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第02話 竜の住む湖で

 翌朝、サクラコたちは船に乗って湖へと繰り出した。

 風が弱いため水面も穏やかで、水の精霊竜キャナルを探すにはもってこいの日だった。


「にしても、精霊竜も俺たちが来たことはわかってると思うんだよなぁ。もったいぶらずに向こうから来てくれればいいのに」


「見つけ出せるかどうかで実力を見極めようとしてるんじゃないのかねぇ」


 船首に立って水面を見つめるサクラコとササラナ。

 フェナメトとフィルフィーも船上で散らばって精霊竜の手掛かりを探す。

 しかし、見えるものと言えば穏やかで美しい水面と遠くに広がる雄大な自然のみである。

 サクラコは腕を組んでなにかいい案はないかと考えて、すぐに答えにたどりついた。


「なあ、ササ姉って水に触れてれば魔力感知の範囲を広げられるんだよな?」


「まあね」


「じゃあ、いっちょ湖に入って竜の位置を探ってほしいんだが」


「おっ、名案じゃん! てかなんで気づかなかった私」


 ササラナは勇んで湖に飛び込もうとした時、船の横を小さなボートが通りかかった。

 ボートに乗っているのは昨晩レストランで隣の席にいた男女カップル。

 流石に湖にダイブするところを見られると怪しまれるのでササラナはその場で制止した。


 カップルは立派な船だなぁ……とプレジアンの船を見つめる。

 そして、男とサクラコと目が合った。

 やはり妙な威圧感というか圧迫感を覚える目の光をしているとサクラコは思った。

 しかし、昨日ほどひるんでいない。

 それどころかサクラコの方から会話を切り出した。

 本当はあまり関わりたくないが、昨日会った人間と目が合って無言と言うのも無理な話だ。


「昨晩はどうも。デートですかい?」


「いやはやお恥ずかしいところを見られましたね。そのようなものです」


 他愛のない世間話が続く。

 会話をしても見た目どおり頼りない男としか思えない。

 サクラコは違和感を感じつつも『デートの邪魔をしちゃ悪いっすね』ともっともらしい言葉を残して湖の先に進もうとする。


 しかし、それは叶わなかった。

 ちょうどカップルのボートと反対側の水面を眺めていたフェナメトが、誰かと会話しているサクラコを見て近寄ってきたのだ。


「何の話? 知り合いがいるなんて珍しいね」


「ああ、昨日レストランでちょっとだけな。フェナメトはいなかったから知らないだろうけど」


「へー、こんにちは。僕の名前は……」


「フェナメト……」


「そうそう、フェナメト! あれ? どうして知っているんだい? 僕言ったっけなぁ……」


「ああ、君は親友だった男の自慢の娘みたいなものだからねぇ……。よぉく覚えているよ……。忘れたこともない……」


「親友? 僕が娘? いったいどういう……」


 フェナメトはわかっていない。

 フィルフィーは会話にすら気づいていない。

 ササラナは険しい顔になっているがそれは勘。何かに思い当たったわけではない。

 ただ、サクラコだけは最悪の答えにたどり着いた。


「ササ姉! とりあえずあの男と距離をとれ!」


「んっ! 了解だ!」


 嫌な予感は感じていたササラナは普通の船ではありえないほどの加速をかける。

 急な揺れに驚いたフェナメトとフィルフィーはずっこけて転がる。


「い、いったいなんなのさ!」


「どうして急加速を!?」


 サクラコはその答えを言おうとして一度思いとどまった。

 間違いはない。ただ、その名を口にするのが怖かったのだ。

 しかし、黙っていては意味がない。


「あの男はおそらく……ビャクイって奴だ」


「ええっ!?」


 三人は同時に驚きの声を上げる。

 それもそうだ。自分たちが打倒のために探していた男が目の前にいたのだから。

 どうすればいいのか……という空気が船上に広がる。

 その答えを出したのもまたサクラコだった。


「正直なにが正しい対処なのかわかんねぇぜ。ただ、ここにあいつがいるってことは目的は精霊竜キャナル! 竜を放置して逃げるわけにはいかない! だから、とにかく竜を探して力を継承してから一緒に逃げる! これが正しいと思う」


 その言葉にみんながうなずく。

 やるべきことを並べただけの言葉。

 それをどうすれば実現できるのかはわからない。

 ただ、みんなを冷静にさせるには十分な言葉だった。


「となれば私は竜を探す!」


 ササラナは湖に飛び込み、動く船と並走する。

 それと同時に魔力を水の中に広げていく。


(広い……! ゲッコウ内湾より広いなんて流石は大陸最大の湖だねぇ……。水の流れも知らない場所だから対応するのに時間が欲しい。けど、そうも言ってられないか!)


 船の後方から高速で迫ってくる魔力を感知。

 それも水中からだ。おおよそ人間業とは思えない。

 今の船に追いつけるとなると、よほど泳ぎが得意なモンスター……。


(メガロドン! まあとんでもないもんを! しかも二匹とはねぇ……!)

 

 超大型の鮫型モンスター『メガロドン』。

 強大な力を持った古代魔獣に片足を突っ込んだAランクモンスターだ。

 本来なら海の深いところに住んでいるはずで、こんな観光地の湖にいてもらっては困る存在。

 つまり、ビャクイが追っ手として放ったとしか思えない。


(とはいえ、どこからこいつらを呼び出したのかねぇ。金魚じゃないんだからあのボートに隠せるわけないし、あらかじめ放っておいたとか? いや、そもそもここまでメガロドンを輸送する手段が思いつかない) 


 不気味さは感じる。

 しかし、メガロドン自体は今のササラナたちにとって大した脅威ではない。

 本来なら水辺にて最強クラスのモンスターだが、こちらも鍛え上げられた魔王軍なのだ。


「お魚と水中で戦う気はさらさらないよ!」


 ササラナは大きく突き上げる水柱をあげ、二匹のメガロドンを空中へと打ち上げる。

 それを撃破するのは船上にいるサクラコとフェナメトだ。

 彼らも水面に現れた特徴的なサメの背びれから敵の出現を確認し準備していた。


「ビームショーテール!」


 フェナメトの手に持った筒から湾曲した光の刃を発生する。

 それは宙を舞うメガロドンを簡単に切り裂いた。


「うん! 前より何倍も思い通りに動ける!」


 フェナメトの開発者であるヒムロの手が加わったことで、フェナメトの能力は飛躍的に上昇していた。

 数秒間しか維持できなかった『ビームショーテール』もエネルギーと排熱が追いつく限り使用可能だ。


 装備しているクエストパック『アルバトロス改』はギルギスお手製の『アルバトロス』をヒムロが手直ししたもの。

 背面のメインブースターの出力はそのまま、各部に小型ブースターが増設されたことで小回りが利くようになった。

 おかげで離着陸もスマートに行える。

 また防御面は装甲を薄くし軽量化を図っているが、両腕部に光の盾『ビームシールド』を発生させる装置が取り付けらたため総合的な防御力は下がっていない。


 ただ、エネルギーに関しては問題が残っている。

 ビームを使いまくる分、消費が早くなっているのだ。

 古代では『サイコゴールド』という人間の思念をエネルギーに変換して送ってくれる画期的な装置が存在したが、現代の技術ではヒムロがどう頑張っても造ることは出来なかった。

 ゆえに長時間戦闘となるとフェナメトは魔動バイクに積まれている燃料を補給しに戻らなければならない。


「こっちも行くぜ! 金十字回帰刃ゴールドクロスブーメラン!」


 サクラコの腕が巨大な十字のブーメランに変化。

 それは体から切り離されメガロドンに向かって飛び、その体を真っ二つにした。

 戻ってきたブーメランは再びサクラコの体の一部となった。


「悪くない感覚だ!」


 部分武器化――。

 サクラコの新スキルで体の一部を擬態により武器へと変化させる。

 以前より可能だった指や腕を針のようにとがらす技の発展形だ。

 剣や盾、槍や斧、今見せたブーメランくらいの簡単な造形ならサッと作れるようになった。

 そのうえ体から切り離すことも出来る。


 しかし、サクラコは女体ほど武器に興味がないため複雑なものは作れない。

 また体の一部しか変えられないため『俺が巨大な剣になってエンデと合体攻撃だ!』みたいなことは出来ない。


 分離すればしっかり体の体積も減るので飛び道具は手元に戻せるものが好ましい。

 まさにブーメランはぴったりの武器だ。

 体の一部ということで軌道もある程度制御できる。


「おっ、流石だねぇ二人とも」


 水面に顔を出したササラナは倒されたメガロドンが落下する様を目撃する。

 進化した仲間の戦いっぷりに感心したのもつかの間、湖には新たな刺客が放たれていた。

 それを察知したササラナは目の色を変える。


「うーん……ど、どうしようこれは……」


 メガロドンよりも強大な魔力。

 穏やかだった湖が荒れる。

 流石に船上のサクラコたちも異変に気付いた。


「ササラナどうする!? 前に進むか!?」


「残念だけどこいつからは逃げられないわ!」


 水しぶきを上げて現れた蛇のような長い体を持つモンスター。

 天に昇ろうかというほど水面から飛び上がったのち、また水中へと潜った。

 その際起こった水しぶきは、どしゃぶりの雨のようにサクラコたちに降り注ぐ。


「あれは……水の精霊竜じゃないか!? ああいうにょろにょろしたタイプの竜もいるって話を聞いたことがある! きっと敵の存在を察知して助けに来てくれたんだよ!」


「残念だけどサクラコ……あいつはモンスターだよ。それも古代魔獣リヴァイアサン……! ヤバい海のモンスターのオンパレードってか? いったいどこから仕入れたのか、店があるなら教えてほしいもんだねぇ……」


 Sランクモンスター『リヴァイアサン』。

 その強さはクラーケンに勝ると言われる古代の海最強の魔獣。

 それが観光地の湖に現れたのだ。

 しかも、ここは世界を見守る竜の住む湖だというのにやりたい放題である。


 晴れ渡る空は雲に覆われ、じとじとと嫌な湿気がまとわりつく。

 場を支配されたと理解したときには、湖に巨大な渦潮が発生していた。

 その中心にはリヴァイアサンが待ち構えている。


「くっ……! 伝説の古代魔獣のクセにこっちが口元まで運ばれてくるのを待つとはだらしない……! 恥ずかしくないのかい!?」


「ササ姉! 強がってる場合じゃないって! 船を渦から出してくれ!」


「無理! こっちはAランクのか弱い船幽霊、あっちはSランクの古代魔獣……勝てない! 同じ水使いだし完全に水の制御を取られてるんだよ!」


「ええーーーーーーっ!?」


 ただぐるぐると渦に巻き込まれて流れるだけのサクラコたち。

 フェナメトだけは空中へと飛び上がり、新武装『ビームライフル』で光の弾丸をリヴァイアサンに放つ。

 しかし、きらめく鱗が光を反射しまるでダメージにならない。


「せっかく新しいのを作ってもらったのに相性が悪いなんて……!」


 旧武装の『メタルマシンガン』など実弾兵器も持っていてはいるが、それだと今度は威力が足りない。

 この中で一番強いササラナが手も足も出ないのは致命的だった。

 それにフェナメトも通用しないとなるともうサクラコは祈るしかない。


(エンデ……お前あんまり自分に自信ないけど、やっぱ強いんだよ……。お前ならあの怪物のキラキラした鱗を溶かして剣ぶっさして毒をそそげば終わりなんだからな。空も飛べるし、竜の鱗で防御も十分、おまけに傷を癒やすことも出来る。もっと自信持てばいいのに……。お前がいないと……)


 まるで諦めたかのような思考。

 サクラコは頭を振って振り払う。

 祈っても助からない。戦うしかないのだ。

 しかし、この状況では祈るのが本当に選択肢に入ってくるほど切羽詰まっている。


「あっ!」


 声を上げたのはフィルフィーだ。

 彼女は魔動バイクの中から何か使えないか探っていた。


「どうしたフィルフィー!?」


「いざという時に押せと言われていた発煙筒とか閃光弾がもう使われているんです! 救援要請用なのでサッと押せるようにボタンも大きく、カバーもなしにしてたから加速の拍子に物が当たって押しちゃったのかも!」


「……ってことはまさか」


 サクラコの声に応えるように暗雲が引き裂かれる。

 雲の切れ目から赤い閃光が真下に走り、リヴァイアサンの頭部を貫いた。


「アイラ・エレガトン参上ってね! いやぁ、本当に呼ばれるとは思わなかったから焦ってきちゃったよ」


 猛禽類を思わせる力強く大きな翼、高い身長……あの戦い以来どこか達観し、より強くなった女性。

 くすんだ赤色……えんじ色に金のラインが入った鎧をまとったその人物。

 ロットポリス四天王、鳥人アイラ・エレガトン。

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