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ビリヤードな日常  作者: 田渕才造
ビリヤードな日常編
29/51

その二十九 ビリヤードショップ

 斎藤くんがやばいことになってきた。以前の練習会や僕と一緒に行ったビリヤード場めぐりが災いしたのか僕のいきつけのビリヤード場にちょくちょく現れる様になってきた。

 思えば僕がビリヤードにハマったきっかけは、斎藤くんにビリヤードで勝ってラーメンをおごらせるための練習だったのだが、とうに僕のレベルは目標には達していると思う。正直当初の目的はどうでもよくなっていて単にビリヤードが面白いから続けている様になった。

 だから斎藤くんがビリヤードにハマっても特に問題はないのだが、ここで斎藤くんが上達して追い上げられたりましてや追い抜かれたりするのは先にハマった僕としては面白くない。だからと言って足を引っ張るような姑息な真似をするつもりもない。先行して逃げ切れば良いだけの話だ。


 それで何がやばいのかと言うと斎藤くんがキューを買いたいと言い始めたことだ。自分のキューを持つとモチベーションが上がり練習頻度と集中力が上がるのはお古とは言えキューを持ってる僕は既に経験している。

 まして中古ではなく新品のキューを買うとなるとモチベーションの上がり方は半端ないのが想像できる。


「師匠」

「はい。何でしょう」

「キューっていくらする?」

「高橋さんが買うんですか?ビリヤードのキューってピンキリあるんですが、クラスに合わせたキューを買うのが一般的ですね。高橋さんなら新品で三万円から五万円くらいが妥当な線でしょう。ただし、長く続けてもっと上達するとそのランクのキューでは物足りなくなるはずなのでいずれは買い替えする事になると思います」

「斎藤くん」

「ああ、最近よく来られる様になった高橋さんのお友達ですね。彼は初めて間もないのでずっと続けるつもりならさっきのランクのキューでしょうか。とりあえず自分のキューが欲しいのなら一万円くらいのキューでも良いかも知れません」

「なるほど」

「以前、高橋さんが行かれた都会のビリヤード場のある街にビリヤードショップがあります。ネットでも買えますが実物を見て買うのも悪くないと思います。ただ、キューは一般的に高いほど見栄えも良くなります。見比べていると高いキューが欲しくなりますので意志が強くないならネットで見て値段を決めて買う方が良いかも知れません。ネットで買う場合の注意が必要なのはプリントキューと普通のキューの見分けが写真だと分かりにくい事です。豪華な装飾なのに値段がすごく安いのは間違いなくプリントキューなので注意すれば大丈夫ですが」


 その後も師匠からあれこれアドバイスを貰って斎藤くんとビリヤードショップに行くことにした。僕はもちろん買うつもりはないけど、ビリヤードショップがどんなところなのか興味があったから一緒に行くのである。


 いつも通り最寄りの駅で斎藤くんと待ち合わせ。時間通りに落ち合って電車移動を開始した。斎藤くんの予算がいくらかは聞いていないがかなり気合が入っている様だ。

 ビリヤードショップの最寄り駅を降りて教わった通りの道を通り迷うことなく到着する。無駄に丁寧な師匠の説明のおかげだ。ビリヤードショップはこのビルの九階にあるらしい。


 エレベータを降りてショップの中へ入っていく。まず目につくのはずらりと並んだたくさんのキューだ。

 並んでいるのはキューだけではなくビリヤードに関連する商品や文房具、書籍などがこれでもかと並んでいる。


 斎藤くんは最初に自分で決めた予算の範囲のキューを見ている様だ。

 どうやら三万円が予算と思える。初級者用のキューの値段としては妥当な価格の様だが大学生に取っては結構な出費である。

 並んでいるキューは値段が高いほど装飾が美しく斎藤くんは目を奪われている。ふと値段を見ると三十万くらいの値段の様だ。斎藤くんが目を見開いている。


 僕は師匠のお古だがキューを持っているので今回はそれほどキューには興味はない。であるものの自分のキューの値段は気になる。同じメーカーの同じようなデザインのキューを見てみる。

「五万円」

 このクラスのキューをただでくれるなんて師匠やっぱり太っ腹だな。


 キューの先の方であるシャフトだけが売っている。交換用かな。値段を見る。

「二万五千円から七万円」

 普通にキューが買える。なんの装飾もない爪楊枝のお化けみたいなのがそれだけでキューが丸ごと一本買えるくらいの値段だ。


「それはハイテクシャフトですね。いろんなメーカーから発売されていますのでお持ちのキューにも合うものがきっとありますよ」

 店員さんが不要な情報をくれる。普通のシャフトと何が違うんだろう。


「ノーマルシャフトとの違いは捻った時のトビ(ディフレクション)が少なくなるものがほとんどです。狙いに対するズレの要素が減るのでシュート力が上がると思います」

「買う」

 僕は即決した。ポケットしやすくなるのであれば安いものだ。


「お客様のキューのジョイントのタイプは何でしょうか?」

もちろん僕はジョイントのタイプなんて意識したことない。そもそもジョイントにタイプがあるなんて今の今まで知らなかった。と言うかキューのつなぎ目をジョイントと言うのも今知った。

「知らない」

「それでは次に来られる時にはキューをお持ちください。ジョイント付近のバットの太さも関係しますので合わせてみるのが一番です。シャフトは必須ではありませんのでバットだけお持ち頂ければ結構です」


ハイテクシャフト買うことになった。キュー持ってまた来よう。


そうこうしていると斎藤くんのキュー選びも終わったようだ。満面の笑みで大事そうにキューケースを抱えている。キューケースも買ったんだね。そりゃそうだね。


「どんなキュー?」

「国産のキューなんだけどバットの木目が綺麗なデザインに一目惚れして即決してしまった。シャフトはハイテクシャフトだから別に買うよりもお得みたいだし」

「いくらした?」

「ははは、十万円。初めてのキューだって言ったらおまけしてくれてキューケースもつけてくれた」

以前から思い切りの良いやつだと思っていたが、ただのバカだった様だ。十万円だと?僕のキューが二本買えるぞ。


後日、僕はキューを持ってビリヤードショップに行って二万五千円のハイテクシャフトを買ってきた。今はこれで我慢だ。次に買うキューはもう決めてある。バイト代貯めていつか買いに行くぞ。だけど三十万ってどうやって貯めるんだ?

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