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第03話 北への道しるべ

 翼をはためかせて俺はロットポリスへの帰路を急いでいた。

 精霊竜の力を使いこなす訓練にはもちろん毒が発生する。

 いくら広い場所を用意してもらっても町のなかでは万が一がある。

 なので日中俺は町を離れて人気も自然もない平地で一人訓練に明け暮れていた。


 そこへ急にやってきたアイラはただ北の雪山ネージュグランドの新たな情報が手に入ったと言うだけ言って颯爽と帰ってしまった。

 俺も飛ぶのには慣れたとはいえ、生まれたころより翼をもつ鳥人にしてSランクに意図せずとも成長を遂げた彼女には追いつけない。

 結局来た時と同じく一人寂しく空を飛ぶことになっている。


 飛んでいる間に考えることといえば、その新しい情報が何なのかということや、パステルたちの訓練は進んでいるのか、ということで答えの出しようのないものばかりだった。

 そうこうしているうちに眼下にロットポリスを捉え降下していく。

 向かう先は仮の四天王拠点。

 そこはロットポリス・ビルディングのように独創的な建物群ではなく、建てられてから何十年か経過した落ち着いたお屋敷といった雰囲気の場所だった。

 門の前に立っている守衛は空から降りてくる俺を見て敬礼する。

 もう慣れないといけないけど、こう顔を見ただけで敬意を払われるとなんとなく緊張する。


 守衛に何度か頭を下げてから開け放たれた門を抜けて屋敷の中へ。

 メイリの着ている物とは違いどこか高貴さを感じさせる金の刺繍が目を引くメイド服を着た使用人に案内されて会議室へ。

 そこにはすでに俺以外の全員。つまり、パステル、メイリ、サクラコ、フェナメト、フィルフィー、ヒムロ、そしてフォウとアイラが集まっていた。

 ココメロは訓練を終えるとダンジョンで待機しているし、ササラナはまだテトラの町にいる。


「揃ったな。じゃあ、ネージュグランドについての新情報について話そうじゃないか」


 アイラはこの会議室が窮屈でたまらないのか珍しく人前で鎧を脱いでいる。

 その代わりに身に着けている白いシャツ越しにも彼女の鍛えられた肉体はハッキリとわかった。


「情報提供者は商人のマクラウドという男だ。なかなかの大商人で自ら大陸中を練り歩いて商売を続ける見上げた男さ。北の荒涼とした大地でも難なく進める特別な馬が自慢で……ってそういう話はいいか。とりあえず、信用できる者だ。わざわざ偽の情報を渡してまで四天王に媚びを売る必要がないし、今回の情報提供には報酬も出していない。ただ、本当に知っていたから話してくれたとみていい」


 アイラが一枚の紙を手に取る。


「えっと……その情報っていうのは精霊竜に直接関係する情報じゃない。ただ、ネージュグランドの吹雪が止んだ日があったそうだ」


 俺は思わず息をのむ。

 周りのみんなもみなアイラの言葉にそれぞれ違った反応で驚きを示していた。


「ネージュグランドは大きい山脈だから多少離れた町からでもその姿は楽しめる。マクラウドはせっかくこんな北の町まで仕事に来たんだから、そこでしか見れない物を見ようと寒空の下山を眺めていたらしい。その時、不意に吹雪が止み、太陽が真っ白な山を照らしてキラキラと輝かせた。それに驚いて目をこすっている間にまた吹雪が吹き、頭がおかしくなったのかとぶるぶる頭を振っているとまた吹雪は止んでいた……」


 快適な温度が維持されている会議室で聞いているというのになんだか寒気がしてくる話であった。

 話をしているアイラもそれを感じているようで、神を持っていない方の手で体をさすっている。


「山の天気は変わりやすいというけど、そんなもんじゃなかったらしい。点滅するように変わる天候を多くの町の人々も目撃している。現実に起こったということさ。マクラウドは気味が悪くなって商売を切り上げて北の大地から離れた……これが半年前の話だ」


「は、半年!?」


 思わず声が出た。

 そんなに前……俺とパステルが出会う前から事態は動いていたのか?


「北の大地は道も悪いし遠いんだ。それに天候によっては動けない日も続く。マクラウド自慢の馬だからこそ意外と早く帰れたって話だ。それにこの気味悪い話は精霊竜とビャクイという脅威のことを知っていなければただの話のネタの一つに過ぎない。情報が広まっていなくても仕方はないよ」


「そう……ですね」


「マクラウドは最後にこう言っていたそうだ。『商人の感が言っている。興味本位であの山に関わるべきではないと。しかし、あの山にどうしても手に入れたい物があるのなら、今すぐに手を伸ばさねばならない』って。あと『俺にはあの山に欲しい物はないから頼まれても関わってやるものか』ともね。まあ、危険だと直感でわかったんだろうさ」


 商人ってすごい。

 お客さんの心を理解するだけじゃなく、もっと大きな物事の流れを読んでいるんじゃないかと思う。

 マクラウドの残した言葉はまさに今の俺たちにとって道しるべとなる言葉だ。

 早くネージュグラウンドに行け、行動を開始しろと……。


「さて、どうしたものかのう」


 パステルは腕を組んでうんうんとうなる。

 彼女も今すぐにでもネージュグランドに向かいたいと思っただろうけど、キュリス湖へも俺たちは行かないといけない。それもなるべく早く。

 俺が飛んで飛んですれば何とか……。


「なあ、みんな」


 静寂に包まれた会議室に響いたのはサクラコの声だった。

 彼女は普段見せる楽観的な表情ではなく、どこか緊張していて固い表情をしていた。


「あの……やっぱりヒムロが最初に言ってた二手に分かれる作戦でいかないか? その方が効率的だし、早いと思う。それに情報収集でキュリス湖周辺は比較的安全でネージュグランドは急がないといけないって情報が手に入った。なら、パステルたちは一刻も早くネージュグランドに行って、ついていけない俺はササラナとキュリス湖に行けばいいかなって……」


 サクラコの言ってることは正しい。

 訓練という目的もあるが、そもそもは情報を集めるために時間を割いて、そこでネージュグランドに早く行けという情報を得た。

 同時にキュリス湖周辺に大きな異変はないという情報もある。

 ネージュグランドに行っている間、ついてこれない者には別の作戦を進めてもらうというのは確かに効率的だ。


 ただ、それよりも気になったのはサクラコの態度だ。

 チラチラと視線が泳ぎ、よく下の方を向く。

 まったく彼らしくないその姿を見れば自信を失っているのは明らかだった。

 何か自分にしかできない役目が欲しいとサクラコは訴えかけている。

 その訴えを受け入れるかどうかはパステルが判断した。


「……わかった。サクラコ、フィルフィー、フェナメトにはテトラの町でササラナと合流し、その船に乗ってキュリス湖を目指してもらう。以前話し合ったことがある湖から流れ出ている川を上っていくルートだ。水の上ならササラナは強い。無理をせずササラナを頼れ。守れるかサクラコ?」


「もちろん! 俺だって今の自分の実力は把握してるさ!」


 とりあえずの笑顔が戻ったサクラコを見て、俺は少し安心感を覚えた。彼には笑顔が似合う。


 パステルの言うルート、そしてメンバーは以前二手に分かれざるを得ない事態を想定してみんなで話し合って決めたものだ。

 継承者になる予定のササラナは確定として寒冷地を苦手とするサクラコ、そして魔動バイクを雪山仕様に改造できていないフィルフィーとバイクがなければ整備ができないフェナメトがセットになっている。

 同時にネージュグランドに向かうメンバーも決まっている。

 精霊竜を説得するべく向かう精霊族のパステル、氷の精霊竜の継承者予定のヒムロ、炎の魔術を使えて雪と相性が良いメイリ、そして俺。


 ダンジョンのお留守はココメロ。彼女にはゲートメダリオンを使ってダンジョンの状況報告、また必要なものを精霊門を使ってパステルのもとに送ってもらう。

 つまり、ネージュグランド班はパステルさえいれば食料などの荷物を持つ必要がない。

 また、メダリオンがダンジョンにあればパステルは緊急脱出ができる。

 ネージュグランドでトラブルがあった際は彼女だけでも先に逃がす予定だ。


「作戦開始は今をもってだ! みな準備ができ次第目的地に向けて出発せよ!」


「了解!」


 パステルの命令を受け、みな忙しそうに準備を始めた。

 まだ見ぬ北の大地……今回の冒険は好奇心と同じくらい不安と焦りを感じる。

 このもやもやとした感情を吹き飛ばすことが出来るのは誰でもない俺自身。

 新たな力で未開の地を踏破してみせる。そんな決意とともに俺は厚い雲に覆われた北の空を眺めていた。

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