その三十三 謝罪マッチ
趣味でビリヤードをやっていて、そうそう面白いイベントなんかめったにない。毎日行きつけのビリヤード場に通い、練習やら相撞きでセットマッチやらをする日常である。
こないだのスクラッチ大魔王選手権みたいなイベントは年に一度あるかないかだろう。
そう思っていた時期もありました。
【謝罪文】
本日は私めがごときのお見苦しい球で偉大な斎藤様のお目汚しを致しました事、誠に申し訳ございませんでした。
斎藤様のお撞きになる球は正に日本の伝統芸術、言い換えるなら「ワビサビ」を具現化しており、無形文化財に認定されてしかるべき神々しいまでのオーラを放つものでありました。
斎藤様のポケットされる様は正に、古池に蛙が飛び込むがごとく、斎藤様の手球のコントロールは正に、坊主が屏風に上手に坊主の絵を描くがごとし、で御座いました。
このような眼福にまみれました以上は、今後斎藤様を尊師と仰ぎ奉り、より一層の精進を致すと共に、斎藤様の御所方向には努々足を向けて寝る事の無いよう孫子の代まで申し伝える所存に御座います。
万が一、また斎藤様との再戦の幸せが実現致しました折りに「俺は5セットだからハンディは自分で決めて」とのご下命には、はっきりと我が実力を認識し「3セットでお願いします」とお答えする事をここに誓います。
夏草や兵どもが夢の跡 …………。くそ~!
この謝罪文を書くことになったのは斎藤くんからの一言だった。
「謝罪マッチってのがあるらしいよ」
「謝罪マッチ?」
「セットマッチやって、負けた方が勝った方を称える文章を謝罪文として自分のSNSにアップしてお詫びをするって事なんだって」
「ふ~ん」
「やってみる?」
「おう」
どこからか仕入れてきたらしい謝罪マッチなるものに誘われた。斎藤くんも謝罪マッチに負けて謝罪文をSNSにアップしているらしい。
斎藤くんにハンディを決める際に言われた「俺は5セットだからハンディは自分で決めて」は、そのまま斎藤くんが相手に言われたまんまだそうだ。もっともその時の相手のセット数は7セットだったけど自分は5セットにしたらしい。チキン野郎め。
僕は当然のように「スクラッチ(同じセット数)で」と答えたんだけど最近の斎藤くんの猛烈な練習量に苦杯を喫することになってしまった。結果的に謝罪文を書くことになり悔し紛れの気持ちがあの文章を生んだ訳だ。
しばらくは斎藤くんにこの件で弄られることになりそうなのが腹立たしい。スクラッチ大魔王襲名で弄りまくっていたつけを払わされる結果になってしまった。
僕にとっての穏やかなビリヤードな日常はいつ訪れるのだろうか。




