第22話 水着のビーチバカンス
「まあいろいろありましたけど、今日は思いっきり遊ぶとしましょうよヒムロさん!」
「ええ、焦っても仕方がありませんしね!」
お互い普段は人前で出さないテンションをあえて出す。
「どうせ次の満月の夜まで暇だからな」
今日は俺の肩に乗っているヒューラがむしゃむしゃとカットされたパイナップルの食べながら言う。
スキュラクラーケン戦から数日、ナギサとカイリの披露宴も無事終わり俺たちは満月の夜を待っていた。
理由はこの世界に存在するといわれるヒューラ以外の精霊竜と連絡を取るためだ。
ヒューラ曰く、満月の力と海の力を借りて魔力を高めれば意思疎通が可能かもしれないとのこと。
本当にそうかは本人にもわからないけど、精霊竜の力は絶大だということは知っている。
味方になってくれれば心強いし、たとえ協力してくれなくても竜たちに危険を知らせることができる。
相手は古代の大戦を生き抜いた男かもしれない。
たとえ精霊竜でも警戒するに越したことはない相手だ。
……と、お堅いことを考えるのはこれくらいにして今日はバカンスを楽しむぞ!
そのために人生で初めて水着を買ったんだから!
まぁ、黒のズボンみたいなすごい無難なデザインだけど。
ヒムロの水着もそんな感じだ。
普段履いてる短パンとさほど違いない。
一緒に水着を買いに行った時はブーメランパンツなども手に取ってはみたが、『男が水着の布面積の少なさを追求してもね……』とヒムロは冷静だった。
俺一人だったら調子に乗って際どい水着を買ってたかもな……。
そういう趣味ではないと思いたいけど。
「おっ、お二人さんやってんねぇ! 女性陣ももうじき来ると思うぜ! いやぁ、みんなエロエロだから期待しててくれよな!」
そう言って砂浜に乗り込んできたサクラコの水着は意外と大人しいというか、フリルのついたかわいいものだった。
露出も水着として並みだが、その分肉付きのいい健康的な体が映える。
全裸の方がまだましみたいな危ない水着を着てくるんじゃないかと思ってたから驚きだ。
「な、なんだよその目は……。俺がこういうの着たらおかしいか?」
「いや、とってもかわいいよ。そういえばサクラコは露出しすぎの服が嫌いだったっけ?」
「まあ、脱がし甲斐がないから襲う相手としては物足りないって話だな。でも、俺自身が着るなら結構好きだぜ? 普段も結構露出してるしな。まあ、今日は清楚な美少女サクラコさんを楽しんでくれよ。あっそうだ、この水着は擬態じゃなくて選んで買ったんだぜ」
「それは珍しい!」
「たまには最新のトレンドに触れないと擬態の質も落ちるからな。久々に服を着て思うのは、やっぱ生き物ってのは何かに包まれてると落ち着くってことだ……ってか、俺擬態してるから服着てるように見えるだけでいつも全裸じゃん! うわ恥ずかしっ! とも思わねーけどな!」
サクラコは波打ち際まで無邪気に駆けていくと海に入るギリギリで止まった。
よほど海に苦手意識があるらしい。
「流石に男性方は着替えがお早いですね」
次にやってきたのはメイリ。
その水着は……メイド服のような水着だった。
デザインこそは正統派メイド服だが布は胸と腰しかない。
胸の部分はサイズが合っていないというか、メイリの胸が規格外すぎて今にもこぼれそうだ。
腰もスカートのようなものが付いてはいるが極端に短く、中の水着と色が違うのでまるで下着が丸出しのように錯覚する。
いろいろ足りてないのに頭のフリルのヘッドドレスはそのままだったり、太ももにこれまたフリルのガーターリングがついていたりと欲望に満ち溢れた代物だこれは……。
「め、珍しいね。メイリがこういう服着るの……。パステルの命令?」
「いえ、今回は自分で選んでいいとのことでしたので。悩みに悩みましたが、やはりメイド服に落ち着きました」
落ち着いてはいないんだよなぁ……。
「少し胸がキツイですがデザインは自分でも驚くほど気に入っています」
うん、確かに淫魔っぽい服装ではある。
種族としての本能が彼女にこの服を選ばせたのかもしれない。
「これはちょっと……直視できませんね……」
メイリから視線を逸らすヒムロ。頬は赤く染まっている。
「水着として海で使うより、室内で使う人が多そうなデザインです……」
「それはいったいどういう事でしょうか?」
「あっ、いえ、すいません! 私としたことが女性にとんだ下品な表現を……。そ、それにしてもこれで町を歩いたら大パニックになりそうないやらし……美しさですね! 流石グレートマザーサキュバス!」
「お褒めいただき光栄です。確かにこの姿は安易に他人に見せられるものではありませんね。今日はビーチが貸し切りでよかったです」
スキュラクラーケンとの戦い以降、海は立ち入り禁止だったが明日には開放される。
でも、その前に俺たちは町長からビーチを使っていいと言われた。
町を救ったお礼というのももちろんあるんだろうけど、海が本当に安全になったかという最終チェックも兼ねているのだろう。
「残りの方ももうじきこちらに来られます。ふふっ、楽しみにしていてくださいね」
いたずらっぽい笑みを浮かべるとメイリはまだ海に入れないサクラコのもとに歩いて行った。
「いやはや、エンデさんはよくあのお姿を見て冷静でいられましたね……」
ヒムロの息遣いは荒い。
そういえば褐色の肌をこれでもかというほど晒しているフェナメトを造りあげたのは彼だった。
クールな美男子に見えて相当なオープンスケベでもある。
「彼女はパステル様が望んだ姿なんでしたっけ?」
「ええ」
「ふむ、気が合いそうですね……パステル様と」
「でもパステルは極度の露出が嫌いなんですよ。だから、メイリはふだん長袖ロングスカートのメイド服なんです」
「そうですか……それは議論の余地がありそうですね。ふふふ……」
「け、ケンカはしないでくださいね」
ヒムロさん、口ゲンカ強そうだからな……。
普通のケンカも強いんだけど。
「やっほー! 私たちもやっと来れましたよー! フェナメトちゃんに水着を着せるのに結構手間どっちゃいました!」
お次はフィルフィー、そしてフェナメト……。
「フェ、フェナメト……! なんてものを着ているんです……!」
「何って水着だよ。誰かさんのおかげで僕はクエストパックを外すといつも水着以上の露出になっちゃう。だから今回は逆に着込んでやったのさ!!」
フェナメトが来ている水着は全身をぴっちりと覆う黒い水着だった。
手足の先、首まで覆われているので露出は頭しかない。
だが体のラインはハッキリするのでセクシーさがまったくないわけではない。
むしろ金属パーツが露出している部分を隠したおかげで人間的なエロスを得ている。
丸みを帯びた尻に胸、くびれた腰などはふだんあまり注目していなかったがなかなかのものだ。
「くっ……!! 私への反抗ですか……?」
「どうかな~」
「ぐっ!!」
「ヒムロさん落ち着いて! 僕はフェナメトの新たな魅力に気付けるいいチョイスだと思いますよ」
「えへへっ、ありがとうエンデさん!」
「あー! 私はどうですか!?」
流石にマッシブには乗ってきていないフィルフィーはフェナメトの肩にいる。
明るい緑色をしたハイレグ水着は切り込みが鋭くなかなか挑戦的だ。
彼女は妖精なので体のサイズは小さいがスタイルはいい。
「結構大人の魅力出しちゃったんですけど!」
「うん、すごくセクシーだと思う。その……股間の切れ込みとか目が引き寄せられちゃう」
「そうでしょ! そうでしょ!」
「けど……」
「けど?」
「すごく妖精っぽい姿でもあるね」
お話の中の妖精ってこういうレオタードみたいなの着てた気がする。
今のフィルフィーの姿は少なくとも普段の作業着よりすごくしっくりくる。
「……まあ、誉め言葉として受け取っておきます。あっ、パステルちゃんももうじき来ますよ」
「ずいぶん水着を着るのに時間がかかってるみたいだけど、そんなに着にくい水着を選んじゃった感じかな?」
「あ~、というかこの水着を着ていくかどうかの決心がまだついていないっと言った方が正しいかもしれません」
「ここにきて着るかどうか決めかねてるの!?」
「それだけエンデさんにどう見られるか気にしてるってことですよ! わかってあげてください!」
「もちろんそのつもりだけど……」
「じゃ、私たちは先に行ってます。安心してください、ササラナさんが引っ張ってくるので逃げ出したりはしませんよ!」
フィルフィーはそれだけ言い残すとフェナメトともに海に向かっていった。
フェナメトはべーっと舌を出して最後までヒムロをからかっていた。
「くっ……。あとはパステルさんとササラナさんですね」
いったいどんな水着なのか……俺も緊張する。
着てくるのをためらうというのだから、それはそれはえげつないものを……。
いや、パステルがそんなものを選ぶはずがない。
逆に水着っぽさがないものを購入してしまい今になって後悔しているのかも……。
「あっ、来ましたよ」
「はいっ!?」
腕を組んでうつむいていた俺はパッと顔を上げる。
そこにいたのは赤いビキニを着たパステルだった。
紐ビキニというのだろうか、腰で結ばれた紐が歩くたびにゆらゆらと揺れる。
「ど、どうかな……?」
腕で少し体を隠すような仕草を見せるパステルから俺は目が離せない。
腕や足の一部は日に焼けてほんのり褐色になっている。
この町に来てから結婚式のために太陽の下で働いていた証拠だ。
背も伸びた気がするし、健康的な肉のつき方をしていると思う。
出会った頃から魅力的だったけど、それの中には弱々しさがあって守ってあげないといけないという気持ちになった。
その気持ちは今も変わっていない。
ただ、パステルは止まることなくたくましく成長しているんだと実感した。
「自分でもちょっと見せすぎだと思うのだが……エンデ的には……」
「すごく素敵だと思う。いつもそうだけど、今日は特に」
「セクシーだと思うか?」
「うん」
「いやらしいと思うか?」
「うん、とっても」
「そうか……なら良し」
腕を組んで少し満足げにうなずくパステル。
腕で胸を隠すとまるで裸みたいだな……。
誰でも見られる場所でこの姿をしていると思うとなんだかそわそわしてきて、俺はパステルを抱き寄せて隠す。
「あっ……」
大人しく身を寄せてくるパステル。
普段より肌が触れる面積が多く、体温がハッキリと伝わってくる。
目を閉じ耳を澄ますと鼓動まで……。
「ちょっとちょっと! いきなり二人の世界に入られちゃ困るわねぇ」
ササラナの声で俺たちはハッと我に返る。
「私の水着も見てよ、男性諸君」
ササラナの水着はさわやかな空色をしたワンピースタイプの水着だった。
メイリのと違いスカートも長さがあり、頭にかぶった麦わら帽子も相まって清楚な印象を与えている。
しかし、胸のVラインは深めでセクシーさを演出することも忘れていないのが彼女らしい。
「正直総合力では私が一番でしょ? セクシーさと爽やかさの融合! これぞ水着のビーチバカンスよ! さあ、海とみんなが待ってるわ!」
少女のように駆け出していくササラナを俺はパステルと手をつないで追った。
水着を見れただけでも結構満足だけど、バカンスはこれからだ!




