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第08話 幸運のナージャ

「それではこの出会いに感謝してぇ~、かんぱーい!」


 ナージャの合図とともに皆口々に『乾杯!』といいグラスを触れさせあう。

 今俺たちがいるのは宿泊先のホテルのレストランだ。

 そこそこ良いホテルなのでレストランもそこそこ良い。


 しかし、妙にマナーとか意識しなくてよい平民だけどちょっと小金持ち向けって感じのところだ。

 だから乾杯なんかしても問題ない。

 向こうの方に座ってるおっさんたちとか結構しゃべり声大きいし……。


 ちなみに食事は食べ放題のビュッフェ形式というらしい。

 たくさん料理が置かれた場所があって、そこで食べたいものをとって自分のテーブルに戻ってくる。そして食べ終えたらまた取りに行く。

 食べた量では金額は変わらないので、好きなだけ好きな物をいろいろ食べられるから楽しい。

 まあ、立ったり座ったりでちょっと忙しそうになる人もいるかな。


 メイリは乾杯からこの短時間でもう皿に盛ってあった物を食べて次を取りに行ってしまった。

 盛り方が綺麗で上品、そしてひかえめな量……マナーとしては正しいのだろうけど、彼女の食欲を満たすにはあと何往復する必要があるのだろうか……。


「それであの剣はどうしたのだ? 『成功の剣』……だったかのう?」


 カップに入ったスープを飲みながらパステルが尋ねる。


「流石に自分ではどうにもできない酷い汚れが付いているところもあったので、専門のお店に任せて綺麗にしてもらってます。伝説の剣だからと言って料金上乗せされるわけではないのでちゃんと払えますよ!」


 上機嫌のナージャは大盛りのサラダをバリバリ食べている。


「はっ! そういえばあの剣は皆さんの協力あってこそ手に入れられた剣ですよね。私が勝手に貰ってしまってもいいのでしょうか……?」


「あっ、いいよいいよ」


 皆一様にうなずく。

 別に『成功の剣』を完全に効果のないガラクタだと思っているわけではない。

 デスワームの体内にあっても手入れすればまた使えそうというあたり、何らかの力を宿した剣である可能性の方が高いだろう。

 しかしまあ……ナージャがこんなに純粋に喜んでるんだから取り上げることもない。

 久々に外に出てきた剣も彼女に使ってもらった方が嬉しいと思うしね。


「わーい! ありがとうございます! 私ったらなぁんてラッキーなんでしょう!」


 頬に手を当てにんまり笑うナージャ。なかなかのぶりっ子ポーズも様になる。


「俺としてはその剣よりナージャ自身の方が幸運の力を宿してるんじゃないかと思ってるが、そこんところ本人的にはどうなのよ?」


 サクラコはフォークでフライドポテトを一個一個刺してケチャップに付けて食べながらぶっきらぼうに聞く。


「ふっふーん! まあ私だってなんの証拠もないのに『幸運』を名乗ったりはしませんよ!」


 その二つ名自分で言いだしたのか……。


「ちゃーんと根拠はあります! でもそれはヒ・ミ・ツ! 私の旦那様になる人にしか言いませーん!」


 運に根拠があるってなんなのだろうか?

 クジで何度も一等を引いた経験があるとかな?


「じゃあ、ナージャちゃんは好きな人とかいるのぉ? うーん?」


「いやぁん! いませんよまだ! 今はまず自分を見つける旅の途中です!」


 ナージャとサクラコは意外と相性が良く、二人で食べさせ合いっこしたりしてキャッキャッしている。

 実際サクラコ以外じゃあの子のテンションに合わせて一緒に楽しむなんて出来ないだろうなぁ……。コミュニケーション能力の高さもサクラコの立派な武器だ。


「私としてはそろそろ……黄金ピラミッドのお話をお聞かせ願いたいのですが……」


 何度目かの着席をしたメイリが持ってきたのは……大盛りのカレーだった。昼にあんなに食べたのに……。

 それを見てサクラコのテンションが露骨に下がり場は静かになった。

 もしかしてこれが狙いだったり?


「あ、じゃあ、私の知ってる黄金ピラミッドの情報をお話ししましょうか」


 ナージャはドリンクをごくっと一気に飲み干すとふーっと息をつく。


「といっても、私自身で内部を探索したわけじゃないのですが……。あ、まず黄金ピラミッドは存在します。ザンバラから西へ、ザーラサン砂漠を西へ、そこに黄金ピラミッドは出現したんです」


「出現? その言い方だと元はなかったみたいに聞こえるけど……」


「その通りです。いくら砂漠が広大とはいえ巨大な人工物を見逃すほど探索が進んでいないワケではありません。ザンバラ以外にも小さなとはいえオアシスが点在していて、そこには人も住んでいます。だから……そのピラミッドは『出現』したんです!」


「でも……一体どうやって? ナージャの話だと人目につかずに建築するのは無理そうだし、他から持ってこれる物でもないし……」


「それは……わかりません!」


「まあ、そうか……」


「わかっていることはこのピラミッドの探索に向かった冒険者が一人も帰ってきていないという事だけです! 後はそのピラミッドは人さらいのアジトになってるなんて話もありますが……確定的なのは前者の方だけです!」


 帰ってきた者のいない砂漠の謎の黄金ピラミッドか……。

 もはやロマンを通り越してホラーだ。実際に人の命にかかわることが起きるとただワクワクしてもいられない。

 しかし、行ってみたいという気持ちは依然ある。危険だからこそ惹かれるものというのも人間にはあるのだ……あっ、俺は魔人だけどね。

 ただ、パステルは危険だから連れていかない方が良いかもしれない。

 でも、町でお留守番すると護衛で戦力が分散するから……。


「私はこのピラミッドに挑もうと思います!」


「えっ?」


 ピラミッド攻略プランを練っていた俺はナージャの声で我に返る。

 そういえばナージャってどんなスキルを持っていて、どれくらい強いんだ?

 デスワーム戦は丸腰だから逃げていただけとはいえ、そもそも丸腰でついてくる度胸がすごい。

 とはいえ、予備の武器すら準備していないのだから駆け出しの金欠冒険者……そういえば本人もそう言ってたっけ?


 まあ、冒険者として駆け出しであることと強さは必ずしも比例しない。

 騎士でも狩人でも、褒められやしないけど賊でも戦闘の経験は積めるからだ。

 ……いや、ナージャは本当に駆け出しだろう。

 あれで『実は山賊だったんですよ~』とか『騎士だったのです!』とか言われても嘘としか思えない。


「ナージャは……Fランク冒険者だよね?」


「はい!」


「他の職業の経験は?」


「ありません!」


「今までにどんな依頼を達成してきたの?」


「達成……はアレですが、今生きてます!」


「確かに生きて帰って来るのが一番大事だけど……結論から言うとナージャがピラミッドに行くのは危ないよ。やめるべきだと思う」


「ええーっ!! どうしてそんなこと言うんですか!? 私、どんなところからでも生きて帰ってこれるんですよ?」


「でも、それって運が良かっただけなんじゃ……」


 俺の言葉を聞いてナージャは急に落ち着きを取り戻し、ふふんっと鼻で笑う。


「私の幸運には根拠があるんですよ~。仕方ないですねぇ……そんなに疑うならその根拠を示してあげます!」


 ナージャは空中に文字を出現させる。ステータスだ。


 ◆ステータス

 名前:ナージャ・ソルテ・フェリーチェ

 種族:人間

 ランク:F

 スキル:【超運の身体】


 立派な名前だ。良いとこのお嬢さんだろうか?

 確かに見た目的にその雰囲気はある。

 そして、人間でランクFで……【超運の身体】?

 これと似たスキルを見た覚えがある……俺の【超毒の身体】だ。


「ナージャ! これって……」


 俺がそのスキルについて尋ねようとした時、空中に浮かぶ文字がふっと消え、ナージャが机に突っ伏した。


「うへぇ~、頭がぐるぐる~すりゅ~」


 よくよく匂いを嗅いでみればナージャは酒臭い。

 さっき一気飲みしたのはお酒だったのか。通りで発言が熱っぽいと思った。


「酔いつぶれてしまったのかナージャは」


 パステルがツンツンとナージャを突っつく。

 それに対して『う~んう~ん』と呻き声が返ってくるのみでとても話が出来る状況ではなかった。


「……とりあえず部屋に運ぼうか」


 食事を終え、料金を払い、俺たちは部屋に引き返した。

 ナージャもデスワームの素材を売り払ってお金を手に入れたので、運良く借りられたらしい安い宿からこっちのホテルに宿泊先を変えている。

 部屋は本人の希望もあって俺たちと一緒にした。


 俺たちは部屋を二つ取ってあったので一つに俺とパステル。

 もう一つにメイリとサクラコ、そして追加のナージャという割り振りだ。


 部屋に入って背負っていたナージャをベッドに寝かせ一息つく。

 彼女は初めこそ酔いでうなされていたが今は寝息をたてながら気持ち良く眠っている。

 無理矢理起こすのは野暮か。


「一度ともに戦ったとはいえ、良く他人の前でこれだけ気持ち良く眠れるものだな」


「まあ、人を見る目に自信があるんじゃないかな? 実際、俺たちは何もしないし」


「ふふっ、人などここにはおらんのだがな。見る目があるのだかないのだか……」


「んでさぁ、ナージャのあのスキルは何なのよ?」


 サクラコがしびれを切らして一番の疑問に触れる。


「エンデ様の【超毒の身体】と似ているようで、あまり似ていないとも言えます。ランクはFのまま、種族も人間のままですから」


 メイリが明快に答える。

 俺は【毒耐性?】のスキルが【超毒の身体】に変化した時、同時にランクと種族も変化した。

 ナージャも何か変化した元のスキルがあるのだろうか?

 それとも普通のスキルで名前が似ているだけなのだろうか?

 『超運』とはなんなのだろうか……?


「うーん、明日本人に聞くのが一番だね」


 結局出した結論はそれだった。

 考えたって意味がない。俺に『超○の身体』のスキルに関する知識があるわけじゃない。

 だからこそ、似たようなスキルを持つナージャが現れて驚いたんだ。

 もしかしたら、俺のスキルにはただの偶然ではなく何か解き明かせる謎があるのか?

 その疑問も明日ナージャから話を聞けば解消されるかもしれない。でも……。


「……まあ、なんとなくだけどナージャは何も知らなさそうだよね。『物心ついた時からこのスキルです!』とか言ってきそうだ」


「そうだな」

「まあなぁ」

「そうですね」


 当たり前のように全員同意。

 その後、話は今日のザンバラ観光の話題へと移り変わっていった。

 少しだけ話して寝る予定だったが、みな初めての町に来た時特有の疲れも忘れて語り合った。

 砂漠の町の夜は更けていく……。

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