その二十一 ビギナーズ練習会当日
二週間後の土曜日。いつもと同じような昼食を済ませてから部屋を出た僕は自転車で大学の正門近くにある駅に向かう。
昼食のメニュー?聞いてくれるな。いつも通りの手抜きメシだよ。悪かったな女子力が低くて。
すっかり秋らしくなったいつもの道は長袖でないと自転車では寒い。いや自転車だと薄いセーターが欲しくなるくらいだ。
部屋に帰り着くのが夜になる事も考えて肩にかけたトートバッグに茶色の薄手のセーターは入れてきたけど自転車に乗ってる間くらいは羽織っておけば良かった。
そんなことを考えながらペダルを漕いでいると気がつけば目的の駅に到着していた。
駅そばの公共無料駐輪場に自転車を止め、チェーンで出来たダイヤル式の鍵を掛ける。
いつ見ても何の変哲もない地方の駅だ。駅舎の中にはコンビニ、線路の両サイドには居酒屋を中心とした飲食店が並んでいる。残念ながら古き良き商店街は存在しない。駅自体が新しいせいだ。新興住宅地にありがちな風景だと思う。
「よう。時間通りだね」
「おう」
駅の改札口には斉藤くんがいた。僕よりも早く来て待っていたらしい。時間通りだから待たせてないからね。
「高橋はいつものパンツスタイルだね」
「おう」
斎藤くん、君はバカなのか?ビリヤードやるのにスカート姿で出来る訳ないだろう?常識的に考えて。今はもう秋だから死滅したけど、いるんだよね。夏場にチューブトップにミニスカートみたいなビリヤードには絶対不向きな恰好で彼氏と一緒にビリヤードしに来る女が。斉藤くんはそんな恰好がお望みなのかな?僕は絶対にしないけど。
師匠なんてジジイだからそんなチューブトップな女を遠慮しないでガン見だよガン見。どうせ一時間もやらずカップルは帰るんだけど、その間ずっとガン見。ジジイじゃない入江さんとかもガン見。店長はチラチラ見て奥様に叩かれているし。ビリヤード場の男連中ってサイテーだよね。まぁ僕も目を丸くして見るんだけど。ガン見はしてないぞ。
「それじゃ次くる電車に乗ろうか」
「おう」
僕、さっきから「おう」しか言ってない気がする。
改札を通ってホームに行く間に斎藤くんがキューケースを見ながら話しかけて来る。
「高橋キュー持ってるんだ。マイキューって言うんだっけ」
「師匠に貰った」
「俺持ってないけど大丈夫だよね」
「ビリヤード場にある」
その後電車に乗ってる三十分くらいの間で斎藤くんと僕に会話はほとんどない。お互いに会話しなくても気にならない質である。お互いにマイペースなんだろうね。
窓の外の景色が少しづつ都会の風景に変わってくる。ちょっと緊張してきたかも。早めにビリヤード場に付いたらお花詰みに行っとこう。
練習会のあるビリヤード場の最寄りの駅に到着した。事前に調べたんだけど、この駅いつも人が多いらしいんだよね。自分の部屋でボーッとしているのが好きな僕としては、この駅の雰囲気はあまり得意ではない。周りが知ってる人ばかりだと気にならないんだけどね。
到着した都会の駅から目的のビリヤード場までは徒歩十分くらい。僕の歩くペースでだから不動産屋さんが使う「八十メートルを一分計算」だともっと早く到着する。いわゆる歓楽街の真ん中辺りにある複合屋内レジャービルの中のビリヤード場が目的地だ。
ビリヤード場の入り口には幹事役と思われる人たちが数人ニコニコしながらたむろしている。会の雰囲気は悪くなさそうだ。参加費を払おうとしたら、普通に入場して各自帰りに清算して下さいって言われた。本当にビリヤード代以外は掛からないみたいだ。
受付でテーブル番号の書かれたレシートを受け取って指定されたビリヤード台のところに居ると幹事役の一人が近づいてきた。
「開始時間までは適当に遊んでいていただいて結構です。あと十分くらいでスタートします。その時には集まって簡単な自己紹介して頂きます。練習会の詳細は集合した時に説明します」
おっとその前に。
「トイレ」
「行ってらっしゃい」




