その十八 ハウストーナメント その八
「高橋さん、準優勝おめでとうございます」
試合が終わり表彰式も終えた後、師匠から改めてお祝いの言葉を受け取る。僕のビリヤード歴にハウストーナメントで準優勝経験があるってのが加わった。言いふらしてもいいかな?
「止めてください」
店長が苦笑いしながら声を掛けてくる。やっぱりビリヤード上級者はエスパースキルを併せ持っている様だ。
ともあれ、師匠はベスト四で予想通り参加料が戻ってきてホクホクしている。丸一日無料でビリヤード出来たのがことの外嬉しかったようだ。
僕は準優勝で参加料くらいの黒字になった。師匠が僕のお祝いしたそうな顔をしている様に見える。
「晩ご飯」
「もちろん準優勝のお祝いしましょう。ご馳走しますよ」
「良かったらこのお店のフードコーナーでお願いいたします」
店長抜け目ないな。このお店にはカウンターで軽食とアルコールを含むドリンクが楽しめる。意外なことに店長は料理が得意で料理好きなのだ。
もちろん僕も初めてのハウストーナメントを経験させてくれたお店の売上に貢献するのに異存は無い。
「師匠が良ければ」
「高橋さんが良いなら私に異論があるはずありません。それでは店長よろしくお願いいたします」
「はい。喜んで!」
店長その掛け声、いつの間にこの店は居酒屋チェーンの配下になったのかな?
店長が手際よく料理を作っていく。店長、僕オーダーしてない。って言うか店長、何皿作ってるの?おいこら半分以上の料理はおつまみ系だぞ。しかももはや軽食の範疇でもないし。やっぱり料理の傾向はお支払い担当の師匠の嗜好が強く働いている?
言うまでもなく師匠はお酒が大好きだ。僕は未成年だからお酒は飲めない。お酒への体質は未確認だが法律的には間違いなく飲酒不可なのだ。その僕を前にして師匠は生ビールからスタートして芋焼酎のロックを良いペースで空けていく。
店長はここぞとばかりにおつまみ系の皿を師匠の前に並べていく。おや、店長が生ビール飲み始めた。奥様がコンロの前を交代した。万全の包囲網だ。
僕はオレンジジュースやウーロン茶を飲みながら加熱された野菜系の料理を中心に食していく。奥様から出されたバーニャカウダー絶品である。
師匠が酔い潰れる前を見計らってお開きになる。店長は、さすがに師匠との付き合いが長いらしく絶妙なタイミングで師匠に向かって終了を宣言している。師匠も大人しく店長の言葉に従っている。ここでもビリヤードでの主従関係は健在の様だ。
師匠は僕の分も合わせて居酒屋二人分くらいの金額を支払っていたけど、料理や師匠の飲んだお酒の量からすると激安な気がする。居酒屋の原価はバイトしたことないので知らないけど。
師匠にお店の前で手を振って分かれてから自分の部屋へ向かって自転車を漕ぐ。試合で勝った高揚感と決勝で何も出来なかった不甲斐なさからくる悔しさの両方が湧き上がってくる。
「もっと練習しよっかな」
普段は滅多にしない独り言が向かい風に流されて背中の闇に消えていく。




