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第07話 果実と宝石

 プレジアンの沈没船探索三日目――。


 エンデとフェナメトは今日も海の底へ。

 砂浜ではフィルフィーが魔動バイクとともにその探索をサポートしている。

 そして、それ以外の面々は町に繰り出してた。


 流石に毎日砂浜でぼーっと帰りを待っているよりかは、町を探索し海に潜っているエンデが帰ってきた時のために美味しいものでも作ってあげようということになった。


「エンデ様は貝類はお好きなのでしょうか?」


 露店から漂ってくる焼かれた貝の匂いにメイリが反応する。


「うーむ、どうだろうか。あまり好き嫌いは言わないが貝は癖が強いからなぁ。私は苦手だ」


「俺は割と嫌いじゃないがな。ただ、海から上がってきた時に磯の香りが強い貝類はちょっと萎えるんじゃねーかとは思う」


「そうですか。とはいえ、ここは港町ですのでどうしても海産物をオススメされることが多いですね」


 三人はきょろきょろと周囲を見渡しながら大通りを歩く。


「見たこともないフルーツが結構あるぞ。ここの温暖な気候でしか育たない物だろうな」


 果物屋の店先にはドキツイ色、奇怪な形のフルーツが多く並んでいる。


「珍しい果物なら我が家の新たな魅力にもなりそうだな。上手く育てられるかはやってみねーとわからねーが」


 サクラコの言う『我が家』とは『ダンジョン』のことで、魅力とは冒険者を呼び込める物ということである。

 一応町長には話が通っているがパステルたちは魔王とその配下だ。

 極力騒ぎを起こすような言動、行動は控えている。


「どれ、何か買って帰ろうか」


「うおっ! 見てみろよこれ! 星の形をしてるのがあるぜ!」


 サクラコが指差したのはとあるフルーツが切り分けられた物だった。

 断面は薄黄色で、五角の星の形をしている。


「それはスターフルーツと言いまして、温暖な地域でしか採れないフルーツなんです。どうぞどうぞ、ご遠慮なく試食してください」


「では、お言葉に甘えて」


 三人はそれぞれ星の形をしたフルーツを口に運ぶ。


「……うん、まあ、思ってたより味が薄い。食感は悪くないが」


「これは……なんとも言えない味ですね。明言化しにくいです」


「いや、マズイだろこれ。店の前で言うのも悪いが。フォローするなら最高に食べたくなる形はしてるってとこぐらいか」


「あははっ、観光客の方にはよく言われます。まあ、現地の人間なら美味しく感じるかと言われますと……そうでもないんですがね。でも、お土産には最適ではありませんか?」


「それは認める! この町から出る時には一つ買ってもいいよな? パステル」


「うむ、目は()くだろう。しかし、今食べるために買って帰るには物足りないな」


 再びフルーツを物色する一行。


「この濃い紫のはどうだ? なんか竜の鱗っぽい突起もあるぜ」


「そちらはドラゴンフルーツですね。お察しの通り竜の鱗のような見た目からその名が付きました」


 サッとドラゴンフルーツを切り分けパステルたちに渡す店員。

 断面から覗く果肉も濃い紫で、その中に黒い点が無数に散らばっている。


「これはなかなか濃い味がしそうな……」


 恐る恐る渡された物を口に運ぶパステルたち。


「……これも味があまりないな。見た目は派手だが」


「こういうフルーツは味がないものなのでしょうか」


「エンデにピッタリだと思ったんだがな。色とかドラゴンフルーツっていう名前とか。ただ味が地味すぎる。そこも含めてエンデっぽいが、貰って本人が喜ぶかと言われれば……」


「あははっ、それもよく言われます! でも栄養はあるんで健康には良いのですよ? あと見た目はやっぱり……」


 店員の言葉にパステルはうんうんとうなずく。


「これも家への土産の候補には入れておこう。それで今食べる用のフルーツは……」


「そうですね! やはり人気なのはこのパイナップルでしょうか。ちょっと切るのがめんどくさいですが味はサッパリとした酸味と甘みが強くてそれはもう最高ですよ」


 店員はまたも表面が竜の鱗のように見える黄色いフルーツを持ってきた。

 先端部分からは吹き上がる様に草が伸びており、その異質感にパステルたちは困惑を隠せない。


「これを鎖の先端にくっつけて振り回せばそれなりに戦えそうだな……」


 サクラコがこぼした言葉にパステルも内心同意する。


「今までのパターンからこれも上品な薄味だとお思いでしょう? しかし、これが違うんですよ!」


 慣れた手つきでパイナップルを切り分け、皮から果肉を切り離す店員。

 それをさらに一口サイズにまでカットした後、パステルたちに提供する。

 この時点でパステルたちはこのフルーツが甘いと感じた。匂いが今までと違ったのだ。

 スッとそれを口へと運ぶ。


「……むっ! これは美味しいな! 酸っぱさの後に甘い果汁がどんどん出てくる!」


「歯触りもいいですね。柔らかすぎるわけでもなく、硬すぎるわけでもなく」


「これこれ! これにしようぜ! いろいろ切って食わせてくれたから三つくらい買っていくぜ!」


「お買い上げありがとうございます!」


 薄味の果物とのギャップが強かったせいかよりその甘みを強く感じ、勢いで三つもパイナップルを購入する一行。

 店を後にしてからこの重い果実を持って買い物を続けるのはしんどいと気付いたものの、ホテルに帰るのも大変なので買い物を続けることに。


「にしても熱いな、この町は」


「風が吹いていると爽やかなのですが、今は無風ですからね」


「人も多いしなぁ……っと、思ったらとんでもなく冷たい風がどこからか……」


 サクラコはうろうろと周囲を歩いた後、ある店の前に立った。


「ここだ! この店から冷気が出てるぜ! おそらく氷魔術の使い手を店員として雇ってるんだろうなぁ~。ちょっと入らせてもらうか?」


 答えもきかずにサクラコは店内に入っていく。


「ここは……ジュエリーショップか。冷やかしに入る店ではないが……」


「入ってしまった以上仕方ありません。さいわいパステル様と私の服装ならばこういうお店でも目立つことはないかと」


 メイリの言葉を受け二人で店内へ。

 パステルもまた少し涼みたいという気持ちと、普通の女の子らしく宝石への興味があった。


「そこまでキチキチとした店でもなさそうだな」


 と言いつつもお上品に小声でメイリに話しかけるパステル。

 店内には指輪など様々なアクセサリー類が並べられており、客はみな騒がずそれらを眺めている。

 店員も客に対応している者以外みな静かにその場に直立している。

 この店員の中の数名は店に雇われた用心棒であることはパステルも察した。

 接客をするだけならば店の規模に対して店員が多すぎるのだ。


「あのー! それでオーダーメイドの指輪はまだ出来てないの!? もう式は十日後なんだけどー!」


 そんなどこか騒ぎにくい雰囲気の店内の中で、われ関せずと一人だけ騒いでいる女がいた。

 その女は詰め寄る様にまくしたてるので、対応している店員もたじたじといった感じだ。


「お、お急ぎでお作りしてはいますが、なにぶんご注文が急だったものでして……。もう少しお時間をいただければ……」


「別に間に合えばいいのよ、間に合えば! あと十日で何とかお願いするからね! 私とカイリの記念すべき日なんだからぁ……」


 先ほどまでの態度とうって変わり、うっとりと天を仰ぐ女。


(もうすぐ結婚式を挙げるのか。舞い上がる気持ちはわからんでもないが、迷惑な客だな……)


 女を見ていたパステルの視線と不意に視線をパステルに向けた女の視線がぶつかる。

 その時、パステルは相手の興味の対象が自分に移り変わるのをハッキリと実感した。

 魔界の頃によく感じた嫌な感覚……興味とは好意ではないのだ。


 スッと視線を外し店外へ逃げようとするパステルに女は容赦なく声をかける。


「ねぇ、あなたってこの町の子? 違うよね? だってこんなかわいい子なかなか見ないもん」


(つ、捕まった……)


 無視して逃げるわけにもいかず、パステルは振り返る。

 女は目の前にまで来ていた。


「私、ナギサって言うんだけどもうすぐ結婚式を挙げるの。それでドレスのすそを持ってくれるベールガールを探しててね。これが親戚や知り合いになかなかいい子がいないのよ。大人しく出来なかったり、正装が似合わない男の子みたいな子ばっかで」


 戸惑うパステルを気にせずナギサは話を続ける。


「でもあなたなら大人しそうだし、見た目もとってもキュートだわ! まさに私の記念すべき日にふさわしい! さあ、あなたが式の日に着るドレスを見繕ってもらいに行こうね!」


「え、ちょっと……!」


 名前も聞いていない女の子を勝手に連れ出そうとするナギサ。

 もう目の前に迫った結婚式の事以外彼女の頭にはない。


(結婚式というのは人をこんなにしてしまうほど魅力的なものなのだろうか? 私もいずれこうなるのか……? くっ、今はそれどころではない! まだこの町には滞在しなければならないのに、めんどくさい者に目をつけられてしまった!)


「メイリ! サクラコ!」


 抵抗する自分を抱きかかえて持って行こうするナギサに恐れをなしたパステルはついに二人に助けを求めた。

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