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第12話 日差しを浴びて

「なんだかんだ探索開始から一週間で発見か。仕事が早いな、エンデ」


 翌日、接岸されたプレジアンの船を見上げながらパステルが言う。

 数百年ぶりに太陽の光を受けて輝く船はどこか誇らしげに見えた。


「魔力感知がものになったからね。あれがなければこの広い内湾で船を探すのは不可能だったよ。手がかりもあまりなかったし。あとはササラナが気前よくお宝をくれるって言ってくれたのも大きい」


「で、そのササラナはどこに行ったのだ? 海に帰ってしまったのか?」


「えっと……あそこにいるよ」


 俺の視線の先には砂浜にビーチチェアを置いてそこに寝転がり、サングラス越しに空を眺めるササラナがいた。

 そばに置かれたテーブルには鮮やかな水色の飲み物も置いてある。


「あはぁ~、太陽の光最高だわぁ~」


 海で出会った時半透明だった体も今はなぜかハッキリと実態がある。

 太陽の光を浴びる白い肌にはオイルでも塗っているのかてらてらと妖しく光っていた。


「……確かに気前が良さそうだ。肝が据わっている」


「あれで結構ナイーブなところもあるから、優しく接してあげてね。ちょっと絡み方がねちっこちけど根はすごくいい人だ」


「失った主人の残した宝と海の平和を守り続けた幽霊か……」


 もう一度パステルはササラナに視線を送る。

 当のササラナは口からよだれを垂らしながら昼寝を始めていた。


「ぐへっ……えへへっ……」


「人を見た目で判断してはいけないな」


「まったくだ」


 過去と使命を抱えていても、とても親しみやすい振る舞いをするササラナをパステルは結構気に入っているみたい。


「話は変わるが、お宝はこれからどうするのだ? ギルギスに直接渡せばいいというわけにもいかんだろう」


「それに関してはロットポリス側がいろいろ準備してくれているみたいだよ。鑑定士だったり、オークションだったり、とにかくお金に変える準備はしてくれてるってさ」


「それはよかった。我々には歴史的な価値などまったくわからんからな」


「あと、古代兵器関係はこっちで預かることになってる。これに関しては古代兵器そのものであるフェナメトの近くに置いておくのが一番いいからね。まあ、お宝を見つけた俺たちへの報酬でもあるわけだけど」


「古代兵器関係というもの難しい話だな。どこまでがその関係の範囲なのかがわからん」


「今、フィルフィーが古代の文献を読みつつ選別してくれてる。お宝を見つけるまでは頑張ったけど、その後は人に頼りっきりだな今回も」


「それが役割分担ということだ。それだけ人脈が広がってきたということだな」


 プレジアンの財宝を船から降ろすのにもたくさんの人の手を借りた。

 もちろん報酬が出るから手伝ってくれたのだけども、人と協力するというのは大事だと改めて思った。


「エ、エンデさ~ん、パステルちゃ……ん……」


 移動工房から出てきたフィルフィーが手を振って近づいてくる。

 目にはくまが出来ていて、徹夜で古代の文献を読み込んでいる姿が容易に脳裏に浮かんだ。


「大丈夫? 別に焦る必要はないから寝た方が……」


「いえいえ、ただ興味深過ぎてどんどん文献を読んでいたらいつの間にか朝に……」


 えへへ……と疲労困憊(ひろうこんぱい)の笑みを浮かべるフィルフィー。


「それでですね。古代の文献と言われていた物はどうやらアイデアメモのようなものみたいです。『アンドロイド』と言われるフェナメトちゃんと同じ兵器群のことが手書きで書かれていました。ただ、あくまで書いた人は自分用のメモとして残したようで、仕組みがわからない部分も多くあるんですよね……。これだけで新しい兵器を生み出すのは難しそうです。ページもバラバラになってるみたいですし読みにくい……」


 フィルフィーは軽く頭をかく。


「それと実物として残っている兵器というか、武器や道具の数々もここで修復するのは難しそうですね……。あくまで移動工房は今のフェナメトちゃんの状態を維持するための設備しかありませんから、未知の物はロットポリスの工房に送った方が良いです。結構損傷している物も多くてですね……。まあ、使えそうな物だってないわけではないですが」


 ここでフィルフィーは砂浜にいるヤドカリを眺めていたフェナメトを呼ぶ。

 今のフェナメトはクエストパックが取り外され、出会った頃のような何もつけていない状態だ。


「あの剣を持ってきて!」


「りょーかい!」


 スッと移動工房に入ったフェナメトが戻ってきた時には、腰の両側に漆黒の刀が備え付けられていた。

 (つば)もなく、敵を切る武器としてシンプルな造形をしている。


「これはカーボンソードというらしいです。すっごく軽くて、すっごく頑丈で、すっごく切れる。それでいて非常にシンプルで扱いやすい。ちょうど腰に装備するためのパーツがフェナメトちゃんと互換性のある物だったのでそのまま使わせてもらってます。どう、フェナメトちゃん?」


 フェナメトは慣れた手つきで腰の刀を抜き、軽く何度か振る。


「うん、しっくりくるよ。いろんな状況で使えそうな良い武器だね」


 彼女は漆黒の刃を見つめて満足げにうなずく。


「とまあ、お宝の中の古代の遺物に関して今言えることはこれくらいです。なるべく早く選別は終わらせるつもりなので心配しないでくださいね」


「ありがとう。その気持ちは嬉しいけど、本当に無理はしないでいいからね」


「ご心配なく! 私いま楽しんでますから! 親方にも早くお宝を送ってあげたいですし、ここが頑張り時です!」


 フィルフィーは意気揚々と移動工房の中へ帰っていった。


「……さて、俺もそろそろ次の仕事を探さないと。沈没船を見つけたからといってぼーっとはしてられないや」


 とはいえ、この町に来た大目的はすでに果たしてしまった。

 ダンジョンに持って帰る海産物もこの町に馴染んだパステルに選んでもらえればすぐ集まる。


 しいてやる事といえば、新たなダンジョンの防衛戦力を探すことか。

 海ばかりに目を向けていたから、周辺の土地の情報はほぼ入っていない。

 どこかに今は野良でも忠義に厚く信用できるモンスターは彷徨ってないかなぁ……。

 そんな都合のいいモンスターは流石にいないか。


 ふと、俺はササラナの方を見る。

 今はビーチチェアから手足を投げ出しいびきをかいている彼女も相当義理堅く、強く、信用できるモンスターだ。

 水魔術が得意な彼女は一、二階層ともに自然にあふれ火に弱い俺たちのダンジョンにも非常にマッチしている。

 共に来てくれればこんなに頼れる新戦力はいないだろう。


 しかし、彼女にはもう守るべきものがある。

 この海を捨てて一緒に来てくれとは俺の口からは言えない。

 ただでさえ財宝も無償で貰っているのだから。


「体を動かしながら考えるか」


 俺の目には砂浜に放置された成人男性が一人余裕で入る黒い箱が映っていた。

 まるで棺桶のようなそれは船から降ろしたのはいいものの、重すぎて屈強な海の男たちも音を上げて途中で置いていってしまった物だ。

 なにか道具を使って町の財宝の保管場所まで運ぼうという話も出ていたが、結局忘れられてしまったようだ。


「どれ、俺なら一人でもいけるかな~」


 軽い気持ちで棺桶に触れようとしたその時、中から何か透明な液体が漏れ出している事に気づいた。


「どうしたエンデ? そのままでは重そうなら体を強化しようか?」


 動きを止めた俺を不審に思いパステルが近づいてくる。


「パステル、そこでストップ。箱から液体が漏れ出てる。毒性がないか今調べる」


「むっ!?」


 ピタッとパステルは動きを止める。

 俺は液体に手で触れて解析を行う。

 ……反応なし。ただの無害な水だ。


「水みたいだけど、どうして今になって漏れ出してきたんだ? 船から運び出されている時にはこんなこと……」


 カシュ……という何か狭い隙間から空気が抜ける様な音が聞こえた。

 その音の正体はすぐわかった。

 目の前の棺桶が開いたのだ。


「下がってパステル」


「うむ! もう下がっておるぞ!」


 何が出てくるかわからない。

 剣こそ抜かないが、翼を広げいつでも回復の霧を周囲に散布できる準備はしておく。


 棺桶のふたはズルッと横に滑り、砂浜に落ちる。

 中から現れたのは……裸の男だった。

 白い肌、水色の長髪、虚ろな空色の瞳、色素の薄い唇……。

 今にも壊れてしまいそうな氷細工のような雰囲気を身にまとってはいるものの、体つきは非常に恵まれていて戦いに適しているとすら言える。

 雄大な氷山と繊細な氷細工……相反する二つの物を思わせる男はゆっくりと周囲を見渡す。


「…………」


 何も言葉は発しない。

 表情も無く、何を考えているかは読み取れない。


「どうしたの!? 敵!?」


 工房内で俺とパステルの会話を聞いていたのか、フェナメトが手に入れたばかりの黒い剣に手をかけて現れる。


「あ……ヒムロ……?」


 その目が男を捉えた時、フェナメトは確かにそう呟いた。

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