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第19話 放たれた弾丸たち

「フェナメト! フェナメト!」


 地面に倒れたまま動かなくなったフェナメト。

 彼女がいなければ今頃どうなっていたか……。まだお礼も言えてない。

 素人目に見てもボロボロの彼女を揺するわけにもいかず、俺たちはただ声をかけ続けていた。


「フェナメトは……死んではいない」


 目をつむったままフェナメトが口を開いた。

 声は彼女のものだが喋り方が違うせいで別人のように感じる。


「君は……?」


「私は……フェアメラ。戦闘補助人格、といってもわかりにくいか。フェナメトの別人格のようなものだ。フェナメトは体を修理するための眠りについた。しかし、修理機能は壊れているからただしばらく眠るだけだ」


「そうか……良かった……」


「しかし、ほぼ死んだも同然だ。このボディはもう満足に動かない。誰か今の時代にフェナメトを修理できる技師はいないか……探してほしい」


「うん、もちろんさ!」


 手を握るのも危なそうなのでただ力強く返事をした。

 するとフェナメト……いや、フェアメラの口角が少し上がり笑ったように見えた。


「私も眠ってよさそうだな」


 それからフェアメラはしゃべらなくなった。

 彼女もまた限界を超えて戦ってくれたんだ。

 お礼……言い忘れちゃったな。また会ったら言わないと。


「さあ、まずはフェナメトの問題は解決したな」


 魔力が限界なので修羅器を引っ込めたパステルが吹っ飛ばされて遠くに転がっている巨兵を見つめる。


「人さらいたちか……。生きてるかな……」


 あれだけ飛んで転がってしたら中にいる生き物は……。


「それを確認するのも倒した者の役目だ。行こう」


 俺とパステルは巨兵へと歩き出す。

 子どもたちと眠った冒険者たちを守るため、メイリとサクラコは連れていかない。


「強かったなフェナメトは」


「うん。俺もあれぐらい堂々とみんなを守れるようにならないと」


 歩きながら俺たちは話す。


「直さねばならんな恩人を。直った後は仲間になってくれるだろうか」


「それは……わからない。彼女は砂漠の護り神様だから、砂漠にまた帰るのかもしれない」


「確かにこの砂漠を守る者は必要なのかもしれないな……」


 俺たちは巨兵の前に辿り着いた。

 潰れた頭部、落下の衝撃で折れた手足、歪んだ胴体……もう人型にもピラミッド型にもなれないだろう。これはもう脅威にはならない。


「魔界の人さらいはタフだな」


「まったくこれは予想外だったよ」


 人さらいたちは……おそらく全員生存していた。あの毒をくらっていたリーダーさえも。

 みな揃って砂漠に姿を現していた。


「最後まで徹底抗戦……という認識で構わんか?」


 パステルは敵の集団を恐れない。

 それも当然か。彼らはほとんどがやせ細っていて怪我人も多い。

 純粋にパステルとケンカしても勝てなさそうな状態だ。魔界の住人が聞けば涙を流しそうなほど悲惨な表現だな……これ。


「いや……完敗……降参だ。もう俺たちは戦えない……。戦う意志もない……」


 リーダーが部下の支えを払いのけ前へと進み出る。


「ただ、許してくれとも見逃してくれとも言わん……。やった事の大きさは認識している……。だがこいつらは許してやってくれ……。俺がいなければ何も出来ないが……悪い奴らじゃねぇ……」


「アニキ……」


 リーダーは砂の上に膝をつく。


「こいつらは生き残っても魔界にいる組織の上の奴らが人間界まで来て消すだろう……。だから……どうかあんたの部下にしてやってくれ魔王パステル。俺にはわかる。今のあんたらなら組織の刺客なんて目じゃねぇ……。だからよぉ……頼まれてくれ……。それが俺の最期の願いだ」


 リーダーは剣を抜く。


「死に掛けで足りないかもしれないが……償いは……この命でする!」


 その刃を自らの腹に突き立てるリーダーの男。

 刃は肉体を貫き背中にから突き出た。その際に飛び散った血が部下にまで飛ぶ。


「ひぃっ……!! アニキ……ッ!」


 しかし部下たちは何もしない。

 『何もするな』と言われているのだろう。

 確かに彼らはこのリーダーがいなければダメのようだ。


「エンデ」


 スッとその手を前に出すパステル。

 意味はすぐわかった。


「了解」


 俺は手に液体を生成しリーダーにぶっかけた。


「な、なんてことしやがる!!」

「そこまでするのか!?」

「これも俺たちのやってきたことへの報いか……」


 部下たちはアニキの死にざまに水をぶっかけられて怒ったり驚いたり悲しんだりしている。

 俺には彼の死を侮辱する気もなければ認める気もない。

 また騒がれることを承知で体に刺さった剣を抜く。そしてその傷口にも液体をかける。


「う、うわぁ……」


 仰向けに転がされたアニキを見て部下たちはもはや血の気が引いている。

 次は自分たちがこうなるのだと思っているのだろうけど、それは違う。

 その事は彼自身から説明してもらった方が良さそうだ。


「げほっ……ごほっ……」


「ア、アニキ!?」


 今彼にかけたのはトドメの猛毒ではない。

 キュアル回復薬や解毒薬を含んだ液体だ。

 あのボロボロの体に刃を突き立てた時はもう即死するんじゃないかと思ったけど凄まじくタフな男だ……。


「大丈夫なんですかいアニキ!?」


「あ、ああ……。な、なぜ……俺を助けた……?」


 地面に寝転んだままとはいえもう会話ができるのか。

 回復速度も尋常ではないな。


「いきなり部下を押し付けて死なれても困る」


 パステルがシンプルに答える。


「私は本当に信用できる者しか近くに置いておかない少数精鋭派の魔王なのだ。というのも私自身は大して強くないのでな。人となりをしらん者をたくさん仲間に入れると安心して眠れなくなる」


「まあ……さっきまで敵だった奴らだもんなぁ……。無茶言ってるのはわかってるさ……」


「それにこいつらのリーダーはやはりお前しかいないと思った。お前がいなくなると何をしでかすかわからん。だから死んで投げ出すのではなくこれからもしっかり導いてやれ」


「しかし……それではケジメがつかねぇ……」


「確かに起こした事件の規模は大きい。しかし、さらわれた者は誰一人死んでおらんし大きな怪我もしていない。それに対してお前たちはボロボロの満身創痍……なぜだ?」


「別に良心が痛んだゆえの行動ではねぇ……。ただ俺たちは人をさらい売るのが任務だった。家畜を売る商人が家畜を肥え太らしておくように、たとえ俺たちが傷ついてやせ細っても売り物の状態だけは良くしておくのさ……。こう見えて真面目なんだよ俺は……馬鹿みたいにな……」


「だからこそ私……パステル・ポーキュパインはお前を生かそうと思った。名前を聞かせてもらおうか」


「ギェノン。みみっちいオーガの男さ」


「これを見てみろ」


 パステルは懐から取り出した紙束を何枚かギェノンに見せる。


「さらわれた人々の捜索願だ。ここに書かれた名は今回私たちが救出した者の数よりもずっと多い」


「待ってくれ……! 俺たちがさらった人々はあんたが助けたので全部だ……! どこにも隠しちゃいない……! この命に誓って……!」


「ああ、ギェノンを疑っているわけではない。これはおそらく他の者の犯行。そして、その大半が人間の起こしたものだろう。悲しいことに救出は上手くいっていない。助ける目的がバレると人質にとられてしまうからだ」


 パステルはその捜索願をギェノンの胸の上にぽんっと置いた。


「人さらいの罪を償いたいというのなら、人さらいを退治してみるのもよかろう。まさか異形の化け物たちがさらわれた人々を助けるために襲い掛かってきたとは思わんだろうしな。これはお前たちにしか出来ぬことかもしれんぞ?」


 ギェノンは震える手で紙をつかむ。


「しかし、厳しい戦いになることは明白だ。お前たちには魔界裏組織からの刺客も襲い掛かるだろうし、人々を助ける目的がバレてもいけない。いくら人を助けても英雄として日の目を見ることはない。味方のいない人間界の日陰でただひたすらに厳しい戦いを続けるのだ。できるか? 無理ならば……」


「いや、ありがてぇ……。俺たちみたいなクズには上等すぎる……」


 ギェノンは……堂々と立ち上がった。

 そして、部下と共に深々と頭を下げた。


「寛大な処置痛み入ります! 今回の落とし前はしっかりつけさせていただきます!」


 俺とパステルは……もともと彼らを許すかどうか迷っていた。

 やったことは許されないが、先ほど言ったようにさらわれた人々は健康そのものだった。

 ただの残虐非道の犯罪者だとは思えない。


 なので会話をして、その中で俺とパステルに対する反応を見て決めようと思っていた。

 そして許すにしてもしつこいほど釘を刺しておかないといけない……と思っていた。


「結局、そのまま行かせてしまったのう」


「どこに行くんだろうね」


「それは……本人たちにもわからんだろう」


 ギェノンたちは砂漠の彼方に消えていった。

 しばらくは潜伏して体と心を休ませつつピラミッド騒動のほとぼりが冷めるのを待つそうだ。

 確かに不完全な状態で動き回って人間に捕まれば見逃した意味がない。


「私は……とんでもない事をしたのかもしれんな。鉄砲玉とはいえ魔界裏社会の人間を野に放ったのだ。ギェノンらがすぐに心変わりしてまた罪なき人々を襲わないと私は証明できない。ただ……大して深く知らん者たちだが信じてみたくなった。女の勘だな」


「魔王の勘じゃなくて?」


「魔王としては未熟だからな。いや、女としても未熟か?」


「どっちもまだ発展途上だと思うけど、今回の旅でパステルは大きく成長した気がする。魔王としても女性としても、そして戦う者としても」


「そう言ってもらえると嬉しいが、やはり今になって奴らのことが気になり始めた。奴らがこれから起こす事の責任の一端は私が背負うことになるのだからな。重いものだ、責任とは」


「俺も一緒に背負うさ。『エンデがやった事の半分は私の責任でもあり、私がやった事も半分はエンデの責任』……でしょ?」


「懐かしいな。その言葉を言ってからまだ一か月も経っていないのではないか?」


「という事はパステルと出会ってからまだ二カ月も経っていないんだね」


「もう何十年も一緒にいる気がしていたぞ」


「俺も」


「本当に何十年と一緒に過ごした後、今度は何百年と一緒にいた気になるのだろうか?」


「今はわからないけど、きっとそのうちわかる時が来るよ」


「ふふっ……そうだな。戻ろうか皆のところに。やることはまだある」


「うん。それでここでやるべきことが全部終わったら、帰ろうダンジョンに!」

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