第03話 修羅神のダンジョン
毒の修羅神のダンジョンは以前サクラコが住処にしていた洞窟よりも俺たちのダンジョンに近い位置にある。
なので俺がパステルを背負って全力疾走、Sランクモンスターのタフネスを見せつければ半日で着くはずだ。
そして帰りもダンジョンで怪我とかしなければ全力疾走し夜のうちに俺たちのダンジョンへ帰る。
むちゃくちゃだが成功すればこの上なく安全な計画だ。
問題は修羅神のダンジョン内部の情報が毒に満ち溢れているくらいしかわからない事だが……こればっかりは仕方ない。
俺の装備はいつもの服に相棒の剣。パステルの装備はいつもの服に小型の魔力銃と魔力盾。要するにサクラコと出会った時と一緒の装備だ。
後は毒で腐ることを承知で少量の食料のみを持って俺とパステルは朝のうちにダンジョンを発った。
ダンジョンの情報が書かれた紙の地図を頼りに人の手が加わっていない自然の大地を駆け抜けぬける。
人に出会うことはなかったものの流石にモンスターには何回か遭遇した。
大体は俺を見て逃げ出すので問題なかったが、やはり向かってくる奴もいるものでそういう奴には強溶解毒をほんの少しだけ撒いてやった。
流石に身を溶かされそうになると血の気の多いモンスターでも驚いて逃げていく。
そんなこんなでだいたい予定通りに修羅神のダンジョンへ到着した。
「ふむ……これがダンジョンなのか。私たちのダンジョンの様に洞窟っぽい物を想像していたがこれは塔と言うべきだな」
俺たちの目の前には高くそびえ立つ鈍い金色の搭が建っている。
高いと言っても周りの木々も非常に背が高く、樹海の中に埋もれるように建っているそれにはツタも多く絡みついていてなんだか異様な雰囲気があるなぁ。
「さて、どう攻略していこうかエンデ」
「まずは俺が単独で入っていって最奥手前までのルートを見つけてくる。最後の試練にはパステルも一緒に参加しないと修羅器を授けてもらえないからね」
「確か修羅器は修羅神に授けられた者から他の者へ譲渡できないのだったな。それに一度の探索で何人引きつれていようとも授けてもらえるのは一人だけ、その一人を選ぶのは修羅神のきまぐれだとか」
「そう、そして一度授けるとしばらくは誰にも修羅器を授けてはくれない。その『しばらく』の期間も神のきまぐれだからこれまた運次第になる……ってサクラコに聞いた」
「私たちの前にちょうど誰かが来ていて修羅器を持って行っていたら骨折り損だな……」
「まあ……ないとは言えないけど、そんなこと考えてもしょうがない。前向きにいこう!」
パステルを奮い立たせようと励ましの言葉をかける。
なんたって彼女は今から俺がダンジョンの内部を偵察している間、一人で外で待っていなければならないのだ。
毒で溢れているらしい内部にいきなり一緒に入って死なれては困るので先に俺がダンジョンの毒を吸収し解析、そしてその毒の効果を一時的に抑える薬を生成し彼女に飲ませる。
出発前にこの作戦はパステルに話してある。
この毒に対する薬は抑え込むべき毒の効果が強いほど飲んだ者の身体への負担が大きくなる。長期間摂取し続けると人によっては中毒症状を引き起こす。
毒を抑えるために飲んだのにこれでは意味がない。
なのであまり飲み続けるべき物ではないし、一度に飲む量も少ないほど良い。特にパステルは体が弱いのだ。
俺がダンジョン最奥までのルートを先に見つけるのも、出来る限りパステルが毒に晒されている時間を短くするため。そしてそれにより飲む薬の量を抑えるためでもある。
しかし、絶対にやらねばならん事とはいえ彼女を一人にしておくのは非常に……それは本当に非常に不安だ。
「ふっ、エンデがそんなに不安そうな顔してどうする。こちらまでさらに不安になってくるぞ」
「ごめん、そうだね。俺がすぐに目的を達成して君のもとへ戻ってくればいいだけなんだから本気で頑張ってくる!」
「そうだその調子だ。それに私も自分の身くらい自分で守れるしな……三分くらいなら。エンデ、三分で戻ってこい。出来るだろう?」
「……さ、流石に中の構造がわからないからなぁ。三分は難しいかも。でも、出来る限りやってみるさ!」
パステルから離れ塔のダンジョンの入り口に立ち、その扉を両手で押しあける。
地面を擦る音とともに扉は開かれた。何らかの見えない仕切りが作用しているのか、毒は外へ漏れ出してこない。
俺は意を決し人生初の修羅神のダンジョンに足を踏み入れた。
「ん……もうすでに空気に毒が混じっているか……」
鼻から空気中を漂う毒を取り入れ解析を開始しつつ駆け足で先に進む。
内部は塔の外装と同じく鈍い金色で、四角い石造りの通路が張り巡らされている。しかし、通路の至るところで壁が崩れそこから紫の霧が吹きだしていたり、床が落ちくぼんでそこに水……おそらく毒液が溜まっている。
こういった情報を頭に入れておかなければ……。持てる能力の全てを使うんだ。急ぎながら道を覚え敵を倒し毒を解析し対抗薬を生み出せ。
「うおおおおおおおおお!!!」
気合を入れるとともに叫び声を上げて反響でダンジョンの構造を探ろうとしたものの耳は並なので何も把握できなかった。
その代わり大声につられてモンスターたちが現れる。
「邪魔だぁ!」
ドロドロした崩れたスライムのようなモンスターを蹴飛ばし、毒の水たまりから伸びてくるドロドロした無数の手を剣で切り裂き、巨大でドロドロした人型の物体を殴りつけて黙らせる。
装備が多少溶けたりしてるから、モンスターや水たまりは物を溶かす毒で構成されていると考えられる。
溶ける毒は俺自身には効かないが、パステルにも効かないようにするのは難しい。溶けるというのは飲み薬で抑えようがないのだ。
ん……?
じゃあ塗り薬なら抑えられるかも……?
少し解析してみるか。
一番初めに解析した空気中を漂う毒は麻痺毒とわかった。
少し吸っても大したことはないが、吸い続けると次第に体が動かなくなっていくタイプだな。出来るだけダンジョンの奥で動けなくするために遅行性の毒を散布しているのならなかなか趣味が悪い神様だ。
だが、効果が弱い分対抗薬の生成も容易だった。
現在、第五階層までたどり着いた。
何階層が最奥かはまだわからない。流石に三分は経ってしまった気がする。しかし、少しでも早く帰るために探索の手は緩めない。
更なる探索中に溶ける毒の解析が終わり、その効果を抑える薬も完成した。
ただ、塗り続けるとお肌に良くない塗り薬だ。パステルの綺麗で絹のような肌がガサガサのボロボロになっては悔やんでも悔やみきれない。
しかし、うっかり溶ける毒がかかって肌が焼けただれるのも嫌だ。やはりリスクを考えても少量は肌に塗らねば。
第九階層まで来た。
特に景色や出現モンスターに変化はない。
階層から階層への移動は俺たちのダンジョンと同じく魔法陣で行う。
今のところ階層ごとの魔法陣の位置、そこまでのルートは覚えているが正直そろそろ俺の出来の良くない頭では覚えきれない数になってくる。
どうか次くらいが最後の階層であってくれよ……。祈りながら第十階層へ移動する魔法陣にのる。
第十階層へ到達。
通路というか広い部屋に移動したようだ。
辺りを見回すと、ちょうど正面にこれまで見たことないほどの大きな扉があることに気付いた。デザインも派手派手で金色に輝いている。
これは……明らかに最後の試練を行う大部屋の扉……っぽい。つまり第十階層が最終階層だろう。偶然にも今の俺たちのダンジョンと一緒だとは。
なんてことを考えている場合ではない。
最奥手前に辿り着いたのならば、ここから今まで覚えたルートをさかのぼってパステルのもとへ帰る。そしてだいたいでいいから帰りにかかった時間も記憶する。そうすれば適切な量の薬をパステルに与えることが出来る。
「よし、スタートだ!」
今使ったばかりの魔法陣に飛び乗り即座に移動する。そのまま全力疾走で毒の中を駆け抜けてドンドン下の階層へと向かっていく。
最奥手前まで行って全速力で引き返していく俺の姿にモンスターもどこか呆れたように道を譲ってくれた……ように見えた。
おかげでいいタイムが出そうだ。待ってろよパステル!
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引き続き頑張って更新していこうと思います!




