第04話 超毒のスキル
まず【超毒の身体】には複数の効果がある。
いわゆる複合スキルといえる。
ステータスに書かれた効果はこうだ。
【超毒の身体】
毒無効:あらゆる毒の効果を無効化する。
毒解析:体内に取り入れた毒の効果を調べる。
毒複製:今まで体内に取り入れた事のある毒を生成する。
毒液状化:体を毒を含んだ液体に変化させる。
「まずは……【毒無効】か」
これはもうすでにさんざんお世話になっている。
毒の池に何度も落っこちて水を飲み込んでもノーダメージだった。
「次は【毒解析】」
ふむ、対象は毒に限られるが解析系スキルか。
ためしに体内に含みまくっているであろう池の毒を『毒解析』してみるか。
「毒解析!」
一人で叫ぶ。すると、空中に文字が表示された。
◆解析結果
グロア毒:この毒を体内に一定量取り入れると体温が激しく上下しはじめ、身体機能に大きな悪影響を与える。その後、一時間ほどその症状が続き死に至る。
一部植物に対しては栄養となり、成長を促進させる。
ほぉ、結構詳しく教えてくれるんだな。
解析対象が毒に限定される分、毒だけはしっかり調べてくれるのかもしれない。
しかし、この毒は攻撃向きじゃないな。
戦闘中に敵の体内に一定量の毒を入れるなら口からしかないが、素直に飲み込んでくれる奴ばかりとは思えない。
傷口から入れるにしても、毒が大量に入り込むような傷口ならもうそいつは瀕死だろう。
ただ、すぐ死なないというのは良い点だ。
元人間としてはやたらめったら人を殺したくはない。恨みのある人間もいるが、そうでない者もいる。
死ぬまで一時間もかかるなら生かすかどうかの判断も十分にできる。
いや、そうなると生かす場合解毒方法が必要になるな。うーむ……どうしようか。
『現在【対毒薬生成】のスキルが習得可能です。習得しますか?』
独りでに文字が浮かび上がってくる。
「こ、これはもしや! 『内なる文字』では!?」
思わず声が出る。『内なる文字』とは新たにスキルを習得できる状態になった時、それを知らせ習得するかどうかの選択を迫る神秘の現象である。
俺は生まれてこのかた新しいスキルを習得したことがなかったので、今この瞬間初めてこの現象を目撃したのだ!
「するする! 習得する!」
『習得しました』
へー、こんな簡単な対応なんだなぁ。
まあ、普通の人は何回もこの文字を見ることになるわけだから、シンプルな方がいいのか。
『【対毒薬生成】習得に伴い【薬複製】が習得可能です。習得しますか?』
「はい!」
『習得しました』
『内なる文字』はふっと消えた。
今習得できるスキルはこれだけということだ。
とはいえ新たに二つのスキルを習得したのは大きいぞ。
「まだ前のスキルが見切れていないけど、せっかくだし今覚えたのから調べてみるか」
【対毒薬生成】
体内で解析した毒に対する解毒薬や予防薬を生成する。
【薬複製】
今まで体内に取り入れた事のある薬を生成する。
これは!
ちょうど俺が今欲しいなぁと思っていたスキルじゃないか。
毒と薬は表裏一体ということかな?
このスキルが上手く働けば、俺の出した毒でパステルを殺してしまう事はなさそうだ。
少しグロア毒の解毒薬を作ってみるか。
「えーっと、解毒薬生成!」
手を突き出してスキルを発動。
すると、指先からポタポタと水滴が落ち始めた。
しまった。入れ物がないとダメなやつだ。
まぁ、生成は可能という事がわかったから良しとしよう。
【薬複製】は毒関係の薬だけでなく、傷を癒す薬や魔力を回復する薬も生成できそうだから、これはかなり強力だぞ。
世の中には瀕死の重傷も一瞬で治すスゴイ回復薬があるらしい。そういう薬を俺が飲めばいくらでも作りだせてしまうのだ。
もちろん手に入れるのは難しいけど、余裕ができたら探してみたいな。
平穏な暮らしに一番必要なものは健康だからね。
「さて他のスキルはっと……」
【毒複製】も【薬複製】とほぼ同じ。
強力な毒を手に入れればそれだけで自衛手段として役に立つ。
こちらも探せるなら探して手に入れたいな。
「最後は……これだ」
今覚えてるスキルと少し違った感じの【毒液状化】。
俺が全裸になってしまった原因はこれだ。
苦しんでいる間にスキルが発動。一度液体と化した俺は衣服からすり抜けてしまったようだ。
液体になるという感覚は覚えていない。ただ、こうしてまた人間の形に戻れているのだから臆せずまた使ってみるか。
「毒液状化! うわっ!」
発動と同時に俺は液体となり地面に零れ落ちた。
今は毒の水たまりと化している。
目はないけどちゃんと周囲を見渡したりできるし、説明しにくいけど感覚もある。
まず、人の形に戻ってみるか。
自分の体をイメージする。それに戻る感じ……。
「おっ! 結構簡単にできた」
装備はまた脱げてしまったが人の形に戻ることが出来た。
これ体の一部だけ液状化とかできるのかな?
いろいろ試してみよう。
● ● ●
「流石にちょっと……疲れたなぁ。魔力も使い過ぎたし……」
ダンジョンの入り口から見える空は白んできた。
徹夜でスキルの練習に明け暮れてしまったな。
なんだか新スキル習得に躍起になってた若いころを思い出すよ。あのころは何の結果も出なかったけど、今回は違う。
まず部分液状化は可能だ。
腕だけ液体にしたり、手だけ液体にしたり出来る。
さらには粘性もある程度操れる。
ねばっとした液体に変化させた腕は伸ばす事も出来て、これをムチの様に振るって攻撃できそうだ。
ただ、体積は変わらないので伸ばせば伸ばすほど細くなり非力になる。手を伸ばして遠くのものを取ろうとしても握力が落ちていて取れない……なんてことも。
そして一番の収穫は物理攻撃を無効にできることが分かった事だ。
このスキルは物理攻撃を受けると俺の意志関係なく自動で発動し、体を液状化してダメージを無効化する。
これは良いぞ! 自分の腕に剣を振り下ろすという危険な実験をした甲斐があった……。
「毒無効に物理無効に薬か……。なんか受け身な能力が多いけど、どれも強力だ。攻撃に関してはまたこれから考えればいい。時間はあるさ……」
明るくなっていく空を眺めながら独り言を言う。
静かで穏やかな朝だ……。
「エンデ!? エンデ!? どこにいったのだエンデ!?」
ダンジョンの奥の方からパステルの叫び声が聞こえた。
わざわざ第一階層まで降りてくるなんて何かあったのだろうか?
俺は奥へと駆けだした。
「エンデ……どこ……?」
「どうしたのパステル様!」
「あっ……」
第一階層に設置された移動用の魔法陣の近くでパステルを見つけた。
大粒の涙を流している。どうやら相当なことが起こったみたいだ。
「大丈夫? 怪我はないかい?」
「エンデ……エンデか……。あぁ良かった……」
「うん、エンデだよ。それで何があったんだい? 何か敵……でも出たの?」
魔法陣の方を向き、パステルを体の陰に隠しながら手を毒化させて戦闘態勢に入る。
敵といっても入り口以外からダンジョンに入るなんて可能なのか?
不可能というのが人間界での常識だが……。
「お前……お前が隣りにいなかったから驚いたんだ! どこをほっつき歩いてたんだ! 私を無視できるなんて……結構すごいなお前! 私のスキルを無効化できるのか!?」
「ご、ごめん……。無視してた訳じゃなくてダンジョンの入り口を見張っていたんだ。不安にさせてゴメン」
「あっ、そう……だったのか。そうだな……。お前と私以外このダンジョンには誰もいないものな……。お前が守ってくれなければ私は何もできない……」
一息つき幾分か落ち着きを取り戻したパステル。
「取り乱してすまなかった。エンデがダンジョンボスとしての役目を果たしていたというのに、私は添い寝してもらえなかったからと騒ぎ立てた。これではどちらが魔王かわからんな。子どもと変わらない……」
「俺は全然気にしてないから大丈夫だよ。むしろパステルの気持ちをわかってあげられなくてゴメン。ただ、誰かが見張ってないとパステルが安心して眠れないし、俺がずっと見張ってると今度はこっちが眠れない。だから今日からはこの状況を改善していくことを考えよう」
パステルはうんうんと頷く。
「それなら私に良い考えがあるぞ。DPが無かった以前では選択肢になかったが、今なら……」
パステルは不敵な笑みを浮かべる。その目はまだ少し赤くはれていた。
「部屋まで戻るぞエンデ。この策の実行は少しでも早い方がいい」
てくてく歩きだしたパステルに俺もついていく。
「その策ってなんなの?」
「ふふっ、エンデはモンスターというのがどうやって生まれるか知っているか?」
「えっ!? えっと、そのぉ……」
人間や普通の生物と同じ方法で生まれてくるんじゃないのか……?
もし同じならこれはパステルに言っていいものなのか……?
「よ、よく知らないなぁ!」
無難な方に逃げました。
「まあ元人間のお前はそうだろう。結構種族によって違いがあって実は私もよくは知らんのだが……。それは置いといて魔界にはその生態を研究している組織がある。それがモンスター深層研究所、通称『モンス研』だ。そして、ここはモンスターの販売も行っているのだ!」
「モ、モンスターの販売……。そうか、DPを使ってそこからモンスターを買おうってことだね」
「うむ、そうだ。今の時期は新人魔王が多くて繁盛しているだろうからな。早くせんと送られてくるまでエンデがずっと寝られなくなってしまう」
「そ、それは困るなぁ……」
「だから早い方が良いのだ。エンデの為にもな」
移動の魔法陣に乗り俺たちはパステルの部屋に急いだ。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます!
頂けるととても励みになります!