その三 ネオナインボール
「どうやった?」
「単純に斜め上から手球を突き抜くとスレートと手球の反発で手球が飛ぶだけです。普通のキューだと斜めの角度が浅くなるから短いジャンプキューを使うと角度がつけやすくて飛ばしやすいって事です」
半分くらい知らない単語が混ざってる。頭の上にはてなマークが飛んでる顔をしてたのか解説が入る。
「すいません。ちょっと知らない単語が多かったでしょうね。ストロークが安定すると誰でも出来る様になるから大丈夫ですよ」
ストロークって何だよ。
「まだ時間大丈夫ですか?」
まだ十分しかたってないけど?
「はい」
さっきの爺ちゃんの様子を見てちょっとだけ素直な感じになってるかも。
「とりあえず基本的な事って言われましたけど知識だけを先につけても意味がありませんからゲームしましょうね。気が付いた時にちょっとづつやりましょう」
何のことやらわからないけどゲームが出来るのは楽しい。もうちょい打って入れれたらの話だけど。
「さっきは私が入れた数が多かったからハンデつけましょうね。高橋さんは九番以外はどの球から入れてもオッケーです。九番以外の球に最初に当たってたらフロックで九番入れても高橋さんの勝ちでどうですか?」
それならもっと打てるかも。どれから狙っても良いのなら入れやすいかも。
「ネオナインボールと言います。私は普通のナインボールのルールでやりますけど」
「それではブレイクどうぞ」
最初に打てって事ね。
ブレイク!と心の中で叫びながら強めに打つ。やっぱりボールが一個入って他のボールがきれいに散らばる。
ん?って顔をしたせいか的確な情報を教えてくれる。
「このラックシートを使うとラックがきれいに組めてウイングの球がポケットしやすくなります。真正面からブレイクしてるのに絶妙に厚みがズレているせいでもありますけど」
なんか微妙にディスられてる気がする。
少しブスッとした顔になったのか軽い謝罪の言葉が入る。
「すいません。お気を悪くされたのなら謝ります。さて続けてどうぞ」
はいはい。九番以外ならどれでも良かったよね。ポケットに近い簡単な球を狙ったら楽勝だし。
ポンポンと連続して二個ボールを入れてニンマリしながら次のボールを狙う。
カチャン!
乾いた高い音がして白いボールがあさっての方向へ飛んでいく。
「ミスキューですね。タップにチョークを塗っておくと比較的防ぐ事が出来ます。テーブルの上に置いてある青いこれがチョークです。それをキューの先にあるタップと呼ばれる革のところにこんな風に口紅を塗るように丁寧に満遍なく塗ってあげるのです」
キューの先に付いてるのは革だったのか。この青いのは邪魔だと思っていつもよけてたけどミスキューつうのを防ぐためのものだったのか。
「以前はミスキューはファウルでしたが今はセーフなのでこのままの配置です」
爺ちゃんの目つきがちょっと変わった気がした。さっきまで構えた時もニコニコしてたのに構えた瞬間表情から笑みが消えた。
カコンカコンとテンポよくボールを入れていく。打つ時は毎回次のボールとの距離が近い。ラッキーじゃなくて狙って白いボールを動かしてるのか?
わざとらしく残念そうな顔をした爺ちゃんから声がかかる。
「外しました。高橋さんの番です」
このジジイわざとだな?
残り三個になっているがさっきと違って白いボールと残りのボールとの間隔が長い。九番はまだ狙えないから七番と八番のどっちかだけどどっちも入るとは思えない。こういう時は強く打てばいい!必勝法だ。九番よ入れ!と念じながら思い切り打つ!
パキャって音を立てて白いボールに弾かれた八番ボールがテーブルを行ったり来たりする。だんだんポケットに近づいてきて、カコン。入った。
パチパチパチ。ジジイが軽く拍手している。軽くイラっとしながらも次のボールを狙う。外した。
「私の番ですね」
ジジイが静かに構えに入る。白いボールは長方形のテーブルの手前側、七番ボールはテーブルの反対側で端っこ真ん中あたり。九番ボールは右側のポケットから少し離れた位置にある。いくらなんでもこれなら順番が回ってきそうだ。
僕なら強く打つ!そんな事を思いながら見てると想像してた半分以下のスピードで白いボールが七番ボールに向かっていく。カチンと音を立てて白いボールは七番ボールのあった位置に止まる。七番ボールは手前のポケットに吸い込まれた。
は?まさか狙って入れた?
ほぼポケットに向かって真っすぐな位置関係で止まっている白いボールと九番ボール。難なく九番ボールをポケットに入れてジジイはこちらを振り返る。
「バンクショットって言います。距離のある方のバンクショットなので縦バンクとも言います」
「狙った?」
「はい。一応狙いました」
なんじゃこのジジイ。