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第06話 やってきたモンスターは……

 ゴルドとタブレットを介して会話した朝から二日経った。

 パステルはその朝のうちに要望を書いたテキストを送り、何度かそれを研究所との間でやりとりしていた。

 そして、最終的に確定となるテキストもその日の夜のうちには研究所に送ったので後は待つばかりだ。


 パステルはそれからずっとそわそわしている。

 ご飯を食べている時も寝転んでいる時も少し体が揺れている。

 大きなツインテールも揺れるので非常に目を引く。


 俺も少し落ち着かない。寝不足というのはもちろんある。

 ただ、全く寝ていないというわけではなく、夕方あたりうとうとしてると寝てしまっていることもあった。

 そういうときパステルは気を遣って起こさないでいてくれるものの、しばらくすると不安になってきて結局起こす。

 そんな感じの二日間。確かにこれは新たな仲間への期待が大きくなるのも致し方なしか。


 俺はパステルがどんな注文の仕方をしたのか知らない。

 何度か声をかけようと思ったけど、向こうから相談もせずにひたすら真剣に考えているのを見てやめた。

 今の彼女が本当に困ったら俺に言ってくれるはずだし、何より一人で頑張っているのを邪魔したくない。

 成長を妨げてしまうかもしれないからね。


 こんな俺でも思いがけぬことで新たな力に目覚めたんだ。

 パステルだってきっと強くなれる。俺は彼女をただ守るんじゃなくて見守っていきたい。

 なんて、親みたいなこと本人の前では恥ずかしくて言えないなぁ。立場上はパステルの方が親みたいなもんだし。

 でもまあ、家族みたいな関係ではあるんだよな俺たち。初めてできた家族か……。

 やっぱりただ守るのではなく、時には見守らないといけないなと思うばかりだ。


 スキルの実験は順調に進んでいる。

 体もなまってはいけないとダンジョン内でトレーニングもし始めた。

 剣を振ったり軽く走り込んだり腕立て腹筋などいざという時に戦う能力を温存できる軽いメニューだが、なにもしないよりかは体の調子はいい。ダンジョンが広いおかげで周囲を気にせず行えるのもグッド。


 もちろんパステルともちゃんとコミュニケーションをとっている。

 食事の時は食べ物の好みを聞いたり、寝る時はちゃんと見張りにいくことを伝えてから『おやすみ』と声をかける。

 出会った頃よりは自然に接することができている、と個人的には思う。

 ただ、あんまり女性と接したことがないので正しい対応ができているかはわからない。

 それが少女となればなおさらだ。何処の馬の骨とも知れない低ランク冒険者に子どもを近づかせる親はいない。


 まあパステルを人間の少女と一緒にしてはいけないんだけどね。見た目よりか中身は大人びている気がする。

 そのせいか黙っていると時折色気のある顔を見せる。特に物思いにふける時の憂いるような瞳にはドキッとさせられる。


 おっと、俺もつい物思いにふけってしまった。

 現在午前十時頃、天気は晴れ。今日も特に異変はない。

 しかし、このダンジョンの近くにはあの毒の池がある。

 アーノルドがそこへ行った理由が池の水の入手だったならば、それなりに価値があるもので間違いない。

 とすると、もしその価値が人々の間で広まってしまったとしたら……。


 俺たちのダンジョンは池からさらに奥に進み、霧の森を抜けたところにあるとはいえ、森は迷いやすいから池を目指していたら偶然このダンジョンを見つけてしまったなんてことも起こりうる。


 確か……新たなダンジョンを発見・調査した冒険者には特別な報酬が出るはずだった。

 なので基本新たなダンジョンを見つけた者はその時の装備で出来る範囲の調査する。

 そして持ち帰られた情報をもとにギルドがその危険度などを決め、各地の支部に『迷宮案内』と言われるダンジョンの詳細が記された紙が張り出される。

 そうなると定期的にここにも冒険者が来ることになるだろう。


 DP的に冒険者が来ることは悪いことじゃない。

 ただ、今はあまりよくない。モンスターが俺しかいないからだ。

 はじめは流石にモンスターが一体のダンジョンなんてありえないと、存在しない他モンスターを警戒してくれるだろうけど、そのうち本当に一体しかいない事に気付き俺を倒すためのだけの準備を整えて攻略しに来るだろう。

 Sランクモンスターになっても中身はFランク冒険者。体術や戦術を考えるのも得意ではない。

 スキルの力で一対一なら負けない自信があるけど、世の中にはおかしいぐらい強い奴もいる。慢心はできないな。


 とにかく当面の目標は戦力を増やす事だ。

 『戦いは数』とよく言うけど、実際多彩なモンスターがいればそれだけ対処は難しくなる。

 あー、早く来てくれないかなー新しいモンスター。人材不足が深刻だ……。

 うう……また眠くなってきた……。


「おーい! エンデ!」


 むっ、パステルか。声だけで良い事があったとわかる。


「来たの?」


「もうすぐ到着するという報告が入ったぞ!」


「そうか……これは魔界的に結構早い方なの?」


「低ランクの通常モンスターなら即日送られてくることもあるらしいが、今回は高ランクのオーダーメイドモンスターだからな。早すぎると言ってもよい。そう思うと、少し不安になってきたな……。上手くいきすぎるというのも考えものだ」


「きっと大丈夫だよ。ゴルド所長は信用できる人なんでしょ? それに何かあったら俺が守るよ」


「うむ、頼りにしているぞ。では向かうとしよう」


 俺たちは第十階層に戻り、部屋で待機することにした……のだが……。

 いた。パステルの部屋にはすでに見知らぬ人影があった。

 どうやらパステルが散らかしたものを片付けているらしい。


 さて、どう声をかけたらいいものか。

 と思っていた矢先、その人物は振り返ってこちらを見た。

 丸くて大きな黒い瞳が俺たちを写す。


「申し訳ございません。挨拶もなしに片付けを始めてしまって。どうかお許しくださいパステル様」


 その人はスタッとパステルの前に跪く。

 そして頭を深く下げた。


「べ、別にそんなの構わんぞ! 頭を上げてくれ!」


 パステルは慌ててその人を立たせる。


「えーとそれでだな……とりあえず来てくれて嬉しいぞ! あのっ、えー、名前は……」


「メイリと申します。パステル様からいただいたありがたい名前です。私のことなど気にせず何なりと呼びつけてください」


「そうそうメイリだったな。改めて私の元に来てくれてありがとう」


「私などに……もったいないお言葉です」


 スクッと立ち上がるメイリ。その服装は一言でいうとメイドだ。

 黒を基調とした服に白いエプロン。動きやすいようにショートで毛先が切りそろえられている髪に白いフリルのカチューシャ。

 確かに誰かの世話をすることを求められる存在としてカッチリとはまる見た目をしてる。


「エンデ様、お初にお目にかかります。わたくしメイリと申します。これからはわたくしもパステル様のために粉骨砕身の覚悟で働きます。エンデ様も御用とあれば何なりとお申し付けください」


 メイリは俺にも頭を深々と下げてくる。

 こんなに人に頭を下げられたの初めてじゃないか……。


「お、俺なんてそんな大した者じゃないですから。そんな、かしこまってもらわなくていいんですよ。もっと気楽に気楽に……」


「わたくしとしてもこれが一番落ち着くのですが、ご命令とあらば……」


「あっ、それが良いなら別に無理しなくてもいいですよ」


 パステルも俺もお互い関わったことのないタイプの人物を前に会話がぎこちない。

 でも、かなりパステルのことを心酔しているように見えるぞ。これはモンス研が望み通りのモンスターを送ってきてくれた証拠なのでは?

 そう思う一方で、メイリは見た感じ完全に人間の女性だ。本当にモンスターなのか疑問は残る。

 本人の前で疑うようなことは言いたくないけど、まあ仕方ない。


「パステル、メイリはどういうモンスターなの?」


「うむ、一から説明しよう」


 パステルはダンジョンタブレットを覗き込む。


「まずベースはサキュバスだ」


「ええっ!? サキュバスってあの?」


「そうだ」


 方向性は様々だが皆たいてい美しい女性の見た目をしていて、その美貌で人間の男性を誘惑し自らの虜とするモンスターだ。ランクはD前後が一般的。

 戦闘能力こそ高くないものの、その魅力には抗いがたいらしい。

 特に疲れがたまっていたり、人肌の温もりに飢えている人はコロッと堕ちて精を搾り尽くされ殺されたり、一生ペットとして飼われたりするとのことだ。

 中には普通の恋人のように結ばれて、どこかでひっそり暮らすなんて話も酒場で聞いたことがある。まあ、あまり信用できる情報筋ではないが……。


「確かに美人だし、スタイルもいいけど……」


「だろう? 私の思う最高の女性のイメージがそのまま具現化されておる。包容力のある高い背にすらりと伸びた長い脚、母性の象徴である大きなおっ……胸に清潔感のある黒髪。それに露出のない引き締まったメイド服など最高ではないか!」


 なるほど俺より高い背。長袖にロングスカート、白い手袋までして極端に露出の少ない服装とか全部パステルの性癖か。

 魔界にいた頃押さえつけられていた欲求が爆発してる感じだなぁ。その頃のパステルは知らないんだけどなんとなく。


「むっ、そうだメイリ。スカートをたくし上げてみろ」

「……はい」


 主人の命令にメイリは長いスカートをたくし上げる。

 白タイツとその下のシンプルなデザインの白い下着があらわになる。

 メイリの顔はわずかに紅潮している。


「うむうむ、もうよいぞ。私の要望通り白で統一しておるな。恥じらう表情も格別だ」

「ご満足いただけたのなら幸いです」


 嫌な顔ひとつしないメイリ。

 モンス研のオーダーメイドとは性格まで自由自在なのか?

 本当は無理させてるんじゃ……。


「パステルパステル」

「なんだ?」

「ちょっと話がある」


 メイリには途中で止まっていた片付けを続けてもらい、俺たちはパステルの部屋の外に出る。


「わざわざなんだ? まさか……私がメイリにばかり構うから不安なのか? 安心しろ。お前が人としての生活を捨て魔王の私について来てくれた時、私も何を失ってもお前と共にいると誓ったのだ。嫌と言っても離さないぞ」


 パステルの表情は真剣だ。


「あ、うん、それはすごく嬉しいよ。ただ、今回は違う話で……」

「なっ! なんだと……」


 さっきのメイリとは比較にならないほどパステルの顔が赤くなっていく。


「ま、紛らわしいことをするでないわ! 口だけならいくらでも言えるというがな、本当は何度も言えない言葉だってあるんだぞ! さっきの言葉は恥ずかしいけど、エンデの為に言わないといけないと思って頑張って言ったのだからな! そうあんなこと言えんぞ!」


 彼女なりに俺のことを常に気にかけてくれてるんだ。

 人に気を遣うのも遣われるのもめんどくさいと思ってたけど、なんだか嬉しい。


「ありがとうパステル。その言葉忘れないよ」


 俺も真剣に答える。


「……なら、いい。それで話とは結局なんなのだ?」


「メイリのことさ。彼女はパステルのいうことを嫌な顔一つせず聞いてくれるけど、彼女も感情を持ったモンスターなんだから、あまり理想を押し付けすぎちゃいけない……と俺は思う。魔界の倫理観とかよくわからないからあまり強く言えないけど」


「なんだそういうことか。私もそこまで子どもではあるまいて。メイリが嫌がる事を強制したりせんよ」


「スカートめくらせたりしてたけど……」


「お前もじっくり見ていただろうが」


「そ、そうだけど、そういう事じゃなくてだね……」


 いけないと思いつつも目を逸らせませんでした。

 弁解の余地があるとするなら、俺は下着よりタイツに包まれた肉感的な脚を見ていたという部分でして……。


「うむうむ、わかったわかった。これからメイリとはたくさん話をして、好きなこと嫌なことを聞いてみるとしよう。本当の主従とは十分なコミュニケーションから生まれるのだ」


「その結果メイリさんが白より黒のタイツが良いって言ったらどうする?」


「うっ……黒か……。悪くないとは思うのだが、私がメイリに求めるものは清潔さや母性であって、その場合やはり黒より白の方が私は好きなのだ……」


「そ、そんなにこだわりがあるんだね……」


 なかなかその小さな胸の中には大きな欲望が眠っていそうだ。

 すべてはメイリ次第だけど、彼女は一体どんな人なのだろう。それを知る時間はたくさんあるはずだ。ゆっくり打ち解けていこう。

 ちなみに俺は黒タイツ派なのだが……今もうんうん悩んでいるパステルにはとても言えないなぁ。

基本的な投稿時間は0時の予定でしたがしばらくは12時でいってみようと思います。

よろしくお願いします。

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