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第15話 散らばった身体

 さて、いつまで連れていかれたパステルたちを探すふりをしたものか。

 とにかく今はこのバラバラの身体を早く調べたい。

 少々雑だが俺たち一旦冷静になった感じを装い地面に転がっている物を拾い上げる。

 そして、よく観察する。


「これは……やっぱり人間の身体じゃない」


 硬いし重い。まるで金属でできた人形の腕だ。

 しかし、良く出来ている。この暗がりで見れば完全に人間のものに見えてしまう。

 断面は……何かをはめ込むような穴が開いている。

 もしかして、この腕は切り落とされたりちぎられたりしたのではなく、元から外れるようになっていた部分が外れただけなのかも……。

 だったらもう一回組み立てられるか?


「メイリ、転がってる体のパーツを集めよう」


 二人で手分けして散らばっているパーツを集める。

 重くて持ち続けているのが大変な胴体は寝かせたまま腕と足を接続していく。

 少し緩い気がするがとりあえずは繋がった。最後に首をつければ……。


「出来た……!」


 薄暗い通路に転がっていたバラバラの五体が元の姿を取り戻した。

 何に使うのかはわからないけど、どうやら女性型の人形みたいだ。

 肌の大部分は褐色で今のメイリの肌の色に近い。


 頭頂部には動物のような大きな耳、キツネに近いか? 

 いや、それよりももっと大きい気がする。

 髪はグレーで肩ぐらいまで伸びている。前髪も長く両目が隠れてしまうほどだ。


 服装は……露出が多い。メイリの様に布が少ないどころが布はほぼない。

 胴体に関しては金色の小さな金属プレートで最低限大事なところを隠しているのみだ。

 そして、腕や足は硬いのに対し胴体には柔らかい部分も多い。こだわってるなぁ……何がとは言わないけど。


 総じて人間の様に作らているとはいえ、明るいところで冷静に見れば人間と間違いはしないと思う。

 各部の関節に人工物っぽさがよく現れているからだ。

 体をなめらかに動かすためには関節だけはああ作るしかなかったのだろう……って、この子は動くのか?


「――再起動」


「うわっ!?」

「はっ!?」


 俺は当然としてもメイリまで驚く。

 思った通り動き出した!


「――各部チェック」


 彼女の体の各部分が光を帯びたり点滅したりする。


「――損傷――活動限界レベル。――コンディション――レッド」


 無感情に言葉を呟きながら起き上がろうとする。


「――各関節にダメージ甚大。――格内蔵武器――使用不可」


 ギシギシと音を立て、よろけながらも何とか彼女は立ち上がった。


「――使用可能武器――存在せず。――クエストパック――存在せず」


 髪の隙間から白く輝く不気味な瞳が見える。


「――フェネックアンテナ――使用不可。――型式番号GKA-100『フェナメト』の現在のスペック――本来の3%。――再起動時の状態確認を終了します」


 彼女は再び静かに目を閉じる。

 そして、しばらくの沈黙……また目を開いた。今度の瞳は黒色だ。


「ん……ん? あ……僕は何を……?」


 抑揚のある人間的と言える声をあげながら彼女……フェナメトは辺りを見回す。

 そして、俺たちを視界に捉えた。


「あっ、あなた達は……?」


 こっちが君のことを聞きたいんだけど……。

 まあ、聞きたいからこそこちらから自己紹介だ。


「俺は……私はエンジェだ。こっちはメイリ。このピラミッドには黄金を求めてやって来た。しかし、仲間がさらわれてしまってね……。どうやらここは人さらいが巣食っているらしい」


 もう男口調でハスキーボイスな女で押し通すことにした俺はほとんど自然体で話す。

 女装道は生半可な覚悟で入り込めるものではなかった。


「ピラミッド……ゴールド……人さらい……あっ! そうだった僕も人さらいをやっつけに来たんだ。それで……入ってきたのは良いんだけどまともに戦えなくてバラバラにされちゃったんだ」


 フェナメトは恐ろしいことを平然と言う。


「それでフェナメトは……」


 質問をしようとして言葉に詰まる。

 聞きたいことが多すぎる。何から聞こうか……。


「あれ? フェナメトって僕のこと? なんで君たちが僕の名前を知ってるの?」


「えっ? さっき自分で言ってたけど……」


「ええー!? 僕も知らなかったのにそんなはずないよ! でも良い名前だなぁ……うんうん。次からもフェナメトって呼んでくれていいよ」


 どうやらあの無機質な声はフェナメトの意識の外にあるものみたいだ。

 彼女の仕組みや出自について尋ねても答えは返ってこないだろう。


「それでフェナメトはどうして子どもたちを助けようとしているの?」


「うーん……それが僕の覚えている役目だからかな。僕……全然記憶が無いんだ。元から無いんじゃなくて思い出せない……。人のために戦わなくちゃいけないと思うのに、戦いの記憶が無くて戦えない……。だから人さらいにも勝てなかった……」


 フェナメトはうんうんと悩みだした。


「体もこんなんじゃないはずなんだ。武器もあったはず。もっと状態は良ければ戦える……。僕は人を守るために造られた存在……。だから戦わなきゃ……戦わなきゃ……ううっ!」


「お、落ち着いて。今は僕らがいるし代わりに戦える。敵が来ても君をもうバラバラにはさせない」


「うん……ありがとう……。本当は戦いなんて好きじゃないんだ。でも、僕にはその力を与えられている。戦えない人の代わりに戦うために」


「君は自分が人に造られた存在だと知っているんだね?」


「流石にそれはね。人との違いは明確だしすぐに理解できた。それに今のボディの状態からしてずっと昔に造られたこともわかる」


「人を守るために戦う……何と戦っていたんだろう。君を造った昔の人たちは?」


「思い出せない……僕は……」


 ここで思い出させるには謎が深く大きすぎる。

 とにかくパステルたちと合流してさらわれた人たちを脱出させてからゆっくり話を聞いた方が良いな。


「フェナメト、無理に今思い出さなくても良い。今は君の造られた時代からはずいぶん未来だと思う。出会ったばっかでこんなこと言うのもどうかと思うけど……命令に振り回される必要はないよ。今は安全なところまで一緒に行こう」


「ありがとう……エンジェ」


「あー、実は本当の名前はエンデなんだ。君にはそれを明かしておく」


「え? どうしてそんな微妙な違いしかない嘘をついたの?」


「それも……後で話す。さあ行こう」


 俺はフェナメトの手を引く。関節からすっぽ抜けないように優しく……。


「あ、でもさっき仲間がさらわれたって……助けないとダメだ! 見捨てるなんて許さないよ!」


「うわっ!?」


 恐ろしい力で俺の体を地面に叩きつけるフェナメト。

 あ、あの状態が悪いボディのどこからこんな力が……。

 倒れた俺が下から見上げるフェナメトの顔は明らかに怒っている。


「フェナメト様、落ち着いてください。さらわれたというのも作戦のうちなのです」


 メイリが作戦をバラす。別にもう構わない。

 あれから人さらい側からモンスターの投入もなければ、パステルを人質に脅してくることもない。

 つまりは……。


「さ、作戦……? 僕ったらつい……ごめんなさい……」


 フェナメトが申し訳なさそうに身をすくめた時、通路の壁の一部が音もなく開いた。


「ここまでは作戦通りだぞ、エンデ」


 俺同様に俺の女装設定をほとんど忘れているパステルが現れた。

 後ろにはサクラコとナージャ、それに小さな子どもたちと眠ったままの大人たちを連れている。

 こっちがフェナメトとお話をしているうちにパステルは作戦を遂行していたようだ。


「ありがとう、良くやったよパステル。すっかり魔王だね」


「そう言うエンデはなぜ地面に転がされておるのだ?」


「これには深い事情が……」


 本当に手短にフェナメトのことの話す。

 パステルもサクラコもナージャも彼女に興味津々といった表情だが今は脱出を優先する。

 来た道を引き返し入ってきた石のゲートから出るため俺たちは移動を開始した。


「ナージャ無事で良かった」


 移動しながら元気そうなナージャに話しかける。


「ええ、みなさんのおかげです。すいません……ご迷惑かけて……」


「君の行動には驚いたけど元からピラミッドには来るつもりだった。別に迷惑ってわけじゃないけど、もうちょっと慎重に動いた方が自分のためにも良いと思う」


「はい……」


 まあ、こっちも結構勢いで危ない橋を渡ったんだけどね。


「エンデ、ピラミッドの入り口は装置を弄って開けてある。このまま脱出してまずはヒラムスの村にさらわれた人々を届けるとしよう。それから人さらいどもに対処すればよい。これだけたくさん連れていると戦うにも危険だからな」


 パステルが人を乗せた巨大なカラクリカエルを引き連れながら言う。


「そうだね。それにしても装置の動かし方がわかるなんてパステルは凄いね。魔界で習ったの?」


「……サクラコと適当にいじくりまわしていたら『正面ゲート』と書かれたランプが赤から緑に変わったのだ。だから開いたのではないかなと。もし開いていなかったら壊せばよいのだ。それよりもやけに敵が出てこないのが気になる」


 通路の天井を見るパステル。


「私たちがバラバラだったフェナメトに驚いて注意力が落ちている時を的確に狙って仕掛けてきたのだ。確実にこの通路には監視カメラが設置されているはず……。つまり、今脱出を図る我々が見えているはずなのだ。なのになぜ来ない……。トラップでもあるなら侵入時に使っているだろうし、本当に戦力が枯渇しているのか?」


「確かにそれは気になるな……」


 気になりはするが、警戒して立ち止まるわけにもいかない。

 何度も曲がり角を曲がり、ついに入り口が見えてきた。

 外から光が射しこんで輝く迷宮のゴール……そこを走り抜け俺たちは再び砂漠へと足を踏み入れた。

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