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第12話 荒れ狂うコロシアム

 コロシアムは未だ静まりかえっている。

 誰もが皆スクリーンに映っている文字の意味を理解できず、ポカンと口を開けている。

 しかし、その静寂も……。


「な、なんじゃこりゃーーーーっ!?」


 という誰かの叫び声でぶち壊され、そのままその衝撃は全体へと広がっていく。


「何言ってやがるーー!! 集計をミスってんじゃねーのか!?」

「逆だろ逆!」

「不正だっ!! 絶対にそうだ!!」

「ぶっ殺せ!!」


 観客全員総立ちでブーイングの嵐。

 誰一人としてパステルが実力で一位を勝ち取ったとは思っていない。

 それだけ魔界でのパステルの評判は悪いのだろう。


「み、みなさんご静粛に! これは不正でもなければミスでもありません! 魔界学園が全職員で確認いたしました正確なデータでございます! ご静粛に!」


 ジェイスの注意も虚しく観客はどんどん声を大きくしていく。


「あ、あらら?? わた、わ、わ、わたくしの名前はいつからパステルの名前と入れ替わってしまったのかしら? あれ? あっ……」


「お嬢様!」


 完全に錯乱状態で地面に倒れ込みそうになったエンジェをキューリィが受け止める。

 白目をむいてうわ言を言い続けるエンジェを抱え、キューリィは俺たちから離れていく。ここは危険だと判断したからだ。

 なぜなら……。


「これでも喰らえ!」

「死ねぇ!!」

「お前のせいで大損したわ!」


 観客たちから罵詈雑言だけにとどまらず刃物や鈍器、さらには魔法までもをパステルに向かって投げつけてくる。

 ここまでするのか……。


「パステルこっちに」

「うむ」


 困惑しつつも俺はパステルを両腕で囲う。抱きしめるのではなく少し彼女の身体とスペースを空けるのが大事だ。

 そして、体から毒液を地面へとたらす。隙間なくすっぽりとパステルを隠せるように。

 『毒のカーテン』……そう、俺の腕はカーテンレールで流れ落ちる毒はカーテンだ。これだと上が空いているので少し頭を傾けてカバーする。


 この技は二種の毒を使い分けている。

 表面にはガマウルシ毒を使い魔法を受け流す。そしてその一層下には強溶解毒を循環させ飛んできた物体を溶かす。ちなみにパステルに近い側の面にもガマウルシ毒でコーティングしてあるため溶解毒はパステルに飛び散らない。


 これにより物理、魔法の両飛び道具に対してはほぼ無敵と言っていいほどの防御力を実現しているのだ。

 まあ、流石にあまり巨大な物体は一瞬で溶かせないので防ぎきれないがイベントの会場にそんな目立つ危険物を持ち込んでいる奴は流石にいない。


 パステルの訓練を見守る中で俺自身も彼女を守れる方法をいろいろ練習しておいて良かった。

 まさかここまで魔界の住人の血の気が多いとは……。


 俺に受け流された魔法が地面にいくつも衝突し爆ぜる。溶解毒に触れた物体は煙をたてながら溶けていく。

 土煙と溶解の際に出る煙で辺りは一時的に何も見えない状態になる。

 そして、その煙が晴れる時……。


「な、なんだあいつは!?」

「俺の火炎魔法をくらって無傷だと!?」

「た、短剣が……。投げた俺愛用の短剣がなくなっちまってる!?」


 俺は攻撃が始まる前とまったく同じ場所に立っていた。無論パステルも無傷だ。

 観客たちもその光景に驚き攻撃の手が止んだ。しかし、会場のざわつきはさらに激しくなる。


「な、なんなんだあいつは……?」

「ただのロリコン人間じゃないのか!?」

「何故あんなモンスターがあの雑魚魔王に従っているんだ!?」

「一体どういうカラクリだ?」


 魔界の住人が思う俺がパステルに従っている具体的な理由は『ロリコンだから』ぐらいしかないらしい。

 当たっているのか、外れているのかと聞かれれば……ハズレだ! 別に俺はパステルが幼い女の子だから従っているワケでは断じてない!


「お前らか……? お前らが余計な事をしたせいで俺が栄えあるトップから蹴落とされたということかぁ!?」


 そう俺たちに絡んできたのは先ほどトップ5から落ちて今にも暴れ出しそうだった新人魔王だ。

 どうやらそのイライラをこちらにぶつけることに決めたらしい。

 獣の特徴を持った人型の魔王で年齢はわかりにくいが体はとっても大きい。そして目を惹く鋭い爪をこちらに見せびらかすように腕を揺らしている。

 こ、攻撃してくるつもりだ。何とか騒ぎを収めないと……。


「パステルは別にわざと君を蹴落としたわけじゃないんだ。ただその時その時で最善の行動をしていたら一位になってしまったんだ」


「エンデエンデ! 煽っておるように聞こえるぞそれは!」


 パステルの言う様に俺の言葉で他の新人魔王たちもパステルに負けたことを再認識し、その場に倒れ込む者まで現れはじめた。

 ちょっとみんなただの落ちこぼれの存在を意識し過ぎだ……。


「じ、事実を伝えないと失礼だと思ったけど逆効果だったみたいだね……」


「グオオオオオオオオーーーーーーッッッ!!!」


 獣人の魔王が飛びかかってきた!

 俺は『毒のカーテン』を維持するべく意識を集中する。俺は毒の生成は得意でも制御が実は苦手だ。

 獣だけあって彼の動きは素早い。だが俺もSランクモンスター、動体視力も並はずれたものがある。


「ヌウンッ!!」


 獣人魔王の爪が伸び、深々と毒のカーテンに刺さる。

 一瞬の沈黙の後スッと爪は引き抜かれた。


 そこにカーテンの中のパステルの血が……付いていないどころか爪そのものが溶かされ消失していた。


「お、俺の爪を一瞬で溶かしただと……っ! 竜の鱗にすら匹敵する硬さとうたわれる俺の爪が……っ!?」


 竜の鱗がどのくらいかは知らないが、確かに奴の爪は硬かった。

 その攻撃の瞬間を目で捉え、爪が刺さる所に溶解毒を集中させなければ危なかったかもしれない。

 なんだかさっきは普段より毒のコントロールの調子が良かった。理由はわからないけどこの感覚を覚えて普段から引き出せるようになればいずれ毒の生成と制御が合わさって……。


「ご静粛に! そろそろ強制的に出ていってもらいますよホントに!」


 張りつめた空気をジェイスが大音量ボイスでかき消す。


「ちっ……この借りはいずれ返させてもらうぞ……」


「い、いえ結構です……」


 獣の魔王はそれだけ言うと俺たちから離れていった。

 それを確認してから俺も毒のカーテンを解く。

 コロシアムには引き続きジェイスの声が響く。


「パステル・ポーキュパイン様はSランクモンスターとの契約でまず大きくDPを稼ぎ、その力を借りてもう一つ大きな事を成し遂げてます。後者に関してはダンジョンの位置がバレそうな情報を含むので詳しく言えませんが……」


 ダンジョンの位置がバレそうな事というのはアーノルドのことか。

 Aランク冒険者の殺害などと言えば、最近ダンジョンで消えたAランク冒険者の情報を探ってパステルのダンジョンを突き止められるかもしれないからね。


 コロシアムには多少納得の空気が出つつあるが、中には『色仕掛け!』『他力本願!』『卑怯者!』などパステル自身の力ではないことを責めたてる者もいた。

 まあ『色仕掛け』は置いといて……多少はそう言われてもしかたない部分はある。パステル自身がそれを一番よくわかっているため何も言い返す事はない。ただ黙っている。

 でも、この場で俺だけは彼女が頑張っていたこと、ちゃんとわかってるから……。


「これは今回の集計期間外のことですが、パステル様は試練を乗り越え修羅器も入手しています! 彼女の成績は不正でもなければミスでもない! ましてや卑怯者でもありません!」


 あ、言ってしまったよジェイスさん。

 魔界にもパステルのことを気遣ってくれる人がいて嬉しいけど、その情報の公開はこちらにとっておいしくない。

 まだどんな修羅器かという事までは知られていないが、最弱魔王が一発逆転の手を持っている可能性を他の魔王たちに意識させてしまった。


 パステルにとっては嬉しくない情報の公開だったが、観客たちはそれを聞いて流石に落ち着いた。

 ジェイスが明かした多くの情報と俺が無数の攻撃からパステルを守り切るというSランクを感じさせる行動が決め手となったか。

 しかし、金銭的に損をした者が多いからかまだ小さく愚痴るような声が聞こえてくる。

 勝手に賭けの対象にしておいて……と少しは言いたくなるが抑える。


「えー……明日使うコロシアムの地面も壊れてしまいましたし、雰囲気も非常に良くないので今回の立食パーティは中止として魔王の皆様にはそれぞれお部屋でお食事をとってもらう事としましょう! あっ、最後に明日の試合の組み合わせだけは発表しますよ!」


 ジェイスの提案に異議を唱える者はいなかった。

 大体の魔王がパステルに負けたという事にショックを受け顔を青くしており、とても食事のできる状況ではない。

 それに俺たちもこれだけ奇異の目を向けられてはどれだけ美味しい食事でも喉を通らないだろう。

 明日の対戦相手だけ聞いてさっさと退散したいものだ。


「それではまず一か月成績一位のパステル・ポーキュパイン様からスタートです。なお対戦相手の決定方法は公平なくじ引きによって行っていきますのでご安心を」


 俺たちのもとにくじの入った箱を持った職員がやってきた。

 パステルはその箱に手を突っ込み、一枚のくじを取り出し職員に渡す。

 職員はそれを受け取り二位の魔王のもとへ向かう。そして魔王はくじを引く。


 こんな感じで繰り返されたくじ引きは最下位のエンジェのところまで来た。

 エンジェは気絶しているが最後に残ったくじが彼女の物なので引く必要もない。

 職員は一応彼女の前まで来た後、一礼をして去っていった。

 くじ引きの結果は即座にまとめられ、それが記された書類がジェイスのところへ運ばれるのがここからも見えた。


「では試合の組み合わせを発表します! 第一試合は………………」


 ……ん?

 間が長いぞ? 何かトラブルかな?


「……な、なんと! パステル様の対戦相手は一か月成績最下位のエンジェ・ソーラウィンド様だ! いきなりベストとワーストの対戦だぁーーーーッッ!!」


「ええっ!?」

「ええっ!?」


 俺とパステルは驚いて顔を見合わせ、それから倒れているエンジェの方を見る。

 未だ白目をむいて気絶しているお嬢様。パステル曰く彼女になら勝てる可能性があるらしい。

 修羅器の情報が漏れてしまったがそれでも上手くことが進んでいる。いや、上手くいきすぎていると言ってもいい。

 それはそれで不安になってくるのは小心者の悪い癖。

 他の試合の組み合わせが発表されていく中、俺とパステルはただ勝つ事だけを考えようとしていた。

※7/10追記

一か月より後に行われた修羅器の入手で稼いだDPが一か月成績に含まれているような描写を修正。

修羅器の入手で得たデーモンポイントは成績に関係ありません。

また試合の組み合わせ発表を全ての魔王がくじを引き終わったタイミングに変更しました。

修正前より500文字近く増えましたが話はわかりやすくなったと思います。内容には大きな変更はございません。ご指摘ありがとうございます。

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