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第11話 プレジアンの記憶

「何もないけどくつろいでってよね」


 ドアを開け船内へ。

 船内には空気があるうえ、ドアを開けても水が船内に入ってこない。


「私のスキルよ。水を操るのはお手のもの、実は微妙に風も使えたり……。あら、竜眼を使わないのね。それで見れば私を丸裸に出来るのに」


「信用してない人にならやりますよ。でも、僕はあなたを信用してます。勝手に人のことを盗み見たりはしません」


「良い心がけよ。私、これで結構心が強くないから一度イラッとするとしばらくはそのまま。会話にならないと思うわ。まっ、会話した事なんてないんだけどねぇ」


「その割には喋り慣れてる感じがしますが」


「海に生きる男たちの声は聞こえてくるのよ、海底にもね。だから会話というものがどういうものかはわかる。最近は女の声も聞こえてきてたわね」


 ナギサたち女漁師のことも知っているとなると、本当に彼女は海の上の会話まで聞き取ることが出来る能力があるみたいだ。


「竜眼の話が出たついでに魔力感知の話もしておこうかしら。あのスキルもね、手練れには逆に感知されるわよ。こっちを探ってる奴がいるな……って」


「前から僕のことわかってましたか?」


「もちろん! 陸にいる時はわからないけど、海に入ってからはね。この内湾全体くらいが私の魔力感知の範囲よ。地上に出たことはないけど、きっと地上ではこんなに範囲は広くないわ。海水と魔力の組み合わせでこれだけの範囲と敏感さを発揮できるのよ」


「その感知の範囲を使って人を助けていたわけですね」


「よく知ってるわねぇ。純粋な船としての私は大事な乗組員たちを海に沈めて終わっちゃったから、その罪滅ぼしにやってたのよ。ただの自己満足だけど」


「自己満足で人を救えるなんて素敵ですよ」


「おだてたくらいじゃお宝は渡せないぞっ。でも、ありがとうね……。そういう臭いセリフも結構面と向かって言われると嬉しいもんね」


 ぽろっと出た言葉だったが、思った以上にササラナの心を揺さぶってしまったらしい。

 彼女の目がうるみ始める。

 話題を変えた方が良さそうだ。


「そういえば、さっき僕のことを精霊竜の継承者と言ってましたね? そして、彼女……フェナメトのことは古代兵器と。どうしてそれがわかったんですか?」


「ああ、それ? まず、兄ちゃんは……」


「あっ、自己紹介が遅れました。僕はエンデと言います」


「エンデくんは背中に竜の翼が生えてるし、魔力の質がまるで他と違うのよね。だからこの船に残ってる古代の文献で読んだ精霊竜の継承者って存在かなと思ったのよ。ただ、普通の竜人と迷ったわね。結果的に当たりだったみたいだけど」


「魔力の質……そんなに詳しくわかるんですか?」


「私にはわかる。ただ、さっきの魔力感知されてるのを感知するという能力も含め、そうそう出来る奴はいないと思うわ。これでも何百年も同じこと繰り返して鍛え上げたからねぇ。おばさんにもプライドってもんがあるわ。そこらへんの若造にはマネできんって。でも、そこらへんにはそうそういない奴を相手にすることがあったら思い出して。そういう戦いは知識があるかないかで生死が決まる」


「肝に銘じておきます」


「よしよし。で、そっちのフェナメトちゃんも同じく古代の文献が手掛かりになってるわ。かつての大戦で使用された人間側の切り札……それと特徴がそっくりだったの。機体から漏れ出ている魔力があまりにも少ないから感知するのがエンデ君よりは難しかったけどね。大戦末期に作られた最新型といったところかしら?」


「き、君……あっ、ササラナさんは昔の大戦のことを知っているの!?」


 ここまで黙っていたフェナメトが大きな声をあげる。


「いや、船長たちが生きていた時代よりもさらにさらに前の時代に起こったのよ、その大戦は。さっきも言ったように古代兵器に関しては全部文献の知識ね。すごい技術力よ、あなたの体。並の人間よりもずっと魔力を生み出せるパーツが内蔵されているのに、それが外にはほとんど漏れない。文献の中には感知不可能なほど魔力を出さないステルス型ってのも作られたという話よ」


 ササラナは話し相手ができて心底嬉しいのか声が大きい。


「それで、あなたの型式番号は?」


「GKA-100だよ」


「100? 本当? 私の知る限りではGiant(ジャイアント)Killing(キリング)Android(アンドロイド)シリーズは90番代までのはず……。とりあえず、古代兵器関係の物は見せてあげるわ」


 ササラナはくるりと反転し船内のさらに奥へと移動しようとする。


「あーっ!! ダメダメ! 先にお宝を欲しがる理由を聞くんだった!」


 再びくるりと反転し俺たちの前に立ちはだかる。


「話し相手ができて嬉しくて忘れちゃうところだったわ。まあ、でも兵器に関する物はあげるわ。本人が持ってた方がいいだろうしねぇ。それはそれとして、事情を聞かせてもらえる?」


 俺はロットポリスで起きたことをササラナに話した。

 そして、ここに来ることになった経緯も。


「そりゃ……災難だったわねぇ……。ここら辺は平和だけど、ちょっと離れたところではそんな恐ろしい戦いが……。まるで古代の文献に記された大戦のよう……」


 めっちゃ文献読み込んでるなぁ。


「Aランクモンスターの同時発生か……。私もAランクだからわかるけど、そう簡単に増えるもんでもないし、人前に姿を現すもんでもないわ。間違いなく何者かの悪意が絡んだ案件よ」


 腕を組んで虚空をにらむササラナは、深い青色の瞳と髪のイメージも合わさって非常にクールな女性に見えた。


「それも気になるけど……私としてはプレジアン船長の伝説がほとんど忘れられてることもショックよ……。昔はお宝求めて何人も何人も海に潜ってきて、死にかけてるところを助けてあげたのに……。言われてみればエンデ君たちが本当に久しぶりの探索者よ……」


 目を伏せ、今にも泣きだしそうなササラナ。


「私がお宝を守りすぎたからかなぁ……。良いタイミングで誰かに渡していれば、プレジアン船長のお宝として世界中に渡っていき、その名は多くの人の心に残ったのかもねぇ……」


 ……今からでも遅くないと言って彼女の心を動かすか?

 いや、とてもそんなことは言えない。

 彼女にとっては失った船長、船員たちとの思い出の品だ。

 手元に置いて一番価値を感じられるのは誰でもなく彼女だ。


 ここは判断を任せよう。

 ダメならダメで他の方法でお金を稼げばいいんだ。

 今の俺の戦闘能力があればモンスター退治だって……。


「よっしゃ! おばさんクヨクヨするのやめるわ。みーんなあげちゃうよぉ」


「えっ!? いいんですか!?」


「なに驚いてんのよ。そのために来たんでしょうが」


「まあ、そうなんですけど……」


「惜しくないかって言われれば惜しいよ。でもね、私もう知っちゃったのよ。人の温もりを、お喋りする楽しさを……。ここでお宝をあげないって言ったら、エンデくんたちは他のところに行っちゃうでしょ? そうなるとこんな海底まで来てくれる人はもういない。私、寂しくて死んじゃう。だから、海底で眠るのは終わり。浮上するわ、すべてを持って」


 船体が大きく揺れる。

 もう浮上を開始している。


「いま私って楽しくて仕方ないのよ! ずっと誰かに話したいと思っていた事がいっぱいある! 誰かから聞かせてほしい言葉もいっぱいある! もう、人肌の温もりなしの生活には戻れないわ……。責任とってくれるかしら……?」


「すいません、僕には心に決めた人が……」


「なに本気で断ってるのよ! そういう意味じゃないってば! おばさん本気にしちゃうよ? てか、エンデくん好きな人いるのね、なんか意外。どんな子なのかな、私すぐに会えるかしら?」


「ええ、今日も砂浜で待っていてくれるはずです」


「あら、お熱い。嫉妬しちゃうわぁ……。ふふっ、あははっ……楽しいものね、こんな話も」


 その日は満月だった。

 日が落ち、大きな月が海から昇ってくる瞬間を眺めていた町の人々は海中より現れた船に目を見張った。

 蒼い月光を浴びた船は美しく、驚き見開かれた人々の目は次第にうっとりとしたまなざしに変わっていった。

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