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第05話 モンスターを手に入れよう

 第十階層のパステルの部屋に到着。

 パステルは机の上に置いてあった薄い板のような物を手に取る。

 長方形で黒色、(ふち)は赤だ。


「それは?」

「ダンジョンタブレットだ。ダンジョンコアの前でなくともこの板を使えばいろいろな事ができる」


 説明を聞いてるうちに板の黒かった部分が白く発光し、なにやら記号のようなものがたくさん現れた。


「気になるとは思うが、今はこちらを優先するぞ」

「どうぞどうぞ」


 板に表示された記号に直接触れてパステルは何かをしている。

 すごく気になるけど今は我慢だ。


「よし、接続するぞ」


 再び板が黒くなる。

 数秒間それが続いたかと思うと、急にパッと丸メガネをかけた男の顔がいっぱいに表示された。


「おやおや! これは誰かと思えばパステル・ポーキュパイン様ではありませんか! お初にお目にかかります。私、モンスター深層研究所所長のゴルドと申します」


 二イッと真っ白い歯を出して笑う男。

 年は読めない。シワがそれなりに刻まれている顔だが、なんというか生命力に溢れている。板……タブレット越しの顔だけで威圧感がある。


「まさか所長自ら対応してくれるとはな。基本問い合わせに対する対応はスタッフがすると聞いていたぞ」


「多忙を極める私とて多少の隙はありますよ。まあ、このように自分から仕事で埋めてしまうわけですが、ハハハ!」


「ご苦労なことだ。それで本題だが……単刀直入に言うとモンスターを注文したい」


「パステル様……勤勉なあなた様なら知っておられると思いますが、モンスターの購入にはDPが必要でして……。お気持ちはわかりますが、ルールですので」


「あるぞ。DPなら」


「ほ?」


 ゴルドは視線を下に動かし何かを確認しているようだ。おそらくパステルの持つDPがあちら側にも見えているのだろう。


「ほほっ! これはこれはとんだ無礼を……申し訳ございません!」


「別にいまさらよい。どうせ、戦う能力もDPを稼ぐ能力もない落ちこぼれの私が泣きついてきたとでも思ったのだろう?」


「……はい、その通りでございます!」


 ゴルドに悪びれる様子はない。


「パステル……ちょっとこの人失礼過ぎないかい?」


「それだけ私は魔界で有名人なのだ。こればかりは仕方ない。ただ、そういう気遣いは嬉しいぞエンデ」


「パステル様、無礼ついでに教えていただけませんか? どのようにしてこれだけのDPを獲得したのかを」


「いいだろう」


「いいの? ……正直胡散臭いんだけど」


 小声でパステルに伝える。


「DPを持っているとわかった今、私とゴルドは取引相手だ。そうなるとこの男ほど信用できる者はおらん。安心せい」


「ほほっ、隣に誰かおられるようですね。ということはすでに人間界にいるモンスターとの契約によるDP獲得ということですかな?」


「察しが良いな、そのとおりだ」


 パステルは俺と出会った経緯をゴルドに全て話した。


「ほほほほほほっ!! 人間からモンスターになった男でございますか! それ自体は前例がないワケではありませんが、自らの意志で望んでなったのではないとなれば大変珍しい現象でありますな!」


「自ら望んでモンスターになる人間がいるのか?」


「はい、それなりに。理由はやはり強さを求める故というのが多いですねぇ。モンスターと戦うためにモンスターになるという虚しい例もあれば、人間同士の戦いに負けない為にモンスターの力を欲するという愚かな例もあります。そんなことをしても手に入る力は一時的な物、最後には狂って知性の無い怪物になってしまうのがほとんどだというのに……」


「強制的にモンスターにされた例は?」


「ある種の呪いで一時的にそうなってしまうことはありますね。しかし、完全に変化するとなると本人にその意志が必要になります。拒む者はモンスターになれないか、死んでしまうか……恐ろしいことです。モンス研では生きた人間を使った研究は行っていないので、あくまで人間界各所の魔王からの報告例ですが」


「ふむ……。エンデの中身はまんま人間だな。出会った時もモンスターになった事に気付いていなかったぐらいだし、そうなりたいという意志があったとも思えん」


「はい、大変珍しいことです。おそらく初めての現象かと。私としては一度調べてみたいという欲求が抑えがたいのですが……そこは我慢いたしましょう。なんといってもパステル様のモンスターですから」


「うむ、その通りだ。渡さんぞ」


「……さて、本題に入りましょうか。モンスターの購入でよろしかったですね?」


 タブレットに何体かモンスターらしき絵が表示される。すごいな、まるで生で見るみたいに綺麗で精巧な絵だ。


「オススメは? ダンジョンの防衛に使う予定だ」


「そうですねぇ……。パステル様を守るためというのならば、高ランクモンスターは向きませんね」


「え? どうして向かないんですか? DPが足りないとか?」


 あっ、思わず直接ゴルドに話しかけてしまった。


「ほほっ! エンデ様ですか!? もっとよく顔をお見せください!」


「は、はい」


 パステルと顔を並べてタブレットを見る。


「ほほぉ……これはなかなかイケてるメンズでございますねぇ!」


「ど、どうも……」


 面と向かって話すと気圧されてしまう。

 堂々と話してるパステルは凄いな。初めて魔王としての威厳を感じたよ。


「実際高ランクモンスターであらせられるエンデ様にはわからなくて当然でございますね。説明いたしましょう!」


 ゴルドはコホンと咳払いをする。


「モンスターは高ランクとなると戦闘能力と共に大抵知能も高くなります。そして、自分の強さに自信やプライドを持つようになります。決して悪いことではないのですが、時にそれが争いの原因になる事はエンデ様にも理解できるでしょう?」


「ええ、まあ」


 プライドというか名声の為に池に沈められたばかりだからねぇ……。


「モンスターというのは強さを基準に物事を見がちです。自分より弱い対象には舐めた態度をとったり、見下すなんてことは日常茶飯事。そしてそれは主人となった魔王に対しても同じ。意外と多いんですよねぇ……成績優秀な新人魔王が特典のDPで身の丈に合わないモンスターを買い、魔王の座を乗っ取られるなんてこと」


「要するにパステルは弱すぎて強いモンスターが従ってくれないってことですか」


「残念ながらそういう事です」


「Sランクの俺がいてもダメか?」


「あなたがいる時は大人しく従うでしょう。気に入らない相手でも強い者にはそれなりの敬意を払うのがモンスターです。しかし、あなたが休んでいたり出かけている時にパステル様を守らせることを考えると……」


 先生の見ていないところでいじめる、みたいな事になりかねないのか。


「なら低ランクモンスターにするしかないですね」


「まあどちらかといえば……ですがね。低ランクと言っても群れを成すタイプのモンスターだと本能的に弱いものを下に置こうとしますからねぇ……。人気の高いオオカミ系のモンスターなどは危険かもしれません」


「じゃ、じゃあもっと低ランクに……」


「ただランクを下げ過ぎると今度は知能が低すぎて『動くものを攻撃するだけ』だとか『食欲を満たすために動くだけ』など、人間の集落を襲う際に数合わせに入れておく程度のモンスターになってしまいますので……。これらは逃げ惑う一般人を襲ったり、数の多さで心理的恐怖を煽ることには効果的ですが、わざわざダンジョンを攻略しようなどという人間には大して意味がないかと」


「じゃあ、どうすれば……」


「すまぬエンデ、私が弱いばっかりに高いDPを払ってオーダーメイドモンスターを注文しなければならんくなった」


「ほほっ、やはりそちらが本命でございましたか」


「私を舐めてもらっては困るな。私に従ってくれるモンスターなどそうそういないなどという事は人間界に来る前から調べがついておったわ。何年情けない人生を送ってきたと思っておる!」


 それに自信やプライドを持っていいのかパステル……。

 って、オーダーメイドモンスターってなんだ?


「ほほほ……それは御見それしました。それではモンスターに求めるものを記入していただく為のテキストをお送りいたしますので、そちらに詳細なご要望をお書きください。対応は専用のスタッフが二十四時間おりますので、いつでもご質問やテキストの送信をしていただいいても結構です」


「うむ、わかった。忙しい中丁寧な対応感謝するぞ」


「いえいえ、こちらこそパステル様と直接お話で来て感激しておりますよ! これだから現場に出るのはやめられない……ほほっ! それでは失礼させていただきます!」


 タブレットからゴルドの顔が消え、再び黒に戻った。


「はぁぁぁぁぁぁ…………」


 会話が終わった途端、パステルは空気が抜けたようにぐでーっとベッドに沈み込んだ。


「ウワサには聞いていたがゴルドという男……オーラがある。疲れたぁ……」


「お疲れ様。あまりにも堂々と話すから無理してるようには全然見えなかったよ」


「本当か? 口の中も渇いていつ話せなくなるか、私はひやひやしていたぞ」


「俺には威厳たっぷりの魔王にしか見えなかったよ」


「そうか? まあ……なら良しとしようか」


 パステルはうつ伏せに寝転んだまま足をパタパタする。


「それで疲れてるところ悪いんだけど、オーダーメイドモンスターについて教えてもらえない?」


「いいぞ。ただし朝食を食べてからな」




 ● ● ●




「パステル・ポーキュパイン……ほほっ!」


 目の前の装置から少女魔王の姿が消え、音声の接続も切れたことを確認してからモンスター深層研究所所長のゴルドはつぶやいた。


「まさか、あの娘が我が研究所に正当な方法でモンスターを注文してくるとは……」


 ゴルドは拳を握りしめわなわなとふるえる。


「素晴らしいことではありませんか! 感慨深い! あの出来が悪くて有名な子がねぇ……」


 涙を流して喜ぶゴルドは、ポケットからパステルの持つタブレットより小さな板のような物を耳に当てる。


「あっ、スダーくん? わたくしわたくし、そうそうゴルドだけど今とびっきりビッグなオーダーメイドの注文が入ったからそっちに付きっきりでお願いできない? え? 今のプロジェクト? そんなの一時凍結でいいから。うんうん、ええ、他から人員を引き抜いても構わないですよ。大丈夫、そんなに長い期間拘束はしないから。早く届けないといけないクライアントでねぇ。じゃ、詳細はそっちに送られるようにもうなってるから、お願いしますよ」


 有無を言わせず板に向かってまくし立てたゴルドは満面の笑みだ。


「さぁて、弱者に従う強者という難しいオーダーですが応えさせていただきますよ、パステル様。最弱魔王がこれから引き起こすビッグな大番狂わせにぜひとも我が研究所製のモンスターをお使いください……ほほほほほほっ!! これで研究所の評判もうなぎ上りといきたいものですねぇ!」


 ゴルドはしばらく一人で笑った後、また小型の板を耳に当て誰かとの会話を始めた。

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[良い点] こんなに言動が胡散臭いやつが弱い人の味方になってるところ
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