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第02話 砂の都へ

 黄金の風が吹いてから町は……にわかにざわめきだした。

 西から吹いてくるいつもより激しい砂を含んだ風。

 通常ならば農業で成り立っているマカルフにとっては悩みの種。


 しかし今回の砂には金が混じっていた。

 集めて金塊にして金稼ぎをするのは難しそうだが、それでもこの異常事態は人々の興味を惹いた。

 なぜ混じっているのか、誰がこんなことをしたのか、そもそも何の意味があるのか?

 誰しもの頭に疑問は浮かぶが、西の砂漠から遠く離れたこの町ではその理由を知ることが出来ない。

 

「黄金のピラミッドが現れたらしい」

「砂漠から黄金の装備を持ち帰ってきた者がいるらしい」

「金の砂ではなく金塊を見つけて大金持ちになった者がいるらしい」


 そんな嘘か真かと聞かれれば大半が嘘だと言いそうな、しかし本当ならば壮大なロマンがあふれるウワサが町で流れ始めた。

 好奇心……謎を追い求める冒険……『冒険者』という言葉に込められた本来の意味を思い出す者は少なからずいた。


 西には広大なザーラサン砂漠があり、そこを探索するのならば砂漠の都市ザンバラを拠点にするのが一般的だ。

 冒険者たちは西を目指した。謎を追い求め、そして金を追い求めて……。


 まあ、その結果……俺たちのダンジョンに来る人は減った。


「マカルフの町の冒険者が結構な数西に向かってるみたいだぜ? 冒険者だけじゃなくて金持ちも観光で向かってるって話も聞いたなぁ。なんでもザンバラは観光都市として発展してるらしいし」


 町で得てきた情報を話すサクラコ。


「俺たちのダンジョンに来たこともある炎と風の旋風を使う双子を覚えてるか? あいつらも黄金を求めてザンバラに行くらしい。今までの貯金を切り崩して町から町へ馬車なんかも利用しつつ移動するんだとよ。あいつらなかなか野心家だよなぁ。このダンジョンにも二番目に来たし」


「ああ、彼女たちですか……。水の魔術師がいないと水資源の乏しい砂漠では苦労すると本には書いてありましたが大丈夫でしょうか?」


 双子と戦った経験のあるメイリが興味を示す。


「向こうでパーティを組んでくれる人を探すってさ」


「水魔法が重宝される砂漠の町で水魔術師を探すのか……。なかなか若手冒険者と組んでくれる奴はおらんだろうなぁ……」


 パステルも初期に攻略に来た印象深いパーティは覚えているようだ。


「で、俺らの旅行の準備はどうなんだよエンデ」


「ああ、もういつでも行けるよ。リビングアーマーやソウルドッグには俺たちがいない時用の命令をしっかり教え込んだ。食料も十分、資金も十分、そして移動手段も……ある!」


 俺は『ある物』にかけられた布をはぎ取る。

 中からはシンプルな形の馬車が現れた。屋根もない安物だが多少頑丈な物にはしておいた。


「ほぉ~馬車か? 立派なもんだなぁ……って俺が町で買ってきたんだがな、これ。しっかしよぉ、馬も調達しなくて良かったのか? 流石に無知なエンデ君でも馬車は馬が引っ張らなきゃ動かない事は知ってるだろ?


「もちろんだよ」


「じゃあ、馬型のモンスターにでも引かせるのか? 確かにそれならパワフルでタフだし戦力にもなるが……町で観光するときに隠す場所に困るんじゃないか?」


「馬もモンスターも使わない。この馬車を引っ張るのは……サクラコ、君だ!」


「えっ」




 ● ● ●




「まったくスライム使いが荒いぜ! まあ、俺にしか出来ない事だから仕方ねーけどな!」


「もしサクラコが疲れたら今度は俺が引くよ。サクラコよりかはスピードは落ちるけど体力には自信がある」


 すでにダンジョンの外へ出て馬車ならぬスライム車の準備を始める俺たち。

 食料や水、お金類は詰み込んだ。俺とメイリは馬車の席に座り、パステルが御者の位置に。

 サクラコは馬の位置で体と馬車を器具でつないでいる。


 なんだか傍から見れば彼女が雑に扱われているように見えるかもしれないけど、彼女はこの中で一番足が速い。

 スライムの弾力を生かしたダッシュは馬よりもずっと速く、荒れた土地でも問題なく進める。

 それに馬車に乗っている俺たちも何もしないわけではない。


 パステルは覚えたばかりの【全強化付与】でサクラコを強化。スピードと持続性をさらに上昇させる。

 その為の御者のポジションだ。

 メイリは【風魔術】を馬車の周囲に展開し空気抵抗を軽減させる。これによりスピードも上がるし、周囲から何か飛んできた時の防御壁にもなる。

 さらに彼女は【水魔術】の上位スキル【深水魔術】も扱える。これで水分補給はバッチリだ。


 そして俺エンデは……馬車の車輪のハブの部分に『ガマウルシ毒』をコーティングした。

 これで車輪は通常より軽快に回転するはずだ。

 あと何か怪我したら回復薬を出せる!

 ……それくらいですかな。あっ、サクラコが疲れた時の交代要員でもある。


「さぁ、準備は万全だな? 忘れ物はないな? そう簡単に取りには帰れないぜ!」


 サクラコはみんなでお出かけということでテンションが高い。

 かくいう俺も期待とか不安とかが入り混じってなんとも落ち着かない!


「はい、積み荷のチェックは完了いたしました。すべて計画書どおりです」


「私も銃と盾それに修羅器が……良し、ちゃんと持ってるぞ!」


 メイリは冷静に荷物の確認を追える。

 パステルは脚をバタバタ揺らして出発が待ちきれないといった様子だ。


「エンデ、ダンジョンのボスとして防衛モンスターの準備はしっかりしてきたか?」


「大丈夫だよサクラコ。アンデッドたちは下層に配置してあまり前に出ないようにした。一階層だけなら俺たちはいなくても機能する。何かあれば俺が戻って絶対にダンジョンを守るよ」


「良し……確認完了! じゃあ、『時は金なり』っつーことで出発だ! 初めはとばすぜ! しっかり掴まってろぉ!!」


「強化を使うぞ! 加速しきるまでが一番力がいるだろうからな」


 パステルからオレンジの光を受け、サクラコは加速を開始する。

 初めはゆっくり、そして徐々に弾力を生かして跳ねるように前へ。


「風を制御します」


 メイリも手を前にかざし魔法を使用する。

 すると、スピードが出始めたというのに風で髪がなびかない。体でも風を感じなくなった。


「すげぇなメイリ! ただ、加速してるのに風を感じないってのは風情がないなぁ!」


「わからなくもありませんが、この方が速いですし安全です」


「ふっ、わかってるよ! 何か飛んできたらパステルに致命打だからな!」


「私だけでなく馬車を壊さない為にも必要なことなのだぞ!」


 みんなの会話を聞きながら流れていく景色を眺める。

 これから俺たちは日の出ている間は休むか人気のないところを進む、もしくは途中にある町に立ち寄って方角の確認、情報の収集をする。


 そして、夜は堂々と人間の使っている街道を使う。

 夜なら普通の人間の馬車はいないし、いても隠れるのが容易だ。

 それにこっちも一応馬車なので、自然の中を進むよりも少しでも整備された道を行った方が負担にならないし速い。


 この移動計画は結論から言って上手くいった。

 普通の移動手段なら数十日はかかるかもしれないところを数日で俺たちは目的地に辿り着くことになりそうだ。

 何よりも褒め称えるべきはサクラコだ。終始笑顔でずっと馬車を引いてくれた。


 道中野生のモンスターと出くわしてもスピードで振り切れるのは大きかった。

 普通の馬車なら生きるか死ぬか、戦力がいたとしても脅威を退けてから再出発までに時間を要するだろう。

 それを完全無視でやり過ごせたのは彼女……じゃなくて彼のおかげだ。

 流石男の娘……じゃなくて男の子、いや漢かな?


「熱くなってきたな。それに空気も乾燥してきた。砂も……感じるな。もうすぐだ」


 サクラコはさらにペースを上げる。


 周りには背の高い植物が少なくなり、大地も乾燥している。

 日差しが強くなり、空気からもカラッとした暑さが伝わってくる。


「あの丘に登ってみようぜ!」


 サクラコは小高い丘をかけ上る。

 そしてそこで馬車を止める。


「見えた! あれだ! 砂の都ザンバラ!」


 俺たちも馬車から降り、サクラコの指差す方向を見る。


 遠くに見えるその都はまさに砂漠の中に広がるオアシスだった。

 無数の白い壁の建物が日の光を受けて輝き、水が流れ、植物の緑も見える。

 そしてそこに生きる人々も無数の点として動いている、生活しているのがわかった。


「さあ、早く行こうぜ!」


「あっ、ちょっと大丈夫なの?」


 ひたすら先を急ぐサクラコを心配しつつ、彼女はまだまだやれるというので任せる。後で何かお礼をしないとね。


 眼前に迫る砂の都ザンバラ……砂漠から吹く黄金の風の謎……。

 胸が高鳴る。俺の中にもまだ残っていた冒険者の心が!

 でも浮かれてはいけない。今の俺は冒険者ではない。

 俺は毒魔人エンデ、魔王パステル・パーキュパインを守るボスモンスターだ。

 だから……守りつつ楽しむとしよう。今回の冒険を!

こちらの世界も暑い話になりそうですね……(汗)

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