第17話 魔王一行VS黄金巨兵
黄金のピラミッドが変形し巨大な人型メカ『黄金巨兵』と化した時、ヒラムスの村ではエンデたちに護り神様の話をした少年が首をかしげていた。
「なんか、風の流れが変わった……?」
砂漠の中のオアシスに住んでいる彼は風の流れに敏感だ。
ここ最近で大きな変化を感じたのはちょうど黄金のピラミッドが現れた時だった。
少年は巨大な構造物が砂漠の中に現れたので風の流れが変えられたのだと判断した。
では、今は何が原因で風が変わったのだろうか?
(ピラミッドが無くなったとか……?)
少年は西の方角を見つめる。
ヒラムスの村からでは複数ある砂の丘が邪魔になって絶妙にピラミッドが見えなかった。
今日もピラミッドは見えない。しかし、別の物が見えた。
「うわ……っ!?」
妙に冷静で達観したところがある彼も砂漠の彼方に見える黄金巨兵には驚きを隠せなかった。
ただの建物ではない。あれは動いているのだ。
ということはこちらに向かってくる可能性もある。
しかし、少年はそれ以上騒がなかった。
時は昼過ぎ、流石に大人たちも一日中家に引きこもってはいられないのでしぶしぶ動き始めたところだ。
ここで黄金巨兵が現れたことを知ればパニックになるのは目に見えていた。
あれは神の怒りと捉えられてもおかしくない姿をしている。
むしろ、太陽の光を受け光り輝く巨兵などそれ以外に説明するのが難しいとすら言える。
ただ、少年はあれを神とは思っていなかった。
彼にとっての神とは実際に自分を助けてくれた砂漠の護り神のみだ。
(護り神様……)
黄金巨兵は何かと戦うように腕をふるい始めた。
少年は冷静に振る舞いながらも年相応に恐怖を感じていた。
(護り神様……どうかみんなをお守りください……。僕しか信じてないけど、どうかみんなを守ってください……)
少年はただ祈った。
いつか自分を助けてくれた砂漠の護り神……古代兵器フェナメトに。
● ● ●
「さて……どうしたものかな」
目の前に現れた黄金の巨兵はいまだ直立不動だ。
俺たちは警戒しつつもこの場から離れようと動く。
しかしだ。この巨兵をヒラムスの村に連れていくことは出来ない。
向かってくるというのなら俺たちで倒さなければならないんだ。
その時、巨兵が動いた。
現在の位置から真上に……ジャンプした。
あの重そうな物が跳べるのか!?
でも、何のためのジャンプだ? 操作をミスったのか?
俺の疑問に答えることなくズシンッと地響きとともに着地する巨兵。
その際に巻き起こった風に巻き上げられた砂が俺たちを襲う。
「メイリ!」
「承知しました!」
風魔法で砂塵を相殺しにかかるメイリ。
しかし、彼女が持つ三つの魔術スキルの中でも風は一番練度が低い。
よって砂塵を打ち消せる範囲は狭いが、何とか子どもたち全員を守ろうと力を振り絞っている。
「全強化!」
パステルがオレンジのオーラをメイリに浴びせる。
このオーラがメイリの魔力を強化する。なんとか砂塵をかき消すとこに成功した。
「ただ一回ジャンプされただけでこれでは身が持たん。私も修羅器を展開している以上何度も全強化付与は使えんぞ」
出会ったころよりタフになったとはいえ、今日のパステルはもう体力と魔力を使い過ぎている。
そのため先ほどからすでに息が上がっている。
「あちらさんは戦う意志がありそうだ。こうなったら俺たちも付き合うしかない」
リーダーは成功する確率が低い新天地での再始動より、目の前にいる獲物を取り返すことを選んだ。
そして、その戦法も組み立ててきた。
普通に攻撃を仕掛けてくるんだ。俺たちは絶対子どもたちを守ると……ある意味信頼してるから。
守らせることで疲弊させる。それが奴らの作戦なら、疲弊する前に黄金巨兵を倒すしかない!
「サクラコ! 俺と一緒に奴の相手をするぞ!」
「えっ!? 俺で役に立てるかねぇ……」
「ああ、君にしかできない」
パステルは限界ギリギリなうえ多くの人をカラクリカエルに乗せて運んでいる。
メイリは先ほどのように魔法で子どもたちを守る役目がある。
ナージャは【超運の身体】以外スキルも無く、とても巨兵とは戦えない。フェナメトも似たような感じだ。
「そうだエンデ! 眠ってる冒険者たちをお前のスキルで何とか起こせないか? 戦力になってもらおうぜ!」
サクラコは本当に戦う自信がないようだ。
ザーラサンデスワーム戦でもパステルに助けられていたから砂漠や巨大な敵に苦手意識があるのも無理はない。
しかし、冒険者たちを起こすか。その作戦は……。
「いや、やめておこう」
「なんでさ?」
「こんなおかしな状況で叩き起こされて冷静に戦えるほど強いならそもそも捕まらない。だから戦力としては期待できない。それにもし子どもたちを置いて我先にと逃げ出すような奴を起こしてしまえば、頑張ってる子どもたちが混乱する」
「まあ、それはそうだけどさ……」
「何より何人起こしたとしてもあの巨兵に挑むのは物理攻撃を無効化できる俺とサクラコだけだ。他の人ではかすっただけでぐちゃぐちゃにされてしまう」
「あーあー! わかったよ! 精一杯頑張るから上手く指示出してくれよな! 俺にはあの出化物に対して出来そうなことが思いつかないぜ」
「うん、作戦はある!」
俺とサクラコは黄金巨兵に向かって駆け出す。
恐れず前に出ることが大事だ。子どもたちとの距離を離せばそれだけ戦いやすくなる。
そうしてヒラムスの村に子どもたちだけ預ければ、魔王一行四人でこいつと戦えるんだ。
そうなれば負けはしない。
「サクラコは右に展開!」
「わかった!」
俺は左から攻める。そして同時に長い緑の髪のカツラを取り去る。
メイクも落とし、いつもの俺の顔をあえて敵に見せつける。
すると、巨兵の顔が俺の方を見て止まる。明らかに反応が変わった。
こいつを操縦しているのはあの時の下っ端かリーダー本人だ!
巨兵は拳を砂漠にいる俺に向けて振り下ろす。
やはりこっちを狙ってきたか。俺はあえてそれを避けずにくらった。
人さらいはあっけない最期だったと困惑してるところだろう。
しかし……俺に物理攻撃は効かない。
『あっ!』
突然、大きな声が巨兵から聞こえた。町で遭遇した人さらいの部下の方の声だ。
魔界の試合で使われていた声を大きくして他の場所に伝える機能がこれにもついているのか。
しかし、なぜ今使った?
『アニキ! 大丈夫ですかい!?』
『ああ……ちょっとよろめいただけだ。ただ、なんかボタン触っちまったかもしれねぇ……』
操作ミスか。リーダーの状態は相当悪いとみえる。
だが容赦はしない。黄金巨兵は危険すぎる!
『あれ! 左の手が開かねぇ!? 指がくっついちまってる!』
俺は毒液状化し巨兵の拳の中を移動していた。
その際に粘着毒を付着させ、指が自由に動かないようにしておいた。
地面に岩や硬い土でもあればそのまま拳を固定して巨兵を動けなくすることが出来たが、あいにくここには砂しか存在しない。
だが、十分に隙を作れた。
俺は拳の中から這い出て人間の状態に戻る。そして巨兵の腕をかけ上っていく。
変装用の装備は俺と一緒に毒液状化できなかったので、装備は普段の物に戻っている。
やっぱりこっちの方がしっくりくる。
『クソ! あの時の野郎め! アニキだけでなく黄金巨兵までやらせてたまるか!』
巨兵の二の腕のあたりを走っていた俺に向けて、熱風が噴射される。
ちょうど巨兵の口の部分のマスクが開いてそこから出ているようだ。
粘着毒を足から生成しているので何とか吹き飛ばされはしないが、前に進むことも出来なくなってしまった。
しかし、問題はない!
「サクラコ! 巨兵の目を狙え!」
「はいよ!」
反対側の腕をかけ上っていたサクラコは全くのノーマーク。
そのまま肩まで走り抜け巨兵の頭部の前に躍り出る。
「スタンウィップ最大出力!」
普段は人間を気絶させる程度にとどめているスタンウィップの電撃を限界まで高める。
パステルが言っていた。魔界の精密機械は強力な電気に弱いと。
この巨体に対してウィップの電撃が強力かはわからないけど、弱点ではあるはずだ!
「これでとりあえず目であるカメラを潰せれば……!」
バチバチバチッという音と閃光を放ちながらスタンウィップは巨兵の目であるカメラに直撃した。
『ぐあっ!? メインカメラが!? チカチカしてるっす! き、気持ち悪い!』
『うろたえるな……! たかがメインカメラを……ぐっ……ぐはっ……!』
『アニキ!? やっぱり無茶だったんですよ!』
中の二人がうろたえると巨兵は膝立ちになり、上半身を前のめりにしてうなだれる様な形になった。
これで動きを止めた……かに思われたが、次の瞬間巨兵は驚くべき行動をとった。
そのまま姿勢を低くし、タックルを仕掛けるように前に向かって走り出したのだ!
進路上には子どもたちと眠っている冒険者がいる。
こんなことをしたらほとんどが死んでしまうぞ! 血迷ったのか!?
『アニキ! アニキ! 起きてください! 今倒れ込んだ時に巨兵の動きを変えちまったんだ! 早く修正しないと大変なことになる!』
部下の焦りに満ちた叫びが聞こえる。
またミスか! 俺が弱らせといてなんだけどしっかりしろ!
こんな状態なら出てこなければ良かったのに……というワケにもいかなかったのだろう。
奴らには奴らなりの事情があるか。
とはいえ、同情している場合ではない。
お互いの事情と事情のぶつかり合いは今、罪なき人々を大量に殺しかねない状況を生んだ。
悪いのは人をさらったうえ黄金巨兵を持ち出してきた人さらい側だが、それをここで声高々と主張しても誰も救われない。
今はただ巨兵の暴走を止めなければならない。それだけだ!




