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エピローグ 魔王の友達

 終わってみれば、舞踏会はパステルが主役みたいなものだった。

 特に盛り上がったのはあのジェイスのアナウンスだ。

 パステル自身が書いて提出した紹介文は謙虚を通り越して自虐的とまで言っていいものだったが、何故かジェイスが読み上げたのは彼女が全く覚えのない派手派手な紹介文だった。


 『その魅力にはさらに磨きがかかっていた』『戦った相手でさえも明るく照らす』『誕生した新たな光』……などなど自分で考えたのだとしたら相当に痛々しいと思われても仕方ない言葉の数々に、クスクス笑いで抑えていた紳士淑女諸君も下品に吹き出し大笑いしていた。


 無論、一番この言葉の数々に驚いたのはパステルだ。

 自分をこんな風に紹介されるというだけでも恥ずかしいのに、その言葉を自分で考えたと勘違いされてはたまったものではない。

 彼女は茹であがったように肌を真っ赤にさせ、その頭からは煙が噴き出すのではないかというほどだった。


「エンデェ! ジェイスを仕留めに行くぞォ!」


 オレンジ色の光を試合の時よりも激しく輝かせてジェイスを探しに行こうとしたパステルを俺は何とかなだめ、ジェイスに自分が考えたアドリブだという事を舞踏会終了間際に宣言してもらいなんとか事なきを得た。

 俺としては彼女の魅力を最大限に表現している名文だと思うのでそんなに怒る気にはなれない。

 それに彼女の一番のこだわりであった『最弱の魔王』の二つ名は変えずに残していてくれたので、きっとジェイスもその意味を理解してくれたのだろう。


「まったく酷い目にあったものだ……」


「でも楽しかったねダンスパーティ」


「あのダンスでか? まぁ……エンデと一緒だったからつまらないというワケではなかったが……」


 俺たちは今、寮の部屋に戻ってきている。

 これから魔王たちは順番に人間界へと帰還していく。

 俺たちの番が来るまで空いた時間でこれまでのことを思い出していた。


「そういえば勝利者特典はもうダンジョンに送り込まれているのだろうか?」


 パステルが窓の外の魔界の景色を眺めながらつぶやく。

 舞踏会の後、特典の発表も行われた。

 勝利者だけでなく敗北者にも特典があるとは知らなかったけど、どうやらほんの気持ちだけでも魔王間の差を埋めようという学園側の思いやりらしい。


 敗者にはDPと防衛用のモンスターのセットが送られた。

 ランクこそは高くないがタフで従順なモンスターが多いとのこと。これは返却の必要が無くそのまま戦力として加えてもいい。

 勝者には……いま『返却』という概念が出てきたように期間限定の防衛モンスターが送られた。あとは敗者と額は違うがDPもだ。


 『勝者という事は新人魔王の中でも強いはずなのに期間限定防衛モンスターとは噛み合っていない。頭数が増える分負けた方が少しは得ではないか?』

 ……と、その送られる限定モンスターのことを良く知らない者は思うだろう。

 しかし、これはある程度の強さを得て『次の一手』を求める魔王にはありがたいものなのだ。

 いうなれば敗北者の特典は地固め用、勝利者の特典は固めた地面を蹴って前に進む用なのだ。


 どこへ進むのかはダンジョンで待っている仲間たちと一緒に話し合おう。

 一時的とはいえ新たに仲間になるモンスターのこともそこで詳しく二人に説明しないとね。


「メイリとサクラコは驚くであろうなぁ……。あんなものがいきなり守るべきダンジョンコアの前に転移してくるのだから」


「送り込むのは僕らの帰還と同時のタイミングでも良かったのにね」


「まあそれは防衛用モンスターだからな。魔界に戻っている間にダンジョンを攻められないかと不安な魔王もおったであろう。少しでも早めに、少しでも戦力を増やして安心させてやろうという学園側の配慮だろう」


「そうか……俺たちはある程度戦力を整えてから魔界に来れたけど、他の新人たちはそうじゃないかもしれないんだ」


「こういう言い方をすると皆を戦力としてしか見てないように聞こえるかもしれんが、一か月足らずでSランクが一人、Cランクが二人、それにEやFランクの無数の植物たちが一階層を埋め尽くしているというのは相当良いことなのだ。皆には感謝してもしきれん」


「それはパステルの人柄のおかげでもあるよ。みんな助けたくなっちゃうんだ。でももう今のパステルは誰かを助けられるぐらい強くなってると思う」


 試合に勝ったことはもちろん、修羅神のダンジョン制覇や修羅器の使用を禁止されても逃げ出さなかったことなど今の彼女は実績で成長を証明している。

 ただ誰かに助けられるだけの存在ではない。鍛えた力と目覚めた新たな力はきっと……。


 コンコンコン――。


 ドアが上品にノックされる。


「おや? もう私たちが帰る順番か?」


 学園職員が来たと思いパステルが扉を開ける。

 そこにいたのは……。


「ごきげんようパステル」


「エンジェではないか! その……どうしたのだ今のノックは?」


 魔界名家のお嬢様エンジェ・ソーラウィンド。

 パステルの対戦相手で大けがをしていた彼女も今となっては出会ったころの様に元気いっぱいだ。

 違いといえばその表情がどこかスッキリしたものになっていることだろうか。


「どうしたのと言われましてもわたくしいつも通り上品にノックをしただけですのよ? ホホホ」


 ジョークなのか自覚がないのか。ハッキリしているのは彼女が上機嫌という事だけだ。


「それで何か私に用か?」


「そうですわ。もうすぐわたくしたちは人間界に帰ります。その前にパステルには言わないといけないことがたくさんありますの」


 エンジェの表情は普段の謎の余裕がある笑みではなく、引き締まった真剣なものになった。


「一つ、今までの数々のいじめや嫌がらせ……本当にごめんなさい!」


「それはもう許したであろう? ベッドで語り合った事を忘れたわけではあるまい。もう言い合いっこなしだ」


「そう……ですわね。二つ、わたくしのことを励ましてくれてありがとう。最弱の魔王をまさか勝利者たちのダンスパーティで名乗るとは思いもしませんでしたわ。わたくしの事を気遣って……」


「別に気遣いというより、私は誰よりもエンジェの強さを知っているから今回の試合の結果だけでエンジェを最弱扱いするのはおかしいと思っただけだ。私の方がまだ弱い。だが、このままずっと弱いままではないぞ? エンジェも追い抜かれぬようにその高いプライドにかけて頑張ってくれ。これも前に話したような……」


「ええ、ええ……医務室のベッドで似たようなことを話しました。でも……最後にまだ言ってない事がありますの……」


 エンジェはやけに切羽詰った表情になり始めた。


「お嬢様……」


 心配そうなキューリィも彼女の代わりにその言葉を継いだりはしない。

 ただ見守っている。


「あの……わたくし、パステルの……と、友達になってもよろしくって?」


「……もちろんだ。エンジェは私の友達だ。これからずっと」


「はっ……! ありがとうパステル……!」


「礼を言う事ではない。別に友達に『してあげた』ということではないからな。お互いのことを想っているから友達なのだ」


「パステル……っ!」


 エンジェがグイッとパステルの胸に飛び込む。

 そしてひとしきりその膨らみかけの胸に頬ずりしたかと思うと、パステルの肩を両手でつかみ頬にキスをした。


「ひゃ……!」


「ふふっ、別れの挨拶ですわ」


「キ、キスぅ……」


「これくらい親友との別れの挨拶としては当然ですわ」


 エンジェはパステルから数歩離れ、再び距離をとる。


「友として一つ忠告しておきますわ! ダンスくらい覚えておきなさい。淑女のたしなみ……ですわよ?」


「う、うむ……」


「そして、そちらの方……エンデとおっしゃったかしら?」


「あっはい、エンデであってます」


「今までパステルを守ってくれてありがとうございましたわ。これからも私の友達を守ってあげてくださるかしら?」


「もとよりそのつもりですよ」


 当然のことのように俺は言う。

 それを聞いてエンジェは目を細める。


「ふふっ、頼もしいですわね。キューリィも何か言う事はあるかしら」


「もはや言葉はいりません。お互いわかっています」


 キューリィは俺と目を合わせて静かにうなずく。


「そう。では言うこと言ってスッキリしたので帰りますわ! オーホッホッホ!!」


 出会ったころのようなふんぞり返った姿勢で大きく笑うと、エンジェはツカツカと大きく踵を鳴らし去っていった。

 相変わらず業火のように激しい女性だ。でも、これで良いんだ。


「はぁぁぁ……」


 パステルはエンジェにキスされた頬を手で押さえている。

 拭い取ろうとしているわけではない。そんなことがエンジェに知れたら絶交されかねないだろう。


「大丈夫? パステル」


「ああ……別に恥ずかしくはないぞ。ただ……最後の最後にお嬢様らしいところを見せつけられてしまったな。淑女のたしなみかぁ……確かにそれはエンジェには敵わない」


「あの女性(ひと)はなんとなくああいう態度でいてくれる方がこっちとしても落ち着くね」


「ああ、エンジェはああでなければ……」


 俺とパステルの間に静寂が訪れる。

 エンジェが来る前に何の話をしてたのか、あの勢いに押されて忘れてしまった。


「そうだエンデ、そこでじっと立っていてくれ」


 パステルは突然そんなことを言うと、部屋の中にあった椅子を俺の隣に持ってきてその上に乗った。


「なになに? 何するの?」


「じっとしていてくれれば良い。動くと私が椅子から落ちるからな」


 言われた通りに俺はじっとする。


「うむ……そ、それでは……」


 一瞬のことだった。

 俺の頬に何か柔らかいものが一瞬だけ触れた。


「これは私の感謝の気持ちだ。これが淑女のたしなみ……ですわよ?」


 不敵な笑みを浮かべるパステル。

 エンジェのマネだろうけど顔が赤いので様になっていない。

 でも、これはこれで彼女らしくてとってもかわいい。


「ありがとうパステル。その気持ちよく伝わったよ。これからも君のために俺は戦う」


「うむ、感謝する。これからは私もエンデの為に戦うぞ。ともに肩を並べてな」


 俺の目の前にいるのは『最弱の魔王』。

 彼女は弱い。でも強くなろうともがいている。

 成長を競い合う友も出来て、きっとこれからもっと前に進もうとするだろう。


 でも、強くなるには危険なことを乗り越える必要がある。

 彼女が自分の力で試練を乗り越えられるように見守り、もし失敗してもまた挑戦できるように彼女を守る力がいる。

 俺も強くなろう、パステルと共にどこまでも。

これにて第二章完結です。引き続き第三章も頑張ります!

第三章プロローグは本日24時に更新します!

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