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第01話 眠れる古代兵器

 砂漠の冒険から帰還した俺たちはまず十分な休息をとった。

 そして、次の冒険への準備を始めた。


 このダンジョンやマカルフの町では古代の技術がふんだんに使われているフェナメトの身体を修理することは出来ない。

 またダンジョンを空けて他の場所へと向かわなければならないのだ。


 手始めに砂漠の戦いでデーモンポイントが入っていたので、それを使い第一階層を洞窟風から古代遺跡風に変更した。

 変えたからといって防衛力が上がったかというとそれほどでもないが、流石にずっと同じ見た目では冒険者の人たちにも飽きられるし、旅行帰りだし気分を変えようとこうなった。

 石で出来ている通路や壁を突き破って生えている植物モンスターたちは崩壊した文明を思わせて非常に雰囲気がある。よりダンジョンらしくなったんじゃないかな?


 後はまだ特典期間中のリビングアーマーとソウルドックを配置。

 もう一回お留守番を成功させているので今度はさほど心配していない。


「留守中のダンジョンの防衛は問題なさそうだよ。最近は発見された当初よりも来る人が減ってるからね」


 俺はボスモンスターとしてダンジョンの状況を主であるパステルに伝える。

 なんたって彼女は魔王なのだから。


「まったく来なくなられるのも困るが、まあ最低限来てくれれば良い。それで次の我々の行き先だが……ロットポリスしかあるまい」


 パステルは机に両肘を乗せ、顎の前で手を組んで言う。


「ロットポリスって?」


「……エンデは本当に人間界のことをあまり知らんのだな」


「いやぁ、詳細を聞いたらもしかしたら思い出すかも……」


「まあ毎回のことだから良いのだがな。ロットポリスは多種族が住む都市だ。魔王ですら身分を隠すことなく堂々と通りを歩くことが出来る珍しい町らしいぞ。ゆえに魔界でもそれなりに話題にはなっていた」


「魔王でも歩ける……ねぇ。じゃあ、ザンバラの時みたいにステータス偽装や変装もいらないわけだ。いや、他の魔王がいるかもしれないから有名人のパステルは変装した方が良いのかな?」


「揉め事を避けるなら変装した方が良いが、そこまで気にすることもないだろう。なんといってもロットポリスには厳しい法があって暴力沙汰は禁止されている。先に手を出した者は最悪罰を受けたのち町に出入り禁止になる。いろんな種族が住むだけあって争いごとに対する罰は非常に厳しいのだ」


「へー、普通に暮らしてるだけなら住みやすそうな町だね」


「だからこそ人が集まり、才能も集まる。ロットポリスには手先が器用で好奇心旺盛なドワーフ族が集まるエリアもあるらしい。そこでフェナメトを直せる技師を見つける。勝利特典の防衛モンスターがいるのもあと一か月ちょっとだ。時間との勝負にもなるな」


 素人である俺たちには古代兵器であるフェナメトの修理にどれほどの時間がかかるかわからない。

 最悪フェナメトだけ置いて一時ダンジョンに帰還することも考えられる。

 うーん、自前で用意したいなぁ。リビングアーマーみたいな寡黙で頑丈で存在感のある防衛モンスターを。


 まあ、一歩ずつだ。

 フェナメトは強い。その性能を100%引き出せればリビングアーマーよりもきっと強い。

 眠ったままの彼女をまず目覚めさせる……それが今回の目標だ。


「パステル様、エンデ様、魔動バイクと荷台のお掃除がひとまずは完了いたしました」


 少しメイド服が汚れているメイリがリビングに姿を現す。


「ありがとうメイリ、今見に行くよ」


 俺たちはバイクの置いてある第八階層に移動する。


「おっ! すごく綺麗になってるよ!」


 祠の地下から発見した時の魔動バイクは大して汚れていなかった。

 あの地下の空間は古代の技術で人工的に造られた物で外部からの影響を受けないようになっていたからだ。


 しかし、問題は俺が乗ってダンジョンへ帰るまでの間だ。

 操縦に慣れていない俺は泥が溜まったところに突っ込んだりして散々にバイクを汚してしまったのだ。

 派手に転倒して壊さなかったことだけが幸い。

 これに乗って俺たちはロットポリスに向かうつもりだ。


「荷台の遺物も整理整頓しましたら私たちが乗り込めるくらいのスペースは空きました。乗り心地は保障できませんが……」


 メイリは荷台の扉を開ける。

 荷台は四角い箱に車輪が付いているような形で、両開きの扉は後ろについている。

 中は古代の遺物が風呂敷に包まれていたり、そのまま上手に重ねられていたりして綺麗に片付いている。

 流石メイリだ。


「整頓中にこの荷台に空調装置が付いている事に気付きました。今もちゃんと動くようですから多少移動も快適になるかと」


「ほう、この荷台に小型の空調装置か。相変わらず古代の技術はすごいな」


「空調装置って?」


「冷たい空気や温かい空気が出てきて室内を常に快適な状態に保ってくれる物だ。ダンジョンにもついているぞ。密室だから無いと困る」


「へー、道理でいつも快適だと思った」


「荷台の空調装置はバイクの乗り手の魔力で稼働するようだから頑張ってくれエンデ。外は湿気の多い時期になり始めているから私は移動中ガンガン空調を使うぞ」


「はは……お手柔らかに……」


 と言っても俺は一応Sランクモンスターだから魔力量だけは多い。そっちは問題ないだろう。

 本当の問題はバイクの操縦の方だ。みんなを乗せるのだから横転とかだけは避けたい……。


「出発はいつ頃に致しましょう?」


「うむ、そうだな……。旅から帰ってきて数日でまた出発となるが、なんでも行動は早い方が良い。今日は準備を徹底して明日の早朝に出るとしよう。エンデもそれで構わんな?」


「うん、賛成」


「サクラコは……寝ているがまあ反対はしないだろう。今日はこれで解散だ。みなダンジョンでゆったり過ごすがよいぞ。遠い分移動には体力を使いそうだからな」


 パステルの言葉に甘えてこの日はみんな準備だけは先にしてからだらだらと過ごした。

 これがまた幸せな時間なんだよねぇ……。




 ● ● ●




 次の日――。


 二度目の遠征ということで前回ほど浮かれず黙々と確認作業を終えた俺たちは魔動バイクに乗り込みダンジョンを発った。

 バイクもまた古代の遺物、壊れれば修理不可能なのでスピードを出しつつも慎重に扱う。今回は荷台にみんなが乗っているしなおさらだ。

 ザンバラに向かった時の様に集落を経由しつつ主に夜に移動。バイクには前方を照らす照明もついているので暗い道も安心だ。


 俺の体調は悪くない。

 そもそもこのバイクは人間が使うことを想定して造られているのだろうから、一応Sランクモンスターの俺ならば魔力を消費し過ぎるということもない。

 それに運転も徐々に慣れてきてふらついたりハンドルを切り損ねたりすることが減った。

 後ろに乗るみんなの評判も上々だし、俺も景色や吹く風を楽しむ余裕が出来た。


 古代の人々が残してくれた素晴らしい発明のおかげで予想以上に移動を楽しめた俺たちはダンジョン出発から数日後、多種族都市ロットポリスに到着しようとしていた。


「ふぅ……そろそろ見えてくる頃だろうか」


 パステルが荷台の窓を開け放ち俺に話しかけてくる。

 『窓までついているのだからこれはもう荷台と呼ぶのはおかしいのでは?』という疑問もこの移動の間に何回か浮かんだ。


「予定ではそのはずだよ。有名な都市なだけあって周辺の集落に住んでる人たちに何回も方向を確認できたのが良かったね」


「思ったよりも楽な移動にはなったが、それでも疲れは溜まるな。まず初日は宿をとってからフェナメトを修理できる技師探し。そして、見つけ次第修理を依頼して私たちは休息という形になる。その後は修理を待ちつつ観光だ。ロットポリスは治安が良いのでたまにはみんな別行動というのも良いかもしれんな。私はそれでも誰かと一緒に行くが」


 単独行動か……。

 ザンバラでは人さらいも横行していたし偽装がバレたら全員で脱出しなければならなかったので基本団体行動をしていた。

 いくら治安が良くてもパステルを一人にするのは不安だが、俺が一人になるのは問題ないかな。

 毒の力も自分だけを守ることに関しては間違いなく最強だしね。


「それにしても、いろんな種族がいる都市かぁ……。かなりワクワクするなぁ!」


 パステルのいる反対側の窓から身を乗り出すサクラコ。


「サクラコは騒動を起こさないように気をつけてね。暴力沙汰じゃなくてもセクハラ行為は罰せられるんだから」


「わーってるよ。魔王の配下として町に入るんだからパステルの評判を落とすようなことはしないさ」


「多種族都市というくらいだからスライムも住んでいるのかな? そういえば、サクラコほど知能の高いスライムってあんまり聞かないね」


「確かにな……俺も会ったことないぜ。基本的に俺らってぷるぷるしながら最低限のエネルギーだけ確保してる自然の一部みたいな生き物だからな。俺の場合は性的な欲求が高じて知能が生まれたって感じだ。スライムは分裂して個体を増やすから本来性欲なんてものは無いはずなんだが……俺にはあった。だから特別なのさ」


「レアモンスターってことだね」


「そうそう俺はレアなんだ。だからもっと特別扱いしてくれてもいいんだぜ?」


「では特別に今度私の手料理を御馳走しましょう」


 会話に入ってきたメイリの声は運転中の俺には少し聞き取りにくい。

 彼女は窓から身を乗り出さずしっかり席に座ってるからだ。


「いや……遠慮しとくよ。だって最近のメイリの料理どんどん辛いの増えてるじゃん……」


「あんなのまだ序の口です。ザンバラで食べたカレーには及びません。多種族が住むという事はいろんな味の好みがあり、それだけ食材も豊富かもしれません。ダンジョンの植物園で栽培している品種を増やすいい機会です。特に香辛料になる植物でもあると良いのですが……」


「いやぁー! メイリが辛さで私の舌を虐めるぅー!」


 まだまだみんな元気だな!

 運転に集中しっぱなしの俺は少し疲れている。

 ただロットポリスは平和らしいから、しんどいのもここまでだな……と、町が見え始めるまでは思っていた。


「見えてきた……けど、あれは煙かな?」


 まず見えてきたのは巨大な防壁。

 大きな都市だけあって外部からの侵攻を防ぐための対策が練られているのだろう。

 そして天へと上る黒い煙……。


「町に入る門が何かに襲われているのか……!」


 バイクのスピードを上げロットポリスへ近づくと、逃げ惑う人々も見えてきた。

 おそらく町に入る手続きをしてるところを襲われたのだろう。


「エンデ! 今フェナメトが目覚めて、人々の悲鳴が聞こえるって!」


 フェナメトの大きな耳型アンテナが声を拾ったか。


「それと近くに強大な魔力を持つモンスターがいるとも言っておるぞ!」


「うん! 今見えた!」


 それは黒い獣だった。

 犬のような頭を二つ持ち尾は蛇。

 この特徴的な見た目は高ランクモンスターの……えっと、名前はなんだったかな……?


「オルトロスか……それも異常に巨大な個体だ。自然に人間の集落に現れるような存在ではないような気がするが……」


 パステルが冷静に語る。

 そうそう『オルトロス』だ。冒険者時代に高ランクモンスターの知識はそれなりに詰め込んだつもりが戦う機会がないので記憶から抜け落ちかけていた。


「事情はよくわからんが衛兵たちは苦戦しておるようだ。エンデ、メイリ、サクラコ、ゆくぞ!」


「了解!」

「久々に思い切り体を動かせる!」

「逃げる人々のことも考えて戦いましょう」


 平和な町と思ったらいきなりの戦闘、しかし旅とはいつだって予想外の事が起こるものだ。それが醍醐味さ……。

 まあ、まだ一回しかまともに旅してないけど。

目覚めの第四章、スタートです。

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