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第20話 護り神と少年

 決着はついた。

 俺たちは仲間の元に戻り、再びヒラムスの村を目指そうとしていた。


「女性にこんなこと言うのは失礼だけど……フェナメトってかなり重いね」


 動けなくなったフェナメトを背負ってみると見た目に似合わずとんでもない重量感だった。

 まあ、あの巨兵を吹っ飛ばしたのだからそれも当然か。

 彼女の右腕についていた巨大な腕のパーツは今は分離している。

 分離というか接続部分がぶっ壊れて外れちゃったんだけどね……。

 接続部分以外も損傷が酷くてこのままではもうあのパワフルなパンチは使えないだろうと素人目にもわかる。


 だがしかし、壊れていても貴重な古代の兵器だ。

 フェナメト自身を修理するときにも役に立つかもしれないしこれも回収して帰らないとな。

 うーん、腕だけでもかなり重そうだが……。


「あの……こんな時に聞くのもなんですけど……」


 ずっと押し黙っていたナージャが久々に口を開く。


「エンデさん達って……人間じゃないですよね?」


「……そうだよ」


 当然彼女にはバレる。

 毒液状化も使ったしサクラコも巨兵にしがみつくために腕やら脚やらをびょんびょん伸ばしていた。


「ナージャ、今まで隠していてすまない。私はパステル・ポーキュパインという魔界ではそれなりに名の知れた魔王なのだ。まあ、悪い方に名が知れているのだがな」


「魔界……魔王……ええーっ!? パステルちゃんが魔王!?」


 とんでもない食いつき方をするナージャ。

 そりゃそうだ。魔王が平然と観光地をぶらぶらしていたなんて想像できない。


「私たちは普通に観光のためにザンバラを訪れていたのだ。魔王だからといって全員が悪さをしているわけではないぞ」


「はえー、そうだったんですか……。言ってくれれば良かったじゃないですか! 水臭い!」


「いやぁ、絶対どこかでばらしてしまうだろうと思ってな。ナージャはそそっかしいから」


「うぅ……否定できない……」


「しかしナージャと過ごした一週間ほどはとても楽しかったぞ。周りの人間を明るくする力がナージャにはある。とっても良いことだ。ただ、すぐに舞い上がってしまうのが玉にキズだな」


「はい……。今回は運ではどうにもなりませんでした……。もっと基本に立ち返って体を鍛えなおします! この成功の剣に見合う冒険者になるために!」


 ナージャは剣を掲げる。

 しかし、今実際こうしてナージャは健康に脱出を果たしているのだから今回も運が良かったと言えるのではないか?

 自力ではどうにもならなかったけど、俺たちに助けられるという形で彼女は生き残ったんだ。

 なんだか、彼女という運命に俺たちは操られているような……考え過ぎか。

 ただ、人を振り回すのが得意な女性であることはハッキリとしている。


「それでパステルちゃん達はお家に帰るんですか?」


「ああ、ダンジョンに帰る。しかし助け出した者の責任として子どもたちを安全なところまでは送り届けるつもりだ」


「こんなに子どもたちを助け出したんですからヒーローになっちゃいますよ! 犯人たちは見逃したんじゃなくて逃げたことにしておけばいいんです!」


「ああ……その話だがな……」


 パステルは歯切れの悪い返事をする。

 言い出しにくいことなんだ。だってナージャにはこれから……。


「おーい! おね……おにいさんたちー!」


 これは意外や意外。

 ヒラムスの村で俺たちに話しかけてきた少年が、俺たちを村まで運んでくれたラクダ車に乗ってこちらにやってきた。


「いてもたってもいられなくなってきちゃった! あの巨人は倒したんだね、きっと護り神様が!」


 少年は目をキラキラさせながら話す。


「急に村から飛び出ていくもんだから追っかけていったらいつの間にか普通に目的地まで運ばされちまった。こういう時は地元の大人たちが追っかけなきゃならんのに……」


 ラクダ乗りは口でこそ文句を言っているが、内心たくさんの子どもたちが砂漠にいる光景に驚いている。


「若いお姉さんたち……と思ったら一人は男だったのか。可愛いから気付かなかったぜ」


「ど、どうも……」


「それにしてもあんたらはやってのけちまったんだな。ピラミッドの謎を解き、人々を助けたんだ」


「そのことなんですが……」


 俺たちはその称賛の声を素直に喜べない。

 こちらは魔王の一行、気まぐれで人助けもするが英雄として人間に祭り上げられては困る。

 つまり、今回の騒動が俺たちのやった事だと人間にバレてはいけないのだ。


「ああ、わかってるよ。ワケありなんだろ? 黙ってるさ」


「え? ああ、ありがとうございます!」


「お客さんらを乗せた時、うちのラクダが元気になっただろ? もう年老いて人を乗せたからといってはしゃぐような事はなくなったのにさ。なんだか昔を思い出しちゃったよ。それだけお嬢ちゃんには不思議な魅力があるんだと思った。特別な何かがね」


「実は……彼女は」


「おっとお客さん、気を遣ってそこまで言う必要はないぜ。俺はただのラクダ乗り。報酬を貰って砂漠をゆくだけさ。お客さんの話したくない事まで聞く権利はない。今回は悪事を隠しておけと言われたわけでもないからね」


「本当にありがとうございます」


「なぁに普通の対応さ。さて、これからはこっちの小さなお客さんたちを町まで運ばないとな。仕事仲間にも応援を頼まないと時間がかかりそうだぜ!」


 ラクダ乗りは子どもたちの中でも幼い子から車に乗せはじめた。

 彼ならば安心して任せられる。


「ねえ! 護り神様はどこ?」


 少年はきょろきょろと辺りを見渡す。


「きっと君の護り神様は彼女だよ」


 俺は視線を背中に背負っているフェナメトに向ける。


「んー?」


 じーっとフェナメトの顔を見つめる少年。

 しばらくして、今はだらんと垂れている大きな耳を指差して叫んだ。


「護り神様だ!!」


 耳が判断基準なのか……。


「今、護り神様は戦いで傷ついて眠っているんだ。それに直せる人がなかなかいなくてね。これから少し砂漠を離れて探しに行かなくちゃいけないんだ」


「ええ……そうなんだ……」


 少年は明らかにショックを受けた顔をしてる。


「僕のお祈り……届かなかったのかな……」


「そんなことはないよ」


「えっ! 護り神様!?」


 フェナメトが目をつむったまま口を開く。


「君が……たとえ君だけでも僕の存在を信じて祈り続けてくれたから僕は戦えたんだ」


「ほ、本当ですか!?」


「うん、本当だよ。というのも今の僕のエネルギーは『サイコゴールド』と呼ばれる人間の意思の力をエネルギーに変換する装置から送られた物なんだ。このサイコゴールドは資源も尽きる大戦末期に造られた画期的な装置で傷つき動けなくなった兵士でも祈ることでエネルギー源としてみんなの役に立てるという素晴らしいものさ。でも、あの時代遅れの鉄くず……ピラミッドが出現した衝撃でサイコゴールドは砕けて飛び散ってしまってな。今、私が動けているのは君の祈りが溜めてくれたエネルギーのおかげなんだ。本当に感謝している」


 急に何をしゃべるんだこの護り神。少年困惑してるじゃないか。

 てかこれ喋り方をちょっとフェナメトに寄せてるフェアメラだな!?


「コホン……」


 俺はそれとなくフェアメラに合図を送る。


「むっ……。ま、まあ何が言いたいかというと信じてくれてありがとうってことだね。ちょっと体を直すために砂漠から離れるけどまた戻ってくるから……」


「ダメだ! 戻ってきちゃダメ!」


「えっ?」


 少年の反応に俺もフェアメラも困惑する。


「さっきの話……難しくてよくわかんなかったけど、要するにもっと護り神様のことを信じる人がいればもっとたくさん動けたんでしょ?」


「う……まあ、そうだね。流石に一人分だとエネルギーを節約しないと足りないから動いては眠る感じだった」


「ダメだダメだ! 信じることも自分から動くこともしない人たちを守って護り神様がボロボロになるのは嫌だ! だから砂漠には帰ってこなくていい! でも、もし僕が大きくなって祠を立派に立て直して信じる人が増えたらまた戻ってきて! その時はもう僕が強くなって護り神様が戦う必要はなくなってると思うけど!」


 少年はニッと笑う。


「……ああ、ありがとう」


 フェアメラはそれ以上言葉が出てこなかった。


「じゃあ僕はこれから特訓するからまたね!」


 名前も言わず少年はラクダ車の御者席に当然のように座った。

 そして車に揺られながら村へと帰っていく。


「ありがとう、エンデ。礼をまだ言ってなかったな」


 穏やかな口調でフェアメラがささやく。


「こちらこそみんなを守ってくれてありがとう。俺たちだけでは犠牲者無しに巨兵を止めることは出来なかったと思う。君の力でみんな救われたんだ」


「フェナメトと私の力などほんの些細なものだ。その力を大きくしてくれたのは祈りと出会いだ。少年の祈りが無ければ私は動けなかった。皆と出会わなければ私は再び立ち上がれなかった」


 彼女は砂の舞う砂漠を見つめる。


「そしてサイコゴールド……。祈りをエネルギーに変え、砕け散った後も金色に輝く風となり出会いのきっかけを作ってくれた。フェナメトを造り上げた者もサイコゴールドを造り上げた者ももうこの世にはいないのだろうが……彼らにも感謝しないといけない」


 黄金の風の正体は……古代の人々の技術と願いの破片だったんだ。

 たとえ気の遠くなるような時間が過ぎても、粉々になってしまってもフェナメトに力を与えるという役割を果たし続けた偉大な遺物。

 ロマン……という言葉で片付けるには大きすぎる気もするけど、なんだか今こうしてフェアメラと話せていることがとんでもなく奇跡的に思えた。


「フェアメラ、フェナメトも一緒にこれからよろしく。君たちに出会えて俺はとっても嬉しい」


「よろしくエンデ。私たちもこの時代でみんなに出会えて嬉しい。砂漠にはしばらく帰れなくなったのでこれからはダンジョンで世話になる」


 長い付き合いになるのか短い付き合いになるのかはわからないけど、新たな仲間フェナメトとフェアメラを加えた俺たち魔王一行。

 黄金の風の謎も解けた今、思い出と共に帰路につく時が来た。

次回第三章エピローグになると思います。

ダンジョンに帰るまでが冒険?ということでもう少しお付き合いください。

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