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第09話 愛しのエンデ

「じゃんじゃーん! どう? 私の晴れ姿!」


 純白のウェディングドレスを身にまとったナギサを見てパステルたちは息をのむ。

 先ほどまで男勝りな女漁師だったナギサがドレスを着ただけで見とれてしまうほど美しい女性に変わったのだ。


「美しいぞナギサ。心からそう思う」


「ウェディングドレスは女性を何倍も綺麗にすると聞くが、その言葉に偽りなしだな。猟師の勲章である日に焼けた肌と純白のドレスのコントラストが良いねぇ」


「そう? いやぁ、そんなに褒めてもらえるとは思わなかった。みんな馬子に衣装だの豚に真珠だの猫に小判だの言いたい放題だったし」


「それはきっと照れ隠しですよ。ナギサ様が美しくなりすぎて戸惑ってしまわれたのです」


「いやぁん、それって普段の私があまりにもかわいくないみたいじゃな~い!」


 上機嫌なナギサは重そうなドレスだと言うのに軽快に動き回る。


「結構ドレスってきつめの物を着るからしんどいって聞いてたけど、引き締まった体と筋肉がこんな時に役に立つなんてね」


「ふっ、私も体を鍛えておかねばならんな」


 パステルは袖をまくり腕を見せる。

 魔力量とそのコントロールこそ魔界時代に比べると大きく成長しているものの、その肉体はまだまだ華奢だった。


「いやぁ! 細くてかわいい腕だこと! やっぱ本当はこういう女の子らしい体の方がドレスは似合うんだろうね~。そうだ! さっきも言ってたみたいにパステルちゃんもウェディングドレスを着てみない?」


「貸してくれる店の側が良いのならぜひ着てみたいぞ」


「よし、決まり!」


 店員にパステルに合うウェディングドレスの試着を頼むナギサ。


「そもそも私に合うサイズがあるのか……?」


「うーん、あるんじゃないの。大人になっても背が小さい女の子って結構いるし」


 ナギサの言葉通り、小さなドレスが運ばれてくるまでにさほど時間はかからなかった。

 パステルは別室に移り、店員にドレスを着せてもらう。


「ぐおっ……! こ、こんなに腰は締めるものなのか?」


「はい、だぼだぼだと格好がつかないので」


「そういうものか……」


 急遽試着ということなので装飾品や髪のセットはほとんどない。

 数十分でパステルは再び皆の前に現れた。


「どうだろうか。それなりに様になっていると良いのだが」


 両手でドレスを持ち、慣れないヒールの高いシューズでちょこちょこと歩く。

 チャームポイントのツインテールも今は解かれ、オレンジ色の真っ直ぐな髪が露出した肩に垂れている。

 白いドレスから覗く血色の良い肌は見る者の目を惹く。

 そしてなによりこの姿を恥らいつつも、少しの自信ありげな表情を見せる彼女に心を奪われない者はいないだろう。


「はぁ……お綺麗ですパステル様……。思わずため息が出てしまうほど……」


「いやぁ、この姿で外にはだせねぇな。この町の住民全員誘拐犯になっちまう」


「褒めすぎだぞ二人とも」


 自分でも『かわいいかも……』と思っていたパステルも人に褒められすぎると謙遜する。


「いえ、私の本心です。パステル様」


「おっ! このドレス背中ほぼ全部出てるじゃん! えっろいなぁ~。この姿をエンデに見せればパステルも一年後にはママになれるぜ!」


「サクラコ! 言って良いことと悪いことがあります!」


「あっ……ちょっと言い過ぎたかも……すまんすまん。でも、本当に美しいぜパステル。毎日思ってるがこの姿はもうとんでもないって! 見せたらエンデも絶対喜ぶぜ!」


「それに関しては私も同意します。ぜひエンデ様にもこのお姿を見てもらいましょう」


 メイリとサクラコの意見が珍しく合う。


「……気持ちは嬉しいのだが、私としてはウェディングドレス姿をエンデに見せるのはしかるべき手順を踏んでからがいい。まだ、プロポーズはされていないから……」


「うん! それで良いと思うよパステルちゃん! 女がそんな簡単に人生で一番綺麗な姿を見せるもんじゃない! 別に見せようと思えばいつでも見せられるんだから、初めの一回は自分の好きなタイミングでいこっ!」


 ずっと黙っていたナギサがここぞとばかりに言う。


「それにしても本当に天使みたいな姿ねパステルちゃん。こんなので式に出られたら主役の私が目立たなくなっちゃう。だから本番はもっと地味なドレスにしといてよね? まっ、それでもちょっとした騒ぎになっちゃうかもしれないけど!」


「うむ、私も主役はわかっておる。今日は誘ってくれて感謝する。おかげで何か自分に自信がついたような気がするぞ」


「そりゃ良かった! お互い好きな人に好きでいてもらうため頑張りましょう!」


 グッと親指を立てるナギサ。

 その笑顔、仕草は力強く人に力を与えるような魅力があるとパステルは感じた。


(きっとナギサのフィアンセもこういうところに惹かれたのだろうな。時には強引だが、引っ張っていってくれそうなパワー……包容力がある。人を包み込んで癒すような存在に私もなれるだろうか)


「あっ! もうこんな時間! 外が夕陽で赤くなってるわ。そろそろ帰るとしますか、お互い彼のもとにね! 結婚式の話、彼にもよろしくね」


 ナギサの言葉にパステルはうなずき、その後ドレスを脱いで返却してから別れた。

 もうじきエンデたちが砂浜に上がってくる。

 パステルたちは一直線に砂浜に向かった。




 ● ● ●


 


「結婚式のお手伝いか……。うん、メイリとサクラコがそばにいてくれるなら俺は全然いいよ。そのナギサって人も悪い人ではなさそうだし」


 夜、宿泊先のホテルの一室で二人っきりになったエンデとパステル。

 熱い湯で体を洗い、リラックス状態のエンデにパステルは昼間起こったことを話していた。


「よし、ナギサには了承の旨を伝えておく。それでエンデの方は今日どうだったのだ?」


「ダメだね。きっとがむしゃらに動き回って探すにはこの内湾すら広すぎるんだと思う」


 珍しくエンデから出た強い否定の言葉にパステルは少し不安を覚える。


「そうか……。無理だけはしないようにな」


「あっ、ごめん……心配させちゃったかな。今の方法は確かにダメさ。だから、次の方法を考えてある」


「次の方法?」


「魔力を感知して沈没船を探そう……って、今日もパステルについて行かずフィルフィーと一緒にいたヒューラに言われた。プレジアンの沈没船には魔力を帯びたお宝もあるかもしれないから、その魔力を探す方が効率的だってさ。理屈は通ってるよね」


「それはそうだが、エンデに魔力の感知など出来るのか?」


「これがねぇ……わかんないんだよねぇ。なんだかんだここまで強くはなったけど、自力で習得したスキルってまだないんだ。そもそも俺はスキルを目覚めさせることが出来る存在なのか……」


 エンデがこれまで習得してきたスキルは生まれ持っていた【毒耐性?】が変化した【超毒の身体】。

 そして、毒の精霊竜ヒューラから継承した【精霊竜の継承者】。

 また、そこから派生した毒と薬関係のスキルのみ。

 それ以外の魔術や武術のスキルはない。


「魔力感知が出来るようになれば索敵が楽になる。それに毒関係のスキルじゃないから、これが出来るなら他にも出来るという証明にもなる。なんとか頑張ってみるよ。やっぱり毒の力だけじゃ多くの人を守れない。単純な攻撃に対する防御ならメイリの風による防壁とかの方が便利だし、俺も竜の力を得たからといって慢心はしてられないな」


「前向きだなエンデは」


「かもね。昔はそんなことなかったけど、今は守るべき人がいるから。誰かを守りながら戦うには、生半可な力じゃ足りないんだ」


「エンデ……」


 パステルは胸が熱くなるのを感じた。

 何度聞いても嬉しい『守る』という言葉に。


「エンデは今までに子どもが欲しいと思ったことがあるか?」


「えっ? ああ、そういえばお昼に会ったっていうナギサさんにはお腹に赤ちゃんがいるんだったね。俺は……うーん、あんまり考えたことないなぁ。人間だったころは自分の面倒を見るのがやっとだったから」


「で、今はどうなのだ?」


「い、今? えっと、今もあんまり欲しいとは思ってない……かな。子どもが嫌いなわけじゃないけど、自分が親になるってのがなんとなく想像できないんだ」


「ふむふむ」


 エンデの言葉に理解を示しつつも、パステルには少しもやもやとした気持ちがあった。


(今はもちろんそんな気持ちにはならないのはわかるが、正直そもそも興味がなさそうな性格だなエンデは。いざという時はこちらから押していかねば……はっ! わ、私はなんてことを考えているのだ! 欲しがれと言うのか私から!)


「パステル、大丈夫? 顔が赤くなってるよ。強い日差しを浴び過ぎて体調が……」


「も、問題ない! ちょっと他の部屋の者の様子を見てくる! エンデはここにいろ! これは魔王としての命令だ!」


 パステルは足早に部屋から出ていった。

 取り残されたエンデはきょとんとした顔をしてしばらくその場で固まっていた。

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