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第08話 カラクリ毒ガエルの能力

 翌朝――。

 俺がリビングでダンジョンの様子を眺めていると、バタンと派手に扉を開けて寝室からパステルが出てきた。


「おはようパステル」


「おはようエンデ。それで私はなぜ私のダンジョンに帰ってきているのだ? 修羅器はどうなったのだ?」


「それは……」


 記憶が混乱しているパステルに昨日気絶した後のことを話す。


「うーむ、気を失ってしまったのか……あの程度で。何とも情けないのう。また迷惑かけたなエンデ」


「お安い御用さ。それで修羅器はちゃんと手元にある? 他人には確認のしようが無いからそれだけ心配してるんだけど」


「それはあると思うぞ。ほれ」


 パステルはスッと手のひらに巻物を呼び出した。

 召喚型の修羅器は修羅器自体を呼び出すのに魔力を消費しないようだ。


「良かった。これで今日から訓練ができるね」


「うむ、望むところだ。とりあえず身だしなみを整えてくるぞ」


 パステルが朝の支度を済ませている間に俺は第八階層に移動する。

 ここは戦闘訓練や毒の実験用に広く大きな部屋が用意されている。天井には照明もあり明るい。

 前は第一階層でいろいろ試してたけどダンジョンとして運営を開始した以上、なかなかもうあそこでは行えない。その代りが第八階層だ。


「さて、何から始めようかの」


 いつものファッションに身を包んだパステルが魔法陣から現れた。


「俺も正直わかんないから先生をお呼びしたよ」


「今日はサクラコ先生と呼んでくれてもいいんだぜパステル」


 四人のメンバーの中で魔力やスキルに関して経験豊富といえるのはサクラコしかいない。

 今回も彼女に頼ることになる。本当にここにいてくれることに感謝している。


「俺はそもそも人間社会の中にいたこともあって『擬態』を長時間使う事も多かった。だから、魔力が限界ギリギリで途切れるって思った瞬間も何度かある。その度にいろいろ工夫して乗り越えて成長してきたから、パステルにも良いアドバイスが出来ると思うぜ」


「うむ、よろしく頼むぞ。それで何から始めるのだ?」


「そうだな……やっぱり基本は反復練習が一番だと思う。魔力を使う事、修羅器を使う事に慣れるんだ。エンデの話では初めてカエルを召喚した時一分で倒れたとのことだが、いくらパステルでもそこまで魔力が少ないとは思えない。きっと慣れてなくて無駄が多かったんだと思う。魔力をいらないところに流し過ぎたんだ」


「あっ、そういえば修羅神も無駄が多いって言ってた気がするなぁ」


「だろ? まずやるべきは自然体で無駄なくカエルを召喚することだ。召喚に無駄がなくなれば操作に魔力をまわせるだろ? そして操作に慣れれば戦いに意識を集中できるのさ」


「なるほど……わかりやすい指導だぞサクラコ。教師に向いているのではないか?」


「いやぁ……ほら、俺は生徒に手をだしちまうから……な?」


「そうだな、前言撤回だ」


「うーん冷たいパステルちゃんもかわいい! と、一つオチがついたところで一度召喚いってみようか!」


「よし! まずは修羅器を……」


 パステルの手に巻物が握られる。このステップはもうすでに問題なさそうだ。


「魔力の流れを正確に印象付けるために構えを……」


 初回よりもなめらかに巻物を口にくわえ、右手の人差し指と中指だけを伸ばし胸の前に。


「むっ!」


 掛け声とともにパステルの目の前に煙が立ち込め、中から修羅神のダンジョンで見たのと同じけばけばしい色をしたスリムなカラクリカエルが現れた。


「ゲコゲコ」


「うおっ、鳴いた!」


 前回の召喚をまともに覚えていた俺だけが驚く。前は確か全く動かず鳴きもしなかったよな……?

 それに今回はなんだか少し小さいような。ちょうどパステルの身長と同じくらいしか高さがないぞ。

 とりあえず前回との相違点を二人にも伝える。


「確かに前より小さいな。あの時は私の二倍は高さがあった。魔力を抑えることを意識した結果その影響が大きさに表れたということか」


「どうやらカエルの大きさはある程度変えられて、大きいほど魔力の消費も大きいとみた。パステル調子はどうだ?」


 サクラコがカエルを召喚しながらも平然としてるパステルに尋ねる。


「悪くない感覚だ。二回目ということで多少は体も慣れたのか、それとも大きさによる消費魔力の変動がよほど影響していたのかはわからんが今すぐ気を失いそうという事はないぞ」


「よっしゃ。じゃあ、それでしばらく待って気が遠くなりかけたらカエルをひっこめよう。自分の意思で召喚を止める練習もいるからな」


「わかったぞ」


 パステルがカエルを召喚してから一分は経った。

 二分……三分……。


「うぐっ……こ、ここだ!」


 煙とともにカエルが消え、パステルが巻物を持って地面に膝をつく。


「パステル大丈夫?」


「ああ……自分の意思でちゃんとひっこめられたぞ。危うかったがな……。それにしてもこれで三分か。まあ、一分よりかは希望が見えてきたな……」


 強がっているがパステルの顔色はあまりよくない。


「サクラコ休みを入れないと無理そうだ」


「想定通りさ。一旦休憩としよう」


 皆でその場に座り込み一息つく。俺は心配そうに見てるだけだがそれはそれでけっこう疲れるな……。


「そうだ。休憩中にエンデの貰った褒美とやらが見たいぞ」


「おっ昨日の夜は明日教えるって言ってたよな?」


 二人の視線が俺に集中する。

 そんな派手なもんじゃないんだけど、みんなにも説明しておく必要はあるな。


「まあ……簡単に言うと俺のいつもの装備を強化してもらったんだ」


「ん? 見た目にはあまり変化がないが……」


「見た目にはね。でも、これを見てもらえればわかると思う」


 俺は相棒の剣を掲げる。

 すると剣はドロドロと溶け出し始めた。まるで俺の毒の身体の様に……。


「なぁるほど! 持ち主のスキルに反応して同じ反応をするのか!」


 サクラコがこれは傑作だとばかりに手を叩く。


「というか、触れている間はその持ち主の身体と同じ扱いになるんだ。だから毒液状化する事が出来る。他の装備も同じ強化が施してある。便利でしょ? これで毒液状化した後も全裸にならなくて済む」


「本気で戦うたびに裸になっていては恰好がつかんからな。修羅神も気の利いた褒美をくれたものだ」


「そうだね。ただ、この効果を服に付与するときに思いっきり脱がされてね……。カーテンの向こうに服を渡して戻って来るまで修羅神にじっくり見られてしまったよ……」


「で、で、どんな反応してたんだ修羅神は?」


 サクラコが食い気味に聞いてくる。


「まあ……悪くないなぁとか、もうちょっと手をずらせとか……パステルが羨ましいなぁ……とか」


「なぜ私が羨ましいのだ。毎日エンデの裸を見ているとでも思っているのか? せいぜい出会った時とサクラコに会った時くらいしか見ていないぞ私は」


「パステルそれはな……」


 サクラコがニヤァっと下品な笑みを浮かべる。


「はいはい、そろそろいい感じに時間が経った。もう一度召喚を試してみよう」


「うむ、そうだな」


「ちっ……もうちょっと深く語り合いたかったなぁ……エンデの肉体について。俺もあの時は混乱しててしっかり見れなかったし、今度一緒に風呂でもどうだ? なあエンデ」


「……考えておこう」


「え、マジ? 断られると思った。ちょっとドキッとしちゃった」


 サクラコはキャッと口元を手で隠す。

 拒絶したらしたで騒がれると思ったから受け入れてみたが……そんな顔されては困る。


「さーて、もう一度召喚だな」


 パステルが一連の召喚動作を正確に繰り返す。カエルが再び召喚された。


「うむうむ、わずかだが魔力の流れが安定に近づいてきている気がする。そういえばエンデ、このカエルの能力を修羅神から聞いているのだったな?」


「うん、今からその一部を話すよ」


 修羅神曰くカエルのすべての能力を一週間で習得するのは無理とのことだった。

 なので基本能力二つを今からパステルに説明する。


「まずはそのカエル表面のツヤを生み出しているのが物理的な攻撃や魔法による攻撃までも滑らせて受け流す『ガマウルシ毒』だ。ツルツルしてて触り心地が良さそうに見えるけど肌で直接触れると痒くなるから注意してね」


「ふむ、防御に向いている効果を持った毒だな。カエルを大きめに召喚して盾に使う事も出来そうだ」


「あくまで受け流すだけであること、そして受け流せる攻撃には限度があることを覚えておいて。この表面の毒は攻撃を受けるごとに剥がれていき塗りなおすには魔力を消費する。そして、攻撃が強力すぎると流しきれない」


「それでも便利そうな毒だな。エンデも貰っとけよ。魔法に対する耐性があれば無敵じゃん」


「おっ、そうか」


 カエルの表面に触れても少し擦る。うん、毒を取り込めた。

 しかし、俺自身がその毒を試すのは後だ。


「次に舌だね。カエルの舌は伸縮自在でよく伸びるし太くて力強い。大型のムチの様にも使えるし、粘着性のある毒も分泌できる」


 この粘着性のある毒『ガマハエトリ毒』は本物のカエルでいうエサとなる獲物を捕まえるための動き……それを再現するための毒だ。

 粘着性だけでなく直接触れたものを痺れさせる効果もある。これで舌に一度捕まったら逃げるのはかなり難しくなる。さらには……。


「粘着性を失わせるガマウルシ毒と組み合わせてくっ付けたりはなしたりも自由自在だ。また、手足にも粘着毒を分泌する場所があるから壁に張り付いたりできるってさ」


「それも便利そうじゃん。貰っとこうぜ」


「その為には舌を出してもらわないといけない。パステル、カエルの舌で俺を攻撃してみて」


「いいのか?」


「うん、毒液状化で物理攻撃は無効。それにこのカエルは俺と同じく毒無効だ。カラクリだしね。液状化した俺の一部を取り込んでも問題ない」


「ではやってみるとしようか」


 パステルはカエルと魔力の糸でつながっている右手の指を細かく動かし、カエルを操るイメージを高める。


「やれ!」


 左手で俺を指差し命令をするパステル。

 するとカエルはその口を開き、目にも止まらぬスピードで俺を舌で薙ぎ払った。


「おわっ!?」


 体の真ん中で真っ二つにされかけた俺は驚きの声を挙げた。

 痛くはないし命に別状もないがなんて威力だ……。俺の体を構成する毒液の一部は壁にベシャッと飛び散っている。

 これを普通の人間が喰らったら……。


「上出来だよパステル。訓練一日目でこんなにすごい攻撃を繰り出せたんだから。力の制御は後から覚えればいいさ」


「う、うむ……そろそろひっこめるぞ……」


 パステルがカエルを戻す。そしてそのまま地面に仰向けに寝転んだ。


「二度目はどっと疲れが来たぞ」


「今度は更に間を空けて召喚した方が良さそうだね」


「すまない……」


「謝ることないよ。今のところ順調だ」


 修羅神にはとにかくパステルの気持ちを高めろと言われている。

 なんでもそうだが初めてそれに触れて練習を始めた時が一番成長を感じられ、実際に伸びる時期らしい。

 だからパステルをその良い状態のまま試合に送り出してやれと。そうすれば試合中にも成長し実力以上の力が出せると。


 俺もそれには同感だ。パステルは基本ネガティブだから何の根拠もなしに自信を持ったりはしない。

 自分が成長しているという実感を持っていなければおそらく勝てない。

 彼女の名誉のために、勝利のために、出来ることはやらなければ。


「そういえばさぁ、エンデって液状化で体の一部を伸ばしたりできるんだよな?」


 少々暇そうなサクラコが何気なく尋ねてくる。


「うん、あんまり伸ばすとその伸ばしたもの本来の機能が低下するけどね」


「じゃあさ、舌伸ばしてカエルのマネとか出来るんじゃね? ほら毒も同じの使えるんだし」


「ふふっ、なんだそれは。面白そうではないか」


 寝転んでいたパステルが体を起こしこっちを見てくる。

 ……致し方ない。


「ゲロゲロ……ベロー!」


 カエルのようなポーズをとり舌を伸ばす。

 しかし、カラクリカエルほどの威力も勢いもない。そもそも人間の舌は伸縮しないからだ。


「うおっ! 意外と再現と高いじゃん! すごいすごい!」


「どこからどう見てもカエルだぞエンデ」


 おだてすぎだ。俺は体の形を多少変えられてもサクラコのような擬態能力はない。冷静な人が見ればおかしな恰好の人間だ。

 しかし二人が楽しそうなのだもうちょっと頑張る。


「ゲロゲロ……」


 手に入れたばかりの粘着毒を使って壁に張り付く。

 これ……かなり便利だな。足場のない高い壁もなんのそので登れてしまいそうだ。


「…………」


 あれ? パステルが真顔になっている。これはちょっとパステルの中のカッコいい俺のイメージを損ない過ぎたかな?


「これはもしや……エンデを召喚するカエルと偽装して試合に出せるのではないか……?」


「いや、無理……じゃない?」


「……ふっ、だろうな」


 自分で言っておいてあははははと朗らかにパステルは笑う。

 この元気が最後まで続けばきっと勝利を掴めるはずだ。

 カエルのマネ……一発芸リストに入れておこう。

※7/8追記

カエルの毒の効果説明を追加しました。

内容に大きな変化はございません。

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