第17話 ダンジョン防衛祝勝会
「えー、ダンジョン防衛成功を祝してカンパーイ!」
それぞれが掲げたグラスをぶつけ合いこつんと音を鳴らす。
リビングのテーブルの上には冒険者を追い返して稼いだDPで取り寄せた豪華な食事が並ぶ。
これから防衛の度にこんな豪勢な料理は食べられないだろうけど、今回は初めていということで特に異論もなく購入に至った。
結局、今日一日で冒険者は十二人、パーティとしては四組がやって来た。
多少差はあれどどのパーティも第一階層の半分にも到達できずに帰っていった。死人はゼロ。こちらの被害として多少植物モンスターたちが減ったがグロア毒を残った根にかけておけば明日の朝までには生えてくるはずだ。
「皆よく頑張ってくれた。今日私が美味しいご飯を食べられるのは皆のおかげだぞ」
パステルが赤身肉のステーキを食べつつ感謝の言葉を述べる。
「私にはもったいないお言葉。当然のことをしたまでです」
一番頑張ったメイリはまだ食事に手をつけていない。
みんなでそろって食べる時はパステルに強く勧められるまでいつも遠慮して食べないのだ。ただ、食べ始めると本当によく食べる。
「まっ、俺は好き勝手暴れただけだがな」
サクラコは逆に何の遠慮もなくバクバクと食べ物を平らげていく。こちらは逆に食べるスピードは早いもののすぐ満足してしまう。意外と小食だ。
「サクラコ、別に今日みたいな行いを必要以上に咎めたりはせんぞ。ダンジョンに来る者にも多少の恐怖は与えておかねばならんと思うしな。気軽に来られて人でごった返すのも平穏とは呼べん。何事も程よくだ」
「わかってるよパステル。俺だって自分の欲を満たすためだけに戦ってるわけじゃないさ。その為に頑張って金を巻き上げてこれを買ってきたんだからさ」
サクラコは懐から黒と黄色のムチを取り出す。
「スタンウィップっていう魔力を流し込むと微弱な電気が流れるムチさ。これで女の子を動けなくして……じゃなくて、侵入者の動きを止めて無力化するって寸法よ。俺の伸縮する体と組み合わせれば凄まじいリーチを誇るし、これで人を殺す事はまずない。どうだ? 俺にピッタリな武器だろ?」
「確かに女性を失神させるのに適した武器ですね」
メイリがサクラコに食ってかかる。
「むう……メイリはサクラコが嫌いか?」
「いえ……そんなことは……。ただ、何故か言動の一々が気になるのです」
「そりゃ恋って奴だよ。いやぁ初恋の相手が俺とは……趣味が悪いねぇ」
自覚はあるんだなぁ、サクラコも。
「恋ではありません。間違いなく。絶対に」
「うむうむ、嫌いでないのならいくらでもケンカするがよい。それにしてもとっておきの武器をここでバラして良かったのか?」
「ああ、そんな引っ張るような派手な武器ではないしな。良いものとはいえ店売り品だし。それにエンデを戦わせないっていう目標も達成できたしな」
「え? 俺を? なんでまた戦わせたくなかったの?」
「あー、だってさ……今来てる冒険者はエンデが前に住んでた町から来てるんだろ? なんか気まずくて戦いにくいかなぁと思ってさ。代わりに俺が武器を持って戦おうとちょっと思っただけだよ。本当はスケベ目的で買った武器なんだ、えへへ」
誰から見ても今の彼の笑みが照れ隠しだとわかった。
「なんか……ありがとうね」
「礼を言われるようなことしてないって! 今日だってメイリが全部やったしな」
「私も少し見直しましたよ」
「へへっ、じゃあその着こまれた服を俺が今夜脱がしてもいいってことかい?」
「……ダメです」
答えると共にメイリは食べ物に手を付け始めた。
「ちぇ、いいもん俺は今夜もエンデと朝まで見張りしてるもんなー」
一人だけ満腹になって暇なのか、サクラコは俺の背後に回りギュッと抱き着いてきた。
驚くほど柔らかい胸が首筋に当たる。
「ちょ、ちょっと食事中なんだからお行儀悪いって」
「ふふっ、でもいいモンだろ? 柔らかいだろスライム乳は? だって本物のスライムだもの。ほれほれ~」
「ダメだって……」
俺だって元は食うのにも苦労してた底辺冒険者だ。食事にはそれなりの敬意を払っている。
こんな下品な行いで……よ、喜ばないぞ……。
「あははっ、自分で自分の乳を揉んでも虚しいことこの上なかったが、人に押し付けて反応を見るのはこんなにも面白いのか!」
「くぅ……」
サクラコって声も結構かわいいんだよなぁ。背後から喋りかけられるとドキッとする。
「ふーん、エンデは胸が大きい方が好きか?」
何気なくパステルが尋ねてくる。
「えっ、まあ、そりゃ……大体の男は大きい方が好きなんじゃないかなぁ……?」
「ほう、私もそのうち大きくなるのだろうか。胸も体も」
「それはなるんじゃないかな?」
今ローブを脱いでラフな格好をしているパステルを見ればわかる。
背は低いものの脚も長く腰もくびれていて大人の女性になる予感を感じさせる。胸も小さいは小さいが服の上からでもその存在はハッキリとわかるくらい膨らんでいる。華奢だが痩せているわけではなくむしろ肉付きは良い。
流石多くの物を魅了する力を持っているだけあって、この年齢ならばこれしかないというほど完璧にスタイルが整っている。
これから体が成熟していっても彼女は美しいままだろう。
「俺も同意見だぜエンデ。流石にあまり幼い女には手を出してこなかったが、いろんな女体を見てきたからわかる。パステルは良い女になるぜ。まあ、今くらいの成長している最中が一番女の美しい時期だっていう奴もいるけどな。逆に熟しきったのが好きなのもいる。人それぞれだな」
「エンデはどうだ? 今のままの私が良いか? それとももっと大人になった方が良いか?」
「それは……わからない。でもきっとパステルはいつまでも綺麗なままだと思うから、その時その時全部を好きになると思う。だから成長していく君をずっと見続けていたいな」
「……ふっ、欲張りだな。弱い私を順調に成長させるのは難しいぞ? いろんな危険が付きまとう」
「覚悟の上さ。俺が守るよずっと」
「ならば私もずっとエンデの傍にいるとしようか」
「くぅ~! お熱いところ見せつけてくれちゃって! どうしようメイリ、やっぱ俺たち残り物だよ仲良くしようぜ」
「私はたとえパステル様の目に私が映っていなくても傍でお支えし続けます」
二人の声で我に返った俺は顔が熱くなるのを感じた。
酒など飲んでいない。緊急時に困るからだ。素面であれか……。
パステルも俯いて顔が見えないけど真っ赤だろう。ちなみに彼女も酒など飲んでいない。
「さーて俺は見張りでもしてくるかな~? 邪魔しちゃ悪いしね」
「お願いしますね。私は残ったお料理を食べないと……」
「何言ってんだよメイリも来るんだよ」
「は? 今二人も見張りに出る必要がありますか? それよりもお料理がもったいないです」
「サキュバスなのにわかんねー奴だな。二、三時間くらい二人っきりにさせてやれってことだよ?」
「んん……? それはどういう……」
「メイリ、構わずそのままご飯にしてくれていいよ。サクラコはその言動を続けるなら本当に見張りな」
「はいはい、わかったよ。言っとくけど恥ずかしいのは聞いてた俺もだからな! まあ、嫌いじゃないけどなそういうの。むしろそれでこそ俺が身を固めた意味があるってくらいの惚気具合だったぜ!」
「うう……悪かった。謝るから少し黙っててくれ……」
うつむく俺とパステル、ニヤニヤしてるサクラコ、残ったご飯を美味しそうに食べるメイリ。
この奇妙な空間はメイリが食事を終え片づけを始めるまで続いた。




