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ビリヤードな日常  作者: 田渕才造
ビリヤードな日常編
39/51

その三十九 独り練習

「師匠」

「はい。何でしょう?」


 お馴染みのやり取りから会話が始まる。


「上手くなりたい」

「そうですね。練習が一番なんですが、高橋さんはいつも相撞きばかりだからたまには独り撞きとかいかがでしょうか」


 独り撞き嫌いなんだよね。楽しくないし。でも最近斎藤くんの練習量が半端なく追いつかれるどころか置いて行かれそうになっている。既にラーメンを賭けた勝負じゃない次元で負けたら悔しい。


「独り撞きやる」


 店長に独り撞き希望を伝えて一番奥の台に移動する。ボールは磨かれて台の上に置いてあるからキューを持っていくだけだ。


 まず最初に軽く柔軟体操。体をほぐさずに球を撞き始めると体が温まって来た時に違和感が出ると師匠に言われてから必ずやるようにしている。

 次にクッションに向かって垂直方向にキューを当ててブリッジは組まずににキューを振る。今日の自分の真っ直ぐを確認するため。これも師匠に言われてやっている。確かにその日その日でキューが真っ直ぐに振れる肘の位置やら顔の位置が違う気がする。いや、体が真っ直ぐ振っているのに顔の位置や目の方向やらが違って真っ直ぐに見えないだけかも知れない。とりあえずこれをやるとキューが素直に振れる気がする。


 そしてセンターショット。最初はキューの方向が見えやすいオープンブリッジで一番キューが振りやすい速さでショットする。あら、今日は最初から的球がポケットに吸い込まれた。ふふふ。好調なようだ。

 いつものルーチンの通り丁寧にキューの方向性を確かめ、手球の撞点をにらみつけ、的球を狙って、狙って、狙ってからウオームアップストロークを開始する。最後に前ダメと言われるストロークの静止の時に狙いのズレがないのを再確認してから最終のショットをする。


 ストロークや狙いに違和感があれば迷わず構えなおす。最初のルーチンからやり直しだ。相撞きでこればっかりやってると相手に申し訳ないからできないけど納得するまで構えなおす。独り撞きでほとんど唯一と言える良いところなんじゃないかな。


 何球か自然な感じでセンターショットしたら撞点を少しだけ下げて同じ感じでショットを続ける。手球がチョロリと戻ってくる。軽く振った時にはドローショットになるのに、ここ一番の引き球がビタ止まりするのは何故なんだろう。

 次は撞点を少しだけ上げて同じ感じでショットする。手球がスルっと前に流れる。


 念のために言うが、全部の的球が入っている訳じゃない。でも今日はここまで八割くらい入っている。球が入ると気持ちいい。


 さて、ここからが問題だ。僕が苦手なストロークバリエーションの練習に入る。


 ブリッジをスタンダードブリッジに変えて何球か自分が一番振りやすい速さでショットする。うん。方向性に問題はなさそうだ。オープンブリッジとスタンダードブリッジだとキューの見え方が違うのでキューの方向性が取りにくい。

 ここでキューの方向性に問題がある時には以前師匠に教わった「レストの穴の位置と手球・的球の関係性」を再確認すると少しマシになる。スタンダードブリッジだと左肩に緊張感が出るのでなるべくリラックスする為に左ひじを少し曲げて構えるか、逆に左肩と左頬を近づけて固めるかすると方向性が安定する。日によってどちらが良いのか安定しないのが悩みの一つだ。

 ちなみに僕は左利きだけど右手でキューを振っているから左右の関係は右利きのプレイヤーと同じである。


 ブリッジをスタンダードブリッジに変えたのには理由がある。僕の場合にはキューの速度を上げるとキューが上ずって撞点が安定しないからだ。A級くらいになるとオープンブリッジだろうがスタンダードブリッジだろうがフィリピンブリッジだろうが狙った撞点はしっかり撞けるらしい。あ、訂正。師匠はA級だけど関節が固いからフィリピンブリッジは痛くてできないそうだ。


 まずはハードショット。キューの重みを効率よく手球に伝えるために力まないように注意する。師匠曰く「強くではなく早く」だそうだ。一緒だろ?普通に考えて。まぁ最近は少し分かってきた。力まずに滑らかにキュースピードを上げなさいってことだ。力むと意外にキュースピードが上がらないらしい。残念ながら撞いてる本人には力んでも力まなくても違いはあまり分からない。そもそも僕はキュースピード遅いし。


 バチン!入らねー。


 戻って最初にやったクッションの上でブリッジを組まずにキューを振る。今度はハードショットのキュースピードで。シュッシュッシュッ。うん。これだ。いい感じ。さっきは少しキューが波打ってたみたいだ。シュッシュッシュッ。よし。


 バチン!カッコーン!


 おお!快感!この音が気持ちいい。ポケットの真ん中に的球が飛び込んだ音だ。


 よしハードショット止め。今日一番のイメージは崩したくない。クッションの上でシュッシュッシュッ。感覚を忘れない様にしよう。でもこれまでの経験から明日撞いても同じことは出来ないんだよね。何でだろう。


 今度はキュースピードを落としてセンターショット。これはこれで難しい。師匠曰く、キュースピードを落とした方がストロークは難しそうだ。そんなもんかね。僕の場合はキュースピードの幅が狭いからあんまり実感沸かないんだけど。


 気分を変えてブレイクの練習。こないだ見た女子プロのブレイクをヒントにちょっと工夫してみよう。


 まずはいつものブレイク。


 パキャ。…そうだよね。それではここで一工夫。ハードショットでバチン!って音がするのにブレイクでパキャはおかしい。


 レストの抑え込みを強くしてキューがブレない様にして、バックスイングでほんのわずかに後ろダメ取ってみる。インパクトは爆発させるイメージで。


 バキャッ!おおおー!強くなった。よし満足。良いイメージは残して、悪いイメージは残さない様に。特に繰り返しの独り練習では失敗の刷り込みをしないようにしないとね。


 さて最後に押し引きの練習。引き球キレる様になりたいな。なりたいな。センターショットで引き球でスクラッチとかしたいな。


 センターショットの配置からまずは引き球。


 パチン。スルスル。おお!おおおー!手球がいつになく戻ってくる。しかも厚み100%で手前のコーナーポケットに一直線。よし!もう少しだ。がんばれ!カコン。

 うー。今までの練習が報われた。満足だ。大満足だ。そうだ。今日はもう帰ろう。自分の部屋のお布団にもぐって、このシーンを思い出しながらニヤニヤしよう。


 店員なので球代無料。常連のみんなの生暖かい目で見送られながら少し頬を染めて自転車で自分の部屋へ。


「高橋さん、物凄く喜んでましたね」

「ええ、店長のおかげです。空気が乾燥していて暖房でラシャが乾いていて比較的新しいラシャの引き球にとって好条件で独り練習を勧めて、わざわざ僅かに軽めの手球を選んであげて軽く手球にワックス掛けてあげた店長の優しさのおかげです」


「最近停滞していた高橋さんのモチベーションを上げてあげたいと言ってた佐藤さんが言い出した事じゃないですか」


 高橋はビリヤード場のみんなに暖かく見守られている。

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