卒塔婆を背負いて山をゆく
掲載日:2018/02/22
県道沿いの山は粘土質だ。
いつも湿っていて、
一歩ごとに靴底へべったりと張り付く。
私は墨染みた卒塔婆を背負っては、
暗き夜に忍び歩く。
夜露は私の身体をぬらす。
ぬれながら、泥で汚れながら、なおも忍び歩く。
木の葉の隙間をかいくぐって、
向こうの街から熱電球の明りが刺してくる。
トラックが轟音をうならせて県道を通過する。
鉄塊のようなその音がアスファルトに反響している。
卒塔婆は盗んできたものだ。
あまりにも古くて、朽ちつつある。
私に書かれている文字は読めなく、
まるで卒塔婆を這う無数の小さな蛇にしか見えない。
その卒塔婆を背負って私は山をゆく。
半分腐った草の感触が足を侵す。
湿った卒塔婆は私の背に吸いつく。
墨染の蛇たちは私を冷たく見下ろす。
街からの鮮やかな喧噪は葉で遮られている。
ねっとりとじめじめした山肌を踏みしめ、
闇に溶け込むが如く忍び歩く。
そして誰も見ない山奥に着いたら、
私はそこに深々と腰を下ろす。
草葉からの湿気でひどく息苦しい。
背中の卒塔婆を両手でがっちり掴み、
高々と上げた。
板目は月の光に鈍く答える。
私は卒塔婆を、墓に刺さっていたほうから、
文字の書かれている先のほうへと、
ゆっくり順々に舐めていく。
黒い蛇たちは私の唾液にぬれてつややく。
卒塔婆に付いた泥が口の中に入っていく。
泥は粘膜を汚していく。




