麻痺毒だ。普通の人間なら即死、良くても全身麻痺は免れない。

 なかなか良い毒をプレゼントしてくれた。


「でも生かしてはおけない!」


 ヘビに首を噛まれたままオルトロスの首筋まで移動。

 そして、剣を抜き刃を溶解毒と一体化させる。


「溶かし切る剣なら!」


 巨大なデスワームすら切断した溶かして切る剣をオルトロスの首に振り下ろす。

 一撃でザンっと切れはせずじわじわと胴と首を切り離すこの技は正直惨いけど、もともとの剣が安物なので致し方なし。毒の力だけで切っているのだ。


「これ……で!」


 最後は力でグッと首を落とす。

 切断面はやけどの後のようになっていて血は出ない。

 その為、もう一方の首がまだ生きている。痛みは感じているのか、半狂乱になって暴れ出す。


 背中の上にいる俺も揺さぶられて振り落とされそうになるも、粘着毒で何とか体を固定している。

 しかし、粘着毒をくっ付けていた毛がブチブチと抜け、同時に俺は空中に放りだされた。

 厄介な敵を振り落とせたことを確認すると、オルトロスは再びパステルに狙いを定める。

 そんなに彼女が魅力的か……。俺も人のことは言えないが。


「パステル! メイリ! いくぞ!」


 俺は溶解毒を空中からオルトロスに向けてばら撒く。

 無論こんなことをしては危険だ。毒を受けたオルトロスが暴れれば周りに毒を撒き散らすことになる。

 そんなことになれば死人が出かねない。

 だから彼女たちにお願いした。


 メイリは俺の声に気付き少量の水を生成、空中で毒と混ぜ合わせる。

 そう、俺は制御ができないからメイリに毒を制御してもらう。パステルは全強化付与でそのサポートだ。

 毒液は空中でまとまり、矢のように鋭い形に変貌する。

 

「ポイズンアロー……!」


 制御により勢いを与えられた毒の矢は残ったオルトロスの頭を一瞬で貫く。

 黒い巨体は一瞬ビクッと体を震わせた後、地面に倒れ伏した。


「厄介な奴だったなぁ……。四人がかりでこんなに手間取るなんてさ」


 人の形を取り戻したサクラコが地面に胡坐をかく。

 引き裂かれたせいで人前で擬態を解かれた彼は少し不機嫌だ。


「私もパステル様がいなければどうなっていたことか……」


「いやいや、メイリの魔法が無ければ辺り一面酷いことになっていたぞ」


 最近何事にも動じなくなっていたパステルも今回の戦闘には肝を冷やしたようだ。

 久々に弱気な表情を見せる。


「ま、何はともあれみんな無事で良かったよ」


 俺は笑顔でみんなを励ます。


「エンデはよく頑張ってくれた。少しずつ戦い方が見えてきたな」


「自分だけで毒の矢みたいな技が使えたら一番なんだけどね」


 課題はまだまだあるけど今回は頑張った方かな。

 ほんと水魔法みたいに毒液を自分の意思で操れれば最高なんだけどなぁ。


「異常成長したオルトロスをたった四人で……」

「しかも、十分もたたずに仕留めたぞ……」

「ちびっこもいるのに……」


 物陰に隠れていた人々がオルトロスが仕留められたのを確認し、ひょこひょこと姿を現した。

 ほとんどが人間とは少し違う特徴を持った亜人たちだ。

 ロットポリスが多種族都市というのは本当らしい。


「皆さん無事ですか? 怪我人の方がいたら言ってください。回復薬も用意できるので……」


「ひっ……!」


 俺が近寄ろうとすると人々は一歩後ろに引く。

 そりゃそうか、俺たちも彼らからすればバケモノに見えるか……。

 なんだかこういうの圧倒的力を持ったSランクっぽい悩みで悪くないな。

 やっと力が引き出せてきたってことかな?


「あ、あの……こっちに爪でやられちまった奴が……」


 衛兵の一人が地面に横たわる仲間を示す。

 鎧を切り裂き爪が体に達したようで血がとめどなく溢れている。


「回復薬が手元にないんだ。取りに行かなきゃ……。でも、血が止まらなくてもう時間が……」


「はい、すぐ薬を」


 俺は混乱している衛兵に結果で示すことにした。

 すぐにキュアル回復薬を生成し傷口にかけていく。

 かなり深いな……ちょっと多めにじゃぶじゃぶいこう。

 ケチらなかったことが功を奏して傷口は徐々に治り始めた。


「息もありますし、傷口もここまでふさがれば問題ないと思います。毒の類も体に入っていません。ただこの回復薬は効果が高い分、体力や魔力を消費するのでしばらくは眠ったままになります。心配なら専門の人にも見てもらってください」


「あ、ありがとうございます。こんな高級回復薬を大量に……。どうお礼をしたら……!」


「お礼はいいですよ。ただあまりこの事を言いふらさないようにして下さるとありがたいですがね」


 一人を治した途端、他にも怪我人がどんどん名乗りをあげてきた。

 でもほとんどが軽症だったので回復薬は微量で済んだ。

 おそらくオルトロスが現れてすぐに俺たちは来たのだろう。なので大きな被害が出る前になんとかできた。


 後は衛兵たちが頑張ったおかげだ。

 俺が戦っている間も彼らはオルトロスから人々を遠ざけるべく動いていたので、一般人への被害は最小限に抑えられた。

 いろんな種族が住むからこそ、その治安を維持する衛兵たちは優秀というワケだ。


「おっとっと、ワシが来る前に全部終わってるじゃん」


 空中から聞こえた声、同時にバサバサと大きな翼で羽ばたく音がする。

 見上げるとそこには翼を生やした人間がいた。


「これでも最高速で部下を置いてけぼりにして駆けつけたんだけどな」


 その人物はスタッと地上に降り立った。

 猛禽類を思わせる力強く大きな翼、高い身長、力強い目と自信に満ち溢れた表情の女性だ。

 くすんだ赤色……えんじ色に金のラインが入った鎧をまとっている。


「ア、アイラ様!」


 衛兵たちがぞろぞろと集まってくる。


「よーく頑張ったねお前たち。上にはよく言っておくよ……って、ワシが一番上じゃん!」


 アイラと呼ばれた女性は上機嫌に笑う。


「まっ、上と言っても横並びの奴があと三人いるんだけどな」


 ニヤッと笑ってアイラは俺の方を見る。


「初めましてエンデ君、ワシはアイラ・エレガトン。見ての通り鷲の特徴を持った獣人……というか鳥人だな。鷲だけにワシと自分のことを呼んでいる。市民に親しまれるための一種のキャラ付けというヤツだな、アハハハハ!!」


 顔は笑っているが目が笑っていない。ジッと俺を見据えている。

 あれ……? そういえば俺、エンデって名乗ったか?

 空から聞かれていただけか……?


「んー……あんまり強そうには見えないけど、君強いみたいだな。それこそSランクくらい? 困ったなぁ、どうしたものか」


「えっ!?」


 なんらかの方法でステータスが見抜かれている!?

 でもロットポリスはあらゆる種族が住む町。

 ステータスがバレても問題ないはずだ。


 この鳥人の女性はどうやら衛兵たちをまとめる立場っぽけど、困ったとはどういう意味なのか。

 もしかしてSランクは危険だから町に入れることが出来ない……?

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