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第11話 新人魔王成績発表会

 コツコツコツ……。

 俺とパステルが硬い石が敷かれた通路を歩く音が響く。

 今向かっているのは学園の敷地内にあるコロシアムらしい。学園の職員がそれを伝えに来た時は『学園内にコロシアム!?』と驚いた。これが魔界スタイルか……。


 ちなみにコロシアムと言っても今から戦うわけではない。明日からそこが試合会場になるのは確かだが、今日は魔王たちが集まっての成績発表会がメインでその後に簡単な立食パーティもあるとのこと。

 そういえば魔界に来てから何も食べてないからお腹がすいたな。せいぜい豪華な食事が出てくれることを祈っておこう。


 巨大な円形のコロシアムに到着する。

 その巨大な外観に圧倒されそうになるが黙って中へ入っていく。

 パステルは移動中もしゃべらなかった。


 中には当たり前だが学園の職員がいた。

 彼らに新人魔王が集まる場所べきに案内される。

 そこは……。


「おっ! 来た来た来たっ!」

「本当に一か月間生き残ってやがったのか!?」

「いっちょ前に仲間のモンスターを連れているぞ!」

「ロリコンの人間じゃねーのか?」


 ここはコロシアムの中央、つまり戦士たちが戦う場所『アリーナ』だ。それはわかっていた。

 予想外なのは観客席が明らかに学園関係者でない者たちで埋め尽くされている事だ。これでは成績発表会がまるで見世物じゃないか!

 そういえばパステルが魔王の成績は賭け事の対象になっていると言っていたような……。


「どうやら人間界に送られる前の成績順に呼び出されていたようだな。私が最後のようだ」


 パステルは集まった魔王の面々を見つめる。

 逆にパステルを見つめる魔王たちの反応は様々だ。

 笑う者、驚く者、喜ぶ者、怒る者、悲しむ者……どいつもその感情を裏に隠そうとはしない。むき出しの感情がパステルに集まっている。

 こんな中で彼女はずっと生きてきたというのか……。


「さぁさぁ! お集まりの皆々様! すべての新人魔王たちが今このコロシアムに集まりました! 今回は非常に優秀な者が選ばれたためか一か月間で死亡などで脱落した者はおりませんでした!」


 コロシアムの全体から男の大きな声が聞こえてくる。

 魔界の進んだ道具を使ってコロシアム全体に声を届けているのか。


「さて、ここで改めて私の自己紹介をば……コホン、この度の新人魔王成績発表会及び明日に行われる模擬戦闘大会の司会と実況を務めさせていただくジェイスというものです! 以後お見知りおきを!」


 男はどうやら俺たちから見て右手にある観客席の上段にいるようだ。

 そこだけ席が他とは違い。何やら黒い箱のような物が周りに置かれている。声を届けるための装置か?

 また男の席の上には巨大なモニターも設置されている。あそこに成績が表示される感じか。


「さて、今日お集まりいただいたみなさんが一番知りたいこと……それはここに集まった新人魔王たちがこの一か月間でどのような活躍をし、どれだけDPを手に入れたか……という事ですね?」


 観客席から『そうだー!』『わあああああ!!』『金だー!!』など様々な答えがあがり、コロシアムを震わす。


「ふむふむ……流石魔界の皆様答えがバラバラだ。しかし構いません! どんな答えが返ってきてもやるのは成績発表会ですからね! 組まれた予定が変わらないようにもうこの段階では成績は確定し変わりません! さて、その決まった順位……を発表する前に一度そのDPシステムの仕組みを振り返ってみましょう」


 観客からは『早くしろー!』『時間稼ぎすな!』『どうでもいいー!』などのヤジがとぶ。

 しかし司会のジェイスは気にしない。


「DPとは主にダンジョンでの活動で獲得する『ダンジョンポイント』と主にダンジョン以外……つまり人間界での活動で獲得する『デーモンポイント』を合わせた数値のことです」


「ええっ!? DP(ディーピー)ってダンジョンポイントだけのことじゃなかったの!?」


 思わず声に出してしまったので周りの魔王やその仲間に笑われた。

 でもこれは本当に驚いたぞ……。


「おや、ご存じない方がいらっしゃるようなので詳しく説明しますと……」


 ジェイスが説明に入ると俺もブーイングされた。


「ダンジョンポイントの方はご存じのようなのでデーモンポイントの話だけをするとしましょう。まあ、似た様なものです。ダンジョンポイントがダンジョンに入ってきた人間を撃退したり仲間を増やしたりすると手に入る様に、デーモンポイントは人間界で侵略や破壊行為、略奪などの行為をすれば手に入ります。魔王らしい振る舞い……と言った方が伝わりやすいですかね?」


「あっ、はい……」


 なるほど、確かにダンジョンポイントだけではうわさに聞く恐ろしい魔王のような行動は難しいんじゃないかと思っていたんだ。

 戦力を増強すればそれだけダンジョンにくる人のレベルは上がっても数が減ってしまう。稼ぎ的にはあまりおいしくならない。


 それにダンジョンを人間が放置すれば魔王はどうしようもなくなってしまう。

 ダンジョンに住むモンスターの数やランクによって月々貰えるDPも基本その住んでるモンスターを維持するために必要なDPに絶妙に届かない。

 魔王が自ら動いてDPを稼ぐ手段が必要だと考えていた。それがデーモンポイント……。


「あっ、さっきはちょっと過激なことばかり言っちゃいましたけど、デーモンポイントは何も人に害を与えないと手に入らないわけではないですよ! そこまで詳しく説明すると私の実況席に観客の皆様が乗り込んできそうなので控えますがね! 人間界に帰ってから学んでください!」


 司会者ジェイスは咳払いをし話題を変える。


「えー、ではではそろそろ皆さん我慢の限界のようですので、成績発表を行おうと思います」


 ウワーッと観客席が盛り上がる。

 俺たちは成績下位であれ上位であれ騒ぎが大きくなりそうなので端っこの方で待機する。


「なお発表は最下位からではなく一位からでもありません! ワースト五位とベスト五位は最後に残します!」


 つまり下から六番目の人から発表されていくのか。

 それはそれでかわいそうだな六番目の人……。


 そんなこんなで発表会は始まった。

 下位の魔王はモニターに名前が表示されるたびに頭を抱えて悲しんだりその場にうずくまってしまったりして阿鼻叫喚だった。

 観客も容赦のないヤジを飛ばす。


 発表も半分を超え上位と言える順位になり始めると喜ぶ顔や得意げな顔をする魔王も増え始めた。観客も驚きの声を上げたり一緒に喜ぶ者も出てきた。

 場の空気が少しずつ緩み始めたと思っていたら、いよいよ最後に残ったベスト五位とワースト五位の発表の時がやってきた。


「あらあら、逃げずにこのコロシアムまでやって来るとは……少しは成長したんじゃありませんの?」


 人をかき分けてエンジェがパステルの隣にやってきた。

 傍らには執事のキューリィも一緒だ。


「あなたは気楽でいいものですわね。順位なんて最下位確定なんですもの。ふふっ、私はドキドキしてたまりませんわ。まだ私の名前は出ていませんの。もしかしたら……一位なのかも。あぁ~ははは!」


 得意げに笑うエンジェ。

 機嫌がいいのかパステルのツインテールを手で弄び始めた。


「うふふふっ、さあさあもうすぐ一位と最下位が発表されますわよ!」


 観客席は少しどよめいている。

 どうやらほぼ確定と思われていた最上位の順位がなぜか一つずつズレているらしい。

 そのせいでトップ五位から漏れた者が大声で叫んでいて今にも周りの者に当たり散らしそうな雰囲気だ。

 ……これがもし一位がパステルだったりしたらどうなるんだ?


「私は今ほど最下位で構わんと思ったことはないぞ……」


 パステルも周囲の者の熱気に若干引いている。

 これはエンジェを応援しないといけないな……。


 なんてことを思っても後の祭りだったのだ。先ほどジェイスが言ったように成績はすでに確定していて変わりようがない。

 もうここに来た時点で、そしてこの一か月を過ごした時点で……。


 いよいよ残ったのは一位と最下位のみ。

 大半の者は有名どころの魔王が先に出てしまったことで『一位は誰だ?』とキョロキョロ周囲を見回している。

 残りの者は冷静に残った魔王を把握しエンジェに賞賛のまなざしを送っている。

 ただ……わずかな魔王、そして観客はパステルの方を見ていた。

 いや、正確にはきっと俺を見ていた。


「さーて栄えある一位と不名誉な最下位は同時発表です! まあ、片方ずつ発表してもどっちにしろ消去法でわかっちゃうんですけどね。一位と最下位はぁーーーーッッ!!」


 あれだけうるさかった観客たちが一瞬シンと静まり返る。

 魔王たちも同様だ。

 俺とパステルはただ祈っていた。どうか一位じゃありませんように!


「一位はパステル・ポーキュパイン!! 最下位はエンジェ・ソーラウィンド!!」


「あっ」

「あっ」


 祈りは届かなかった。

 もちろん今までの頑張りが評価された事はとても嬉しい。

 嬉しいけど……。

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