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第12話 外の世界へ!

「……そろそろ暗くなってきた。今日はここで野宿だよパステル」


「うぅ、うむ、そうか……」


 背負ったパステルはうとうとしている。


 ダンジョンを出て森を進み、背の高い草の生い茂る原っぱを突っ切り、また森へ。

 地図は手元にないが、以前見た依頼書の地図には目印となる物が多く描かれていたので何とか記憶を探りつつ前へ進む。

 途中パステルが疲れてしまったのでそこからは彼女を背負いダッシュ。

 魔人の体はタフだ。人間時代よりずっと体力がある。今も一日中走っていたというのに大して疲れていない。以前ならへとへとでベッドに転がり即寝ていただろう。


 移動自体は至って順調、むしろ早いぐらいだ。

 明日、目的を素早く達成することができれば夜にはダンジョンに戻れるかもしれない。


「さて、明日の為にもご飯を食べて寝よう。あっ、俺は見張りをするからパステルだけでも寝ておいてね」


「わかった。迷惑かける」


「これくらいなんともないさ」


 外はまだ冷える。そこら辺から落ちている枝を拾い上げ、持ってきたロープくくって骨組みを作りその上に布をかぶせる。簡単な一人用テントの出来上がりだ。

 ついでに拾っておいた小枝をまとめてたき火をする。パステルに風邪をひかせてはいけない。


「火というのは見ているとこう……引き込まれるな」


 パステルはたき火の前に座り込み、ジーッと炎を見つめる。


「前髪燃やさないようにね」


「そこまで愚かではないわ!」


「ごめんごめん。でもまだ元気そうで良かった」


「エンデが背負ってくれたおかげで休むことができた。それにしても最近長距離を歩いてなかったとはいえあんなにすぐ脚が痛くなるとはな……」


「これから少しずつ鍛えていけばいいよ。別に俺はパステルを背負っても全然しんどくならないしさ」


「それに背負っていた方が速く移動できるものな」


「うっ……ま、まあね」


「別に気を遣わなくてもよい。今回の目的はエンデの言う新たな毒を手に入れること、そして早くダンジョンへ帰ること。むしろ良いことだ。私も楽をしているだけだしな」


「でもパステルには明日頑張ってもらうからね」


「あんまり難しいことを期待されても困るぞ」


「大丈夫、簡単なことではあるよ。ただ……いや、なんでもない」


「き、気になるではないか」


「あー、星が綺麗だなぁ……」


「雑なはぐらかし方しおって……。まあ、確かに星は綺麗だが」


 木々の間からは夜空に輝く無数の星々が見える。

 夜の森よりかはそちらの方が明るい。


「さあ、ご飯にしようか。メイリはお腹に溜まって持ち運びやすいパンを入れてくれたはずだ」


「うむ、私もリラックスするとお腹が空いてきたぞ」


 たき火の前で食べ物を分け合い二人で食べた。

 なんだか妙に美味しい。これならぐっすり眠……ってはいけない。今日は寝ずの番だ。




 ● ● ●




「よし、ここだ」


 辿り着いたのは森の中の洞窟の前。湿気が多くジメジメしている。


「ここからどうすればよいのだ?」


「とりあえず俺はこの茂みに隠れてるから、パステルは洞窟の入り口の前をうろうろしてくれるかな」


「え! 私一人で!?」


「しーっ、あんまり大きい声を出しちゃダメだよ。大丈夫、危なくないし俺もよく見てるから」


「むー」


 しぶしぶパステルは茂みから出て洞窟の前に向かう。

 そして、周囲の景色を眺めるようにうろうろし始めた。

 記憶が正しければ、これで確実に出てくるはず……。

 俺は装備をすべて外して全裸になり待機する。


 しかし、俺の予想とは裏腹にパステルは一人でずっとうろうろしている。状況がわからないからか時折ちらちらとこちらをうかがう視線を向けてくる。

 あ、あれ……? そんなはずは……。


「あら? どうしたのお嬢ちゃん。迷子かしら?」


 洞窟の中から人間の女性が現れた。

 見た目や装備からして冒険者の類か。まさかちょうどこのタイミングで洞窟の調査をしていたのか!?


「あっ、えっ、あの……」


 パステルが助けを求めるような視線をこちらに送ってくる。

 人間にしか見えないパステルに危害を加えてくるとはまだ思えないが、もう服を着て出ていくべきか?

 いや、まてよ……。


「お嬢ちゃん落ち着いて。私は味方よ。それにしても……あなたとっても綺麗な顔してるわね。それに背は低いけど脚が長くてスタイル抜群ね。ローブの上からでもお姉さんにはわかるわ」


 冒険者の女性はピンク色の長い髪をゆらゆら揺らしながらパステルの体を撫でる。


「あ、ちょっと……」


「大丈夫大丈夫、なんにも痛くないから。ただお姉さんはお嬢ちゃんの綺麗な体を見たいだけなの……うふふふふふふ!!」


 パステルに触れている女性の腕がどろりと溶けだす。そしてその溶けだした粘液がパステルのローブに触れると、ローブまでもが溶けていく。


「ひっ!」


 間違いないこいつが今回の標的だ!

 すぐさま茂みから飛び出しパステルのもとへ向かう。そして、すぐに女性からパステルを引きはがし、俺が代わりに前に出る。

 女性は驚いた顔をしたがもう粘液が止まらない。そのほとんどを俺が被ることとなった。


「エ、エンデ!」


「大丈夫!」


 何も害はない、全裸ならね。だってこいつの毒は……。


「どういうことだ! 説明してくれエンデ!」


「この女性は人間じゃない……スライムだ。それも衣服や装備だけを溶かす毒を持つと言われている伝説のスケベスライムだ!」


「ス、スケ……う、なんという名前だ……」


「こいつは自分が殺されない程度にか弱く、かつ魅力的な女性の前にしか姿を見せようとしない。スライムだから隠れようとすればほんの小さな隙間にも隠れられるし、男が無理矢理探し出すことは不可能に近い」


「だから私を……囮に使ったのか!?」


「本当に申し訳ないと思っている。でも、それしかこの装備溶解毒を入手する手段が思い浮かばなかった。メイリじゃ強すぎるかもしれないし、一緒に連れてきたらダンジョンに誰もいなくなっていまう」


「むぅ……そうだな。別に怒っているわけではない気にするな。このローブも市販の安物だしな。しかし、そうまでして手に入れる価値がある毒なのか?」


「うん、これは必要なものさ。装備を溶かせれば人は無力化しやすいし戦意も失う。ダンジョンから追い返すにはもってこいさ。普通に溶けるだけの毒だと溶けた人間の死体があたりに転がる事になっちゃうし」


「それは……嫌な光景だな……。朝の光を浴びにおちおち第一階層にも行けなくなる」


「それにこれは装備品なら金属だって溶かせるからね……。大事なんだ」


「よーくわかったぞ。私の存在が役に立ったのならそれで良しだ」


「じゃ、帰ろうか。メイリが待ってる」


「うむ」


 俺たちはその場で回れ右すると来た道を引き返し始めた。


「ま……まて!!」


 もはや完全にスライムに戻ってしまったスケベスライムが叫ぶ。


「あ、やっぱり放置はダメですか?」


「うう……男に体液をかけてしまった……。俺のプライドはズタズタだ……。せめて愚痴を聞いていけ……。そしてその綺麗なお嬢さんをもう少し見させてくれ……」


「どうするパステル?」


「むぅ……毒をもらっておいて放っておくのもなんだか申し訳ないのは確かだ。私の服を溶かそうとしないのならば話ぐらいは聞こう」


「ぐっ……やっぱ溶かしちゃダメ……?」


「むしろ何故良いと思った」


「うううううう!! 裸みたいよおおおおおお!! お嬢ちゃんの粘液まみれの裸みたいいいいいい!! 男はいらないいいいいい!!」


「エンデ、楽にしてやった方がこいつの為ではないか?」


 パステルが剣を振り下ろすジェスチャーを見せる。


「う……ん、そうだねぇ……。でもこの見上げたスケベ心に免じて命だけは取らないようにしたいな、俺は」


「エンデがそう言うのならば見逃そう。さあ、帰ろう」


「待ってくれ! 溶かすのはあきらめるから話だけでも聞いてくれ!」


 まだ食い下がってくるか。

 呆れた顔の俺とパステルはその顔を見合わせ、やれやれと再びスケベスライムの方を向き直った。

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