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第01話 期間限定ダンジョン門番

 今日も爽やかな朝だった。

 その理由はハッキリしている。俺が夜中の見張り当番ではなかったからだ。

 ぐっすり眠れればそれは朝も爽やかに感じるというもの。


 では、寝ずに見張りをしてくれたのはメイリ? サクラコ? まさかパステル?

 どれも不正解! 正解は……。


「今日もご苦労様、ヘルリビングアーマー」


 朝になったので第一階層から引き返してきた黒い鎧に声をかける。

 リビングアーマーとは要するに鎧だけのモンスターである。鎧に魂が宿り、独りでに動く……そんなちょっとホラーな奴だ。

 長所としては鎧だけあって高い防御力、そして重い武器でも振り回せるパワー。

 短所は動きが鈍いことと意思の疎通がやりにくいこと。基本的にリビングアーマーは主の命令は理解するがしゃべらないのだ。


 このダンジョンにいるのはリビングアーマーの中でも上位種の『ヘルリビングアーマー』。ランクはA。

 パステルが戦った新人魔王エキシビションマッチの勝利特典として期間限定で派遣されたモンスターだ。

 特徴はリビングアーマーと大体同じだが、装甲が黒く分厚く硬いこと、装甲の隙間からは赤い炎のような魂が見え、暗がりで非常にカッコいいことは『ヘル』の特有の部分。

 あと全体的にパワーも高く、動きも下位種に比べると機敏な方だ。


 この亡霊の鎧たちが今ここには四体いる。

 基本的にこのダンジョンに稼ぎにくる冒険者たちの相手をするには強すぎるので日中は第七階層で上の階層にある植物園や生活空間を守っている。

 夜になって冒険者が来なくなると四体のうち二体をダンジョンの入り口に配置。侵入者に備える。


 基本的にリビングアーマーは攻撃してきた相手か、ダンジョンの奥へ向かおうとする相手しか攻撃しないので洞窟と間違ってダンジョンに入ってきた迷い人を即死させることはない。

 それに攻撃してきたにしても一定以上の威力でなければ殺さず追い返すように命令している。

 まさに門番、守りに特化したモンスターと言える。


 他にも特典でダンジョンにやってきたモンスターがいる。

 『ソウルドッグ』と言われる霊体の犬モンスターだ。ランクはE。

 霊体と言っても触れられないわけではなく、剣の一振りで掻き消えるほど貧弱だ。


 しかし、このモンスターの本体はダンジョンに配置された石版である。

 石版は一定時間ごとにソウルドッグを生み出す。

 この発生を止めるには上限までソウルドッグを生み出させるか、石版を破壊するしかない。

 破壊された石版は上質な魔石になるが、ソウルドッグを倒しても霊体なため何も落とさない。

 弱いが数が多くてうっとおしい、そのうえ倒しても旨味が無い面倒なモンスターなのである。

 流石にこれを第一階層に大量に放つと来る冒険者たちが減りそうなので大半は上位の階層に防衛戦力として待機させてある。


 犬というだけあって命令には従順に従うのでそれは大変助かる。

 しかし、たまにパステルには噛みついたり覆いかぶさったりしてじゃれついている。

 【全強化】のおかげで振り払うだけの力はあるので、舐められずにじゃれつかれるだけで済んでいるが、もし無抵抗だったら調子に乗ってもっと激しく噛みつかれたりひっかかれたりしてたかも……。


 それにしても特典モンスターはなんだかアンデッド系だなぁ。

 敗北特典のモンスターは確かランクは落ちるけど期間限定ではなくそのまま配下として組み込める。そっちは普通にゴーレムとかが送られたはずだ。

 お嬢様は上手く使いこなせてるかな?


「何やら難しい顔をしているではないかエンデ」


「ああ、今の戦力についてちょっと考えててね」


 俺の前に現れたのはこのダンジョンの主である魔王パステル・ポーキュパイン。

 腕や脚にはソウルドッグが噛みついているが、その部分はオレンジ色の光で覆われているため痛くはないのだろう。

 パステルがある程度強くなったことでモンス研でモンスターを買うという選択肢も出てきた。

 まあ、購入するDPはあっても増やしたモンスターを維持していくのにもDPがかかる。

 ヘルリビングアーマーだってご飯は食べないけど魔石を消費する。慎重にいこう。


「このヘルリビングアーマーとやらはなかなか見た目にも強そうで良いものだな。これがダンジョンを徘徊しているというだけで視覚的安心感が全然違うぞ」


「このダンジョンは植物とかかわいい女の子しかいなかったからね。あっ、じゃあ俺が鎧を買って着こんでおこうか?」


「んー、似合わないと思うぞ……」


「そう……だね」


 ヘルリビングアーマーは大国に仕える騎士の中でもお偉いさんが来てそうなゴテゴテ感がある鎧だ。

 戦士としては細身の俺が来てもまったくに合わないだろう。でも、昔はちょっと憧れてたりしたんだよなぁ、派手な装飾の装備に。


「まあ、このモンスターたちは二か月間の期間限定レンタルモンスターだ。エンデが鎧を着こむ必要はなくてもこんな感じに防衛に適した防御力の高いモンスターは手に入れたいものだな」


「うん、ゴーレム系とかなら大人しいからモンス研で買っても大丈夫かもね。パステルも以前よりずっと強くなったし」


「うむ、多少はな。そこらへんもレンタル期間の最後の方に考えるとしよう。出来る限りDPを貯めておいてな。それで旅行の件はなにか進展があったか?」


「うーん……それが俺もあまり外の世界を知らないからねぇ……底辺冒険者だったし。いつも通りサクラコの意見待ちさ」


 旅行……と言うと遊びに行くように聞こえるが、実際は戦力増強のための遠征だ。

 修羅ダンジョンのように人間界にはレアなお宝が手に入るスポットがあるし、以前のサクラコのように野良で好き勝手生きているモンスターもいる。

 そういったものを手に入れたり、仲間に引き入れたりすることができれば戦力をさらに高められる。


 それに勝利特典はモンスターだけでなくいくつかのアイテムもある。

 ステータス隠蔽の効果を持ったアクセサリーなど人間の世界で行動しやすくする効果を持ったアイテムたちだ。

 魔界側はこの防衛力が強化されている間に外の世界に繰り出せと言っているのだ。

 俺たちも前から旅行に行きたいと言っていたので、多少危険な賭けでも乗ってみようじゃないか……!


 が……まあ、行き先が決まらないのだ。

 せっかくだからちょっと遠出したいが、遠くの土地の知識などほとんどない。

 遠くの町の情報というのはマカルフでは人から人へ伝わるウワサ話でしか手に入らない。

 ギルドは基本設置された町で管轄している範囲の情報しか置いていないからだ。


 しかし、もたもたしてるとモンスターは返却しなければならないし……。

 ということでいつも申し訳ないと思いつつサクラコの情報収集力に頼っているのだ。


「サクラコが何かいい情報を持って帰ってきてくれるとして、このダンジョンをどれくらい空けておくつもりだ? 一か月も空けるのはちと不安だぞ」


 パステルからしたらこのダンジョンの最上部にあるダンジョンコアは心臓だ。

 それから遠く離れてしまうのは不安だろう。

 しかし、彼女も人間界に出かけてみたいという好奇心はあるのだ。


「一か月は俺も怖い。あの作戦で馬車なんかよりは早く動けるから移動時間を短縮できるとして……目的地では五日から一週間は滞在したいし……十日から十五日ってところかな? 大雑把な計算だけど」


「半月といったところか……。最悪『ボスモンスター強制ダンジョン帰還バッジ』でエンデが帰ることになるかもしれんが、その時は頑張ってくれ。エンデが最後の希望だ」


「うん、それはもちろんさ」


 長いので『帰還バッジ』と略すこのバッジもまた特典アイテムで、侵入者が特定の階層に辿り着いたときに契約モンスターを一人だけダンジョンへ強制転移させることができるのだ。

 つまりダンジョンがピンチになったら俺が強制的に帰ることになる。

 一つしかないので本当にこれを使う事態になったら俺が最後の希望だ。


「まあAランク四体をそう簡単に倒せるものなど来ないだろうがな。ん、そろそろお昼だな。メイリにランチを作ってもらうとしようぞ」


 俺たちは第十階層に向かう。


「そういえばメイリは最近ずっと本を読んでるね」


「以前は仕事がなくなると困っていたからな。サクラコが来てからはよく話すようになって、最近は趣味も出来た。いい傾向だ。メイリの思い出作りのためにも旅行に行きたいものだなぁ」


「もしかしたら俺たちに知識が無さすぎるからメイリは本読んで勉強してるのかも……?」


「……あり得る話だ。私たちも少しは勉強せんとな。どうだ、この二か月間はダンジョンに缶詰めで勉強に集中するというのは?」


「それはパステルのお願いでも嫌かな……」


「ふっ、私も嫌だ!」


 お互いに冗談で笑いあう。

 魔界での戦いのあとパステルはさらに明るくなった。


「おいおーい! お二人さーん!」


 叫び声に振り返ると町から帰ってきたと思われるサクラコが髪を振り乱しながらこちらに走ってくる。


「どうした。そんなに髪をみだれさせてサクラコらしくもない」


「いやぁ……それがさ……吹いてんだよ」


「えっ、何が?」


「金が! 砂金が西から吹いて来てる!」


「ええっ!?」

「ええっ!?」


 俺とパステルは驚いて顔を見合わせ……それから『ん?』と首をかしげた。

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