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ビリヤードな日常  作者: 田渕才造
ビリヤードな日常編
40/51

その四十 重い球

お久しぶりです。ちょっと難解な話ですが書きたかったので。

「店長」

「はい。何ですか?」


「またワックス塗った?」


 店長と師匠から奨められた前回の独り練習で引き球が思った以上に気持ちよく引けて大喜びしてたんだけど常連さんからあれは手球にワックスが掛かってたから引き易くなってたって聞いて少しがっかりしてた。

 その常連さんは店長と師匠から余計な事を言うなと思い切り白い目で見られてたけどね。


 店長と師匠の狙いは僕の引き球に対する苦手感を無くす事が目的だったらしい。出来ると出来ないの垣根は高いけど出来る様になったら後は程度の問題だから伸びが早くなるらしい。それで敢えてワックス球で僕に引き球に対する自信を付けて貰いたかったそうだ。


 ところでさっきの僕の質問に対して店長が逆に質問してきた。


「何かいつもと違いましたか?」


 質問に質問で返すのは良くないと思うんだ。


「すいません。でも高橋さんの手球にワックスを塗ったのはあの一回だけで、それからは水拭きした球しか渡してませんよ。しかもあの球は使ってないしうちの店ではワックス球を嫌う常連さんが多いから球の手入れは水拭きだけです」


 それじゃ僕もさっきの質問に答えてあげよう。


「手球が引けるし動きも大きい気がする」

「ふむ、高橋さんちょっと撞いて貰えますか?」


 店長がいくつかの配置をテーブルに並べて僕に撞かせて観察している。どの辺を中心に見ているのかまでは分からないけど。


「高橋さん、ちなみに今日手球の動きが大きくなったと思った時に何かいつもと違う感じはしませんでしたか?」

「手球が重く感じた」

「でもいつもより手球の動きが大きく感じて手球が軽かったりワックス球じゃないかって疑ったんですよね」

「うん」


「佐藤さん、どう思います?」

「店長、そこで私に振るんですか?」


 店長と師匠も質問に質問で返してる。良くないよね。


「明らかに高橋さんのインパクトのタイミングが良くなってますね」

「明らかにインパクトのタイミングが良くなってますね」



 店長と師匠が顔を見合わせながらほとんど同じ言葉を発している。

 球を撞く時に手球を重く感じると言うことはインパクトが良くなっていると言う事らしい。店長と師匠は撞きたい球の動きを実現するためのロスの無いストローク、インパクトが出来ていると言いたいらしい。


「独り練習の成果ですね」

「出来ないから出来るに変わる垣根を超えた瞬間ですね」


 店長と師匠は感慨深げだ。僕もちょっとニマニマしている。


 穴前の球を確実にスクラッチしないで入れる。真っ直ぐじゃない近い球の配置を確実に入れる。近い球の配置から的球を入れながら押し引きが出来る様になる。少し薄くて近い球を確実に入れれる様になる。手球のコントロールの為に順でも逆でも捻りを使っても近い的球なら確実に入れれる様になる。

 テーブルの中央に的球を置いたセンターショットでも押し球でスクラッチできる。同じ配置で引き球でスクラッチできる。


 難易度が上がっても「出来ない」から「出来る」に変わる。そして「出来る」から「かなりの確率で出来る」になる。


 そして絶対にやっちゃいけないのは「出来ない事の繰り返しをして失敗のイメージを刷り込む練習をすること」つまり自分で苦手な球を作る事だそうだ。手球を一ポイント近づけると同じ角度の配置でも圧倒的に難易度が下がる。苦手な引き球でも入るし引ける。苦手っぽい厚みでも確実に入る。自信のない捻りを使ってもかなりの確率で入る。


 一ポイント近づけるのがプライドを傷つけるなら手球二個分近づけるだけでも良い。それでも自信を持って入れれないのなら、小さなプライドを捨ててもう一個分近づける。そうして「成功体験の積み重ね」をする。「失敗の繰り返しで自分に苦手の刷り込みをする」なんてのは無意味どころかデメリットしかない。


 店長と師匠は自分たちが経験した陥りやすい回り道を僕に辿って欲しくないそうだ。でも、その回り道は天才と言われる以外のほとんど全てのビリヤードプレイヤーが辿る道らしい。


 それでも店長はSA級に、師匠はA級と言う僕みたいなプレイヤーからすると夢のような達人のレベルまで達しているんだから少しくらいの回り道は許容範囲なんじゃないのかな。


 僕の苦手な引き球の練習を通じてビリヤード場のカウンターで店長と師匠が僕の成長を肴に懐かしそうにそして楽しそうに会話している。あ、店長の奥さんのおすすめで師匠の前に生ビールが。店長と師匠が生ビールで乾杯している。なんだか二人とも物凄く楽しそうだ。


 これ以上カウンターに居ても碌なことになりそうにない。店長の奥さんに会釈したら物凄く優しい笑顔が返ってきた。奥さんも女流のSAだから店長と師匠の会話を懐かしそうにニコニコしながら聞いている。そろそろ僕も自分の部屋に帰ろうかな。


 師匠の前に師匠の大好物の焼酎のロックが置かれたタイミングで師匠に挨拶して店を出る。


 店長と師匠の言ってる事は分かったけど、店長と師匠の言いたかった事がどの程度分かったかは全く自信がない。でも明日の授業が終わったらまたここに来よう。


 僕のビリヤードな日常はまだまだ続くのだから。

読んで頂いてありがとうございます。

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