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第20話 明かされる真実

 パステルが精霊族……。

 ヒムロが放った言葉はシンプルだった。

 ただ、俺の正体を知る前にパステルの正体を先に聞かされ、俺は大いに混乱した。


「……パステルが精霊族だとどうなるんですか?」


 そんなマヌケな質問が口から出た。


「どうもならない、というのが私の答えです。パステルさんは種族を魔王で上書きされていますし、ステータスで精霊族と見抜かれる心配はありません。つまり黙っていればバレません。なんといっても本人も知らなかったうえ、今の人間界より技術の進んだ魔界でも気づかれていなかったのですから」


「そ、そうですね」


「スキルの有用性が漏れればそれを理由に狙われることはあるかもしれません。しかし、パステルさんの場合すでに【全強化付与(フルエンハンス)】という十分有用なスキルをお持ちですから、やはり以前と変わらないかと」


 ホッと胸をなでおろす。

 なんとなく怖かった……パステルがとんでもなく遠い存在に思えて。


「おいおい、私が精霊族という前提で話が進んでいるが本当にそうなのか? 私には世界を創造するような力はないぞ。エンデもよーく知っているはずだ」


「確かにそれはそうだ。でも、パステルが精霊器を使えたことは確か。それにスキルも特別なものが多い。全てを魅了する【淡い魅了(パステルチャーム)】と全てを強化する【全強化付与(フルエンハンス)】、世界は創造できなくても多くの存在に影響を与える力がパステルにはある」


「むう……」


「じゃあ、聞いてみればいいんじゃねーか? ヒューラによ。あいつは精霊竜だし、精霊族のことはよーく知ってるんじゃないか」


 サクラコが何気なく提案する。


「それは名案だな。ヒューラ、どうなのだ?」


「どうって言われても……」


 パステルのツインテールから顔を出すヒューラ。


「怪しいんだよな、そこのところの記憶は」


「なんだ、よくこの世界を見守るのが与えられた使命と言っていたではないか」


「その言葉は覚えてるんだ。ただ、姿なると金色に輝く後光に照らされたシルエットしか思い出せない。生まれた頃の記憶なんてないもんだろ? これだけ覚えてるだけマシな方だと思ってくれよ」


「では、その後光と先ほどの金色の光に似たようなものは感じたか?」


「それは感じたな。暖かくて心底安心させてくれるような光だった。それに俺は普段からパステルちゃんにそういう暖かさを感じてるぜ。だからそばにいるわけだ」


「むう……では、暫定的に私は精霊族ということにしておくか……」


 かなり不本意みたいだけどパステルも納得したようだ。


「なあ、それより俺はこの光の渦巻きが気になるぜ! 精霊族の力ならすごい効果があるんだろう?」


 サクラコがパステルの手のひら、メダリオンから発せられる光を指差す。


「そうだなぁ、ゲートと言うのだから……」


 パステルは歩いて目の前に展開された渦巻きの中に入ってしまった。

 そして、光は消える。


「パステル!?」


「こっちだ。この渦巻きはその名の通り門。精霊門は光の門と門を行き来するワープスキルだ」


「瞬間移動ってことか!? そいつはすげーな!」


「驚くのは早いぞ。どうやらこのスキルはメダリオンの位置にワープするだけではなく、私が思い浮かべたところにもワープできるようだ。見ておれ!」


 パステルは両手を正面に突き出す。

 すると、そこに二つの渦巻きが発生した。


「おっ! 二つ作ると効果二倍か!?」


「あれ? ゲートが遠くにいかんぞ……。ぐぬぬっ!!」


 顔を赤くして力むパステル。

 まったく渦巻きは手から離れない。


「どうやら……はぁはぁ……私ではメダリオンの力を借りなければ渦巻きを遠くに作れないらしい……げほっ!」


 パステルは地面に倒れこむ。

 力尽きたのか渦巻きも消える。


「あはは、流石にパステルの両手で届く範囲ならワープより歩いた方がなやいな。でもさ、自由にワープできるならメダリオンって必要なくねーか?」


 サクラコが正六角形のメダリオンを拾い上げじっくり観察する。


「いや、もしかしたらメダリオンは複数あって、メダリオンとメダリオンを繋いで精霊族以外でもワープが出来たのかもしれん。それに人に持たせておけば位置がわからずとも合流できるし、連絡も取れそうだ」


「へー、賢いなぁ。やっぱ体が覚えてるんじゃないか? 自分のための道具のことを」


「そう、かもしれん……。なんだか眠くなってきた……」


「では、予想外の出来事で吹っ飛んでしまった私の過去の話を続けましょう。パステルさんが眠りにつく前に」


 ヒムロは砂浜に置かれたイスに座り、少しリラックスしたように体勢を崩す。


「大戦時、私とある男は劣勢に立たされた人間を救うためにある役目が与えられました。ある男とは私の親友……ビャクイ・オルペツィオン。役目とは新兵器の開発です」


 ヒムロの青い目は月を見ている。

 その感情の色は複雑で読み取れない。


「私は技術者でしたのでご存知の通り機械の戦力アンドロイドを造りました。フェナメトは個人的に作った100番ですが、それ以下の番号は仲間たちと協力し計画的に開発、生産……今を思えば陣営が劣勢だというのに上手くいき過ぎたほどでした。機体によって性能は違いますが、部品の規格を合わせたり、戦地でパーツを取り外し交換できたりと気の利いたこともできましたし」


 フッとヒムロは自嘲気味に笑う。


「自慢話はいりませんね。ビャクイのことを話しましょう。彼は非常に腕のいい医者でした。その能力を活かし、外科的な手術や薬品の投与で人体を強くしようとしたのです。人間はもともとの体が弱くランクが低い。だならこそもっと上、Sランクを目指そうとした。それが魔人計画です」


 空気が少しざわついた。

 魔人……その言葉が出れば、この場にいる誰もが俺を思い浮かべる。


「やり方は野蛮に聞こえるかもしれませんが、追い込まれた側がやる策としては順当で人々も覚悟していました。人間が滅ぶかどうかの瀬戸際ですからね。さいわいビャクイは戦地での治療も行うくらいの男でしたから、兵士たちの信頼も厚い。危険とわかっていながらも成功を信じていましたよ。正直、私の計画より期待されていました」


「しかし、ダメだったのだな……」


 砂浜に寝転がり風に吹かれているパステルが言う。


「ええ、効果はすぐに現れましたよ。でも、どれも不安定で一時的に強くなってすぐ死ぬ者、完全なモンスターになってしまう者、そもそも施術に耐えられぬ者……酷い有様でした。でも、人はまだまだビャクイを信じていました。私もその時点ではいろいろ問題が山積みでGKA計画が進んでいませんでしたから、失敗を繰り返し彼が先に人々を救うと思い……」


 ヒムロは唇をキツく結び、何かに耐えるような表情を見せる。

 しばらくして、また彼は口を開いた。


「時間は流れ、私はアンドロイドたちを戦場に送り込みました。戦果はめざましいものでした。初期型は思考というものがあまりない分、恐れず敵に立ち向かっていくのです。その姿に勇気付けられた者も多く、初めは期待されてなかったアンドロイドたちは瞬く間に受け入れられました。そして、同時に魔人計画は中止されたのです」


「……」


「ビャクイの評価は地に落ちていました。失敗の責任を取らせるべきだという声もありました。でも、私は友として彼にもう一度だけチャンスを与えてほしいと思ったのです。しかし、これ以上誰かの命を犠牲にすることはできない。だから……私は私自身の身体を差し出しのです。結果は御覧の通り、氷の魔人が誕生しました。彼の理論は正しかった……はずなのです」


 うなだれるヒムロ。


「私はアンドロイドたちと前線で戦いました。我ながらよく活躍したと思います。氷の力は主力にしても支援にしても便利です。次なる魔人にも期待がかかりました。しかし、私以外成功例は生まれなかったのです。それがまたビャクイのプライドを傷つけた。お互いの計画が始動したときは毎日のように相談しあっていたのに、いつしか彼は私を憎むようになった。それがこの一件で決定的になった……」


 そう言ってからヒムロは長い間しゃべらなかった。

 しびれを切らしたのは悪酔いしていたのにここまで大人しくしていたササラナだった。


「ちょっとちょっと語り部のお兄さん続きまだ~? 気になって眠れないわぁ~」


「……私はアンドロイドを造った功績と魔人となってからの戦果で英雄として祭り上げられました。そして、戦いで傷ついた人間の指導者になれと……。柄ではありませんし、断りたかったのですがそんなことも言っていられない状態だったので、仮の指導者として私は人々の前に立つことになりました」


「おっ、頑張ってんじゃん。昔から人に頼られる男だったのねぇ~」


「ふっ……頼られるのも良い事とは限りませんよ。苦しいながらも大戦の傷跡を癒そうと前を向こうとした矢先、人々に言われたのですよ。働けない奴をどうにかしてくれと」


「そんな大変な状況でもサボる奴っているのねぇ~」


「働けない者とは……大戦で重傷を負った者たちや魔人計画やそれ以前に行われたむちゃくちゃな強化計画の犠牲者たちです。はじめは彼らを大事にしていた人々も苦しい日々のストレスで変わっていった。もちろん私は止めました。綺麗ごとではありません。一度誰かを切り捨てれば、次もいいのではないかという空気が出来上がる。弱者の切り捨てに歯止めが利かなくなります。ははは……もう今の時点で止まらないということに私は気づいていませんでした」


 空を見上げるヒムロの目には涙があふれていた。


「私が許可を出すことはないと初めからわかっていた者たちが行動を起こしました。そこからはもう人間同士の戦いです。そして、弱者の側の先頭に立ったのはビャクイでした。彼は自分のせいで何かを失ってしまった人々の面倒をずっと見ていました。たとえ誰かから蔑まれようとも……。だからこそ、ビャクイは激怒した」


「でも……怪我人が束になっても勝負にならないんじゃない?」


「誰もがそう思っていました。戦いではなく、口減らしの作業だと……。しかし、ビャクイはどこに隠していたのか、魔人になれず知能の低い魔獣となってしまった者たちを引き連れてきました。おそらく、失敗とわかっていても処分できなかったのでしょう。そこからはもう二度目の戦争ですよ。人間側に戦力はいない。頼れるものは……私と残ったアンドロイドたちだけでした」


「うん……」


「話は……通じませんでした。当然です。向こうには話す義理もないでしょう。魔獣とアンドロイド、ビャクイと私……お互いが造り上げてきたもの同士の正面衝突の結果、勝ったのは私でした。そして、ビャクイにとどめを刺したのも私です。忘れようとしても忘れられない戦い……場所は蒼炎火山、蒼いマグマの噴き出る山でした。高温の環境なら私の氷の力も使えない。しかし、人間と魔人には素で差がありすぎました」


「……」


「その差を与えたのは紛れもなくビャクイ自身。私は最後まで彼のプライドを傷つけ、救ってあげることはできませんでした。その後、数を減らした人間はまた私を指導者として担ぎ上げようとしました。でも私は……嫌になってしまったのです。だからアンドロイドたちから私のデータを消し自由にした後、私は消えたのです。自ら作った棺に入り、凍って眠りについた……」


 ヒムロは語り終えると静かに目を閉じた。

 眠るように。


 だが本当に眠るには早い。

 まだ知りたいことがいくつもある。

 でも、今となっては誰も彼をせかすことは出来なくなっていた。

 砂浜にただ波の打ち寄せる音だけが響く……。

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