表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/139

第01話 目指す場所は

「ただいま、ダンジョン。我が家よ」


 久しぶりのダンジョン第一階層に大きな変化はなかった。

 相変わらずそこかしこに草木が生い茂り、足の踏み場がほとんどない。

 侵入者にとっては危険でも、ダンジョンボスである俺にとっては無害でありがたい場所……まさに我が家と呼ぶにふさわしいんだけど残念ながら留守にしがちだ。


「ココメロはいる?」


「はい! おかえりなさいボス!」


 駆け足でダンジョンの奥からスイカのアルラウネのココメロが現れる。

 特徴的な赤と緑が入り混じった三つ編みがいつ見てもスイカだ。

 おそらく第十階層で待機していたんだろうけど、ダンジョン前を映すモニターで俺の姿を確認して駆けつけてくれたようだ。


「ただいまココメロ」


「ずっと待ってましたよ。それで……他の方は?」


「どうしてると思う?」


「え……」


 ちょっとしたサプライズの準備のために言ったつもりが、ココメロはそれを深刻な方向へと捉えてしまったようで、どんどん顔が青くなっていく。

 な、慣れないことはするもんじゃないなぁ……。


「いや、そんな大きなアクシデントはなかったよ! あったと言えばあるんだけど、みんな無事で元気にしてる」


「じゃあ、なぜボスだけ帰ってきたんですか?」


「今から帰ってくるさ。みんなね」


 俺は懐から黄金正六角形の物体を取り出す。

 ゲートメダリオン……かつてこの世界を創造したとされる精霊族の残した物だ。


「うわぁ、とっても綺麗ですね。なんだか眺めているだけで幸せな輝きです。お土産ですか?」


「そうともさ。きっと君が一番これを喜んでくれると思ってね」


「まぁ、財宝求めて海に行ったボスがロマンチストになっちゃいました! でも、とっても嬉しいです!」


 ココメロがすっと両手を差し出す。

 言い方が悪かった……。確かにこれの効果はココメロが一番喜ぶものだけど、彼女個人の持ち物にはならないのだ。

 いや、実質彼女が今のところダンジョンボスの仕事をしているのだから、これは彼女の管理下に置くべきなのだろうか?

 ええい、さっさと効果を見せればココメロが良い使い道を考えてくれる!

 俺の頭より中身が詰まってるし!


「見ててココメロ」


 俺はメダリオンを地面に置く。

 てっきり自分に渡してくれるものだと思っていたであろうココメロはきょとんとした顔をする。


「いいよ、パステル」


『……うむ』


 メダリオンからパステルの声が聞こえ、ココメロが目を丸くする。

 そして、次の瞬間メダリオンから縦に伸びる楕円形の光の渦巻きが発生した。


「こ、これは!?」


「大丈夫じっとしてて」


 俺はココメロのそばに立つ。

 精霊門……光の渦は遠くと遠くをつなぐワープゲートの入口であり出口だ。

 初めてこのスキルが発動された時から少し変化してる点がある。

 

 一つはさっきみたいに声だけのやり取りができるようになっていること。

 微弱な精霊力をメダリオンに送ることによって声だけワープさせているのだ。

 これの便利なところは使う精霊力がごく僅かなので、パステル側からの声を待つだけでなく俺からも声が送れるという点。

 精霊力とは自然の純粋なエネルギー。つまり、生き物ならばみな少しは持っている。だから、俺にも使える。

 残念ながら物をワープさせられるようなゲートはパステルしか作れない。

 なので、作ってほしい時は先に声で合図を送る必要がある。


 もう一つはいま目の前の渦に起こっていること。

 中央の目の部分が徐々に大きくなり、最終的に渦の外側までたどり着くことで渦は光の輪っかになった。

 輪っかの中に映るのはワープする向こう側の景色。

 スキルを使うことに慣れた結果、ワープ先を目で確認することができるようになったのだ。

 ちなみに景色が映るのは片面だけでもう一方は前と同じく渦が巻いている。

 いうなれば自分の姿の代わりに遠くの景色が映る姿鏡のような形にゲートは変化していた。


「久しぶりだなココメロ」


「パステル様!」


 ゲートの向こうにパステルの姿が映る。

 ホテルの一室で俺の連絡を待っていたようで一緒に映り込んでいるテーブルには飲みかけのオレンジジュースのグラスが置かれていた。


「こ、これはなんなんですか!?」


「なんだと思う?」


 パステルが俺と同じ過ちを繰り返そうとしてる。

 ココメロはパステルの言葉をそのまま受け取ってしまい真剣に考えこむ。


「……普通に考えてワープするためのものですよね? ボスもみんな帰ってくるって言ってましたし」


「そうだ。流石だな」


「いえいえ~」


 パステルの方が俺よりもったいぶり方が一枚上手だったか……。

 ココメロは褒めてもらえて嬉しそうな顔をしている。


「さて、お利口なココメロにはたくさんお土産を用意しているが、まずはちょっとこっちに来てみないか?」


 パステルがすっと光の輪っかから手を差し伸べる。

 ココメロはその手をとって恐る恐る輪っかを踏み越えた。


「……わぁ、すごいです! 本当に一瞬で移動しちゃいました!」


「そうであろう、そうであろう。ほれ、窓からは海も見えるぞ」


「うわぁ、あれがうわさに聞く海って奴なんですね! すっごい大きな水溜まり!」


「ふふっ、泳いでみるか?」


「あっ、私植物なんで塩水はあんまり好きじゃないんです。すいません、遠慮しておきます」


 こういうところココメロはしっかりしている。

 とはいえ、ココメロもといダンジョンへのお土産は砂浜に用意してあるのでそこまでは移動することになった。

 一度精霊門を閉じ、その間に俺はメダリオンを第三階層へと移動させる。

 今回はここを作り変える。


「エンデ、もう一度門を開くぞ」


 パステルの合図でまた光の輪が発生する。

 そして、真っ先に飛び出してきたのはダイヤモンドのようにきらめく殻をもつカニ型モンスター『ダイヤモンドシェルクラブ』だった。

 その後にササラナ、ココメロ、パステルが次々現れる。


「うっへぇ……なんか息苦しいところねぇ。私ちょっとここには住めないわ」


「おいおいササラナ、私たちもここに住んでいるわけではないぞ。もっと上の階層には広々としたリビングルームがあるのだ」


「でも、そこから海は見えないでしょ? 私にはちょっと耐えられないかも。まっ、たまに遊びに来るくらいなら全然OKだけど」


 ササラナが初めて見るダンジョンにダメ出しをする。

 それも仕方ない。彼女はずっと広い広い海とともに生きてきたのだからダンジョンの閉塞感は合わないだろう。

 俺みたいな小心者にはこの狭さが結構落ち着くんだけどね。


「それでさっきのカニさんは何なんですか?」


 ココメロがダンジョン内を横歩きで移動しているダイヤモンドシェルクラブを少し気味の悪い目で見ながら尋ねる。


「このダンジョンの新しい仲間さ。彼にはこの第三階層を管理してもらう」


「えっ!? あのカニさんに!?」


 ダイヤモンドシェルクラブはゲッコウ内湾に住む何かしらのカニ型モンスターの変異種。

 深海の硬い鉱石を食べ続けることで圧倒的な硬さの殻を手に入れた……というのは推測だけど、とにかく防御には秀でていて足も恐ろしく速い。水の抵抗をものともせず魚に追いつくほどだ。

 しかし、魚は食べない。あくまで鉱石を主食にしている。

 プレジアンの沈没船には宝石もたくさん眠っていたので、それを狙って何度かササラナと対峙したことがあるらしい。

 初めはうっとおしかったが、そのうち良い遊び相手になったとササラナは語っている。

 でも、彼の方はそう思っていなかったようでプレジアンの船が地上に引き上げられた際、宝石を食いに地上にやって来てところをササラナに捕獲された。


「こいつはとにかく良い石が大好きでねぇ。それと少しの水場があれば満足に暮らせるさ。ダンジョンには魔石っていう珍しい石があるみたいだし、それを食わせてあげて。水場はこいつ自身が用意するさ。水魔術が使えるからね」


 流石に何度か戦ったことがあるだけあってササラナは詳しい。


「カニさんは新戦力ってことですね。でも、この階層を管理させるとはどういうことですか? それだけ強いということですか?」


「いや、こいつはあんまり気性が荒くないのよ。私と遊んでた時もあくまで隙をついて船に入り込もうとするだけで敵意をまったく感じなかった。きっと人は襲わないだろうねぇ」


「では、なぜ?」


「こいつを育ててダンジョンの名物にするためさ」


 ササラナがココメロに示したのは海藻だ。


「この階層で海藻を育てるってね!」


「……」


「……まあ見てて。そら、出番よカニ!」


 ササラナの一声でクラブは空中に水の球体を何個もぷかぷか浮かべ始めた。

 そこへ海藻をどんどん突っ込んでいく。

 水の階層の中をぐるぐるゆったりと漂う海藻には何とも言えない味わいがあった。


「このダンジョン周辺は山だから海藻は採れないんだってねぇ。だから、海藻を配置するってのはお嬢ちゃんの意見なんだって?」


「そうです!」


「でも、ただ地面に潮だまりを作って海藻を置いておくのはセンスないじゃん? だから、こうして浮かべるのよ。なんだか神秘的だと思わない?」


 ココメロはうんうんとうなずく。

 宙に浮かぶ水球の中を漂う珍しい海藻たち。

 冒険心をくすぐるというものだ。ダンジョンに住んでる俺たちも見てて楽しい。

 あと、食べてもおいしい。


「こいつは魔力量もなかなかのもんだから水の玉を半日くらい浮かべてたって屁でもないわ。あと、硬いし足も速いし早々死なないと思うわね。まぁ、たまに海が恋しくなって勝手に里帰りすることもあるかもしれないけど、そのうち帰ってくるわよ」


「カニさんのことはよくわかりました。ダンジョンの新しい仲間として一緒に頑張りますね! それで古くからのお知り合いみたいですが、名前とかないんですか? 」


「ん……名前か。そういえば付けてないわねぇ……。そっちでつけてもいいわよ?」


「じゃあ、カニさんの名前は今日からイシガミです! なんだか堅牢な響きでダンジョンを守ってくれそうですよね!」


 ココメロはイシガミと名付けたダイヤモンドシェルクラブの甲羅をなでる。

 イシガミは大人しくそれを受け入れている。

 もう懐いたというより、ココメロでは自分にダメージを与えられないとわかっているから大人しいのだ。

 逆に俺と初めて出会った時はかなり俺を警戒していた。

 人によって態度を変えると言えば少し悪く聞こえるが、良く考えれば相手の実力を見て判断できるだけの観察眼があるということ。

 イシガミもまた俺たちのダンジョンを守る力になってくれるに違いない。


「ボス、素敵な仲間をありがとうございます! 頼れる仲間が増えるほどお留守番も怖くなくなります。それに今回はパステル様とすぐに連絡が取れてワープも出来る道具まであるなんて素敵です!」


「ココメロに喜んでもらえると俺も嬉しいよ。それで次の予定なんだけど……」


「はい! 私まだまだお留守番できます!」


 ココメロの笑顔に申し訳ない気持ちが湧きあがってくるが、ゆっくりもしてられないんだ。


「今回の冒険で結構いろいろあってね。あとで第十階層でゆっくり話そうと思うんだけど、とりあえず俺たちはロットポリスにまた行こうと思う」


 あらゆる情報の収集に多種族都市ロットポリスは最適だ。

 それにあそこにはいざというときの戦力も揃っている。

 ロットポリス四天王……その中の一人であり竜人のフォウ・フロトミラーに会うことも目的の一つだ。

 彼女から魔力の制御を教わり、竜の力をより上手く使いこなすことへの第一歩とする!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=33227609&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ