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第02話 魔操訓練

「おーおー、ここにおったかパステルよ」


 フォウ・フロトミラーはロットポリスで最も背の高い建物、イーグルタワーの再建工事現場にいたパステルを見つける。

 パステルは数日前にロットポリスにやって来て仲間ともどもフォウを含めた四天王に新たな戦い方を教わっていた。

 四天王としては町を救ってくれた恩人が頭を下げて教えを乞う姿に違和感があるのは否めない。

 むしろ、こっちが強くなる方法を教えてほしいくらいだと話していたくらいだ。


 しかし、それは冗談。

 フォウを含め四天王はパステル一行がまだまだ荒削りだということはわかっていた。

 生まれ持った才能や受け継いだ力で戦ってきたパステルたちに伝えられることはたくさんある。

 フォウも竜人という恵まれた種族ではあるが、初めから結界術が得意だったわけではないのだ。


「ここは一応関係者以外立ち入りを禁止しているのじゃがのうパステル」


 工事現場の足場をひょいひょいっとのぼってパステルの背後を取るフォウ。

 パステルは足場に座って脚を外に投げ出しぶらぶらと揺らしている。

 その手には何やら黒い塊が握られていて、それを食べているようだった。


「私はここの関係者だ。この塔が崩された時、ここにいたのだからな。だから問題ないだろ? フォウ」


「子どものようないいわけじゃのう、まったく」


 一応の注意はしたものの特に怒る気もないフォウはパステルの隣に同じように座り込む。


「何を食べているのじゃそれは?」


「おにぎりだ。この黒いのは海苔と言ってな、海藻を乾燥させたものだ。それを米の塊に巻いただけシンプルな料理だが、テトラの町ではポピュラーな食べ物だったぞ」


「そうか、そんな食べ物もあった気がするな」


 下を見れば足がすくむような高所で二人の少女が仲良く談笑する姿ははたから見れば異常だが、二人にとってはここが話すのに最も適した場所だった。

 フォウにとっては復興が進んだ町が見渡せ、自分が守っていくべきものがハッキリとわかる場所。

 パステルにとってはフォウに教わった【防性魔流】で命が救われた場所。つまり、今もおこなっている魔力操作の訓練の大切さを再確認できる場所なのだ。


「なんと言えばいいのかわからんが、テトラではいろいろな事があったのじゃな」


 フォウは港町テトラで起こった事件のことをパステルがロットポリスを訪れてすぐに聞いていた。


「まあな。私としては自分が精霊族だという実感はない。しかし、多くの事実が私を精霊族だと言ってきおる。フォウはどう思った?」


「我としては今まで出会ってきた者の中に精霊族がいますと言われれば一番にパステルが思いつく。そういう認識じゃ」


「納得は出来るというわけか……。みなそう言うな……」


「それだけパステルには不思議な魅力があるということじゃ。良いではないか、精霊器という便利な代物を使えるのじゃから」


「それもそうなのだが、どうも落ち着かん。今までもこそこそと生きてきたのに、またバレると良くない秘密を抱えるのだからな」


 大口を開けておにぎりを頬張り、そのすべてを口に入れるとパステルはもぐもぐと数秒間噛み続ける。

 それを飲み込んだのち、今度はパステルから話題を振る。


「ヒムロはどうしておる? 何やらフィルフィーと一緒にギルギスの工房に入り浸っておるようだが」


「古代の技術者の男じゃな? あいつは町の技師と仲良くやっとる。見た目もなかなかだが性格が良いな。人見知りが多い技師の男にも上手く取り入って、協力しながらフェナメトの新装備を開発しておるそうじゃ」


「ふぅむ、港町の漁師たちからも評価が高かったので心配はしとらんかったが流石だな……」


 水筒に入った熱い茶を飲みながらパステルはしみじみとつぶやく。

 ヒムロの持つ古代の知識に技師たちは興奮し、ヒムロもまた古代に劣る技術でありながらフェナメトを修理した

技師たちの腕を高く評価していた。

 技術を追い求める者同士なので、ヒムロにとってある意味漁師たちよりもなじみやすい環境であった。


「それで私たちはどうだ? フォウから見て訓練は上手くいっている方だろうか?」


「ふむ、そうじゃなぁ……。パステルは以前より格段に良くなっておる。原初の力である精霊力の目覚めにより魔力も底上げされておるし、制御能力も上がっている。まあ制御能力の方はパステルがロットポリスを離れた後も我の教えを忘れず日々訓練を忘れなかったおかげじゃがな」


「ふふっ、それだけフォウの教え方がうまかったのだ。私も自分の身は自分で守るということをずっと目標にしておるからな。とにかく守りを硬くしておかねば。他の者はどうだ?」


「メイリはアイラが言っておった通り器用じゃった。防性魔流を覚えるのに半日といらんかったな。そもそも三属性の魔術を使い分けられるのじゃから当然と言えば当然なのだが、やはり目の前で見せられると驚く。今はアイラと一緒に必殺技を考えているらしい。アイラは相当メイリのことを気に入っておるから悪いようにはならんじゃろう」


「メイリはいつも冷静だが、テトラの町の戦いでは前線に出れないことを少し悔しがっていたようにも見えた。だから気合が入っているのかもしれん。私としてはその気持ちは嬉しい。ま、無理だけはせんようにまた直接話しておこう」


「それがよかろう。次にサクラコじゃが……こちらは教えることもなかったな。そもそも擬態という高度な魔力制御能力持っておるのじゃ。防性魔流ごとき話を聞くだけでできおった。なぜかすぐに習得出来て残念そうな顔をしていたことは気になったが……」


「サクラコもここ最近力に固執している節があるのだ。エンデのことをとても気にかけていて、エンデを守れるくらい強くなりたいとずっと言っておるからな」


「ほほっ、それはなかなか熱い心を持っておるな。しかし、精霊竜の継承者にして失敗作とはいえ古代の技術で造られた魔人であるエンデを目標にしては身を亡ぼすぞ。サクラコはすでにスライムとしては相当に強い。ステータスを欺き、体を金に変え、分身も出来る。さらに装備を無力化し神経を過敏にする体液もバカにならん。暗殺や裏工作で容易に国を崩せる」


「だが、サクラコが勝ちたいのは真正面から国を亡ぼせるような怪物たちなのだ。目標が高い分には良いのだがな……」


「いざという時は止めねばならんぞ。パステルの配下はみなお前のためなら命を投げ出しかねない。その者に見合った役目を与えてやるのが王の務めじゃ」


「頭ではわかっておるがな……。それでエンデはどうだ?」


「うぅむ、ちょっと苦労しておるな。こう言っては何じゃが、そもそもあまり素質がないことに加えて精霊竜の強大な力も抱えておるから制御に苦労しておる。まぁ、防性魔流は不安定でも部分竜化は安定しておるし問題ないじゃろう」


 部分竜化はその名の通り体の一部分を竜に変えるスキル。

 エンデの場合は翼を生やして飛行、鱗をまとって防御が使い慣れており得意だ。

 他にも尾や牙、角を生やしたり手足を大きくすることも出来る。


「あとはココメロじゃな。あやつはまあ普通じゃ。身の丈に合った魔力を身の丈に合った制御力で操る。完全習得にはまだ時間がかかるが気長にやろうではないか。ダンジョンの防衛を主な仕事にしているココメロが強くなればより冒険に出かけやすくなるというものじゃ」


 ココメロはダンジョンに設置されたゲートメダリオンの精霊門をくぐってロットポリスにやって来ていた。

 心配性なのかすぐにダンジョンに帰りたがるが、少しの間フォウと訓練をしたり町を見て回ったりしている。

 最近は町で裁縫道具を買ってお留守番の間の暇つぶしに刺繍でもしようかと言っているので、彼女もまた初めて見る景色に刺激を受けているようだ。


「ココメロはまじめだ。お留守番ばかりさせているのに私のことをいつも気にかけてくれている。訓練だってきっと手を抜くことはない。上手くいかないことがあっても優しく接してあげてほしい」


「もちろんじゃ! みんなみんな物覚えが良すぎて退屈しておったところじゃからな。のんびりやらせてもらうぞ」


「うむ、ココメロはそれでいい。だが、私たちは急いだ方が良いのだろう。情報があまりなくて焦るに焦れんがな」


 ロットポリスでも北に広がる未開の大山脈ネージュグランドの情報はあまり流れてこなかった。

 また、キュリス湖もここから距離がありそれほど最近の土地の状況は入っていないが、それでも未開の土地よりは情報があった。


「もう先にキュリス湖に行こうかと思ってる。ネージュグランドは怪しいが竜がいると確定はしていない。何か伝承でも残っておればよいが、それを調べに北へ飛ぶなら先に南の湖に行った方が早いかと思ってな」


「難しい問題じゃのう……。そのビャクイという脅威がどう動いているかわかれば作戦も立てやすいがな、今はまったく動きがつかめん。脅威がハッキリしていないと、こちらもじっくり慎重に動きたくなるものじゃ」


「ここで訓練を続けていれば事態が勝手に好転するというのならそうしたいのだがな。クセのある水の精霊竜の気が変わっていなければ良いのだが……」


 なんとなく力が入らず、お互いにもたれかかるように体を預けているパステルとフォウのもとに飛来する影があった。

 赤い残像を残し空を横切るとその影はパステルたちの目の前、つまり空中で制止した。


「あ、アイラではないか」

「あ、アイラじゃ」


「あ……じゃないよ。二人ともお眠かい?」


 赤地に金のラインが入った鎧を身にまとい背中から大きな鷲の翼を生やした鳥人アイラ・エレガトンは少し呆れた顔で言った。


「アイラこそ訓練はどうしたのじゃ?」


「一時中断さ! ネージュグランドの前のまで行ってきたっていう商人が見つかったんだよ。しかも、気になる情報を持ってる。さっ、全員集合だ!」


 アイラははやる気持ちを抑えられないのかそれだけ言うと飛び去った。

 目的地は修復工事中のロットポリス・ビルディングの代わりに設けられた仮の四天王拠点だ。


「噂をすればといったところか?」


「そうじゃな。そろそろ動き出す時期……ということじゃ」


 二人は立ち上がり、フォウがパステルを背中から抱きしめるような形をとる。

 そして、パステルは【全強化付与】と発動。強化するのはフォウの魔力だ。


「くれぐれも落とさないでくれ!」


「我もまだ慣れんのでな。保証は出来ん!」


 フォウの背中に白く輝くオーラの翼が生える。

 魔力で出来たそれを大きく羽ばたかせると、フォウとパステルはロットポリスの空へ飛び立った。

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