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第05話 海と記憶の冒険

「潮風、日差しも強い……」


 突き抜けるような青い空を見上げる。

 激しく輝く太陽の眩しさに俺は本能的に目の上に手をかざす。


「海か……」


 青い空に負けないくらい青い海が眼下に広がる。


 港町テトラはまん丸い形の内湾の海岸線に沿うように作られた町だ。

 陸地は海に向かうほど下がっていくので、町もそれに合わせて傾斜が多くなっている。


 俺たちが今いるところは町の入り口である門を出たところ。

 つまり、この町でもっとも海から遠く海抜が高い位置なのだ。

 見下ろす白い石造りの町と青い海のコントラストは気持ちを明るくさせる。


「門をくぐっていきなり絶景とは町に活気も出るわけだな」


 パステルがいつも身に着けている黒いローブを脱ぎ、手で顔をあおぐ。

 この町は暑い。砂漠の町ザンバラとはまた違う暑さだ。

 あちらは日差しから体を守る為に着こむ必要があるが、この町はなんだか脱ぎたくなる雰囲気がある。


「無事到着で来て良かったです! 不安もありましたけど、この町の景色を見るときて良かったって気持ちでいっぱいです!」


 作業用兼戦闘用ロボ『マッシブ』の頭部を開き、潮風を感じているフィルフィー。

 ロットポリスを経由しフェナメトを拾ってから港町テトラへ。

 フィルフィーの運転は危なげないものだった。


「ただ、この日差しはマッシブの装甲を相当高温にしちゃいますね……。何か改善案を考えないと! とりあえず日陰を探して一休みしましょうよ!」


「その前にこの町の偉い人に話をしに行かないといけないんじゃないっけ?」


「うむ、ロットポリスの方からこの町の町長に話は通っているらしいが、こちらからも一応な。我々がプレジアンの沈没船を探すのを快く許可してくれた者だから失礼のないように」


 町の案内を見つつ町役場へ移動する。

 すれ違う人々はみな陽気そうだったが、魔動バイクを一目見ると驚いたり不安そうな顔を見せた。

 やっぱり目立つか。そこらへんに置いておいても捕られやしないだろうけど、邪魔にはなりそうだし置き場所も考えないとなぁ……。




 ● ● ●




「ようこそ海と月の町テトラに! 歓迎しますよ魔王パステル御一行様!」


「うむ、よろしく頼むぞ」


 カラフルなシャツに短パンを履いた細身で初老の男性がパステルと握手を交わす。

 てか魔王ということまで伝わってるのか。

 まあ、途中でバレるととんでもないことになるし当然か。


「お話は聞いておりますよ。ロットポリスを救った英雄だと。いやはや、そんあ素晴らしい方々に来ていただけるとは町長として光栄です!」


 しわの多い顔でニカッと快活に笑う町長。


「私は大したことをしてない。頑張ったのは仲間たちだ」


「僕たちも別に出来ることをやっただけですから……」


「カッカッカッ、謙虚な方たちですね。実際、あなた方のおかげでこの町も救われているのですよ。ロットポリスは周辺地域に大きな影響を与えている。兵力も産業も……。失われればバランスがね……いろいろと。まっ、こっちの話です。あなた方の目的はあくまでもプレジアンの沈没船! そして、そこに眠るとされる秘宝ですよね?」


「ええ、僕らはただお宝を探しに来ただけです。探索の許可さえいただければ多くは望みません」


「良いですねぇ~。そのロマンだけを求める姿勢! かつてはそういう冒険者がこの町にたくさんいたのですが、いつしかプレジアンの伝説も忘れ去られてしまった……」


 そういえば、俺もプレジアンという存在について大して知らないなぁ。

 ギルギスさんに勧められるがままここに来たけど、そもそもその伝説って本当なのだろうか?

 彼が嘘を言うとは思えないけど、実際誰もそれを見つけたことがないならば……。


「そもそもプレジアンってなんなんですか? 冒険家だってことは聞いてますけど」


「それであってますよ。といっても、数百年は前に存在したと言われる伝説上の冒険家ですがね。彼はこの世のありとあらゆる秘宝を集めるために世界を駆け回っていたとされています。そして、何があったかはわかりませんがこの内湾で財宝、船、そしてクルーと共に海に沈んだと……」


「それは確かなんですか?」


「はい……実はかつて見つかっているのですよ、その宝の一部が。見つけたというより海岸に流れ着いたというのが正確ですがね」


 町長は傍らに置いてあった小箱をそっと開ける。


「これはその一つです。銃のような形をしていますが、まったく仕組みが不明なのです。それに海の底から流れ着いたにしては状態が良い。我々は古代に存在した未知の文明の秘宝だと考えています」


 箱の中にあったのは確かに銃だったが、今この世界に出回っている物とは違う。

 実弾を撃ち出す構造にはなっていない。


「フィルフィーこれってもしかして」


「はい、フェナメトちゃんと同じ古代の兵器かと」


「こ、これの正体がわかるのですか!?」


「おそらくですけどね。これ貰っていいですか?」


「い、いきなりですか!? まあ、価値のわかる人たちのもとにいる方がこいつも幸せでしょう。差し上げますよ」


「ありがとうございます!」


 フィルフィーは銃を受け取り、じっくりと眺める。


「ビーム……光属性の銃ですかね……。銃口にあたる部分の見た目が、親方が作ったとあるマシンと似ています。こちらの方が小型で洗礼されていますが」


「また修理お願いできるかな?」


「もちろんです! 飛び道具の火力の低さはフェナメトちゃんの課題でしたから、この銃が直せればそこをなんとかできるかもしれません!」


 フィルフィーはモチベーションが非常に高いままだ。

 今の彼女にならなんだって直せるだろう。


「いやはや……何とも規格外の方々だ……。あなた達ならプレジアンの秘宝を必ずや見つけてくれると確信いたしました。宿泊施設の用意はこちらでさせていただきます。また、内湾には漁をやっている船もいますので、お互い同じ場所でかち合わないように漁船の情報も提供させていただきます」


「ありがとうございます」


「いえいえ、お礼を言うのは私の方です。死ぬ前にプレジアンの謎が解き明かされるかもしれないとは……。長生きはするものです。まっ、こんないつまでたってもロマンを追い求め、大人になりきれてない老いぼれの期待など気にせず、あなた方は自由に探索をしてください」


「では、早速で悪いのですが今から探索に出ても構いませんか?」


「はい、午後ならそこまで船も出ていないでしょう。何かあればこちらからお伝えしますよ。気楽にやってくださいな。ここの海は穏やかです。なんたって水難事故での死亡者は出たことがありませんから」


「……ええっ!?」


 さらっとすごいこと言うからスルーしそうになった。


「漁業が盛んで、かつては海の底に沈む船の探索がブームになった町で水難事故者ゼロですか……?」


「これが本当なのですよ。もちろん調べようのないほど昔はどうだったか知りませんが、私の爺さんからもこの町に海で死んだ人間はいないと聞かされていました」


「うーん……」


 逆にこれは気楽にやれなくなった。

 人が死なないのは良いことで間違いないけど、明らかに不自然でもある……。


「カッカッカッ! 感じるでしょう? 何か大きな意思の力を。これは果たして海の底に沈んだプレジアンの想いなのか? それとも、もっと別の何かの力か? きっとそれは船を見つけた時にわかるのでしょう! これは完全な勘ですがね」


 町長は楽しそうだ。

 俺もワクワクしないわけではない。


「一つ不安な要素があるとしたら、この穏やかな海がプレジアンの意思で彼が財宝を持っていかれることを嫌がっている時ですかね。財宝を地上に引き上げた途端、海が荒れ狂いだしたりして……カッカッカッ、笑えませんな」


「本当ですよ……」


「まあ、その時はその時! 後先考えていてはロマンを追い求められません! 怒られたら謝って返せばよいのです。きっと聞き入れてくれます。それにそもそも死人が海を守っているというのも私の妄想ですからな! 死人にそんな力があれば世界は平和です」


「も、元も子もないことを……」


 しかし、町長の言うことももっともだ。

 この話を聞いたからといって『怒られるのが怖いので帰ります』なんて選択肢はない。

 まずは船を見つけよう。

 俺の精霊竜の力とフェナメトの新たなクエストパックの力で。


「改めてお話ありがとうございました、町長さん」


 礼を言い、俺たちは町役場の外へ。

 ここからでも海は見える。

 きっとこの海のどこかに財宝は眠っているんだ。

 冒険家プレジアンの記憶を乗せた船と共に……。


「さあみんな、海へ行こう!」

PASTEL POISONも気づけば100話。

思えば遠くまで来たものです……。

最近更新時間は安定しませんが隔日更新だけは守っていきたいと思っております。

これからも応援よろしくお願いします!

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