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第06話 砂漠の冒険者ギルド前

「ほら、サクラコ。果物の果肉入りのアイスですよ」


 メイリが露天商から買ったアイスをサクラコに渡す。

 【氷魔術】が使えれば暑いこの町でもキンキンに冷えたアイスを売ることが出来る。食べていくのに困らないだろうな。

 まあ、そもそも【氷魔術】は結構レアなスキルだからどこでも重宝されるけど。


「おっ、ありがとう!」


「礼には及びません。さっき勝ち取った賞金で買った物ですから。サクラコが無謀な挑戦をしなければ手元になかったお金です。それにここまでの移動で頑張ってもらいましたからね。私からのささやかなお礼です」


「ああ……美味いなこれも。メイリ姉さん一生ついて行きます!」


「姉さんはやめてください」


 例の人気料理店から出て俺たちは冒険者ギルドに向かっていた。

 このザンバラ周辺の情報を知るのならばやはりそこに行かなければ始まらない。

 とはいえ、冒険者ではない俺たちがギルドに入って良いのか?

 構わない。だって依頼を持ち込みに一般人も普通に出入りするからだ。


 ただ、冒険者にしか明かされない情報というのはもちろんある。

 なので俺たちの情報収集に協力してくれる本物の冒険者がいればそれに越したことはないのだが……見ず知らずの者にそこまで協力してくれる冒険者に運よく出会えるとは思えない。

 しかし、今ギルドは他の町から来た冒険者で溢れているだろうから、その中に何食わぬ顔で入っていけば浮足立った者から多少情報を聞き出せたりするだろう。


「んでさ、そもそも情報つっても何の情報が欲しいんだ? 金の砂の発生源? それともマカルフでウワサになってた黄金ピラミッドやら黄金装備やら金塊のありかか? 金の砂は実際に見たし発生した場所や理由があるんだと思うが、黄金に関してはウワサに尾ひれがついた感があるんだよなぁ」


 サクラコはアイスをべろべろ舐めながら話す。


「そのウワサの真偽を確かめるのがまず一歩かな。本当ならとっても面白いんだけどね。黄金装備とかすっごく強そうじゃない?」


「俺は見てくれだけのポンコツってイメージがあるな。まあ、装飾品としては価値がありそうだし、売れば金にはなりそうだ。人間社会の金も集めておけば何かと動きやすくなるし、金塊があればもって帰りたいもんだな~」


「私としては戦力増強にゴールデンゴーレムでもいないかなと思っているのだが……」


 みんなの目標はバラバラだ。

 まあ、防衛の準備だけを整えて勢いで来たのだから仕方ないが。


「何はともあれ、これは旅行でもあるんだからまず楽しむ事だな。効率ばかり気にして無駄を楽しめなくなったら意味がないからな」


 サクラコが先輩風を吹かせながら話題を締めくくる。

 実際このパーティで一番いろんな町に行ったことがありそうなのはサクラコくらいだ。


「しかし、ただ楽しんで終わるだけで満足するのもいけません。パステル様が魔界で必死の思いをして勝ち取った勝利特典で今私たちはダンジョンを空けられているのですから、何かしらの成果を得なければならないのも事実です」


「無駄を楽しむことと目的を果たすことは両立できるのさメイリ。さぁ、冒険者ギルドが見えてきたぜ! ここからは当たり前のように魔界とかダンジョンとか言うの禁止な!」


 辿り着いたギルドの前は人でごった返していた。

 混んでるのは覚悟していたけどギルドの前までこんなになってるのか……。


「これ本当にギルドに用がある人でこうなってるのかな?」


「いや、どうやら揉め事のようだぜ」


 サクラコが指差す先には三人の女と金髪碧眼の女の子がいた。


「お嬢ちゃんこの町に来るの初めてだろう? 私たちと一緒に楽しく遊ぼうじゃないか……うふふっ」


 金髪の少女にちょっかいを出しているのはガタイの良い女だ。

 浅黒い肌に盛り上がった筋肉と傷は彼女の冒険者としての経験を物語る。


「私は遊びに来たんじゃありません! 冒険者として黄金の謎を解明しに来たんです!」


「だから私たちが一緒に冒険者ごっこに付き合ってあげようって言ってるんじゃないの。このBランク冒険者ケセルダさんがね。なぁ、あんたたち?」


「はい! ケセルダ様大好き!」

「はい! ケセルダ様大好き!」


 取り巻きの二人の女は小柄だが彼女たちも並の冒険者ではなさそうだ。


「ごっこじゃないです! 私はれっきとした冒険者……きゃ!」


 ケセルダが女の子の腕をぐっと掴む。


「白い肌に金色の髪……これだけでもこの町では珍しい。それに加えて青い目に美人ときた……。お嬢ちゃんは私たちにとっちゃあるかどうかわかんない黄金よりよっぽど価値があるんだよ? 高く評価してるんだ。ほら一緒に来な!」


「いやっ! 離してっ! えいっ!」


 女の子はケセルダの手を振りほどきドンッと突き飛ばす。


「おっとっと……」


 ケセルダがよろめいた時、どこからともなく彼女の足元にビンが転がってきた。


「うぉ!?」


 まるで狙い澄ましたかのように彼女はそのビンを踏み、すっころんで後頭部を強打する。


「あ、が……ぎゃ!!」


 仰向けに倒れ込んだ彼女の頭に今度はどこからか植木鉢が降ってきた。

 前頭部も強打し、ケセルダは気絶してしまった。なんと運が悪い……。


「あっ、ラッキー……じゃなくてごめんなさい! 大丈夫ですか!?」


「この女、調子に乗りやがって!!」

「ちょっと痛い目見てみるかぁ!?」


 残った取り巻きの女二人が女の子に迫る。しかも、武器に手をかけている。

 一応冒険者なのに……暑さで頭がやられたのかな?


「サクラコ」


「言われなくても」


 なかなか暴走するBランクパーティを止めに入れる人はいないだろう。

 目立ってしまうが人助けだ。


「そのくらいにしときなよお姉さん」


 サクラコはムチで剣を抜こうとした女の足を絡め捕り、地面に倒れこませる。


「ぐえっ!? なんだてめぇ!?」


「女の子同士でお近づきになりたいのならもっとお上品な言葉遣いとかわいい見た目にこだわるべきだ。力じゃなくてね。まあ、まずはその服を何とかしないと」


「ん? あっ! いやんっ!」


 誰の目にも留まらぬ早さで女の服の一部は溶かされていた。

 そのまま女は地面にうずくまり動けなくなった。


「エンデそっちは?」


「もう大丈夫」


 俺の方も掴んだ女の腕から麻痺毒を浸透させ、体の自由を奪った。

 もう首から下は自由に動かない。


「あ……体が……動かねぇ……」


「急に頭に血が上ればそうなりますよ。それにここは暑いですから。ほら水を分けてあげますからこれで頭を冷やしてください」


「こりゃどうも……」


 俺はビンに入った水を女に飲ませる。


「……あっ、本当だ! 体が動くようになったわ!」


 まあ、水じゃなくて解毒薬だからね。

 毒と薬を扱いやすくするために最近持ち歩いている空きビンに素早く生成して入れておいたのだ。


「ほらこっちの人も道端で寝てたら踏まれちゃいますよ」


 気絶しているケセルダの方にも水を飲ませる。

 こっちはキュアル回復薬。頭部を二回強打は流石に死にかねない。

 というか死んでないよね……?


「……んぁ? 私はいったい何を?」


 ケセルダは目を覚ます。良かった良かった。


「ケセルダさん! やっぱり悪いことはしちゃいけないっすよ! こんなに運の悪いことが続くなんてやっぱり神様は見てるんすよ!」

「今回のところは大人しく引き下がりましょう!」


 取り巻き二人が頭であるケセルダを説得する。

 それをキョトンとした顔で聞いていたケセルダも次第に記憶を取り戻しばつの悪そうな顔になっていく。


「あぁ……お嬢さん、君の魅力に頭をやられて少々熱くなってしまったよ。すまなかったな」


「いえ、謝って下さるならそれ以上はいりません。仲直りの握手です」


 女の子は自分から片手を差し出す。


「ありがとう……」


 ケセルダがその手を握り返す。


「これで仲直りです」


「……うふふ」


 なかなか手を離さないぞ……?


「やっぱり小さくて柔らかくて……戦いばかりの冒険者とは違う手だ……。離すのが惜しいよ……」


「だ・か・ら! れっきとした冒険者なんです!」


「あーあーごめんなさい! 私たちかわいい女の子大好きだからね~! こうなっちゃうんです! ほらケセルダ様行きますよ!」


「皆さんお騒がせしました~! すいませ~ん!」


 女三人は騒がしく去っていった。

 野次馬たちも騒動の終息を見たので散り散りになっていく。


「あのっ! さっきは助けていただきありがとうございました!」


 金髪の女の子はぺこりと頭を下げる。


「いえいえ、そんな大したことしてませんよ。向こうも根っから悪意で来てた訳じゃなさそうですし」


 この子……間近で見ると本当に人形みたいな精巧な美しさをしている。

 パステルとはまた少し違うタイプの人を惹きつける魅力がある。


「いやっ! 何かお礼をさせてください! なんでもいいですよ!」


 お礼か……。彼女はれっきとした冒険者らしいし出来れば情報収集に協力してほしい。

 しかし、協力関係を結ぶにはこちらの正体を明かす必要があるだろう。正体不明の奴は信用されないからね。


「んー、じゃあちょっと人気のないところまで来てくれるかな?」


 当たり前だけど魔王の軍勢とは明かせない。

 彼女みたいなタイプには俺たちが事前に考えておいた『ある設定』が通用しそうだ。

 ただ、そっちの設定も人の多い場所でおおっぴらに話す事ではない。


「ひ、人気のないところっていうのは……もしかして……」


「いやいや! そういうやましい意味じゃないよ!」


「そうですよね……。そんなに女の人たちを連れてるんですから私なんていりませんよね!」


「そういう意味でもないんだけど……」


「いやー勘違いしちゃった! 私を助けてくれた時のあなたの動きがなんだか芝居がかって見えたのもあって、もしかしたら三人組とグルで私をナンパしようとしてるんじゃないかと思ってたところなんです!」


 うっ!

 やっぱり毒を喰らわせてから解毒するスタイルはどこか不自然な動きに見えるか……。

 武器を抜こうとしてる相手の前に立ちはだかって動けなくしたところで水を飲ませて治してやるって変だもんね……。

 彼女の発言に対する言い訳が思いつかないので、そのまま黙って人気のない路地に入る。


「それで実は、俺たちはこのお嬢様……パステルのお付の者なんだ。俺はエンデ、こっちの大きいお姉さんがメイリ、小さいお姉さんがサクラコ。お忍びで黄金の謎を追い求めてザンバラまでやってきた。でも俺たちは腕に自信はあるが冒険者ではなくてね。どう情報を集めたものかと悩んでいたところ、君のような秘密を守りつつ我々に協力してくれそうな聡明な冒険者と出会ったんだ」


 名付けて『お嬢様と従者のお忍び旅行作戦』。

 これならこの奇妙な集団にも説明がつくし不自然さが無い。

 だって『魔王様』を『お嬢様』に入れ替えただけでほとんど嘘じゃないからね!


 まあ、普通の冒険者ならむしろこの言葉を聞いてより俺たちを怪しむと思うけど、彼女みたいなタイプはきっと……。


「お、お嬢様……お忍び……素敵! だからそんなへんちくりんな格好してるんですね! お嬢様の変装ってワケだ! すごーい! 私に出来ることならなんでも協力させてください!」


 うーん、利用しといてなんだけどやっぱり冒険者向いてないよね……。


「あっ! 私の自己紹介がまだでしたね! 私はナージャです! Fランク冒険者ですけど、『幸運』のナージャって呼ばれることもあるんですよ! ……そんな私からもお願いなんですけど」


 ちょっと顔を俯かせ、恥じらいの仕草を見せるナージャ。


「お恥ずかしながら一本しかない自分の剣を砂漠に住むモンスター『ザーラサンデスワーム』に飲み込まれてしまったんです。皆さんを強いと見込んでお願いします! まずは私を助けてください! 買い替えるお金もないんです! うぅ……」


 ぜんぜん『幸運』じゃなくてむしろ『不幸』じゃないか! 

 まあ、しかし俺たちにもこの町では今のところ明確にやることがない。

 ここはナージャのお願いを聞いて彼女との絆を深めるとしよう。

 それに砂漠のモンスターの強さも気になる。

 『ザーラサンデスワーム』……名前からしてヤバいが果たして……。

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