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第14話 友のいる夜

「メイリ、今帰ったぞ!」


「おかえりなさいませパステル様、エンデ様」


 帰路を急いだ俺たちは何とか夜のうちにダンジョンへたどり着くことができた。


「異常はなかったか?」


「それが人間にこのダンジョンを発見されてしまいました」


「なに!?」

「ええ!?」


 俺とパステルは同時に驚く。


「そ、それで何か怪我はないのか!?」


「私には特に。多少植物たちが切られはしましたが、すでに再生しております」


「ならいいのだが……」


 パステルは落ち着かない様子だ。

 長旅で疲れているだろうに帰ってきて大きな心配事が増えてしまった。


「ねえメイリ、人間はどんな奴らだった?」


「男の二人組です。武器を携帯しダンジョンにも恐れず、かつ踏み込み過ぎないよう警戒していましたからおそらく冒険者かと」


「どう追い返した? もしかして……」


「殺してはいません。移動を植物たちに邪魔されていたところを私が火魔術で追い打ちをかけ逃げるように仕向けました。暗がりから撃ちましたから私の姿は捉えられていません」


 メイリが懐からスッと銃を取り出す。

 これもゴルドの知人から流れてきた試作武器の一つで、持ち主の持つスキルに応じて弾丸の種類が変わる。つまりメイリは火水風の三属性を使い分けられる。

 また、変形し剣にもなる。この場合は刃部分が属性によって変化する。

 ただ、そこは試作武器。刃があまり長く伸びず、剣というよりナイフのようになってしまう。

 また聖や光、闇なんかのレア属性にはそもそも対応していないので、その場合は弾丸も刃もでない。


「植物が生い茂るダンジョンに普通炎属性のモンスターは置かない。なのに炎が来たと言うことは、上手く植物には当たらないように力を制御できる知能を持ったモンスターがわざわざ迎撃に出てきたと予想できる。うん、敵も警戒してすぐ逃げるわけだ。せっかくダンジョンを見つけたのにその情報を持ち帰れず死んだら意味がないからね」


「しかし、それではこのダンジョンに高ランクモンスターがいるという情報をばらまくことにならんか? 強い冒険者が来たらどうするのだ?」


「どちらにしても人間を追い返していたら後から後から強い奴が出てくるよ。冒険者の中でも警戒度は上がっていくから弱い人は近寄らなくなる。その代わりにみんなに出来なかったことをやってやろうっていうダンジョン攻略が生きがいみたいな冒険者もうわさを聞いてやってくるかもしれない」


「むぅ……そういうものか。私は平穏に暮らしたいだけなのだがな」


「戦いは避けられないけど、俺もパステルと平穏に暮らせるように頑張るよ。その為の心強い仲間も増えたし」


「おっ、そうだ。メイリ、新しい仲間のサクラコという者が……」


 振り返るとそこには人間の形が崩れかけのサクラコがいた。

 新しい仲間はもうおかえりになるかもしれない。


「はい……サクラコです。いやぁ……これはちょっと破壊力高いぞ……。まさかサキュバスなのに露出が無いなんていい趣味してるなぁ誰の趣味だ?」


「私だ」


「流石魔王様お目が高い。これは脱がせろと言ってるようなもんでしょ……。服の中に隠された情熱的な肉体をさらけ出さないと気が済まない……」


「脱がしたら普通のサキュバスと変わらんくなるだろうが!」


「でもさ……」


「お二人とも何で争っておられるのですか? 初めましてサクラコ様、脱げとおっしゃるのでしたら脱ぎましょうか?」


 メイリが真顔で自分のメイド服に手をかける。


「いや、いい」


 サクラコは驚くことにスッと人の姿を取り戻した。


「自分から脱ぎだすのは良いんだが……恥じらいがないとな……」


「恥らいましょうか?」


 メイリは一瞬で顔を赤らめ瞳を潤ませる。

 え、演技できるのか……。前見たスカートたくし上げの恥じらいも演技だったなこりゃ……。流石若くともサキュバス。


「聞いちゃダメだよ! 演技ってモロばれじゃん! なんか……第一印象は娘の為に一肌脱ぐ若くてエロいママって感じだったのに、今は肝っ玉かあちゃんって感じだ……」


「ふんっ、私の求める母親像に近いな。流石だぞメイリ」


「お褒め頂き光栄ですパステル様」


「もう……疲れたので俺寝ます。どこで寝ればいいですか?」


「部屋はいくつか空いています。ご案内しますね」


「お願いしますメイリさん。あの、さっきは失礼なこと言ってすいませんでした」


「いえいえ、ご満足していただけなかったようで申し訳ございません」


「ああでも……やっぱり綺麗だ……」


 奥へ案内されながらちょっとまた形が崩れかけるサクラコ。でももう心配はいらないな。メイリがきっと調教……制御するだろう。


「サクラコにあんな弱点があったとはな。私も堂々と脱げばよかったのか」


「ああ、パステルは真顔で脱いでくれてもそれはそれで頂けます。ごちそうさまです」


 振り向きざまにサクラコが鼻の下を伸ばしながら言う。


「なぜだ!?」


 それはどう転んでもパステルが魅力的だからだよ。

 いや、待てよ? メイリだって全然無表情でも魅力的だと思うが……。サクラコ的には違うのか……ふむ、またいろいろと議論の余地がありそうだな。


 というか人間に見つかってしまったのにこんな事してていいのか?

 また気を引き締めていかなければならないはずだ。

 でも……こういうくだらない会話を楽しめるのが平穏ってことなんだろうな。

 ……とりあえず今日の見張りは俺がやるか。平穏を守るための力、今の俺にはあるはずだ。




 ● ● ●




 夜は更けてきた。同時に俺の眠気も強くなってきた。

 基本夜は冒険者は動かないとはいえ確実ではない。油断して失うものは大きいぞ……。


「お、やってるねぇ」


「ん……サクラコ?」


 ダンジョンの奥の方からマグカップを二つ持ったサクラコが来る。


「どうしたんだこんな夜中に。体液を出しすぎて寝室を追い出されたか?」


「はは、そこまで節操がないわけじゃない」


 マグカップの一つは俺に手渡す。

 中身は……魔界産のコーヒーか。


「俺を気遣ってくれたのか?」


「まあな。あと俺も住処が変わってなかなか寝付けないのさ」


 サクラコは座りこまず壁にもたれかかるようにしてコーヒーをすすり始めた。

 前とは違ってやけにクールじゃないか。


「夜は人間なんて基本来ないだろうにやけに力んでるな」


「もしもということがあるし、敵は人間だけじゃないかもしれないしね」


「不安か?」


「まあね、他の魔王たちはどういう防衛の仕方をしてるんだろう?」


「そりゃ基本的に手下に任せてるさ。目が良い奴とか鼻のきく奴を巡回させて常にダンジョンに異常がないか見張っているのさ。そして敵とあらばボスモンスターが動く。どんな強い魔王もコアを破壊されたら終わりだからな。信頼できる奴を防衛に置いている」


「サクラコは結構詳しいんだね」


「俺はこれでもいろんな冒険者に絡んできたし、少し町に住み着いてた時期もあったから、冒険者が知ってる程度のダンジョンの知識はある」


「えっ、町に住んでたの?」


「どちらかといえば通ってたという方が正しいか。女日照りでな。まあ、人間社会に溶け込めやしなかったからモンスターとバレて殺される前に逃げたが……」


 サクラコはわざとらしく音を立てながらコーヒーを飲む。


「俺の話はいいや。もっと有意義なことを話そうと思ってきたんだ。強い魔王ってのはやはりダンジョンの外にも情報網をもっている。近くの町の状況はもちろん、強い冒険者の動向や他魔王の動きも捉えようとしてる。そうしないと今の俺たちみたいにいつ何がやってくるのか全くわからずにドキドキさせられる事になるからな」


「やっぱりそうか……。そうじゃないと基本的にダンジョンに引きこもってないと不安で仕方ないもんなぁ」


「強い魔王同士は牽制しあってる。魔王不在のダンジョンを他の魔王が攻めようとしてる情報をさらに他の奴に掴まれてたら危険……って感じてなかなか魔王本人同士が戦うことはない。基本は人間相手に戦って何かしらの利益を得て、来たるべき時を待っているってところだ。あとは戦わず近隣の町を裏から支配して物を売ったりして稼ぐなんてこともしてる。支配できれば情報も手に入りやすいし一石二鳥だ。強い冒険者が来たらそれとなく妨害して侵攻を遅らせるなんて事も出来るしな。まあ、露骨すぎて魔王に通じているのがバレて……なんてこともあるが」


「複雑だなぁ……」


「ちょっと喋りすぎた。まあ、ベテラン魔王が新人弱小魔王を狙ってくることはほぼない。リスクばかりでリターンが無いからな。逆に人間は新たな芽を摘むために仕掛けてくる傾向にある」


「……深夜になると結構不安になる事があってね。今まで自分がいなきゃ誰かを守れないって状況になったことがないもんだから。本当に彼女を守れるだろうか……? 彼女を失ったらと思うと……。サクラコもこういう気持ちになったことがある?」


「あるさ……そりゃあ。これでもそれなりに生きてるからな。大切なものを手に入れるとそれを失うのが怖くなるのは当然だ。そう思ったから俺が来た」


「やっぱりサクラコもパステルのことが心配で来てくれたんだ」


「いや、あの時はスケベ心100%だったぜ」


「ええ……」


「正確にはさっきまで、かな。怒るかもしれないが、さっき寝てるパステルにイタズラしようとしてきた」


「本当にやってたら怒るどころか殺すかもよ?」


「だろ? 今は俺もそう思う。なんだか寝顔を見てると悪いことをしようって気持ちがなくなるんだ。起きてる時はちょっと生意気ですごくからかいたくなるんだが、無防備な姿を見ると守ってあげたいと思うようになった。もうすっかりパステルの魅力にメロメロだ」


「ははっ、彼女はそういうスキルを持ってるからね」


「それは違うぜエンデ。スキルを持っているから魅力的なんじゃない。魅力的だからスキルになったんだ。俺だって女好きだから女に擬態するスキルを手に入れたワケで、擬態するスキルがあったから女好きになったわけではない。間違えたらいけねーよ、パステルが傷つくぜ」


「……そうだ。俺が間違ってた」


「まあ意味的には一緒みたいなもんなんだがな。能力の証明がスキルなんだから。ただ『君のスキルのせいで守りたくなる』って言うより『君が魅力的で守りたくなる』って言った方が乙女はときめくだろ?」


「間違いない。なんだかサクラコと話してると気が楽になるよ」


「そりゃ深夜に一人悶々としてるよりも誰かと話した方が精神的に良いに決まってる。あっ、そうだ悶々と言えば……」


 サクラコがグッと距離を詰め、俺の耳元でささやく。


「ここは女ばかりだがそっちの方はどうしてるのよ。溜まってないか?」


「い、いきなり何言うんだよ」


「まあまあ、俺はパステルもメイリも気に入ってるがお前のことも結構好きなんだぜ? どういう『好き』なのかは俺にもまだわからんがな。ずっと溜め込んでるのも不健康だし、もしもの時は言えよ。その時だけ……私女になるからさ……手伝うよ」


「て、手伝う?」


「あんまり深いところまでいくとパステルに気を遣うだろ? だから手伝うだけさ……。あー! こんな恥ずかしいこと二度は言わないし、こっちからは誘わないからな! お前から勇気を出して言えよな! 気分がよほど乗らない場合以外は拒まないと思う。じゃあ、俺はもう一回寝る!」


 すたすたとサクラコはダンジョンの奥へ引っ込んでしまった。


「あっ! 明日、俺が町まで行って情報集めてくるよ! じっとしてるよりは良いだろう?」


 最後に声だけが奥から聞こえてきた。

 えっ、それ最優先に話し合うべきことじゃないの!?


「サクラコ!」


 呼びかけてみても返事はない。本当に寝室に引っ込んでしまったか。

 追いかけるのもなんだか……今は気を遣うので明日詳しい話をするか……。

 いろいろな意味でより悶々とする夜は続く……。

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